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第100話 盗賊団との戦闘

 盗賊団に戦いを挑む前日、協力してもらうゴーエンさんと、細かな打ち合わせをする。


「町から出るまでは、ゴーエンさんに御者をしてもらいたい。王都への分かれ道で戦闘が起きるが、その前に御者を交代して、町に帰ってもらうようにするから身の危険は少ない」

「それで盗賊団が壊滅できるのなら、協力させてもらうよ」


 故郷の町のためならと、少々危険な事でも協力すると言ってくれた。


「前に借りていた荷馬車は、戦闘用に改造して裏庭に停めている。これに俺とカリンともうひとり、メイケル商会の人が乗る。ゴーエンさんは、何食わぬ顔で門を通り抜けてくれ」


 アイシャは、別行動の本隊に参加してもらう。疑われないように荷馬車は、町に入った時と同じ人数で町を出る手筈だ。


「出発は明日の朝。日が昇ったらすぐに出るので、よろしく頼む」

「ああ、分かったよ」


 明日俺達が町を出ることは、宿屋の主人に既に言ってある。町の外を監視している者からの報告では、徐々に盗賊団が分かれ道付近に集まってきているらしい。


 この町の城壁は、上に歩哨が歩く道のない狭いものだ。その壁の補修をした際に、壁の内部に人が入って外を監視できるスペースと、抜け穴を密かに作っているそうだ。

 宿屋に戻って夕食を済ませた後、俺達は入り口から一番遠い部屋に集まり、小声で最後の確認をする。


「アイシャは夜明け前に本隊と壁の抜け穴から外に出て、分かれ道の手前で待機だ。カリンは俺と一緒に荷馬車に乗って、敵の主力と戦う。危険な囮役だが頼むぞ」

「ユヅキさん、絶対怪我をしないでね。カリンもよ」

「分かってるわよ。アイシャこそうまくやってね」

「お前達は俺が必ず守る。盗賊団をやっつけてまた再会しよう」


 俺達はお互いの肩を抱いて、顔を見合わせ再会を誓う。



 いよいよ、盗賊団と戦う日の朝。ゴーエンさんの親戚の家でメイケル商会の人と落ち合う。


「今朝の監視からの報告では、分かれ道の王都側に約15人、スハイル側に約50人の盗賊を確認しています。盗賊団の(かしら)の姿もあったそうです」


 ほぼ全員が集結しているようだな。

 町に入る前に俺達が盗賊団の8人を倒しているから、その仕返しも兼ねているのだろう。

 アジトに数人残しているはずだが、予想より少し多いな。人員の補充をしているのかも知れんな。


「我々の本隊は、予定通り町の外に出て集結しています。準備は整いました」

「ゴーエンさん、出発しよう」

「分かった。この町を出るときは荷の検査をあまり行なわないが、もしもの時は馬を走らせて城門を抜けるぞ」


 馬車をゆっくり走らせて城門へ向かう。獣人の門番はふたりいて馬車の中を確認するが、この門番は領主や盗賊団とグルで、俺達が町を出ることは既に分かっているはずだ。

 人数を見ただけで荷物など確認せず門を通してくれた。外で殺られてこいと言う事だろうな。少し坂道をくだった辺り、門からは見えない所でゴーエンさんひとりだけ降りてもらう。


「もう少ししたらメイケル商会の人が来ます。後はその人の指示で町に帰ってください」

「ああ、分かった。あんた達も気を付けてな」


 御者をメイケル商会の人に代わってもらい、俺とカリンは戦闘準備を整えて坂道を下りていく。いよいよ分かれ道が見えてきた。林の中に盗賊らしき人影と騎馬がチラチラ見え隠れする。


「カリン、最初の戦闘は魔道弓だけで対応するぞ。訓練通り上手くやれよ」

「分かってるわよ。あれぐらいの敵、私の大魔法で一発だと思うんだけどね。ちゃんと作戦通りやるわよ」


 自信があることは良いことだ。緊張もしてないようだし大丈夫なようだな。


「敵が見えてきた。作戦開始だ」


 前方の盗賊団が林から出て姿を現した。騎馬が10騎ほど見えるが、まずその馬を混乱させる。魔道弓の矢なら敵の射程外から撃ち込むことができる。

 まずは俺とカリンで馬に向かって笛の付いた矢を何本も放つ。馬は臆病な動物で、音に敏感だ。


 矢が当たらなくとも、耳の近くで聞きなれない笛の音を聞いた馬は、立ち上がったり、逃げたりと混乱してジタバタしている。

 普通の矢じりの矢に切り替え、俺達は、盗賊達の横を全速力で走り抜けながら矢を放っていく。


 弓は荷馬車の側面に固定して狙いは付けずに、とにかく連射して少しでも敵の数を減らしていく。カリンも魔道弓に矢を装填して何度も放つ。

 盗賊団から反撃の矢が放たれた。火矢と火魔法も混ざっていて、荷馬車の幌に火がついてしまう。

 燃えた荷馬車を見て、盗賊団が歓声を上げながらこちらに向かって走ってくる。

 しかし、そこにあったのは、鉄の盾で覆われた装甲車に改造した馬車だった。


 俺達は馬車の中にいて、盾に開けた小さな穴から矢を放ち、向かってきた盗賊団を倒していく。

 御者も盾の中に移動して馬を操る。馬の横側は木の盾だが、普通の矢程度では怪我もしない。ドワーフの職人達の手による特別製の戦闘馬車だ。


 その馬車を操り、盗賊の側面を攻撃しながら町から離れるように道を進む。

 後ろから馬に乗った盗賊が追いついて来たその時、町の方角から怒号のような歓声が響き渡る。


 ◇


 ◇


 ここは王都とスハイルへ向かう分かれ道。少し王都側に寄った山の岩陰。私達は日が昇る前に、城壁の抜け穴から外に出てここに待機している。


 少し前にユヅキさんの荷馬車が、スハイル側へ走って行くのが見えた。作戦開始だわ。

 スハイル側の道は林で隠れて見えないけど大きな音が響いてくる。少し心配だけど、ユヅキさんの立てた作戦通り私がやるべき事をする。

 王都側にいた盗賊団が、スハイル側に行こうと道を回り込んで、こちらに走ってくるのが見えた。騎馬5騎と盗賊10人を乗せた馬車。


 この盗賊の一群を、味方の30人余りが坂の上から見下ろす形で迎え撃つ。私達の役目はあの盗賊達を、ユヅキさんの元に行かせない事。まずは先頭の馬を狙う。

 私が放った矢で先頭の馬が倒れ、後続の騎馬が一騎転倒する。

 それを皮切りに魔道弓と、この町で作った新型の弓で総攻撃する。

 全員が弓を連射し矢を雨のように降らせると、盗賊団の足が完全に止まり、こちらに対して反撃してくる。でもこの高い位置には、敵の放った矢や魔法は届いていない。


 私は狙いを定め、盗賊を一人ひとり確実に倒していく。

 王都側の盗賊達を全て倒して坂を駆け降り、スハイル側の盗賊団の後方から攻撃を仕掛ける。


「ウォー」


 ◇


 ◇


 俺達の本隊の攻撃が始まったか。

 盗賊の悲鳴と本隊の怒号で、後方の様子が気になり足を止めた騎馬隊に、俺達が反転し前後から挟み撃ちにする。

 右往左往する騎馬と盗賊団に対して、カリンが魔法攻撃を仕掛ける。

 杖を持たず、頭上に掲げた両手を振り下ろす。


「メ・テ・オ・ラ!!」


 火魔法と岩魔法を組み合わせた隕石のような岩が、あたり一面に降り注ぐ。カリンの全力の魔法攻撃だ。

 盗賊が集まっている一帯が火に焼かれ、岩に押しつぶされて盗賊達が次々に倒れていく。


 広範囲の大魔法、俺もこんな映画のような光景を目にするとは思っていなかった。白煙を上げ幾筋も降り注ぐ隕石によって、大地は焼け焦げクレーターのような穴がいくつも開いていく。

 こんな大魔法をいとも簡単に放つカリンは、盗賊からすると化け物に見えるだろう。


 盗賊団は総崩れとなり、残った盗賊達は統率を失いバラバラに走り回っている。その盗賊達を魔道弓とカリンの魔法で殲滅していく。


 その中に一騎、大きな騎馬がこちらに向かって走ってくるのが見えた。長身の体をフルプレートの鎧で固め、馬にも鎧が施してある。

 多分魔法防御が付与された鎧だな。カリンの放つ魔法にもダメージを受けていないようだ。

 こいつが盗賊団の(かしら)か。


 こちらに走り寄りロングソードで馬車を攻撃してきた。馬をやられないように旋回したが、お構いなく鉄の盾に剣を振り下ろす。何枚かの盾が吹き飛んでしまった。

 なんて馬鹿力だ。そいつはそのまま走り抜け、草原の向こうで反転してこちらに向き直る。


「カリン、俺が出る。奴が近づいたら岩魔法をぶつけろ。だが決して外には出るなよ」

「分かったわ、しっかりやんなさいよ」


 俺はショートソードを抜き、盗賊の頭と向かい合う。

 奴が馬を走らせて向かってきた。


「メテオストライク!」


 高速の火魔法と岩魔法の合わせ技だ。いくら魔法防御していようとも岩の物理的な衝撃を完全には防げない。炎に包まれよろけたところを馬を狙って剣を振りぬく。


 ――ブゥ~ン


 超音波振動を起動させ、馬を鎧ごと切り裂く。

 奴は落馬しながらも受け身をとり、立ち上がってロングソードを構えた。こいつ相当な鍛錬を積んでいるな。なんでこんな奴が盗賊団の頭をしているんだ。


 剣を構えて俺との間合いを測り、じりじりと詰め寄ってくる。奴はロングソードで俺はショートソードだ、リーチが違う。

 奴は有利と見て上段から力任せに剣を振り下ろしてきた。


 頭の上で奴の剣を受け止める。普通なら押しつぶされるか剣が折れるのだろうが、こっちの剣は特別製なんでな。

 ロングソードがスパッと2つに切断されると、奴は剣を振った勢いで前へ倒れかかり膝をついた。

 俺は後ろに回り込んで、その背中を鎧ごと切り裂く。


「グォー」


 (うめ)き声を上げながらも腰に刺したショートソードを抜いて横なぎに振り抜いてくる。素早い動きだが、俺も鍛錬は積んでいる。バックステップで躱し、奴の側面へ回り込む。 


 奴は剣を振り上げ、力任せに俺に襲い掛かろうとする。その剛腕とフルプレートの鎧で、今まで敵をねじ伏せてきたのだろうが、背中の傷と鎧の重さで動きが鈍いぞ。

 今度はショートソード同士だ。一気に間合いを詰め、振り降ろされる奴の両腕を鎧ごと切り落とす。


 断末魔のような悲鳴を上げ膝を突く奴の兜を、峰打ちで横なぎに思いっきり打ちのめす。ものすごい金属音が響き渡り盗賊団の(かしら)はゆっくりと倒れ込み気絶した。こいつには生きていてもらう。

 俺の火魔法で切断した両腕の肘部分を焼き止血する。これで死ぬことは無いがもう剣を握る事はできん。自業自得だ、今まで殺し傷つけてきた者達に悔いて懺悔していろ。


「ユヅキ!! 大丈夫!」


 疲れ果てた俺にカリンが駆け寄り支えてくれる。


「ああ、大丈夫だ……カリンも怪我はないか」


 アイシャも走ってこちらに向かってくる。

 周りにはもう盗賊団の姿はなかった。全て倒したようだな。


「ユヅキさん、カリン。怪我はない」

「ああ、アイシャ。よくやってくれたな」


 3人肩を抱き合い、お互い無事であった事を頬の温もりで確かめ合った。


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