表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/352

第105話 スハイルでの祝宴

 冒険者ギルドの受付窓口で依頼完了書を出して、護衛完了の報告をする。


「ユヅキ様、今回の護衛依頼達成おめでとうございます。それだけでなくドワーフの町の盗賊団を壊滅させた事は、このギルド内でも評判になっていますよ」

「こちらも討伐隊をすぐに派遣してもらって感謝しているよ」

「護衛の報酬も上乗せされていますし、王都から盗賊団討伐の報奨金も出るそうです」


 ほぉ、王都からも出るのか。長年、ドワーフの町の街道に出没する盗賊には手を焼いていたらしいしな。活躍したザハラのメンバー達にも報奨金が出るらしいし、めでたい事だ。


「それは嬉しいが、俺達は明日アルヘナの町に戻るんだがな」

「大丈夫ですよ。報奨金はアルヘナ支部でも受け取れますから、アルヘナの町に到着したら冒険者ギルドへ立ち寄ってください」


 こういうとき、全国組織の冒険者ギルドは助かるな。


「それとカリン様は、今回の実績が加算されて鉄ランクへ昇格できます。ランクアップされるのでしたら新しいプレートを作成しますがどうされますか?」

「はい、はい。ランクアップしま~す。新しいプレート欲しい!」

「はい、ではしばらくお待ちください」

「カリンおめでとう。昇格早かったわね」


 カリンはアルヘナでもこの町でも、俺達と一緒に鉄ランクの魔獣を討伐して実績を積んでいたからな。今回は白銀ランクの依頼と同等のものだし、ランクアップも当然だな。


「どう、これで私もユヅキと同じランクになったわ。これからもガンガン依頼をこなすわよ」

「師匠、あたしも冒険者になりたいです」


 チセはドワーフの町を出るとき、そんな事を言っていたが諦めてなかったんだな。


「ちゃんと覚悟ができてるなら、冒険者になってもいいぞ」

「はい、師匠のお役に立てるように頑張ります」

「ユヅキさん。今夜はカリンの昇格とチセの加入を一緒にお祝いしましょうよ」

「そうだな。この町も今日までだし、それもいいな」


 その日の夜、ギルドの酒場でお祝いをする。


「カリン、ランクアップおめでとう。それとチセ、冒険者になったが俺としては危ない事はしてほしくない。安全第一で頑張ってくれ。それでは乾杯」

「乾杯!」


 チセはお酒が初めてだと言うし、ワインに水を入れて飲んでもらおう。


「こら。カリンは調子に乗って飲みすぎるなよ」

「なんだかユヅキは父さんみたいで、鬱陶しいわよ。私はもう独立した大人のレディーなんだからね」

「じゃあ、今夜は俺のベッドに潜り込んでくるなよ」

「な! わ、私がそんな事する訳ないじゃん。バッカじゃないの!」


 そんなに顔を真っ赤にして怒るなよ。


「おう、ユヅキ。今夜は祝宴かい」


 前に盗賊団の討伐に来てくれたメンバーが声をかけて来た。


「この前はお疲れさん。今日はカリンの昇格祝いだ。明日にはこの町を離れるんで、ここでお祝いしようって事になってな」

「えっ、もう出ていくのかよ。それじゃ送別会ということで、ここは俺達がおごるぜ」

「いや、それは悪いだろう」

「ユヅキ達には、盗賊団討伐で儲けさせてもらったからな、遠慮すんなよ」


 討伐隊メンバーのうち、ここにいる4人が加わって宴会は盛り上がる。


「しかしカリンちゃんのド派手な魔法も、見納めになるとは寂しいね~」

「そうそう、あの昆虫の森での101匹Gの魔物事件は有名だからな」

「あ~、それ私も聞いた! カリンちゃん、昆虫の森焼きつくしかけたんだってね」

「あの時、俺はこの町にいたけど、森で火柱が何本も上がって住民達が恐怖してたぞ」


 それほど有名になっていたのか。確かにあの時は大変だったな。もう虫の魔獣は懲り懲りだ。


「うっさいわね。あんな魔物は絶滅しちゃえばいいのよ。ねっ、アイシャ」

「そうよね、もう見るのも嫌だわ」

「だからって森燃やしちゃダメだろ。衛兵が何人も消火に出てすごい騒ぎになってたんだぞ」

「ふん、そんなの知らないわよ!」


 カリンはふてくされてそっぽを向く。まあ、それもいい思い出じゃないか。


「そういやこっちのかわいいドワーフのお嬢ちゃんは見ない顔だな」

「ドワーフの町で盗賊団を壊滅させたリーダーの娘さんだ。今は俺が預かっている」

「ほぉー、あの町の英雄の娘さんか。それは御見それしました」


 町の英雄か……そう呼ばれるだけの仕事はしていたが、チセにとっては優しいお義父さんとしか思ってないだろう。


「お義父さんは英雄じゃないですよ」

「いやいや、あれだけの盗賊団を壊滅させて町を救ったんだ。もうすぐ町長になるそうじゃないか」

「えっ、そうなんですか」

「チセ、すごいわね。ザハラさん町長になるんだって」

「あたしが町を出るまで、そんな事言ってませんでしたよ」

「そういう噂よ。領主が完全に失脚して、次の領主が来るまで町をまとめないといけないしね。英雄が町長になるのが一番よ」


 確かにそんなことを町の住民達も言っていたな。まあ、ザハラなら町の代表としてうまくやっていけるだろうな。それよりも、王都の黒幕の方が気になるのだが。


「裏で糸を引いていた王都の貴族はどうなったか知らんか?」

「そっちの方は、言い逃れしたのか、おとがめ無しみたいよ」

「盗賊団のボスがその貴族の五男坊だったが、完全に見捨ててトカゲのシッポ切りをした形だな」

「だが権威はかなり落ちたそうだ。もう悪さはできないと思うぞ」


 あれだけの事をしておいて、まだ権力にしがみつく。それを許す貴族社会は許せんが、この世界では常識なのかもしれんな。

 いや、前の世界の政治でも同じような事はあったな。捕まった盗賊団の頭の方がまだ潔かった気がする。


「ドワーフの町との流通も良くなって、これから行き来も多くなる。今度ドワーフの町に何かあったら俺達が守ってやるからな。ドワーフの嬢ちゃん、安心しな」

「はい、よろしくお願いします」


 その後もワイワイと酒を酌み交わし、その夜は更けていった。



 翌日、ゴーエンさんに町まで送ってもらうのは昼前の鐘3つ半だ。それまではチセとこの街中を見て回る。ハダルの町の家は平屋ばかりだったので、4階建ての家が並ぶ街並みは物珍しくキョロキョロと見て回っていた。


 アクセサリー店ではガラス細工を見て「この程度なら、あたしでも作れますね」と言って店員さんの顰蹙(ひんしゅく)を買っていたな。さすがドワーフ族だな、まだ小さいのに技術的には一人前か。

 待ち合わせの時間に町の門に行くと、ゴーエンさんは既に来ていて、俺達が乗り込むとすぐに荷馬車を出してくれた。


「ゴーエンさんは、この後どうするんだ」

「ワシは王都にでも行ってから、共和国に帰るとするよ。せっかくここまで来たんだしな」

「それじゃ逆方向か。悪かったな」

「いやいや。あんたらの住んでる町を見てみたいし、その魔道弓というのも仕入れできたらしたいしな」

「それなら商業ギルドに行くといい。魔道弓の事ならそこで相談に乗ってくれる」


 俺達は半日馬車に揺られて、懐かしのアルヘナの町に戻ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ