第102話 ドワーフの町でお祝い
ドワーフの町に帰ると、住民のみんなが出迎えてくれた。
「お義父さん、お帰りなさい」
チセが駆け寄ってきて、その小さい体を投げ出すようにザハラに抱きつく。数日間、町を離れていたから心配だったんだろうな。
町では既に盗賊団が壊滅したことが知れ渡っていて、お祭り騒ぎだ。町に残っていた反抗組織のメンバーも駆け寄ってきた。
「ザハラさんとユヅキさん達が帰ってくるのを待っていたんですよ。町のみんなが、お礼したいと宴会の準備をしてくれています」
案内されるまま町の広場に向かうと、多くの住民達が集まり宴会のテーブルを囲んでいる。一段高い台の上にザハラが立ち、目の前にいる大勢の住民達に向かって話し出す。
「今までよく我慢してくれた。オレ達は盗賊団を完全に壊滅し、今アジトを捜索している。いずれ領主の不正も明るみに出る。オレ達は自由になれるぞ!」
すごい歓声が沸き上がる。住民の口々から自由になれる喜びと、それを成し遂げたザハラ達に感謝の言葉が掛けられる。
ザハラの手にジョッキが渡され宴会が始まる。
「これもユヅキや他の町の冒険者達が手を貸してくれたお陰だ。協力してくれた住民達もいた。みんなに感謝して祝おう。乾杯!」
その言葉に集まった住民達も「乾杯!」と、大声でジョッキを掲げる。
「ユヅキ、本当にありがとう。オレ達だけではこんなに上手く事を運べなかった」
「いや、俺は少し手を貸しただけだ。反抗組織を作り、みんなに希望を与え続けたお前の手腕がないと上手くいかなかったさ。自信を持て。まだこれから先もあるんだろ」
ザハラがこの町でしなければならん事は沢山ある。15年以上にも渡る不遇の歴史を塗り替えないといけないからな。
「そうだな、この町にはまた別の領主が来るだろう。だが住民との協議の上で治める前のやり方に戻さないといけない」
「そうだ、これからの事はこの町の住民達で決めて頑張らんとな。今日はその第一歩だ、みんなで盛大に祝えばいいさ」
「ああ、そうしよう。ありがとうユヅキ、乾杯だ」
夜が更けるまで飲んで食って散々騒いで、俺達は宿屋に戻った。元居た宿屋の主人は逃げ出していて、今後は別の者が管理するそうだ。
だが、そんなことはどうでもいい。今夜は気分がいい、少し酒を飲みすぎたのかベッドに入るとすぐ眠ってしまった。
◇
◇
夜明け前。まだ外が暗い時分に目が覚めると、カリンが俺のベッドに寝ていた。寝間着姿のまま俺にしがみついている。
「なんだ、カリン。どうしたんだ!」
「ウミュ~ァ、ユヅキ温かい~」
なに寝ぼけてんだ、こいつ。そういや昨夜はかなり酒を飲んでいたな。
すると急にドアが開いた。
「あ~、カリン。部屋にいないと思ったら、こんな所に。カリンだけずるい」
アイシャまで俺のベッドに潜り込んできた。薄い寝間着で腕にしがみついてくる。
「いや、これ狭いって」
「いいの、いいの。おやすみなさ~い」
アイシャも、まだ酒が残っているようだな。まあ、たまにはいいか。昨日までふたりとも頑張ってくれたしな。俺も二度寝しよう。こうやって3人一緒に寝れるなんて幸せ、シアワセ……。
◇
◇
次に起きた時は昼前だった。ベッドの上で俺は寝ぼけていた。
「あれ、アイシャとカリンは? 夢でも見てたのか」
着替えて宿屋の食堂に行くと、アイシャとカリンが座っておしゃべりしている。
「ユヅキさん、遅かったのね」
「ああ、昨日はずいぶんと飲んだからな」
「朝食、冷めちゃったけど用意してくれてたみたいよ。食べる?」
「ああ、いただくよ。そういや、カリンお前、俺のベッドに潜り込んでこなかったか?」
「うっさいわね。そんな事してないわよ」
あれ、顔が赤いぞ。やはり間違えて俺のベッドに潜り込んできてたんだな。
「それ、私じゃない? 少し前に起きたらユヅキさんのベッドにいたの。ごめんなさい」
「いいよ。たまにはそういう事があってもいいさ」
「そうよね、たまにはいいわよね。うふふ」
カリンもこれぐらい素直だといいんだがな。
「ユヅキさん、食事が済んだら町のお店を見て回りましょう。お土産も探さないといけないし」
「そうだな。アイシャはゴーエンさんがいつ帰るか聞いてるか?」
「あっ、それなら私が聞いてる。荷馬車を返しに行ったときゴーエンさんが馬車の修理しないとダメだから、4、5日はこの町にいるって言ってたわ」
荷馬車は盗賊との戦いで幌も焼けて、矢傷も沢山ついていたな。馬は無事だったが馬車本体を修理するのは大変そうだ。
急ぐ旅でもないし、もう少しこの町にいてもいいな。
「やっぱりこの町のお店ってどれも質はいいし、すごく安いわね」
「今までは領主が独占して、自由な商売ができなかったからな。これが本来の値段だろう」
これからは流通も良くなる。他の町でもドワーフ製の質のいい品が出回って値段も安くなるさ。
「でもこの町で買うのが一番安いからな、気にいったのがあれば買っておけよ」
俺達はあちこちのお店を見て回り、お土産などを買っていく。
「アイシャ、アイシャ。石鹸があるわよ」
なに、石鹸だと!
「ほんとだ。これ安いわね~」
俺達の町、アルヘナでは高すぎて貴族しか買えなかった石鹸か!
今までは石鹸が無く、風呂もタオルで体を拭くだけだった。アイシャの背中越しに見てみると、素朴な薄い灰色で塊を切ったまま角も丸くなっていない石鹸が確かに売られている。しかも安い。
「3年分買っておきなさい」
アイシャや店の人も驚いていたが、買えるだけ買っておこう。いいお土産ができたぞ。
翌日、領主が町に戻って来たようだが、屋敷から出てこない。門番や衛兵達も住民の報復を恐れて逃げ出したようだ。
住民達を恐怖で縛っていた力の源が無くなり、後は王都の貴族を頼るしかないのだが、その貴族も無事に済むとは思えん。ここの領主は失脚するだろう。
数日がして、街に出ると少し騒がしくなっている。王都から護送車が来ていて、捕まえた盗賊団やその頭を引き渡すそうだ。
町民達が城門の所に集まり引き渡しを見ているが、盗賊達に石を投げている者もいる。それほどに憎まれていたんだろうな。
俺が倒した盗賊団の頭も、甘んじて投げられた石を受けて、何も言わずに歩いている。奴は騎士崩れだということだが盗賊団に入らなければ、それなりの騎士になっていたんじゃないだろうか。
盗賊の引き渡しには、反抗組織のリーダーであるザハラが対応している。町民に話を聞くと、ザハラがこの町の町長に選出されるだろうと言っていた。
俺達は引き渡しの様子を見た後、街中を歩いていると道の向こうからチセがこちらに向かって走ってきた。
「やっと見つけました。ユヅキさん」
「どうしたんだチセ、そんなに急いで」
「ユヅキさんを師匠と呼ばせてください。あたし、この町を出て師匠について行きます」
「なんだって~」




