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第122話 初めての先生

 年が明けた、とある日。受付窓口でいつもの受付嬢から声をかけられた。


「ユヅキさん。若手冒険者の先生をしてくれませんか?」

「白銀ランクが若手とパーティーを組んで、討伐の方法を教えるというやつか?」

「はい、そうです。3人組の冒険者なんですが、そろそろ討伐の依頼を受けたいと言ってまして」

「どんなメンバーだ?」

「同じ村の出身で剣士と魔術師と弓使いでバランスのいいチームなんですよ」

「ユヅキさん、ちょうど私達一人ひとりで教えられるし。いいんじゃないかしら」


 カリンも含めて個別指導できるという訳だな。


「分かった。その指導の件、俺達が請け負おう」

「ありがとうございます。では早速明日からお願いしますね」


 翌日、俺達はギルドへ行き、待ち合わせの掲示板左奥の広い場所に行くと、それらしき冒険者がいた。


「君がヒルト君かな」

「ええ、そうです。あなたが今日パーティーを組んでくれる人ですか?」

「そうだ、向こうに仲間達がいる。一緒に来てくれ」


 初々しい3人の獣人達だ。同じ村の出身ということで仲も良さそうだな。


「あの人、人族だよな」

「私、初めて見たわ」


 こそこそと後ろで話しているが、聞こえているぞ。背中に黒い翼は無いから安心してくれ。



「俺がこのパーティーのリーダーをやっている、ユヅキだ」

「私はアイシャです。元猟師なの、よろしくね」

「私が大魔術師のカリンよ。教えを請いたいというのは、あなた達かしら」

「カリンはどうして偉そうなの。あたしはあなた達と同じ青銅ランクのチセです。まだ見習いみたいなものです」


 俺達の話が終わると、若手冒険者が自分達の自己紹介をする。


「僕はヒルト、剣士を目指しています」

「私はフロイです。魔術師です」

「俺は弓使いのホボス。村では一番の腕だったんだ」


 3人とも同い年で幼い頃からの知り合いだそうだ。チームワークは良さそうだな。


「さて挨拶も済んだことだし、早速だが今日の仕事の話をしよう」

「西のカウスの林付近で、最近野犬の被害が多発しているそうだ。魔獣ではないただの野犬だが数が多くて厄介だ。今回はこの野犬の討伐で鉄ランクの依頼となる」

「そういえば最近キャンキャンとうるさいのが、うろついていたわね」


 町近辺の地図を指差しながら説明していく。


「多分、このあたりに巣穴があるが、昼間でもウロウロしていて、街道を行く人達を襲っているそうだ。街道沿いを歩きながら、林の中の野犬を見つけて倒していこう」


 前のアイシャの家に向かう林の中、それほど街道から離れていない場所だし危険は無いだろう。


「ヒルトは俺に、ホボスはアイシャに、フロイはカリンについてもらって、個別での狩りの方法を見てもらう。機会があれば、連携して倒す方法も学んでほしい」


 俺達は3人を連れて西門を出て、街道沿いの林の近くを歩いて行く。


「ホボス君は普通の弓を使っているのね。魔道弓は使わないの?」

「あの変な形をした弓か? 俺は村にいた時からずっとこれだからな」

「そうよね。使い慣れた弓の方がいいわよね。私も小さい頃からこれ1本よ。気が合うわね」


 話をしながら歩いて行くと、チセが獲物を発見したようだ。


「師匠、林の中に野犬が1匹いますね。どうします?」

「えっ、どこにいるの!」


 若手の3人が少し怯えて身構える。チセが単眼鏡を手に、詳しく教えてくれる。


「あの大きな岩の横、木の陰に隠れてます」

「じゃあ、もう少し近づいてから狩ろうか。誰からいく?」

「私からいくわ。あんたは何属性の魔法が使えんの?」

「私は火と風と土が使えます」

「上等じゃない。じゃあ木の陰に隠れている犬を、風の魔法を曲げて当てて倒しなさい」

「えっ、風を曲げるんですか?」

「そうよ、風を細くして、こっちから曲げながらビューンて当てるのよ。ほらやってみなさい」

「は、はい。やってみます」


 フロイが中指を弾いて、風魔法を野犬がいる方向に飛ばす。だが手前の木に当たって野犬は少し奥に逃げて隠れてしまった。


「そうじゃなくて、斜めに傾けてこう、ビュッ、ビューンってやるのよ」


 カリン、お前の教え方じゃ、さっぱり分からんぞ。


「カリン、見本を見せてやりな。その方が早いだろ」

「そうね、見ておきなさいよ。ウィンドカッター!」


 カリンが杖を手にして、大きな風の(やいば)を器用に傾けて曲げながら木の間の野犬を捉える。野犬の悲鳴が聞こえたから、命中したようなんだが……。


「ほらね、こうするのよ」

「ほらねじゃねーよ。周りの木も一緒に切り倒してるじゃね~か!」


 林の一角が切株だらけになっちまった。魔法で倒したのか、倒れた木で倒したのか分からんじゃねーか。ちょっとは手加減しろよな。

 若手の3人組も唖然として立ち尽くしているぞ。


「師匠、次はあの向こうに2匹いますよ」

「それじゃ、今度は私達が倒すわね」


 アイシャがホボスを連れて弓で狩るようだな。


「ほら、ここからなら気づかれずに矢を当てられるわ」

「えっ、こんな遠くから!」

「そうよ、やってみなさい。頭を狙うのよ」


 ホボスが弓を構えて矢を放つが全然届かない。


「おかしいわね。その弓私のと同じ中型の弓よね」


 今度はアイシャが構えて矢を放つ。矢はまっすぐ飛んでいき野犬の頭を貫く。

 さすがアイシャ、だが若手には無理じゃないか。口を開けてホボスが驚愕の表情のまま固まっているぞ。

 もう1匹の野犬が怒って、こちらに向かってきた。


「ちょうどいい。ヒルト、前に出てあいつを倒せ」

「えっ、俺ですか!」


 ヒルトを前に出し、後ろから補佐する。ヒルトが剣を振るうが、野犬の速さに追いついていない。腰のベルトを掴んで体を後ろに引いて躱させる。

 通り過ぎた野犬はカリンの土魔法でできた壁にぶち当たって、反転してこちらに向かって来た。


「もっと腰を低くして、剣を水平に構えて相手の勢いを利用するんだ。やってみろ」

「は、はい!」


 やはり怯えているのか、腰が引けて剣が上手く振れていない。野犬が通り過ぎて、また反転してこっちに向かってきた。

 今度は俺が見本を見せよう。


「こうして、剣を腰に構えて右薙ぎではらうんだ」


 ――ブゥ~ン


 おっとしまった。力を入れすぎて真っ二つにしてしまった。


「す、すまん。アイシャ」


 俺は平謝りに謝る。

 その後、巣穴が見つかったので、火魔法で追い出してもらう。


「いい、ファイヤーボールよ」

「ファ、ファイヤーボール」

「もっと大きな声で!」

「ファイヤーボール!!」


 カリンはいったい何を教えているんだ?

 巣穴から出て来た野犬15匹を連携して倒していく。


「すまん、2匹そっちへ行った」

「うっうゎ、こっちに来る!」


 ホボスのいる方に野犬を逃してしまった。ホボスは矢を構えようとするが、間に合わんか。


「チセ、頼む」

「は~い」


 チセが魔弾銃を手にし、連続で野犬を倒していく。

 ――夕方。


「全部で25匹? まだいそうだけどね」

「まあ、今日はこの程度でいいんじゃないか。練習みたいなもんだしな。ひとり当たり2匹ぐらいは倒せただろう」

「は、はい。ありがとうございました……」


 なんだか3人組は疲れ切ったような表情をしているな。まあ、初めてだし仕方ないか。その内、慣れるてくるだろう。

 俺はギルドで獲物を引き渡して報酬を受け取る。野犬は魔石もないし弱いから少し安いな。まあいい。


「これが今日の君達の報酬だ。授業料も引いてある」


 銀貨30枚を3人組に渡した。ひとり10枚、小遣いぐらいにはなるだろう。


「今日はあまり倒せなかったが、気にするな。次はもっと倒せるようになるさ」

「いえ、本当の冒険者の実力を教えてもらいました。もっと修業してから討伐を受けるようにします」


 3人組が、とぼとぼと帰っていった。

 それを見ていたニックがニッと笑いながら、俺達に声を掛けてきた。


「あまり実力差を見せつけたらダメじゃないか。お前達は、規格外なんだから」


 え~、そうなのか? こうして俺達の初めての授業は終わった。





 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回で第3章は終了となります。


 次回からの 第4章 をお楽しみに。


 ブックマークや評価、いいね など頂けるとありがたいです。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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