7話 どういうことなの!?
「久しぶりに最高な気分になれたな。」
ご飯を食べ終わった俺は、華怜を先に風呂に行かせて、その間に皿洗いを終わらせて、華怜が風呂から上がったと同時に入れ替わって入り、今は風呂から上がって二階に向かっているところだ。
いやホントに最高な気分だ。
懐かしい家族でのご飯。
久しぶりの温かい風呂。
なんもかも当たり前な事だけど、それがどれだけ大切な事なのかが改まって再確認できた。
何より、マジでご飯が美味かった。
何も変わらない味なのに、断然違った感じがした。
例えるなら、断食を一か月間してから、久しぶりに食べるご飯がおいしかったのと同じくらいみたいなものだ。
「日本人、やっぱり日本食が一番だな。」
「あら零くん、帰ってたの。おかえりなさい。」
階段を上り終えて、二階に着いたと同時に横のドアが開かれて、出てきたのはまたも懐かしい家族の顔だった。
「ただいま、母さん。また根詰めてやってるの?」
「うん。あと少しで締め切りだから、急がないといけないからね。」
そう言いながら目を擦ってあくびをしているのは、俺の母親である白崎彩音だ。
母さんはこう見えて有名な小説家で、デビュー作品の『剣の英雄伝』という小説が発売されてからすぐに大人気になって、テレビでも紹介されるくらい大人気小説になってた。
時々取材やサイン会などもやったりしているほどで、いままで7作品出版しているのだけれど、発売されて以降今でも売れている小説になってる。
「あんまり無茶しないでよ。母さんが倒れたら、俺たちも心配になっちゃうんだから。」
「うん、気を付けてるよ。それよりもごめんね……家事を全部二人にさせてばっかりで。母親として失格だわ。」
「そんな事はないよ。母さんが小説家として忙しいのは知ってるし、俺も華怜も自分から決めた事だし、母さんは自分の事を優先して。」
実際、家族の中で一番大変なのは母さんだ。
父さんがいなくなってからは、小説家の仕事を一時的に休んででも俺たちの事を見てきていたし、自分の体の事よりも、俺たちの方をずっと優先してきていた。
現に今でも、目の下に隈が微かにできてた。
俺からしたら、もう少し自分の体を心配してほしい。
息子として、母さんが無茶をしないでほしいと願いたいものだ。
「ありがとう。それだけでももう少し頑張れそうだよ……」
母さんは俺の優しくハグをすると、頭を撫でてきた。
俺がこんな事を言っても、たぶん母さんは今書いてる小説まではあまり休まないだろう。
だから俺ができるのは、わずかな励ましだけ。
今の俺には、それだけしかできない。
正直歯痒い気分だけど、できない以上は仕方ない。
――――――――悔しいけど。
「下に軽く食べられるように夜食を作ってるから、それを食べてね。」
「分かったわ。ありがとう。」
母さんは俺にそういうと、階段を下りて行った。
人気小説家でも、母さんだって人だ。
体が特別でない以上、いつ倒れもおかしくないんだ。
「一日でもいいから、本気で体を休められるようにさせたいな。」
―――――夢の世界を使えば、どうにかできるかな……?
いや、今はできないな。
俺が勇者であるのは、まだ早すぎる。
もう少し間を開けて、話せるようになったら告白しよう。
「さて、あの女神様からもらったメールでも確認するか。」
俺は自分の部屋のドアを開けた。
部屋の中は学習机にその上に置いてあった俺のパソコン。
ベッドや壁にかけてあるギター。
何もかも昔のまんまだった。
「さて、あの女神さまのメールでも確認しますか。」
俺はベッドに寝っ転がって、携帯に来ていたメールを開いた。
中身の内容は、全部で三つ。
一つは、『夢のカギ』でのドアの消去法と夢の世界の時間経過。
これに至っては、「リリース」て言うか、念じれば消す事ができるって書いてあった。
そして時間経過については、12分の1日みたいで、地球で1日過ぎれば、夢の世界では12日になるって事だ。
いや時差ボケになっちまうわ!
ドアの消去法はまだいい、普通だから。
ただし時間! お前はダメだ!
明らかに以上だ!
そんなにいらんわ!
日本からアメリカの時差でも13時間なのに、まさかの12日!
その世界で一日過ごしても2時間しか経過していないのはおかしい!
せめて三日か四日にしろよ!
「でもまだ分かんねぇから、これはいったん保留だな。」
次に二つ目。
内容は、俺に渡した力は、信頼できる人以外にはだれにもしゃべらない事。
まぁ、当然だよな。
なりふり構わず言えば、どうなるかわかったもんじゃないしな。
これに至っては納得できるな。
最後に三つ目。
内容は、俺以外に勇者が二人、地球で暮らしているだった。
「俺以外の勇者が二人……ねぇ。」
まぁ、驚いては驚いているが、最初のよりかはマシだった。
だってこれに至っては、知ってたからだ。
「歴代勇者の伝記、あれって本当だったんだな。」
俺が言ったのは、異世界の本屋や図書館に置いてある伝記の事だ。
これは歴代勇者が、どのような冒険をしていたかが書いてあって、俺も空いた時間があれば読んでた。
歴代勇者は俺を含めて六人。
俺は最後だから、6代目勇者という肩書きになる。
「多分今頃は俺の伝記を書こうと、かつての仲間などに取材をしてるんだろうなぁ。」
まぁ別に、変な事が書かれてなく、真実をそのまま書いてるなら、俺は別にいいんだけどな。
もしそれを見る事になって、中身に嘘が書かれてたら訴えてやる。
「一人が20年前。もう一人は50年前か。」
俺が読んだ伝記が正しかったら、先代と4代目勇者になるな。
先代の勇者、つまり5代目勇者は、当時の魔王を討伐したのち、俺と同じように地球に帰還して普通の生活を送っているみたいだ。
そして4代目勇者は先代とは違って、そのまま異世界に残り、余生を暮らしたのちに転生して地球に戻ってきたと書かれている。
「転生してるって事は、名前や見た目も全然違うかもな。」
転生は同じ肉体を持つ事が出来ない。
だからその場合は、次の新しい肉体で第二の人生を送らないといけない。
外見に至っては、運も不運も関係ない。
その肉体を持った以上、その体で生きていかないといかない。
「伝記で覚えた内容は、あまり役には立たないかもな。」
あるとするなら、聖剣や魔法などが唯一の手掛かりだな。
それ以外はほぼ意味がない。
それに地球の何処で住んでるかも分からない以上、会えるかどうかも分かんないしな。
ま、先代の方は会える可能性はあるかもな。
何せ容姿はそのままだし、見つけるのは苦じゃないな。
「てか思ったけど、異世界に残るのはありなのか。」
もしかすると、俺もそっちに残ってた可能性もあったのかもな。
まぁ、俺は家族がいたから、帰る理由はあったもんな。
「さて、もう遅いし、眠気も少しずつ来たから寝るか。」
部屋の電気を消して、俺はベッドの上で眠りについた。
…………………
………………
……………
…………
「そういえば、ドアの消去法の確認してなかったな。」
あぁぁ……起き上がりたくねぇ……
でも確認はしておきたいしなぁ……
でも電気つけるのは面倒だし……仕方ねぇ、魔法で明かりでもつけるか。
「“ライト”」
寝た状態で手を上に挙げて唱えると、上に部屋全体を明るくさせる温かい光の玉が出現した。
よし、これなら見えるな。
少し眠いけど、体は起こすか。
「よいしょっと。えー…と、夢の……ん?」
少し意識が回復してきた辺りで、さっきの自分の行動を確認した。
確かベッドに寝た瞬間、眠気が一気に来た。
そしてドアの消去法の確認を忘れてる事に気付いた。
でも起き上がるのが面倒だから、魔法で部屋を明るくさせた。
……あれ? 何で部屋が明るいんだ?
違和感を覚えた俺は上を見上げた。
そこにはフヨフヨと浮きながら、部屋全体を明るくさせてる黄色い球体があった。
「―――――――俺、まだ異世界にいるのか?」
右見て、左見て、正面みる。
うん、まごう事なき俺の部屋。
つまりここは地球。
アイ・コピー。
「………いや、なんで使えるんだよ!!?」
どうやら俺は、地球で魔法が使える事になっていた。
そしてついでにさっきまでった眠気は完全に消失しました。




