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第98話 ドワーフの町の観光

「チセちゃん、おはよう。今日この町を案内してくれるんですってね」

「ええ、皆さんこっちですよ」


 笑顔で案内してくれるドワーフの少女チセは、反抗組織との連絡役として俺達に付いてくれることになった。

 こんな小さな子がメンバーだとは思われていないようで、ノーマークだそうだ。これで直接メンバーと会わずに連絡を取り合うことができる。


「この町は小さな町なので、どこで誰が見ているか分かりません。ユヅキさんが言っていた武器の運搬もあたし達で行ないます」


 笑顔で案内するふりをしながら、言っていることは過激なものだ。


「それなら、ゴーエンさんに言って、メイケル商会に商売品として渡すようにしよう」


 メイケル商会とは反抗組織の表向きの顔だ。組織に俺達が持ってきた予備の魔道弓を渡して戦力増強を図る。戦い慣れしていない者も参加できるように訓練してもらう。

 町を歩きながら打ち合わせをして昼を過ぎた頃、広場のベンチに座って飲み物を飲みながら休憩する。


「チセちゃん。昨日、なぜ展望台で倒れていたんだ?」

「あれは領主の動向を監視していたんです。あんな所に人が来るなんて思っていませんでした。それとユヅキさんに『ちゃん』付けされるのは、なんだか嫌です」

「そうでしょうね。こんなおじさんに『ちゃん』付けで呼ばれると、犯罪の臭いがするわよね」

「カリンちゃん、こんないい男を前にそんなこと言うなんて、恥ずかしがりやさんかな。カ・リ・ン・ちゃん」

「あんたのそういうとこが嫌なのよ。黒焦げにしてあげましょうか」


 すぐに挑発に乗る単純な奴め。だが俺も負けてられんぞ! やるってんならやってやろうじゃね~か。拳を握り、カリンと睨み合う。


「あっ、いえ、そういうことではなくてですね。あたしの名付け親が人族ですし、チセと呼んでもらえればいいです」


 もじもじしながら、上目遣いで言ってくる。人族に親しみがあり、家族のように接してほしいようだな。その程度の頼み、応じてあげないと。


「じゃあ、チセ。俺がこの町に来たのは、特殊なガラス細工を作ってもらうためなんだ。珍しいガラスを作ってるとこ知らないか?」

「あたしのお義父さん、ガラス職人ですよ。聞いたら分かるかもしれません」

「これくらいの大きさの、透明で丸くて薄いものなんだが」

「それなら、これですか? お義父さんにもらった誕生日プレゼントなんですけど」


 胸元から透明なガラス細工のペンダントを出して見せてくれた。これはあのイヤリングと同じガラス細工だ!


「うぉー、これだ!! これをチセのお義父さんが作ったのか。どうやって作った。材料はなんだ。もっとでかいのはあるのか~」

「ユ、ユヅキさん。落ち着いて」

「ユヅキ、そんないっぺんに聞いても分かる訳ないじゃん」


 探していたレンズが目の前に出てきて、少し興奮してしまったみたいだ。


「す、すまない。チセ、これはお義父さんが作ったものなのか?」

「多分そうだと思います。……ユヅキさん、急に大きな声出してびっくりしました」

「そうなのよ、ユヅキは時々こうなっちゃうの。面白いでしょ」


 人を壊れたロボットみたいに言いやがって、まあいい。待望のレンズが見つかったんだからな。


「チセ、お義父さんにどうやって作ってるのか、他にも無いか聞いてくれるか」

「はい、分かりました」

「それと、これで太陽を見ちゃいけないことは知っているか?」

「ええ、お義父さんに聞いていますよ」


 なるほど、レンズの特性も知っているのか。それなら期待が持てそうだな。

 その後、チセとは別れてゴーエンさんの家に行って、メイケル商会に荷物を渡してもらうように依頼する。


「俺達は宿屋に泊まっているから、何かあったら連絡してくれ」

「あんた達には世話になったのに、こんなことになってすまんな」

「気にするな。この町で目的の物も見つかったし、来て良かったと思ってるよ。後は俺達で何とかするから」


 すまなそうにしているゴーエンさんに手を振って、俺達は宿屋に戻る。

 部屋に入ると置いていた鞄の位置が少しずれている。俺達が外に出ている間に、荷物を確認したな。

 これは想定済みで見られて困るものは置いていない。入り口から一番遠い部屋で3人一緒に食事をする。


「盗聴器って知っているか?」

「トウチョウ……、なんていったの? ユヅキは時々分からないこと言うわね」


 遠くから人の話を聞くものだと説明したが、カリンは知らないようだ。そんな魔道具が存在するかは知らんが、杞憂であればいいのだが。


「知らないならいいんだ。小さな声なら外に聞こえることもあるまい」


 俺達は小声で話をする。


「明日もチセちゃんに、町の案内してもらうんだよね」

「そうだな、でも小さな町だから、観光のふりは明日までだな」

「後は道具や武器の整備をするってことで、工房を回ればいいんじゃないかしら」

「まあ、自然な形で街中にいれるようにしていこう」



 翌日、チセと合流して町を観光する振りをする。


「ユヅキさんが昨日言っていたガラス細工、お義父さんからもらってきました」


 大きなレンズと小さなレンズが1枚ずつ布に丁寧に包まれている。


「うぉー、これだよ、これ!!」

「ユヅキさん、また声大きくなってるわよ」

「いや~。すまん、すまん」

「そのガラスは、昔お義父さんが人族の方から依頼されて作った物だそうです。作り方も人族から教わったって言っていました。今は腕が鈍らないように、練習で小さい方を時々作っているそうです」


 人族の技術か……どんな人物か知らんが、俺と同じような事を考えていたのかも知れんな。この世界には無い技術で、それを作ってもらうためにこのドワーフの町を訪れたのだろうか。


「大きな方はこれ1枚だけなのか?」

「ええ、昔作った試作品を残していたようです。今から作るとかなり時間がかかるそうですよ」


 そうだろうな、レンズ磨きは相当な技術が必要だし時間もかかる。


「これを何に使うのか、聞いていないか?」

「それは分からないそうです。人族の魔道具の一部じゃないかって言ってました」


 ちゃんとした望遠鏡を作るには、ピント調節や正確に光軸を合わせる鏡筒が要るからな。


「そのガラスはユヅキさんに報酬の一部として渡してくれって、お義父さんが言ってましたよ」

「えっ、もらっていいの?」

「ええ。前に聞いた戦い方の話で、希望が見えたって喜んでましたから」

「それなら遠慮なくもらっておくよ。ありがとう」


 レンズを布に包んで、傷つかないようにポケットに入れる。


「チセ。明日昼頃、高台の坑道で武器の説明などしたいんだ。集まれる者だけ集まってくれないかな」

「はい。みんなに連絡しておきますね」


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