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第113話 チセの砂時計

「昨日作った砂時計を取りに行こうか」

「はい、師匠」


 今日は休みで、一日チセに付き合うつもりだ。朝から外枠を作ってくれた、グラウスの工房に向かう。


「グラウス。昨日チセが頼んだ品、できてるかい」

「おう、ユヅキ。また面白い物を作ったな。ほらよ」

「ありがとうございます」


 チセが受け取って、逆さにして砂を落とし確認している。


「ユヅキ。ギルドに行ってちゃんと登録しておけよ」


 ああ、そうか。新しい物は登録しとかないと、後々面倒になると言っていたな。

 仕方ない。ガラス工房に行って話を通しておくか。


「ボルガトルさん、居るかい?」

「なんでぇ、またお前達かい」

「実はな昨日作ったこの砂時計だが、職人ギルドに新製品として登録しようと思うんだ。ボルガトルさんに登録してもらいたいんだが」

「俺は嬢ちゃんに頼まれて作っただけだ。登録するならそこの嬢ちゃんだろう」

「だがな、後で製品を作ってくれだの、説明してくれと言われても俺達じゃできないんだ。ボルガトルさんに登録してもらわんと困るんだよ」


 ボルガトルさんが渋い表情で黙って少し考えている。


「それなら、嬢ちゃんと半分という事にしよう。俺は図など描けんから登録はそっちでやってくれ。登録料はこっちで払う」

「分かった。明日中には登録しとくよ」


 家に帰る途中、チセが俺に尋ねてくる。さっき話していた登録の事のようだな。


「師匠、あたしの名前でいいんですか? 考えたのは師匠ですし」

「チセの名前でいいよ。俺はガラスの事は分からんしな。もし売れたらチセの小遣い程度にはなるだろう」



 さて、家に帰ってチセの部屋で実験の続きだ。


「まず、ガラス球を大きな順に、この箱に入れていこう」


 昨日作った箱は6列ずつに区切られた仕切りがあり、色付きなどを省くと全部のガラス球が入った。


「じゃあチセ、この紙に1から36までの数字を縦に書いてくれ。その横に時間を書くからな」


 チセにデータの取り方を教える。


「俺が一番小さなガラス球に魔力を入れてみよう。チセだとまた魔力切れになると困るからな」

「はい、お願いします」


 俺が手を離してから砂時計をひっくり返して、炎が消えた時の砂の位置で時間を測定する。砂時計は約30秒で砂が落ち切るが、10秒ごとに印をつけているので大体の時間が測れる。


「いくぞチセ。イチ、ニのサン」


 しばらくして炎が消える。


「どうだった、チセ」

「8ですかね。砂はこのあたりでした」

「うん、うん。それでいいぞ。その数字をここに書いてくれるか」


 そうやって順番に記録していく。


「なるほど、こうすると一度だけで、全部比較できますね」

「そーだろ」


 全てのガラス球一つひとつを調べていくのは時間が掛かるな。途中休憩を入れつつ、全部のガラス球のデータを取り終えた。


「やっぱりバラバラですね。一番長くて35でした」


 俺も記録した表を見てみたが、ガラス球の大きさに比例していなかった。

 しかし15、6個ごとにピークがあるように見える。何か法則があるのか?


「ちょっとデータを検討しないとダメだが、これが一番長く発動していたガラス球だな」


 手に取って、眺めてみる。形は他とさほど変わりないな。


「このガラス球より、少し小さい球と少し大きい球は作れるか?」

「できますよ。もう少し細かく調べるんですね」

「よく分かっているな。明日またガラス工房に行ってガラス球を作ってくれるか」

「はい、そうします」

「チセ、この色の付いたガラス球をくれるか。たぶん壊すことになると思うけど」

「ええ、いいですよ。その球はもう要りませんから」


 俺には少し気になる事がある。それを確かめるためにアイシャとカリンを連れて出かけた。


「ねえ、ユヅキ。どこに行くのよ」

「すまんな、ちょっと町の外まで付き合ってくれるか」


 俺達は町の東門を出て、岩肌の見える崖の近くに行く。ここは前にカリンが魔法の練習をした場所だ。


「ユヅキさん、またここで魔法を使うの?」

「魔法とはちょっと違うけどな。カリンこのガラス球に、昨日みたいに魔力を入れてくれ」

「ええ、いいわよ」


 カリンに指から直接魔力を入れてもらうと、ガラス球の中が真っ赤になる。


「見ていてくれよ」


 俺はガラス球を力いっぱい崖に向かって投げつける。

 ガラス球が砕けて、大きな音と共に魔法の巨大な炎が燃え上がった。


「ええ~、どういう事!?」

「多分だがな、あのガラス球に魔力が封じ込められている。割れるとその魔力が開放され魔法が発動するんだ」

「あれはユヅキの魔法じゃなくて、私の魔法なの」

「ああ、俺じゃあんな大きな炎は出せんからな」


 これは魔法を蓄える球、魔弾として使えるんじゃないだろうか。チセの自由研究のつもりだったが、とんでもない発明になるかもしれん。


「だが、まだ分からないことが多くて実用にはならんが、実戦に使える可能性はある。少し考えておいてほしいんだ」

「チセにこんな危ない物を扱わせておいていいのかしら」

「チセの魔法は生活魔法で、すぐに消えてしまう程度だから問題ないと思う。ひとりでいるときは危なくない土属性で実験してもらうよ」



 翌日、チセはガラス球を作りに行くと工房へ向かった。家ばかりでつまらないんじゃないかと聞いてみたが、今は実験の方が面白いそうだ。

 夢中になれるものがあるならそれでいいさと、俺達は冒険依頼の仕事に向かう。


 夕方、家に帰るとチセが飛びついてきた。


「師匠、ずーっと消えないガラス球ができたんです」

「おお、それはすごいな。見せてくれ」


 俺は一緒に2階のチセの部屋に行った。


「これです。見てくださいね」


 ガラス球に土属性の魔力を入れると、砂が現れて指を離してもそのままの状態が続いた。


「鐘半分の半分ぐらいまで消えませんでした」


 大体、45分程か。ランプの半日に比べると短いが充分な長さだ。


「他のガラス球はどうだった?」

「はい、ここに書いています。砂時計で10回繰り返した物もありましたよ」


 今回は2つのグループで、細かく大きさの違うガラス球を作っている。時間が伸びたのは、それぞれのグループで1つだけで、他は同じか短くなっている。

 これだけデータがあれば、何か分かるかもしれんな。


「チセ、よくやったな。夕飯を食べてから、この数字について一緒に考えてみようか」

「はい、師匠」


 チセはニッコリと、弾けるような笑顔で答えてくれた。


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