第101話 盗賊団のアジト
ここにいる盗賊達は壊滅させたが、これで終わった訳ではない。盗賊団のアジトが残っている。
そこにはドワーフの町を支配している領主と、王都にいる貴族が関わっている証拠があると俺は睨んでいる。ここの領主は使い走りだ。王都にいる黒幕との関係を暴かなければ、同じ事が繰り返されるからな。
「ザハラ。怪我人は何人でた?」
「7人怪我しているが、命に別状はない」
「それならこの荷馬車で町へ送ろう。重傷者から順に乗せてくれ」
「ああ、頼む。オレ達は盗賊を3人捕らえている。そいつらにアジトの場所を吐かせておくよ」
ザハラには盗賊の何人かは、殺さずに捕まえるように頼んでおいた。盗賊団のアジトへは、王都とスハイルの冒険者ギルドに盗賊団の討伐隊を派遣してもらうつもりだ。
我々ではなく公の機関に調べに行ってもらう事で、不正が明るみに出る。
これからは時間勝負だ。王都の黒幕に情報が伝わると、討伐隊がアジトに向かうのを阻止される可能性があるからな。
「こっちは盗賊団の頭を捕らえた。王都に引き渡すまで町で監禁しておきたいが場所はあるか?」
「高台の廃坑に牢屋がある。知っている者を荷馬車に乗せよう」
「カリンは俺と一緒に町まで。アイシャはここに残って怪我人の治療などを頼む」
「分かったわ」
「馬を連れて戻ってくる。王都とスハイルへ向かう者を選んでおいてくれ」
縛り上げた盗賊団の頭と、怪我人などを乗せて町に向かう。
今、町では『盗賊団が襲ってくる』だとか『王都から討伐隊が来ている』などゴーエンさんや協力者がデマを流して混乱させているはずだ。
外で戦闘が行われているのは町からでも分かる。町の衛兵達に正確な情報を与えず、王都に向かった領主に知らせを出させないようにする。案の定、町の城門は閉鎖されていた。
「おい! 開けろ。怪我人がいるんだ」
「お、お前は今朝出ていった冒険者じゃないか。外はどうなっている」
「今、他の冒険者と盗賊団が戦っている。怪我人を連れて来たから門を開けてくれ」
「王都の討伐隊が来ているのか?」
「そんなの知らないわよ! ごちゃごちゃ言ってると私の魔法で門をぶち壊すわよ」
「わ、分かった。中へ入れ」
門番は荷馬車の中を確かめる事もなく、俺達を町の中に入れた。
町中で協力者達に、怪我人と盗賊団の頭を引き渡す。
「本当に盗賊団をやっつけたのか?」
「もう壊滅させたから安心してくれ。だがまだ戦っていると噂は流しておいてくれよ。それと馬は用意できているか」
「言われた通り2頭用意している。だが俺達はただの職人だ、これ以上の協力はできんぞ」
これで充分だ、今は町も衛兵も混乱している。馬車や馬で城門を抜け、入れ替わりにザハラやそのメンバーが町に入る事も容易だ。すぐさま馬を連れて外に出る。
「ザハラ、馬を連れて来たぞ」
馬の扱いに長けた者を選んでくれている。王都とスハイル、早馬で駆ければ数日で町に到着できる。
「お前達頼んだぞ。何としても町に辿り着いてくれ」
「任せておけ。あの領主を引きずり降ろすためだ。必ず到着してみせるよ」
王都とスハイル、最悪どちらか一方でいい。盗賊対策で困っている冒険者ギルドに依頼すれば、すぐ討伐隊を派遣してくれるだろう。
本当は王都の兵隊を出してもらいたいが、動きが遅くなってしまう。冒険者ギルドに頼むのが一番だ。
残った俺達もしなくちゃならん事がまだある。
町の衛兵を抑えておく事と、討伐隊が来てくれた時にすぐにアジトに向かってもらえるように、アジトの正確な位置を掴んでおく事だ。黒幕が動き出す前に決着をつけたい。
「ダンナ、本当に俺の罪を軽くしてくれるんでしょうね」
「ああ、ちゃんとアジトまで案内したら、その分軽くなるように言ってやる」
盗賊団のアジトへは、俺達3人とザハラのメンバー4人とで行く。その案内役は捕らえた盗賊だ。
アジトは、ここから馬を走らせて半日ほどの距離、林の奥深く洞窟の中にあった。遠くから様子を覗うと、入り口には2人ほどの見張りが見て取れる。
もう陽も落ちて辺りは暗くなってきた。俺達は離れた場所で野営をして夜を明かした。
翌日。
「明日には町に早馬が到着する予定だが、討伐隊が来るのは3、4日後くらいになるな」
「ユヅキさん。その間、アジトの盗賊はどうするの。感づいて逃げたりしないかしら」
「アジトの中の証拠を隠滅されるのが一番まずいんだが……こいつを送り込むか」
俺は連れて来た盗賊を睨みつける。
「俺ですかい? 行って何をしろと?」
「アジトの中の連中に戦闘が長引いて、帰るのは4日後になると嘘の報告をしに行け」
「こいつが裏切ったらどうするのよ」
「その時はこいつごと、中の盗賊を全て殲滅するまでだ」
「ま、待ってくれ。俺は裏切らない! ダンナ方の実力はよく知っている。あの攻撃だけは止めてくれ」
余程俺達との戦闘が恐ろしかったのだろう、恐怖で顔を引きつらせている。そりゃカリンのド派手な魔法を見たんだ、ビビリもするか。
盗賊を送り出して嘘の報告をさせた後、俺達の元に盗賊が戻ってきた。
「ダンナ方が言ったように、ちゃんとデマを吹き込んできやしたぜ。だから俺だけは助けてくれよな」
情けないやつだが、ちゃんと役には立ってくれたようだ。
俺達はアジトの監視役としてひとりを残して、王都側とスハイル側の街道へ分かれて、討伐隊が来るのを待つことにする。
数日後、スハイル側で待っていた俺達の元に、冒険者の討伐隊が来てくれた。
「やっぱりユヅキ達か、ドワーフが持ってきたデンデン貝で状況を聞いて大急ぎで来てやったぜ」
スハイルの町で知り合いになった冒険者仲間が来てくれたようだ。
「ありがとう、こんなに早く来るとは思っていなかったぞ」
「そりゃ盗賊団のアジトのお宝がもらえるんだ、早く行って独り占めせんとな」
「おい、おい。お前達の取り分は3分の1のはずだぞ」
「そーだったか」
おどけた調子で冒険者達が笑う。
俺達は冒険者8人を盗賊団のアジトに案内する。アジトを襲撃するなら夜の方がいいからと、到着次第襲撃するつもりらしい。
アジト付近に残した監視役に聞くと、盗賊団に動きはないようだ。
「中の宝や書類は証拠になる。極力、燃やしたり傷つけたりしないように頼むぞ」
「分かってるよ。お宝の価値が下がっちまうしな。ユヅキ達はここで待機していてくれ。もしもの時は応援を頼む」
「分かった。気をつけて行けよ」
討伐隊は見張りの盗賊を素早く倒して、アジトの中に入って行った。
中から戦闘の音がしていたが、しばらくすると静かになり討伐隊のひとりが戻ってきた。どうやら成功したようだな。
洞窟から5人の盗賊の死体を運び出す。奥には住居やら倉庫やらがあり、相当に広い空間のようだ。中の捜索は日が昇ってからということになった。
「ユヅキさん、これで何とかなりそうね」
「そうだな。領主達の不正の証拠が出ればいいんだがな」
夜が明けて洞窟内を調べていると、昼前には王都側の討伐隊もやって来て一緒にアジトの捜索をする。
王都の役人がひとり見聞役として付いて来ていて、運び出した宝などを記録するようだ。
領主や王都の貴族との連絡に使っていた書類やデンデン貝も見つかった。これで盗賊団を使って、不正に町を支配していた事も明るみに出るはずだ。
捜索には数日かかるそうだ。後は討伐隊に任せて、俺達はザハラ達4人と共にドワーフの町に馬車で戻ることにした。
「ユヅキ、お前達のお陰で盗賊団を壊滅することができた。本当にありがとう、感謝するよ」
「みんなが頑張ったからだよ。俺達も町の外に出れなくて困っていたから、お互い様だ」
「しばらくハダルの町に滞在してくれ。お礼がしたい」
「俺達も疲れたし、少しはハダルで休むとするよ」
「そうね、見てみたいお店もあったし」
「まだお土産も買ってないんだからね。それまでは町にいましょうよ」
盗賊団討伐の俺達の役目は終わった。町で3人のんびりしよう。




