3話 王都への帰還
「戻って来れたんだよな?」
「そうみたいですね。」
メリッサの転移術式によって戻ってきたけど、ここは魔界じゃないよな?
キレイな草原。
青い空、白い雲。
空を飛ぶ鳥。
同じく飛ぶドラゴン。
うん、人間界だな。
「久しぶりに帰ってこれたな。」
「どれ程時間が経ってるか分からないですけど、恐らく一週間ぶりでしょう。」
アイリスが一週間と言ったけど、あながち間違ってないかもな。
季節が変わってないし、気温も出発当時と変わんないから。
「どうやらここは王都の近辺であるベルビア大草原でしょうね。」
「多分そうかもな。王都は見えないけど、場所は把握できるから良かったな。」
大草原は王都を囲うようにあるし、今おる場所はその草原の端っこ。
だから中心に歩いていけば王都に着くだろう。
「それじゃあ、王都まで歩くとするか。」
それから行くのは簡単だった。
魔王を討ち取ったおかげで、魔物が活発的じゃなくなった。
しかも偶々空きの馬車を引いてたおじさんが労いをと言って近くまで乗せてくれたりと、あっさり王都まで行く事ができた。
まぁ歩くといっても、この草原は広すぎるから一時間は掛かるから、どうしようかなって思ってたんですよ。
ぶっちゃけ、歩く気力はありませんでした。
だって魔王倒して、疲れ切ってたから。
「着いたな、王都に。」
馬車のおじさんに礼を言って、王都の方を向いた。
王都といっても、囲っている壁がでかすぎて中は見れてないけどね。
でも二年ぶりの王都だ。
修行し続けて以降から戻ってなかったもんな。
みんな元気にしていればいいんだけど。
「これでもう、私たちの冒険は終わりですね。」
「そうだな。」
「さ、しんみりするのは後にしましょう。まずは陛下に報告を、ね。」
「そうですね。では勇者殿、参りましょう。」
ハンドレッドに言われてから俺たちは正門に向かった。
途中で門番の人が俺たちに気づいて、近くまでやってきた。
「勇者様! 魔王はどうなったのですか!?」
「魔王は滅びました。これで世界は平和になるでしょう。」
そう言った瞬間、門の近くにいた冒険者や他の門番の兵士が一気に叫んだ。
まぁ魔王がいなくなったんだから、そりゃあ喜ぶよな。
なんせ王都出身の兵士や冒険者はみんな平和好きだから。
「ありがとうございます! これでもう魔王の脅威から恐れる必要もなくなったのですから!」
「勇者としての責務を果たしただけです。王様に報告をしたいので、門を開けてもらってもよろしいですか?」
「もちろんです! おい、門を開けろ! 勇者様の帰還だ!」
門番の兵士が叫ぶと、近くにいた門番たちは急いで門を開け始めた。
そして近くで聞いてた冒険者も一緒に門を開けるのを協力していた。
兵士と冒険者でも、こういった時の連携は完璧だよな。
お互いが同じ喜びだから。
門が開いて許可をもらった冒険者たちは、我先に王宮へ走って行ったり、町中で叫んだりしてみんなに俺たちが魔王を倒してきた事を教えていた。
てか王都で叫ぶなよ。
近所迷惑だろうがよ。
「なんでこうゆう時だけ連携が完璧なんだよ。」
「俺も思ったよ。ホントこう見てるとみんな平和好きなのかが分かるよな。」
「それが王都のいいところなんですよ。私はこの国の王女として嬉しいのですから。」
まぁ確かにそうだな。
アイリスはこの国に生まれてよかったっていつも言ってたし、俺も平和なのは好きだ。
時々勇者だというのを隠して街に繰り出したりしてたけど、誰も彼も温厚であったし戦争を嫌っていた。
俺と思考が同じ人がたくさんいて、気に入ってたんだよな。
「さてと、門も開いたし行きましょっかね。」
門番や城壁の上にいる兵士の皆さんに見送られながら門をくぐった。
ちなみに城壁の中にも通路があるから、ひょっこり顔を出して俺たちを出迎えてたりもした。
門を抜けた瞬間、冒険者たちの声で集まっていた人たちが迎え入れてくれて、見えた瞬間一斉に歓声を上げた。
「ありがとう勇者様――――!」
「平和にしてくれてありがとう!」
「勇者様―――――!!」
俺たちの凱旋を待っていたかのように、王宮までの一本道を作ってくれていた。
年も性別も全く関係なしに歓声を上げていた。
王都への花道みたいに開けてくれてるけど、これだけは言わせてくれ。
めっさ恥はずい!
ここまでたくさんの人たちに迎え入れられるなんて思ってもいなかったから、一気に恥ずかしくなってきた!
ヤバイ……一気に緊張してきた。
空間転移テレポートで王宮まで飛ぼうかな。
「みなさん、レイ様の事で感謝されてますね。」
「そりゃあそうでしょう。なんせレイが魔王を倒したんだから、ここまで歓迎されるのは当然なんだから。」
「でもここまで歓迎されるのは流石に恥ずかしい。」
「なぁ~に言ってんだよ。お前はそれだけの事をやったんだから、当然の結果だろうが!」
「そうですね。勇者殿はみなさんの光なんですから。」
やめれくれ―――――!!
全員になって俺を誉め殺しすんじゃねぇ!!
余計に恥ずかしくなってきただろうが!
ヤバイ……お腹も痛くなってきた。
早く着いてくれないかな……
「しっかし、ホントにお魔王を倒しちまったんだな、私らって。」
「なんだかんだ、楽しい旅をする事ができましたね。」
「でも正直言って、レイが勇者でホントに大丈夫かなって思ったりもしたんだけどね。」
「おいメリッサ、それはどうゆう事だよ。」
「あら、間違ってないじゃない? 私ならまだしも、国の王女であるアイリスも野宿させたのは誰だったかしら?」
うぐッ、それを言われると何も返せない。
町まで距離があって野宿するのはあったけど、お金が少なくてやむ負えず野宿した事が一,二回あったから、メリッサに言われて何も言えなかった。
この引きこもり魔術師が。
王宮では自分の魔法の研究とかで引きこもってばっかだったのに、こういう時だけは無駄に頭が回るんだから。
「まぁまぁ、私も外で寝るのは嫌ではなかったんだし、いつもとは違ったから新鮮でよかったよ。」
「ありがとうアイリス。そう言ってくれるだけで救われるよ。」
アイリスは暇な時は王宮の庭で乗馬をしたり、剣や杖の練習をしたりするアウトドア王女様だ。
そのため以外にも俺と一緒に外で稽古の相手をしてくれたりと、ホントに優しい限りだよ。
「ちょっとアイリス、あんまりレイを庇わないでよ。」
「そういうメリッサだって、レイ様に言うのはやめなさい。あなただって魔法を覚える事しか考えてなかったんだから、レイ様の事は言えないじゃない。」
「それとこれは関係ないでしょう。」
「関係あるわよ。いつもいつも引きこもってたと思ったら、私がレイ様と一緒に行くって事になった瞬間、一緒に付いて行くって言ったのは、誰だったかしら?」
「うっ……」
見事な論破。
流石アイリス、幼馴染だから容赦ない。
まぁでも今のはメリッサの方が悪いよな。
アイリス自体は野宿するのは嫌じゃなかったのは本当だしな。
むしろ好奇心でやりたいとか言ってたもんな。
そうやって何気ない話をしていたら、王宮の目の前に来ていた。
「お―――――い!」
「あ、師匠!」
王宮の目の前で待ってくれていたのは、異世界に来たばっかの時に剣の基礎を教えてくれた師匠のグレン・イムソムニアだった。
師匠は王都の傘下にいる騎士団、『暗夜の守護ナイトメア』の団長をしている。
人数は300人以上の規模で、複数ある騎士団の一つでもある。
その騎士団の騎士団長ナイト・リーダーをしているのが、俺の師匠なのだ。
師匠は俺たちに気付くと、重い鎧を何とも思わせないような走りでやってきた。
「レイ、それに姫様やメリッサも、無事に帰って来てくれてよかったよ。」
「ありがとう師匠。そっちに魔族の襲撃とかはあったのですか?」
「少しだけだけどな。でも殆ど無傷だったよ。」
実はと言うと、城壁の一部には焼けた跡と崩れた跡があって、しかもそれが新しかった。
だからもしかしなくても、魔族からの襲撃はあったんだなってすぐに察した。
でも見る限り、その心配はなさそうだな。
だって師匠は強いし。
それは一年間も一緒にいた俺だから理解できる。
「レイ、本当にありがとう。お前のおかげで、この世界は平和になったよ。」
「何言ってるんですか。師匠が俺を一年間見てくれたのもありますし、何よりここにいるみんながいなければできませんでした。」
「確かにそうかもしれんけど、魔王を討ったのはお前なんだ。胸を張ってくれ。」
「ありがとうございます。」
師匠に礼を言うと、俺の肩を掴んでみんなから離した。
何だろうなて思ってたら、師匠が小さな声で俺に言ってきた。
「(お前、姫様の事はどうするつもりなんだ? お前の言葉次第では、結婚沙汰になると思うぞ。)」
アイリスの事……か。
まぁ確かに俺はアイリスは好きだけど、それは妹みたいでかわいいから好きなだけだ。
ラブじゃなくてライク。
だから師匠の言うのは、俺のこれからの事なんだろう。
「(師匠、アイリスには申し訳ないのですけど、俺はそれに答えません。俺はどうしても、元の世界に帰りたいので。)」
「(そうか。分かってはいたけど、やっぱそうなるよな。)」
師匠は薄々分かっていたみたいだな。
俺は地球に帰りたい。
元の日常に戻りたい。
いつもそう思っていた。
みんなには隠していたけど。
だからあの人たちから帰らないでほしいと言われても、その答えには答えられない。
「グレン、レイ様とは何を話しているの?」
「あぁいや、何でもないです。それより、陛下が皆さんを待っているので、付いて来てください。」
師匠は俺から離れると、王宮の方へ歩き出した。
みんな俺と何を話していたのかを気になっていたけど、俺はそれに対して知らないフリをした。
悪いけど、こればかりは最後まで黙っておきたい。
俺だって家族がいるんだから。
「行こうか、みんな。」
「あ、待ってくださいレイ様!」
師匠の後を付いて行って、俺は王宮の中に入った。
もう少しで、勇者は卒業だ。
それまでは、気をしっかり持たせるかな。