6話 ただいま、愛しの我が家
再び光に包まれた俺は少しずつ目を開けていくと教室に一人でいた。
どうやら今度こそ、地球に帰ってきたみたいだな。
教室の窓から見える夕日が久しぶりなせいなのか、やたらキレイに見えてしまっている。
「そういえば何で一人で教室にいたんだっけ?」
教室にあった時計を見てみると、放課後の時間になってた。
あぁ、そういえば教室に用事があって、終わって帰ろうとした瞬間に召喚されたんだっけな。
「あら、まだ残ってたのね。」
教室の戸が開けられて振り向くと、入ってきたのは担任の櫻井先生だった。
教室に来たって事は、多分見回りをしてたんだろうな。
「先生…」
「どうしたの? 急に悲しそうな顔になって?」
「あ、いえ…久しぶりにきれいな夕日を見たので、ちょっと見惚れてたのです。」
どうやら顔に少しだけ出してしまったみたいだな。
三年ぶりの教室だし、懐かしさが込み上げてきたんだな。
「あら本当、きれいな夕日だね。」
そういって先生は俺の横にやってきて、沈んで行ってる夕日を眺めた。
先生を見ていて思ったけど、体は少しだけ成長が戻ったりしたのかな?
三年間向こうで生きてたけど、体は前のまんまに見えるな。
となったら、俺は三年分若返ったのか。
(それにしても、先生って結構美人だよな。)
櫻井先生は去年から新任の教師として入ってきて、女性でありながらとてもキレイな人で、教え方がとても上手で、女子や男子から絶大な人気がある。
そのせいなのか、隠れながらファンクラブも設立されているという噂もあったりする。
でも怒るとめっちゃ怖いんだよなぁ。
前に教室が騒がしかった時、無言で圧を出して黙らせるやり方をしていたから、陰では怒らせてはいけない先生一位になってる。
「それにしても白崎君。夕日がきれいだから眺めるのはいいけど、もう下校時間はとっくに過ぎているのだから早く帰らないといけないでしょう。ここもそろそろ鍵を閉めないといけないから、早く帰りなさい。」
「すみません、先生。すぐに帰ります、さようなら。」
「はい、さようなら。」
先生に挨拶をしてから、俺は教室を出た。
昇降口にたどり着くと、携帯が振動を起こしたので見ていたら、2件メールが届いていた。
1件目は妹からのメールで、「ご飯を作るの手伝ってほしいから、早く帰ってきて。」とのメールがとどいていた。
「なんかこの感覚、久しぶりだな。」
何気ないメールだけど、俺にとってはかなり嬉しかった。
やっと元の生活に戻れたんだなって思ってしまう。
もう……血を流す戦いは終わったんだな。
「そういえば、もう一件あったな。」
妹にメールを送信してもう一つのメールとみると、もう一つはティファニスさんからだった。
どうやらさっきの話で伝え損ねたことがあったみたいで、時間が空いた時に見てくれって内容だった。
「とりあえずこれは後ででいいな。よし、走るか。」
かわいい妹の頼みだ。
早く帰って手伝ってやるか。
「それにしても、随分と体が軽く感じるな。」
走っていて思ったのが、体が軽く感じた事だ。
もうスキルや魔法は使えないはずなのに、何故かそう思った。
もしかしたら、感覚が覚えてしまってるからそう感じるんだろう。
それに別に痛いや辛いって思わないし、このままでもいいかもな。
「……着いたな。」
休まずに走っていたからか、すぐに家にたどり着く事が出来た。
でもどうしよう……緊張してきた。
久しぶりの家だけど、異世界での召喚から時間経過は元に戻ってる。
つまり今の俺は、わずかな時間で三年を過ごしているような感じだ。
顔を合わせるのも三年ぶり。
久しぶりに顔を見るから、バレないようにしないとな。
―――――――――よし、行くか。
「…ただいま。」
ちょっと弱弱しい声で言ってしまったけど、気付かれてないよな?
イカンイカン、弱腰じゃダメだ。
演じるのに完璧なのは求めなくていい。
俺は役者じゃないんだ。
気長な感じでやろう。
「おかえりお兄ちゃん。ごめんね、急ぎで帰って来てもらって。」
リビングにつながってるドアが開いたと同時に、制服越しにエプロンを着ている俺の妹の華怜が、パタパタと音を鳴らしながらやってきた。
あぁ……懐かしいな。
この世界じゃあ一日も経ってないけど、俺の感覚は三年ぶりなんだ。
ようやく、家族に再開したんだ。
「…? どうしたのお兄ちゃん? 固まったまま私を見て?」
おっといけない、最初からやらかすところだった。
バレない程度に演技をしないとな。
「ごめんごめん、何でもない。それより少し待ってな、すぐに準備するから。」
「うん、分かった。」
華怜はそのままリビングに行ったし、俺も準備するか。
しっかし危なかったぁぁ……もうちょっとでバレるとこだった。
華怜には何とか誤魔化せたと思うけど、母さんだったら今のはバレるな。
母さんは勘がいいから、すぐに気付くだろうし、少し警戒しないとな。
さてとエプロンは…あぁ、あった。
昔から癖で置いてある場所が分かるのは助かったな。
これでマシな演技はできるからな。
「お待たせ。何すればいいんだ?」
「そこに置いてる野菜を全部炒めてくれる。今日は野菜炒めだから。」
「了解。肉は冷蔵庫にあるのか?」
「豚肉が中に入ってるから、それ使ってね。」
「はいよ。」
そんじゃあ頼まれた通りに冷蔵庫から肉を出して炒めていきますか。
あっちでフライパンはロクに持ってなかったけど、まぁ何とかなるだろう。
感覚は覚えてるし、どうにかなってくれ。
(やっぱり、誰かとこうして料理をするのはいいな。)
いや、誰かというのは違うか。
華怜と……家族と一緒にするのがいいのか。
こうやって何気ない事が、俺にとっては嬉しいし、心地がいい。
「他人」と「家族」は全く別だ。
他人でも楽しい時はあるけど、心から喜べるかどうかって言ったら違う。
家族だからこそ、心から嬉しいって思える。
改めてそう思ったよ。
「よし、こんなものだな。華怜、悪いけど皿を出してくれるか?」
「うん、こんなのでいい?」
「ああ、充分だ。そこに置いて。」
「わかった。」
華怜は野菜炒めを入れる皿を置くと、作ってた味噌汁とご飯をついでテーブルに置いてた。
俺の方もできたし、さっさと皿に移してから食べるか。
できた野菜炒めを皿に盛り付けてテーブルに持って行って座った。
「「いただきます。」」
まず最初に持ったのは味噌汁。
理由は久しぶりに飲みたいからだ。
異世界でも味噌汁やご飯はあったけど、やっぱり家で作った味噌汁は飲みたいものだ。
これは俺だけじゃないだろう。
(あぁ……懐かしい味だ。)
一口すすっただけで体に染み渡っていく。
やっぱ異世界で飲む味噌汁と日本で飲む味噌汁は違う。
こっちのほうがより美味く感じれる。
不思議なもんだよな……なんでこうも違うんだろう?
「うん、今日もおいしいよお兄t……ってどうしたの!? なんで泣いてるの!?」
「え?……あれ、なんでだろうな……?」
いけね、マジ泣きしちまった。
俺が気付かなかったって事は、たぶん無意識に流したんだな。
ヤバいな……演技なんて全くできてないじゃねぇかよ。
これじゃあ大根役者だな。
「お兄ちゃん、今日大丈夫? さっきからずっと変だけど。」
「気にしなくていいよ。心配かけてごめんな。」
「無茶しないでよ。お母さんも忙しいし、後の事は私がしようか?」
「いや大丈夫。華怜一人でやらせるのも嫌だし、この後も一緒にやるよ。」
「…うん、わかった。」
さっきからずっと華怜に心配かけて申し訳ない気持ちになってきたな。
俺の家族は他とは違って、父親がいない。
父さんは五年前に病死して、母さんも仕事が忙しいからほとんど家事ができない。
だから俺と華怜は、母さんの負担を少なくさせるために、家事を自分から買って出た。
最初こそは慣れない事でヒーヒー言ってたけど、何時しかそれもなくなっていた。
忙しいから部活とかもできないけど、そのあたりについては特に問題はなかった。
元々中学の途中まではやってたけど、家庭事情を話したらすぐに辞められたし、高校になってからもそれは変わらず、当たり前な生活を送っている。
時々生徒会の先輩に頼まれて、生徒会の仕事とはあるけど、その時は華怜に連絡を入れてからやってるし、特に問題はなかった。
(この後はメールも確認しないといけないし、気を引き締めていかないとな。)
だけどまずはその前に、二人で作った晩御飯をしっかり味わわないとな。
目の前にある料理をしっかり味わってから、次に進むとしよう。
その後も何度か泣きかけたけど、華怜に気付かれないようにしていたから、何とかバレずにすんだ
ようやく現代に入っていきます。
遅れちゃってすみません