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4話 地球に帰ります

二年ぶりの王宮の中。

久し振りに歩く廊下だけど、やっぱ慣れない。

王宮は広い。

故に迷いやすい。

俺も最初はそうだった。

トイレだけで1時間は探したのは懐かしい思い出でもある。

あの時はマジで焦った。

何せ目的地が分かんないから。

地図もなければ、部屋に表札もない。

覚えるのにも苦労したものだ。


「勇者御一行、ただいまご帰還なされました!」


おっと、いつの間にか王様のいる場所まで着いていたのか。

いかんいかん、気をしっかり持たんとな。


師匠の声を合図に、ドアが開かれた。

その先では俺たちを出迎えるかのように兵士たちが左右に立っていて、奥では王様と王妃が待ってくれていた。


「レイ! それに娘よ! よくぞ無事に帰って来てくれた!」


王様、まだ距離があるのに叫んで喜んでるし。

まぁ娘が無事に帰ってきたのは分かるけど、もうちょっと近づいてから言ってくれないかな。

まだ20mはあるのに。


「レイ、あとは任せるぞ。」


師匠は俺だけに聞こえるように言うと、王様の横に向かって付き添うかのように横に立った。

分かってるよ、師匠。

俺は俺の言いたい事だけを言わせてもらうから。

じゃないと、勢いで向こうの波に呑まれるからな。


白崎零(レイ・シラサキ)、および勇者一行、ただいま帰還いたしました。」


「顔を上げてくれ。今更そのように畏まらなくてもよい。」


俺が膝をついて話すと、王様はすぐに話しやすい体勢にしてくれと言ってきた。

今俺が話してる目の前にいる王様は、この王都スカイティアを長年平和にさせている人物である、エーリッヒ・バビレンス・ユースタシアだ。

王様の血族であるユースタシア家は、古くからこの王都を守っている王家だ。

治安、格差、奴隷制度など、この王都での平民と貴族のバランスを保っていられているのはここだけだ。


「レイよ、魔王はどうなったのだ」


「魔王は俺との一騎打ちにて敗北し、消滅いたしました。これにより、魔族や他の種族からの襲撃などは収束していくでしょう。」


「そうか……ありがとうレイ。この国の王として、礼を言わせてくれ。」


王様座っていた玉座から立つと、俺の前にきて頭を下げてきた。

誠実な人だからこそ、人に礼が言えるのはいい事だ。

でも王様、さっき俺に言った事覚えてますか?

間違いじゃなければ、俺は礼儀で膝をついたのに、アンタは止めさしたんだぞ。

でもそれは、この場では言えないな。


「頭を上げてください。俺がやったのは、勇者としての責務を全うしただけです。当然の事をやって、この世界に平和を訪れさせただけです。」


「……やはり、お前は前から変わってないな。」


「変わるのは、人によって違うんですよ。」


少し和やかな空気になって、これで俺も肩の力みが抜けたな。

やはりこの人には、堅苦しくない話の方がやりやすい。

最初の一年は一緒にいたんだ。

こういったのは、なしの方がいい。


「時にレイよ。お前はここに残るという選択肢はないか?」


やっぱ来たか。

師匠はやっぱりって顔をしてる。

後ろにいるアイリスは、俺の答えに期待しているな。

師匠は俺の答えを分かっているけど、アイリスは知らない。

本来なら、ここに残るという選択肢をするべきだろう。

王様は多分、俺とアイリスを結婚させて子供を作ってほしいんだろう。

子供ができれば、ユースタシア家の血族は継続になるし、アイリスの戦略結婚は無効になるだろう。

そうすれば、両方に対するリスクも危険性もなくなるからだ。

でも俺は、この場所に来た時から決まってるんだからな。


「エーリッヒ王。申し訳ありませんが、俺はこの世界におり続ける事はできません。」


「理由を聞いてもいいか?」


「貴方は分かっていると思われますが、俺にはこの世界にいない本当の家族がいます。家族というのは、簡単には引き離してはいけない。自分の娘であるアイリス様がいる以上、それは理解できているはずです。」


「……そうだな。」


「俺はこの三年間、自分の家族とは会えていません。ましてや、何も理由がないままこの世界に連れてこられてしまった。異世界人にも家族というのは存在しているのです。それがある限り、俺は元の世界に変える理由はあるんですから。」


言ってるのは真実。

俺のだって王様のように家族が存在している。

王様だけじゃない、ここにいる兵士はみんな同じだ。

たとえ家族がいなくても、幼い自分ならそれを理解できているはずだ。

ロクでもない事情(・・・・・・・・)でもなければ……の話だけどな。


「―――――――そうだよな。こちらの勝手な都合とはいえ、お前の事情を無視して行動をとるのは間違いだな。失言だったな。」


「すみません、出過ぎた言い方をしてしまいました。」


「いや構わない。もし何も言わなかったら、強硬手段をするつもりでいたんだからな。」


いやそれは冗談でもきついですよ。

それにしても、アイリスが何も言わないのは意外だったな。

表情もさっきみたいな期待の目はしてないけど、暗い表情はしていない。

てっきり何かしら言うつもりでいたと思っていたけど、違っていたみたいだな。


「ぐぬぬ…やはり…やはり胸が足りないのか? 確かにアイリスは胸こそ小さいが、見た目と素性は完璧なのだ。手塩に育ててきたからこそ分かるが、やはりどうしても胸が大きくないと満足してもらえぬか!?」


「あの……王様?」


「こうなれば、メリアもセットでどうだ!? メリアはメイドだから家事も完璧だし胸もでかい! これでどうだろうか!? これで満足いくであろう!! だからどうか、この世界におってほs―――ゴハァ!?」


王様がだんだん情緒不安定になっていくのに耐えかねたのか、王妃の扇子が顔面にクリーンヒットした。

そして何故が追い打ちをかけるかのように、アイリスが聖魔法で作った光球(ライトボール)もそれを追うかのように撃ち込まれた。

つーかアイリス、自分の親に魔法を撃つんじゃねぇよ。

加減していても、あれは普通に痛いんだから。


「まったくあなたったら、周りの目を無視して暴走しようとしないの。」


「そうですよお父様! 急にそんな事を言わなくてもいいじゃないですか!?――――――私だって、そこは気にしてるのに……」


王妃の言葉に賛同したアイリスは、顔を真っ赤にして王様に文句を言ってた。

最後あたりで何か言ってたけど、何を言ってたんだろうなぁ?

声が小さかったから、よく聞こえなかった。


「さて、勇者レイ殿。改めて魔王を討伐をしてくれた事を、王妃であるアナスタシア・フォン・ユースタシアより心から感謝します。そして異世界の住人でありながらこの世界の危機である状況に巻き込んでしまい、お詫び申し上げます。」


「いえ、感謝したいのはこちらも同じです。最初に召喚されてからは、あなた方に色々をお世話になったのは事実なのですから。」


召喚されたあの日、俺はホントに大変な思いをした。

放課後で一人で教室にいるとき、突然自分の足元に召喚術式が現れて、成す術もなくその術式に取り込まれた俺は、この世界に召喚されてしまった。

何も知らない世界。

俺たちの常識が通用しない世界。

戸惑いと同時に、突然異世界への召喚をされた事は恐怖でしかなかった。

それでも俺がこの世界に居れたのは、この人たちのおかげだ。

右も左も分からなかった俺に、家族のように接してくれて、丁寧に一から色々と教えてくれた。

そのおかげで、俺は日に日に恐怖は薄れて、その恩を返すために日々修行をして、勇者として魔王の討伐を受け入れた。


「旦那ほどじゃありませんが、正直私もあなたが元の世界に帰られるのは、寂しい気持ちになってしまいます。何せあなたの事を本当の息子のようにかわいがってた時期もありましたので。」


「すみませんアナスタシアさん。俺もあなた方と会えなくなると思うと、とても寂しいです。でもどうしても俺は、本当の家族に会いたいので……ごめんなさい。」


「よろしいのですよ。あなたが本当の家族に会いたいのは正しい選択なのですから、気にする事ではありません。」


「ありがとうございます。」


やっぱり、この人たちに会えてよかった。

もしこの人たちじゃなかったら、俺は一生家族に会えないまま死んでたかもしれない。

そう思うと、ホントに感謝しきれないな。


「ほらあなた、いつまでそこで寝転んでいるのよ。彼を召喚の間に連れて行って、元の世界に送還しないといけないのだから、最後くらい見送りしないといけないでしょう。」


さっきから床に寝転んで気絶していた王様に、頬を叩いて声をかけながら起こした。

というかアナスタシアさん、さっきの扇子ビンタ強烈に入っていましたし、何より王様の首がすごい勢いで曲がっていましたからね。

王様も王様だけどね。

それを受けて普通に気絶してる程度なんだから。


「いたたた……すまない、取り乱してしまった。」


「いえ、お構いなく。」


王様も戻ったところで、俺たちはその場を後にするかのようにその場から出た。

付いて来たのは、王様と王妃、師匠に仲間のみんなだ。

しばらく何も言わないまま歩いていると、アイリスが俺の背中を叩いた。


「どうした?」


「レイ様、あの子たちには最後に会わなくてもいいのですか?」


「あいつらにか……」


アイリスが言ったあの子たちというのは、俺の従者の事だ。

従者というのは、契約者との契約を結ぶ事で主従関係になれる存在で、王都では貴族がそれを使える制度になっている。

従者に対する人数は制限されておらず、奴隷や人攫いなどで強制的に契約をしていない限り、違法にはならない。

そのため王都で契約を結ぶ場合は、予め王宮に契約の申請をして、二週間の監視に異常がなければ、正式な契約が結ばれる事になる。

もちろん、俺も同じようなやり方で契約を結んでいる。

アイリスは俺との関係が終わるからこその心配なんだろう。


まぁ確かに、あいつらに最後の別れを切り出すのは当然だろう。

でもそうなった場合、余計に離れるのが嫌になってしまう子がいるから、あまり俺は乗る気じゃない。

だからこの事については、別れはやめておいたほうがいいだろう。


「別れ話はなしにしておくよ。余計に別れるのがつらくなるのは、お互いだからな。」


「でも一言だけでも、言っておいた方がいいんじゃあ…!」


「それをしたら、余計に離れなくなってしまうからだよ。お前も、あいつ等の事は分かっているはずだろ?」


「そうですけど……!」


別れ話をしないのは、やっぱ非常識だよな。

でもしょうがねぇんだ。

そうなる事は予想しているから、こうでもしないといけない。

俺だってホントはお別れをしたいさ。

でも、それは甘えでしかない。

これから俺は、あいつらとはもう二度と会えない。

あいつらも、それを分かっているはずだ。

時には俺も、鬼になって自分の思っている事を我慢しないといけない。

悪いと思っているが、仕方ない事なんだ。


「行こうか。」


俺はそれ以降、何もしゃべらなかった。

これ以上何かしら言ってても、変わらないからだ。

途中でメイド長のメリアさんが来て、俺の召還された当時の服を渡してきた。

俺はそれを受け取った後、近くにあった部屋で鎧を脱いでそれに着替えた。

メリアさんに一言礼を言った後、みんなと合流して、三年前に俺が召喚されたあの場所にやってきた。


「召喚の間。三年ぶりにやってきたわね。」


部屋自体はそこまで大きくなく、広さも四方10m程度。

人数で言ったら、10人入れば狭いと感じれるほどの部屋だ。

それにこの部屋は地下にある。

そのため窓はないから外部の干渉もないし、邪魔をされる事もない。

召喚の間の光は、魔法石による照明だけだ。


「ここが勇者が召喚された部屋なのか? なーんかやけに狭いな。」


「確かに召喚をなされるには少々狭いですね。」


「前までは別の所でやっておられたのですけど、その時に召喚なされた勇者が、大勢の魔術師に囲まれていましたし、護衛としておらせていた兵士が勇者に対し恐喝したりして、その子は怯えて魔力が暴走してしまい、召喚する際にいた魔術師が大怪我をするなどをして、甚大な被害があったのです。」


アナスタシアさんの簡単な説明に、発言したべレナスとハンドレッドは納得していた。

これは俺も前に教えられて、その時は本当にやばかったのを話してくれた。

勇者の魔力は、普通の魔術師よりも多い。

そのため暴走した場合、周囲に膨大な魔力が衝撃波となって襲い、最悪の場合は死亡者が出てもおかしくないのだ。

それを改善させるために、召喚に同行する人数を一気に減らし、脅迫紛いな事は絶対しないように見直されたのだ。

ちなみにその当時の恐喝した兵士は、重罪人として地下牢に囚われている。


「レイ様の前の勇者が、そのような被害を出してしまったのですか?」


「えぇ……。あの当時も彼と同じように私が担当したのだけど、あの時はホントに大変だったわ。今思い返してみれば、そうなるのは当然の事なのに、私はそれを見落としてしまっていた。彼女には、申し訳ない気持ちだったわ。」


アナスタシアさんはそう言いながら、悲しそうな顔をして語ってくれました。

この人は当時、俺の先代の勇者の聖女として一緒に旅をしていた。

そして師匠もその一人。

三人から始まって、いつしか仲間は六人にまで増え、俺と同じ困難な道を進みながらも、先代の魔王を討伐したといつも語っていた。

俺もそんな風になりたいって思いながら、ずっと剣を持って戦い続けた。


「勇者レイ・シラサキ殿。あなたに対し女神からの神託が下りました。これより送還の儀式を開始いたします。」


「分かりました。アナスタシアさん、あいつらの事を頼みます。」


「任せて頂戴。みんなには、ちゃんと話しておくからね。」


何から何まで、世話になったな。

俺は今日、この世界とお別れか。

少し寂しいな。

この世界、結構気に入ってたから、ここに残りたいって思ったりもした。

でも俺には、家族がいる。

だからしょうがない。

またいつかは、この世界に来てみたいけどな。


「送還の術式が完成したわ。中心に言ってちょうだい。」


「ありがとうございます。ではお元気で。」


俺は部屋の中心に出ていた術式に向かい、その場に立った。

ここでやり残した事はない。

正直少しだけゆっくりしたいと思ったけど、やっぱり会いたい方が(まさ)ってしまった。

親友とは最後の別れはできなかったけど、あれはあれで大丈夫かもな。


「それじゃあみんな、元気でな。」


「レイ様、あちらでもお元気で。」

「あっちで簡単に死ぬんじゃないよ。」

「勇者殿、またいつか会いましょう。」

「勇者、楽しかったぜ。」

「レイ、向こうでも息災でな。」

「レイ、こっちでの教え、ちゃんと覚えておけよ。」


みんなと最後の別れを終えて、俺はこの世界に別れを告げた。

最後まで波乱な三年間だったけど、それとは別に楽しめたな。

それじゃあ帰るか、日本に。

術式の光に呑まれて、俺は地球に帰還した。

遅くなってしまいましたが、次回から現代にはいっていきます。


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