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第120話 魔弾銃

「師匠、あっちの白狼に攻撃しますね」

「ああ、そっちは頼む。カリンは平原近くの群れを攻撃してくれ」


 チセが試作品の魔弾銃を手に、俺達と白狼の討伐をする。魔弾銃は魔弾を連続で発射できる弓型の武器で、現在開発中の物だ。

 銃とは言っているが、小型の魔道弓を使用して魔弾を飛ばしている。


 前の世界での銃のような構造も検討されたが、火薬が発明されていないこの世界では、火魔法での打ち出し方法ではコストがかかるため弓型になったそうだ。

 だが連続で撃つことができ、当たれば相当な威力がある物になっている。実戦でチセに使ってもらっているが、充分実用に耐えるものだ。


「やっぱり、寒くなってくると白狼が増えてくるわね。一体どこから沸いてくるのかしら」

「森の奥で、去年生まれた子供がこの時期に独立して、生活範囲を広げようとするみたいよ」

「それでこんな平原にまで出て来ているの? 迷惑な話よね」


 カリン、お前も独立して俺の家に生活範囲を広げてるじゃないか。迷惑かけてるのはお前も同じだぞ。


「師匠、全部で12匹でした。荷車に積み込みますね」


 俺達は川に白狼を投げ入れて血抜き作業をする。この時期こういう作業は堪えるな。河原で焚火を囲んで冷えた体を暖める。


「もうすぐ冬至だし、寒さも増してきたわね」

「でも、まだまだこれからよ。アイシャはよく山の中で冬を過ごしていたわね」

「洞窟の中って暖かいのよ。小さな薪ストーブでも充分だったわ。こっちの部屋の方が寒く感じるときもあるくらいよ」


 たしかに、洞窟は一年を通して気温差は少ないから、夏涼しくて冬は暖かいんだろうな。今の家は大きなストーブが1階にあるだけで、各部屋には無いから真冬は寒くなるかもしれんな。


「狩りも動ける程度の雪の量だったら、防寒着を着て走っていれば暖かいしね」

「なかなかに逞しいわね。私は家の中で布団にくるまっている方がいいわ。チセの家はどうだったの?」

「あたしの家は、工房に炉があって冬はいつも暖かいですよ。でも夏が暑すぎるのは困りものですが」


 確かにガラス職人のボルガトルさんの工房もかなり暑かったな。冷房がない夏は厳しいだろうな。


「そういえば、チセの持っている魔弾銃は、まだ売りに出されないのか」

「銃本体はほぼできているんですけど、魔弾を作る値段が高くて、安くならないか検討中なんですよ」


 魔弾の心臓部の魔弾キューブはガラス製で、暴発させないために周りを金属で覆って弾丸状にしている。先端に衝撃が加わった時だけガラスが破壊される仕組みだ。

 そこに魔力を入れた状態で販売するとなると、コストは高くなるな。


「魔弾が多く売れれば安くなるはずなんですよ。魔術師さん達もいい仕事ができたと喜んでくれてますし、量産はできると思うんですよね」


 魔術師協会には魔力量の多い魔術師はいるが、命の危険がある冒険者になろうとする者は多くない。魔弾の量産は双方にとって良い事だ。

 魔弾銃が売り出されれば、戦術のバリエーションが広がって、冒険者には喜ばれるはずだし、早く販売してもらいたいものだ。


 さて、そろそろ町に戻るか。俺達は白狼を荷車に積んでギルドへと向かう。


「今日も沢山仕留めて来たな。ほら依頼完了書だ。窓口に持っていきな」


 受付窓口で報酬を受け取り実績を記録してもらう。今日の受付嬢はいつもの狐獣人のお嬢さんだ。


「おめでとうございます。ユヅキさん、アイシャさん。今回で白銀ランクへ昇格できるようになりましたよ」

「おお~、もうそんなに実績が付いていたか」

「それはもう、盗賊団の壊滅や魔獣の討伐など、すごい活躍してましたからね。白銀へのランクアップは試験がありますが、今受けますか?」


 鉄ランクへの昇格と違って、白銀 ランクになるには試験が必要だと言っていたな。


「どんな試験なんだ?」

「ギルドマスターから2、3の質問がある簡単なものですよ。ユヅキさんとアイシャさんには、ぜひランクアップしてもらってどんどん活躍してもらいたいです」


 受付嬢さんが言うほど、俺達はそんなに期待されているとはな。もしかすると職員の間で俺は有名人なのか~。


「ユヅキさんの作った魔道弓が普及したこともあるんですけど、このギルドの依頼達成率は全ギルド支部の中でもトップクラスなんですよ。それで私達の給料も上がったし。ユヅキさん! 私達のためにも、今後も頑張ってくださいね!」


 このお嬢さんはいつも、ぶっちゃけるな~。


「よし、アイシャ。白銀ランクの昇級試験を受けてみようか」

「ええ、そうしましょう」


 俺達は隣の部屋に通されて、マスターのジルによる面接試験を受ける。



「以上でふたりへの質問は終わりだ。白銀ランクへの昇格を認めよう。おめでとう」

「ありがとう、ジル」

「いやいや。お前達は充分すぎるぐらい白銀の実力はあるからな。それとこれは頼み事なんだが、未熟な冒険者への指導の役目も引き受けてくれんか」


 指導というと、一緒にパーティーを組んで、若手の冒険者に討伐の方法などを教えるやつか?


「他の白銀ランクの者からも、お前達が白銀に上がったら是非にと推薦をもらっていてな。指導者として登録してくれると、こちらとしてもありがたい」


 俺達も初心者の頃にニックのパーティーに入って、教えてもらっていた。あの時は助けてもらった、その恩を返せるということか。


「アイシャ、どうする?」

「私はいいと思うわ。初心者の頃にちゃんとした狩りの方法を教えてあげるのはいい事だわ」

「よし、それじゃあ、その指導者というのに登録しておいてくれるか」

「ありがとよ。それじゃあ、新しいプレートは受付窓口で受け取ってくれ」


 部屋を出て受付近くに行くと、チセが心配そうに待っていた。


「師匠、試験はどうでしたか?」

「大丈夫だったぞ。俺達ふたりとも白銀ランクになれたぞ」

「おめでとうございます」

「これでまた、ユヅキと差が開いちゃったわね」


 と悔しそうな素振りを見せるが、これでカリンも祝福してくれているんだろう。

 今夜は何かうまい物でも買ってお祝いをしよう。


「ユヅキ様、アイシャ様。白銀ランクのプレートができました。こちらに来てください」


 受付嬢が呼んでいる。新品の白く輝くプレートを胸に、今夜の料理とお酒は何にしようか皆と談笑しつつ家路につく。


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