第119話 魔弾開発
「それでは、これより魔弾開発に関する会議を行う」
冒頭、職人ギルドマスターのボアンが挨拶する。
集められた職人は、鍛冶職人のエギルとガラス職人のボルガトル、開発者としてチセが呼ばれている。
今回俺は、オブザーバーとしての参加だ。
皆をギルドの裏庭に集め、小さな火魔法を入れた魔弾を投げて、炎が発生するデモンストレーションは終わっている。
「ボアンよ。魔弾と言ったか、魔力を封じ込めた球を今回初めて見せてもらったが、これは魔道具じゃないのか」
俺もエギルと同じ疑問を持ち、事前にボアンと相談している。
「魔術師協会には確認を取っている。魔道部品を使っていない、ただのガラス球だという結論だ」
「俺は、言われた通りのガラス球を作っただけだ。それを魔弾などと言われても、さっぱり訳が分からん」
「あの、あたしもランプのガラス球の実験をしただけで、開発者と言われても困ります。師匠、どういうことですか?」
「まず、俺が魔弾と呼ぶこのガラス球製作に関わったのは、ここにいる皆ということで間違いないと思うが」
それに関して、みんなの同意は得られた。
「これが、ただのガラス球として売られていても、冒険者である俺がこれを手にすれば、魔弾……武器として使用することをまず考える。職人ギルドのマスターとしてはどう考える」
「これに使われている製造技術は、今までにない高水準のものばかりだ。その技術も含め武器だけでなく使われる用途は広いと思っている。世に出すべき物だと私は考えているがな」
高精度の鉄球や、高精度のまま内側に球体の空間を作る技。これらは今回新しく開発された技法になる。
「これを世に出さないのであれば、俺を含め全員がこの技術は無かった事にして、一切口外しないことを約束してもらう必要がある。作った者の意見を聞きたい」
今まで努力してきた者達に問う。
「確かに魔力を貯めるという画期的な技術を、全く出さないのは職人としてもったいないことだとは思うが」
「あたしは人の役に立つなら、使った方がいいと思います」
「俺はガラスを作っただけだ。世に出す出さないはどちらでもいいが、ガラス細工として売ったものが武器として使われるのは気にくわんな」
皆の意見を聞いて、俺の考えを話す。
「これは別の形で売りに出しても、武器に転用されることは確実だ。それなら一番危険な使い方の武器を俺達で考えて、安全に使える物として世に出すのが作った者の責任だと思う」
皆が黙り腕を組み考え込む中、エギルが発言する。
「俺は、魔弾として開発することに協力しよう」
ボルガトルさんも口を開く。
「俺は武器の事は一切分からん。だが安全に使えるようにすると言うなら、それには協力しよう」
「今は武器ですが、あたしは他の人にも役立ついろんな製品を作りたいです」
みんなの意見は出そろった。
「では、職人ギルドとして魔弾を武器として開発し、その後も他の製品を開発していくという事で、異議はないかね」
ボアンの言葉に対して皆は異議がない事を示した。
「ユヅキ君。君は今回冒険者としての意見を聞くために呼んだが、君ならどうやって魔弾を使うのか聞かせてほしい」
「魔弾を矢じりの代わりに付けて飛ばすか、筒に入れて後ろから炎または風で拭き矢のように飛ばすといったところか」
魔弾をこのまま飛ばすだけなら、今すぐにでもできる。だが問題はそこではない。
「ただどちらにしても、このガラス球をそのまま扱うのは危険だ。いつ壊れて魔法が発動するか分からないからな。ポケットに入れて街中を歩いていて、もし暴発すれば多数の死者が出る」
「なるほど、まずその安全性を確保してからだな」
その後、魔弾自体の構造と武器としての使用方法が検討された。実際武器とするためには、他の職人も協力してもらわねばならんが、まずこのメンバーで考えるということで今回の会議は終了した。
「師匠。なんで師匠ではなく、あたしが開発者としてこの場に呼ばれたんですか?」
「チセは、このガラス球を俺やみんなのために使いたいと思っているだろう。俺は武器としての魔弾の他は思いつかないよ。この技術を使いこなせるのはチセだと思ったんだ」
俺はこの世界で、まだ日が浅い。チセはこの魔法のある世界で、俺のしたかった物づくりを続けている。この魔法技術を平和のために使えるのはチセしかいない。
「でもあたしじゃ、製品の開発なんてできないと思います」
「そんな事ないさ。これまでボルガトルさんとガラス球を作ってきた経験を活かせば充分やっていけるさ。みんなも協力してくれる」
「そうですね……分かりました。あたしのできるところまでやってみますね」
これはチセにとって、いい経験になるだろう。俺やアイシャ達も力を貸すし、この町の職人達も協力してくれるから心配はいらないさ。
他にどんな使い方ができるかチセと話をしながら、並んで家に帰る。家ではアイシャが夕飯を作って待っていてくれた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえり~」
みんなと一緒にテーブルを囲んで楽しく食事をする。
チセの作ったガラス球に封印された魔法の砂は、1週間経った今も消えずに残っていて、部屋の片隅に置かれている。
その後製造方法も改良されて、量産が可能となった魔弾の心臓部のガラス球は魔弾キューブと呼ばれ、2ヶ月、90日間魔力を封印できる製品として完成された。
職人ギルドはチセが最初に作ったガラス球をはじめ、試験的に作った物を含め残っていたガラス球を大切に保管する事にした。
そのガラス球は、魔弾の歴史において最初に開発されたガラス球として博物館に展示される事となるが、それは後々の話である。
そこには何年たっても消えない奇跡の魔弾として、中に魔法の砂が入ったガラス球が展示されていたという。




