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第123話 魔の森の異変1

 冬のとある日の夜。遠くではあるが地響きのような音が聞こえてきた。


「昨夜のあれ、何の音だったのかしら」

「よく分からんな。ギルドなら何か分かるかもしれん、行ってみるか」


 その日は休みの予定だったが、冒険者ギルドに行ってみると職員がバタバタと走っていて少し慌ただしいな。

 冒険者仲間に聞いてみると、西にある魔の森の奥で地すべりなのか、雪崩なのかが起こったようで、町の兵隊と一緒に調査隊を派遣するそうだ。


「たまにこんな事もあるけど、昨日の音はかなり大きかったわね」


 町にずっと住んでいるカリンも聞いたことがなく、体に感じる地震のような振動も珍しいと言っている。


「調査隊を出すといっても大変だろうな。魔の森の奥なんて、俺達、冒険者でも簡単に行くことはできんしな」

「そうね。手つかずの森は、どんな魔物がいるか分からないものね」


 西の魔の森は遠く、ここの冒険者は普段からあまり行かないからどんな様子なのかも分からない。奥地となると調査も命懸けになってしまう。

 冒険者ギルドも警戒態勢に入り、通常の冒険依頼は受けずに待機してほしいと通達が出て、受付窓口も閉じられた。

 その日の昼過ぎ。冒険者が集まる広間に、慌てた様子で調査隊が戻ってきた。


「大変だ。メラク村の近くでスタンピードが起きて、村は壊滅状態だ」


 スタンピード!? 俺は初めて聞いたが、大量の魔獣が暴走して魔の森から溢れ出ているらしい。魔獣の暴走? それで村が丸ごと壊滅しただと。そんな魔獣がアルヘナに襲来すればただでは済まんぞ。


「村を襲った後、北西の森に向かったようだが、どこに向かったかは分からん」


 この町から南西には小さな村が3つあるが、馬車で半日ほどの距離にある一番近い村が襲われたようだ。騒めく冒険者達の前に、ギルドマスターのジルが事務所の奥から出て来て緊張の面持ちで口を開く。


「緊急事態を宣言する。現時点でこの町に魔獣どもが来るかは分からんが、町の守りを固め魔獣の襲来に備えるぞ」


 スタンピード自体は5年から10年に1度は起きるらしい。だが町や村が襲われない場合もある。このアルヘナの町が襲われたのは16年前だそうだ。

 緊急事態が出ればランクに関係なくこの魔獣討伐に参加し、全員が自分にできることをする。そうしないと町を守ることはできないと言っている。


 こういう場合、領主から冒険者ギルドに直接依頼が来て、領主と連携して事に当たるらしいな。

 まだ依頼は来ていないが、ギルドとしては先に動き出し準備を整える。マスターのジルが白銀ランクの冒険者を全員招集し、俺とアイシャもその打ち合わせに参加する事になった。


「黄金ランクの3人は今、領主の方から招集をかけてもらっている」


 このギルドに登録されている黄金ランクの冒険者は貴族街に暮らしていて、日頃は領主や王都の貴族などの依頼を受けているらしいな。だから俺もアイシャも、黄金ランクの冒険者を今まで見かけたことがない。


「黄金ランク冒険者が来るまでは、君達がここの最上位冒険者となる。連携の取れたパーティー単位で行動してもらいたい。現場指揮官は、領主が指定した兵団長、もしくは黄金ランクの冒険者が務める」


 俺達も兵隊の一部隊として動けと言うことだな。兵士だとか冒険者とかに関係なく、町全体で対処しないと危ないらしいが、スタンピードとはそれほどのものなのか。


「今までの経験から、西方へ行った魔獣がすぐに戻ってきた場合でも半日から1日程度の余裕がある。その間に準備してほしい」

「スタンピードの規模がどの程度か分からんのか?」

「足跡だけからの推測になるが、数百の魔獣がいるだろう。だがこれを引き起こした巨大魔獣の存在が一番厄介だ」


 巨大魔獣?


「調査隊の報告では南西の山の一部が崩れ、大規模な地滑りが起こっているらしい。そのせいで巨大魔獣が動きだし森を出れば、それに追われて多数の魔獣も森から溢れ出てくる」


 その巨大魔獣が親玉らしいが、今までそんな魔獣は聞いた事もないぞ。


「この近辺に出現した巨大魔獣は、この魔物図鑑に載っているから目を通しておいてくれ」


 開かれた本には4体の魔獣の姿が描かれていた。大きさを示すため隣りに人の絵が描かれているが、身の丈が5m以上あるような巨大な魔獣ばかりだ。


「いずれの魔獣も2属性以上の魔法を使い、魔法耐性や物理防御の毛や鱗を持っている」

「こんな魔獣相手じゃ、鉄ランク以下の冒険者では歯が立たんぞ。俺達でも通用するかどうか……」


 通常の魔獣とは桁が違う。鉄ランクでは死にに行くようなものだ。


「巨大魔獣は黄金ランク冒険者が討伐に当たる。君達はその前に襲来するであろう魔獣の群れの数を減らしてもらいたい」

「青銅ランクは、それすらできん奴もいるが」

「その者は連絡要員、物資の運搬、怪我人の運搬や介護をしてもらう」


 各ランクでやれる仕事を決め、役割分担して力を結集するとジルは言う。


「スタンピードの場合、魔獣は3波に分かれて襲ってくる。第1波が足の速い魔獣。第2波が力の強い魔獣。最後が巨大魔獣だ」

「そんな魔獣が一度に襲って来たら、ひとたまりもないぞ」

「そこで現場指揮官を置き、その指示で行動する。第1波の状況を見て討伐継続か、撤退かを判断する」


 第2波が来る前に、第1波の魔獣を殲滅できるかどうかが重要になってくるな。襲ってくる魔獣の数が問題だが、その情報を集めるための部隊もいるようだ。


「今も馬の扱いに長けたチームを調査に向かわせている」


 2人1組で5チームが常に西へと向かい、順次最新の情報を持ち帰っているそうだ。情報を収集するというなら、俺にもできる事はある。


「最前線近くに物見やぐらを立てられるか」

「物見やぐらか?」

「俺のチームに遠くを監視できる者がいる。その者に監視させれば素早く魔獣の情報が手に入る」


 チセを監視に当たらせれば、魔獣の動きも掴みやすいだろう。


「分かった、手配する」

「それと職人ギルドと魔術師協会に魔弾を作ってもらうよう依頼してもらいたい」

「魔弾というと、例の新型武器か?」

「そうだ。時間があるなら今のうちに作ってもらいたい」

「よし、至急手配しよう。他にはないか。何かあれば後でもいいから俺のところまで来てくれ。では各自準備に取り掛かれ」


 ジルの言葉で一旦解散して、各自で討伐の準備をすることになった。


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