第127話 戦闘 第1波
「前方、獣の群れ。狼80、サーベル5、大イノシシ30」
物見やぐらから声が飛ぶ。
「その後方、左より白狼80、ファウンドウルフ50、フレイムドッグ80。距離、町3つ!」
第1防衛線の指揮所でオレは、やぐら台からの報告に耳を傾ける。
「これだけ遠くてよく分かるものだな。伝令、今の数を暫定数として各部隊に知らせろ」
「ハッ! 了解しました」
まだ距離は遠い。第1波の数としては予想通りだな。その後、監視役の部隊からも報告が入る。
「シルマーン様、騎兵隊からの魔獣報告です」
「やぐらと同じような数か」
「伝令、各隊の後列の部隊は動かすな。遊撃隊は前進し、側面を突くように。この数を確定値として伝えろ」
「ハッ!」
今までの監視部隊に加えて、新たにやぐらを作ったと言うからどんなものかと思っていたが、これは戦力になるな。
「確かやぐらの監視員はドワーフの女だったな。報告の声は男だったが」
「はい。魔獣に詳しいギルド職員と冒険者が付いていて、報告をしております」
その説明を受けている最中にも、やぐらから報告の声が上がる。
「距離、町6つから7つ。後続の魔獣の砂ぼこりが見えます。数は不明!」
「ほほう、そんな遠くまで見えているのか」
「何でも遠見の魔道具を使っているそうでございます」
「早いうちに魔獣の状況が分かるのは助かるな。まずは第1波をどれだけ余力を残して凌げるかだな」
◇
◇
「アイシャ、こちら側の魔獣の数が多そうだ。魔弾の一斉射を2回頼めるか」
「分かったわ。みんな魔獣が見えてから、私が合図したら中央付近へ魔弾の矢を放って。投射角度はこのくらい、最長射程で!」
「はい!」
弓部隊に対して、アイシャが具体的な指示を出す。
「続いて2射目は、手前の魔獣を狙うわよ。1射目で距離を掴んで2射目は正確に狙うのよ」
「はい!」
「そろそろ魔獣が見えてきたぞ!」
監視していた兵士が声を上げる。
「斉射用意」
「撃て!!」
魔獣の群れに向かった魔弾の矢は、大きな炎や竜巻となって魔獣を倒していく。やはり魔弾の威力はすさまじいな。
手前側の魔獣が、分離してこちら側に進路を変えた。
「2射目、斉射用意」
「撃て!!」
狙いすました魔弾の矢が、魔獣どもを討ち倒していく。これでこちら側の魔獣の半数程度は倒したか。
「この後は、通常の弓でこちらに向かってくる魔獣を1匹ずつ狙うわよ。魔獣はブレスを吐いてくるけど、ここまでは届かないわ。慌てず正確に狙いなさい」
「アイシャ、俺は前に出る。後は頼んだぞ」
「ええ、気を付けて」
俺は腰のショートソードを抜いて、前方にいる壁役の兵士の横に並ぶ。
「レリック、こちらに加わるぞ。さっきの攻撃で魔獣を呼び込んじまった」
「あれだけ倒してくれれば充分だ、兵士はこの位置で守りに徹する。お前は自由に動いてくれて結構だ」
「ああ、了解した」
本隊側からも攻撃が始まったようだ。俺達も接近戦だ。
こちらに来るのは普通の狼と氷のブレスを吐く白狼の群れ。盾とマントでブレスを防ぎつつ牙をむいてくる狼を叩き斬る。
超音波振動を起動させ、一刀両断にしてもアイシャに怒られないのは助かる。迫ってくる魔獣を見つけ次第、斬りかかっていく。
「ん、左翼の部隊が動いているな」
横に並んでいた左翼の端が前進して、徐々に縦に陣形を変化させている。
「レリック、左翼に合わせて前進できるか? 俺は弓部隊を率いて魔獣の後方へ回り込む」
「今、伝令が来た。遊撃隊は前進だそうだ」
後方へも連絡されたのか、弓使いと魔術師が荷馬車に乗りこちらへ向かっている。
「弓部隊は2台の荷馬車で前に出て、魔獣の後方から攻撃する。荷馬車に乗ったまま移動しながら攻撃するぞ」
残りの1台には魔術師達を乗せて待機させる。
「魔術師達は、前衛の兵士の動きに合わせて前進してくれ。カリン、魔法はあまり撃たなくていいぞ。近づいた魔獣だけを倒してくれればいい」
「分かったわ」
後方の部隊に指示を出して、俺は荷馬車に乗り込み弓部隊に指示する。
「今いる魔獣の後方から第2波の魔獣が接近している。そいつらが近づくまでの間が俺達の戦闘時間だ。俺の後について荷馬車を操縦してくれ。離脱のタイミングを誤るなよ。出るぞ」
2台に分かれて、縦に並ぶように荷馬車を走らせる。
魔獣と獣が本隊の壁に阻まれて狭い場所に囲まれている。混乱して魔獣が同士討ちをしていて、こちらに注意が向いていないのは助かる。荷馬車の速度を上げつつ、攻撃を受けない距離で魔獣どもに矢を浴びせる。
動きながらの攻撃だが背後の死角を突いているので矢が当たりやすい。これだけ数を減らせれば、本隊の攻撃で殲滅できそうだな。
そろそろ後続の第2波の魔獣が近づく。ここらが頃合いか。
「よし、撤収だ」
追いすがる魔獣を倒しながら、左翼の後方へと後退していく。その魔獣の群れに対して魔法攻撃か? 俺達を追っていた魔獣が一挙に倒れていく。カリンが援護してくれたようだな、助かるぜ。
無事元の位置まで撤収して、次の第2波に備えよう。魔獣の来ない今のうちに、みんなにも休憩を取っておいてもらわんとな。
「アイシャ、負傷者はいるか?」
「兵士の何人かが負傷して、今治療しているわ。弓と魔術師は無事よ」
「ちょっとレリックの所に行ってくるよ」
前衛の負傷者が気になる。次の攻撃を耐えられるか確かめておかないとな。
「レリック、怪我人が出たんだって」
「3人は軽症で復帰できるが、もうひとりは足を骨折しているかもしれない。町に運んでもらうよ」
「第2波、やれそうか」
「大丈夫だ。あの魔法の矢すごいな。次も頼むぞ。第2波は数が多いはずだ、注意しろよ」
「ああ、お互い頑張ろう」
俺は休憩している後方の遊撃部隊の元に戻り、今後の状況について皆に話をする。
「これからは魔術師のみんなも参加して総力戦で戦う。第2波の魔獣は力が強く数も多いが、こちらも使える魔弾の数は多い。魔術師が参加する分、攻撃力は倍増している」
敵は多くても安心して戦うようにと声を掛ける。伝令から報告を受けた数は事前の想定通りだが、やはり数が多いな。
アイシャも弓と魔術師部隊に、今後の具体的な戦い方を指示する。
「やり方はさっきと一緒よ。魔弾と魔法の一斉射を2回するわよ」
「じゃあ、その後に私が大魔法を撃つわね」
「ああ、カリン頼む。ただし1発だけだぞ」
「分かってるわよ。私の相手は巨大魔獣なんだからね」
ゆっくり話している時間はないようだ。監視をしている兵士が声を上げる。
「第2波の魔獣が見えてきたぞ!」
「よし、配置につこう」
これからは力の強い魔獣が多い。体力もあるから中々倒れないだろう。だが攻撃を集中すれば充分倒せる相手だ。
「斉射用意。撃て!!」
「続いて2射目。撃て!!」
魔弾と魔法の一斉射が終わり、カリンが空に向けて両手を振り上げる。
「魔獣どもめ私の力を見せてやるわ。メテオラ!!」
走ってくる魔獣の群れの中央に、いくつもの白煙の帯を伴った炎と岩の隕石魔法が降り注ぐ。巨大な爆発が辺り一面を覆い尽くす大魔術に、魔獣が次々と倒れていく。
やはりカリンには、ド派手な魔法が似合っているよ。さて、俺も負けずに頑張らないとな。魔獣の第2波はまだまだ続く。




