5話 女神からの報酬
「……ここは?」
光の先は、地球ではなく草原だった。
空は清々しいくらい青空。
春に吹くような暖かい風。
ただその場所は心地がいい。
今から横になれば直ぐに眠れそうなくらい気持ちよかった。
でもここは初めてじゃない。
何故なら俺は、ここに何度も訪れてる…………勝手に連れてこられて。
「レイさ―――――ん。」
一方向から声が聞こえて振り向いた。
そこには俺の話し相手を何度かしてくれた人がいた。
いや、人じゃないか。
あの女性は女神だったな。
「やっぱりあなたが呼んだんですか、女神様。」
「もう、そういった堅苦しい呼び方はしないでって言ってるじゃないですか。それに私には、ティファニスって名前があるんですよ。」
「女神相手に気楽に名前なんて呼べないですよ。」
「でも別に言ってくれたっていいじゃないですか~?」
このわがままを言いながら置いてあるテーブルに顔を付けてる人物は、俺に聖剣を渡してくれた女神のティファニスさんだ。
初めて会ったのは召喚されてから二日経った時で、その時に聖剣を貰って勇者として正式になってしまったのだ。
初めの俺?
そりゃあ断ったよ。
だって勇者なんてやりたくなかったもん。
ましてや死と隣り合わせの毎日なんて、こっちからごめんだったよ。
でも魔王を倒さない限り帰れなかったから、それを受け取りしかなかった。
そんな中この神様は、俺のメンタル面をカバーしてくれて、聖剣の他にも神器といった神の道具を渡したりして、守ってくれていた。
だから俺も、あまりこの女神の事は嫌いではない。
ちょっと面倒いけど。
「分かりました。ティファニスさん………で、いいですか?」
俺が名前で呼ぶと、テーブルに着けてた顔が一気に起き上がって、俺の方をキラキラした目で見始めた。
そんなに言われたかったのかよ。
まぁ調子が戻ったのなら、別にいいか。
「それで、ここに呼んだのには理由があるんですよね?」
「おっと、レイさんに名前で呼ばれたい一心で忘れかけてました。」
ティファニスさんは慌てて俺の方に来て、目の前に立つと頭を下げた。
「まずは三年間、こちらの都合とはいえ、勇者として魔王を倒してくれてありがとうございました。」
「まぁ……長い時間でしたけど、慣れてきたらは結構あの世界は気に入ってたので、もうそれに付いては気にしなくていいですよ。」
「そう言ってくれるだけでも、気が楽になってありがたいです。つきましては魔王を倒してくれたので、ボーナスプレゼントを渡そうと思いましてここに呼び寄せました。」
「ボーナス……プレゼント?」
ボーナスはあってもいいとは思う。
でも何を?
地球で目立つようなものは勘弁して欲しいんだけど……大丈夫だよな?
「今回私が用意したボーナスは――――――こちらになります!」
後ろに隠してた何かを俺の前に出したけど、これは何だ?
いや、分からない訳じゃない。
だけど意味が分からなかった。
なんせ俺に渡してきたボーナスというのが…………
「カギ………ですか?」
「はい、カギです。でもただのカギじゃないですよ。ちょっと手を出してくれますか?」
「え?あぁ……はい。」
とりあえず言われた通りに手を出した。
ティファニスさんは俺に近付いてカギを俺の手に置くと、カギはそのまま俺の手の中に入っていった。
「え!?これ、入っていったんですけど!?」
「大丈夫ですよ。これは入場券みたいなものですから、中に入っても害はありませんよ。」
「にゅ、入場券?」
カギが入場券?
何の入場券?
これの何がボーナスプレゼントなんですか?
もう訳分かんないよ。
これならいっそお金とかにしてくれませんか。
「さて、無事に渡す事が出来たので、『夢のカギ』と言ってください。」
夢のカギ?
何故に夢が付く?
まさかッ……夢の国っぽい所にでも行けるのか!?
いや……でもそれはそれでボーナスにはならんな。
それならチケットもらった方がありがたいし。
まぁそんな事は考えないで、言われた通りにやってみますか。
「夢のカギ」
そう言うと何かに反応したかのように、目の前に普通のドアが現れた。
ドア……か。
ホントに夢の国へ行くのってあながち間違ってないかもな。
しっかし、俺が貰えるボーナスって何だ?
てっきり小物を渡して終わりって思ってたけど、これは明らかに小物じゃない、大物だ。
それだけは分かる。
「さっ、ドアを開けてみてください。」
「え、えーと……し、失礼します。」
ちょっと警戒しつつ、ゆっくりとドアを開けた。
その先はさっきいた草原と同じようなものでもあったが、少し違っていた。
山もあれば川もあって、何より空が青く澄んでいた。
自然好きな俺にとっては心地よく、そして何処と無く異世界の自然に似ていた。
「あの……ここは?」
「ここは我々女神からレイさんに渡すプレゼント、夢の世界です。」
「夢の……世界?」
俺が思ってのとは全然違っていた。
本気で俺はそういった事を考えていたからそうだろうなって感じてたけど、いい意味で期待を裏切ってくれたからありがたかった。
だけど俺の中では一つ疑問が浮かび上がってきた。
前の勇者たちはこんなのを貰ってのかという疑問が。
「ティファニスさん、一つ聞いていですか?」
「はい、何でしょう。」
「俺の前にも勇者はいましたけど、その人たちにもこういったものをプレゼントしてたんですか?」
俺が聞いた瞬間、何故かティファニスさんは黙ってしまった。
ちょっと間があってから一度咳払いをすると、俺に近づいて小声で話し始めた。
「ここだけの話なのですけど、実は歴代の勇者の皆さんにはこのような大きなプレゼントはしていません。」
「大きくない……ちなみにどのようなものを?」
「ある勇者には普通の人よりも理解力や想像力がすごくなるような力だったり、またある勇者には全然恐怖心や緊張を持たせようとせず、集中力を一気に高めるような力だったりと、人には特に害などがない力を渡したりしています。」
自分や他人に害はないのか。
歴代の勇者、俺を除いて五人はいたはずだけど、そのうちの二人はさっき言った力を持っているのか。
それでも何で俺にはここまでする必要があるんだ?
今の話だったら、俺のはかなり大きすぎやしないか?
俺だけこんな一つの空間を渡すって事は、何かしらの事情でもあるのか?
「本当はレイさんにも、他の皆さんと同じように小さな力を渡すつもりだったのですけど、そうもいかなかったのです。」
「どうゆう事ですか?」
「実は今神界では、女神が仕事を放棄するような事態が多発しておりまして、それが死活問題になってるんです。」
「女神が職務放棄って……シャレにならないですね。」
「実際、レイさんには今以上の力をお渡ししたかったのですが、全部を後回しにし過ぎてしまっていて、結局誰もそれを忘れる始末になってしまっていたのです。」
「えぇ……?」
女神が職務放棄って駄目じゃね?
本来の仕事サボって何してんねん?
仕事の怠慢は、経営を傾ける悪手なんだぞ。
「ですのでそれを補うために、レイさんには特別に神器をいくつかお渡ししてどうにかさせたんです。」
「あぁ、それであれを俺に渡してたんですね。」
神器というのは、神界にある神の武器そのもので、俺はそれを急に渡されてから終わりだった。
今まで謎になってたのが分かった瞬間、俺は納得とわずかな怒りのせいで複雑な気分になってた。
だってそうでしょう? 女神がちゃんと仕事をしていたら、そんな事にならなかったんだぞ?
ただただティファニスさんが尻拭いして終わりとかどうなん?
大丈夫なのか、他の女神さんは?
「てか、ティファニスさんはいいんですか? 俺がこんなでかい力を持って地球に帰っても?」
「本来ならばレイさんも過去の勇者みたいに、潜在能力をあげる力を渡すつもりでした。けどあなたは幼いころから悪いことをまったくしてこないで、正しい生き方をしていたのでこのような力を渡しても悪用しないとわかっていて渡したのですよ。現に魔王を倒すまでの冒険でも、一切悪い行いをしてこなかったじゃないですか。」
「悪い行いって訳じゃないですけど、何度かグレーゾーンはあったと思いますよ?」
グレーゾーンていうのは……まぁ……その、あれだ。
日本の法律じゃアウトの行いの意味だ。
決してエロい方じゃない。
どっちかって言うと、バイオレンスな意味だ。
「大丈夫ですよ。それでもレイさんは、悪い事をしないって誓ってますから。」
「あ、はい。」
その厚い信頼は何処からやってくるんだ?
そこまで信頼されてしまうとちょっと困るんですけど。
まぁ、信頼されてる事に害はないから別にいいか。
悪い事をしないのも、父さんとの約束だしな。
「さて、長くなってしまいましたが、この世界はあなたのものになりましたので、くれぐれも扱いには気を付けてください。あっ、ちなみにあなた以外の人も連れてきても問題ないので、何かあった場合はあなたの携帯の中に私と連絡できるようにしましたので、そちらからお願いします。」
「分かりました。……ん、携帯?」
今携帯で連絡ができるようにしたって言った?
何勝手に改造を施してんねん!?
俺の携帯はまだ買ったばっかだったんだぞ!?
買ってから三年以上は経ったけど!
つーか、そんな機能を入れるって事は、また会う可能性があるって事だよな。
今日が最後じゃないのか。
「それではレイさん、あちらのほうでも私の事をよろしくお願いしますよ♪ あっ、それと戻られてから近いうちに「彼女」が一緒に暮らすと思われますので、そちらのほうでは彼女から聞いてくださいね。」
「え? それってどうゆう……?」
「ではさよなら~」
「ちょっと!?」
大事なことを聞こうとしていたのに、急に投げやりみたいにならないでくださいよ!
っていうか彼女って何!?
近いうちに知らない女子が同居してくることになるの!?
それこそトラブル案件じゃないですか!
そっちで解決できないんですか!?
あんたら女神だろうが!
でもそんな俺の心の叫びも虚しく、俺の体は再び光出し始めて、そのままた俺は光に包まれた。
前回に現代に入ると言ってしまいましたが、途中女神と対話を忘れてしまったので嘘報告となってしまいました。
次回から正真正銘、現代に入っていきます