25話 迫りくる危機
「このままでは本当にマズいな…」
静まり返った夜。
とある神社の境内にある一室。
そこには数人の大人たちが薄暗い部屋の中で緊迫とした空気で話し合いをしていた。
「まさか…奴らがこんなに進行しているなんてな…」
「このまま奴らが進行すれば、日本は終わってしまいます!」
「何かいい方法なないのか? なんでもいい、早く対策を!」
「政府の奴らはどうしている!」
事態はかなり深刻な状況であり、真ん中に座っている当主の男は額から汗を流しながら沈黙を続けていた。
「お父さん…。」「…。」
その様子を遠くから見ていた二人の少女は、心配そうにしながら一人の人物を見つめていた。
二人の少女が見ていた先には、真ん中に座っている当主で、彼は彼女たちの父親でもあった。
その父親である当主の男は待ったと手で合図を出して、その場にいた全員を黙らせた。
「みんな落ち着いてくれ。政府からは連絡が来ており、他の派閥に連絡を回して協力要請を行っているみたいだ。現段階では我々を含めた五大派閥のうち了承してくれたのは、我々を含めた三つの派閥だそうだ。」
当主からの言葉に黙っていた者たちだったが、一人の男がゆっくりと手をあげて、当主に一つだけ質問をした。
「残りの二つはどうなっているのですか?」
「一つは当主である男が病に侵されており了承が難しいそうだ。」
「何とタイミングの悪い時に…」
「そしてもう一つの派閥なのだが……何故か連絡がつながっていないみたいなんだ。」
連絡が繋がらない派閥の存在を知っていたのか、その場にいた全員が苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「やはり東北の者は動かないか…!」
「確かあそこの今の当主は、代が代わって若者がやっていたはずだな。」
「正直、了承をしてくれるとは思いませんな。」
周りの人も聞いててあまりいい状況ではないと唸るような顔になってしまった。
その派閥は先代が亡くなって、今の当主になったのは一月も経たない状態。
若者であるが故に、「死」に直面すると思って逃げていると察しているのは一人だけじゃなかった。
そしてそれは、当主である男も同じだった。
(皆があまり良い印象を思わないのもおかしくない…今のあそこの当主はわがままな性格のせいか、他の当主からも良い印象を聞いていないからな。)
当主でありながら傲慢な態度。
それは彼らと同じ五大派閥の者からしたら、目の上のたん瘤に過ぎない。
当主の男は唸りながらも、今の打開策を必死に探しながら、この状況を覆らせる方法を絞り出しで語りだした。
「とにかく今は、門に近い我々だけでどうにかするしかない。他の派閥も明日の深夜まで時間が掛かるそうだから、その間だけでも何とか持ち堪えよう。」
「「「「「「はっ!」」」」」」
当主の指示に全員が答え、その場はお開きとした。
一人部屋に残った当主の男は、部屋の天井を見上げてポツリと言った。
「願わくば、この戦いが何もなく終わってくれることを祈るしかないな。」
その願いは果たして叶うのか。
奇跡でも何でもいいから、何もなく終わって欲しい。
そう願いながら男は、これから起こる危機に向けて行動を開始するのであった。
「うん、美味い。しっかり味が染み込んでていい感じになってるぞ。」
「よかった。零君のお母さんから教わったけど、ちゃんとできてるか心配だったんだよ。」
平日の学校の昼休み。
俺は真莉亜が作ってくれた弁当を食べながら、中庭でのんびりとしていた。
真莉亜が転入してきてから一週間が経って、あの時のような騒動はもうなくなっており、真莉亜にも告白してくることは完全になくなってしまった。
というのも、明日香があの後に新聞部の友人に頼んだらすぐに俺たちを取材にやって来て、次の日に掲示板に大きく貼りだしてくれたのだ。
そのおかげで真莉亜に来る被害は一気に減って、トモと明日香も真莉亜を改めて歓迎して、今では真莉亜も家で俺たちに話すときのような笑顔になっていた。
(まぁあんなに大きく掲示板に貼ってしまったせいで、学校公認のカップルになるわ、周りからやたらニヤニヤした目線や殺気が含まれた目線は来るわ、あの生徒会長からもからかわれるようになるわで、今度は俺に被害が来てるんだけどな。)
そう思い内心で溜息を吐きながらも、真莉亜の弁当を食べて昼休みを満喫していた。
「そういえば、あれから一週間だけどあっちの方はどうなってるのかな?」
「うまくやってくれてるとは思うけど、やっぱり心配だよね。」
俺たちが心配しているのは、夢の世界にいる従者たちだ。
あっさりと紹介しては一緒に暮らすと言ってしまったが、勇者と魔王の従者が近くにいるのってかなり異例だよな?
さらっと決めちまった俺たちが言うのもなんだけど、大丈夫かな…?
しかもあっちの世界だったら実質もう二ヶ月以上たっているようなものだから、あいつらも寂しくなっているんじゃないかな…。
「最近忙しかったし、明日休みだから会いに行きましょうか。」
「そうだな。」
明日の休みに行くのを決めて、弁当を食べ終わった俺たちは残りの時間をのんびり過ごそうと中庭の芝生で寝ようと思っていたら、何か変な気が漂った感じがして不意に周囲を見渡した。
「…ねぇ、零君。なんかさっき変な感じがしなかった?」
「真莉亜もそう思ったか? 俺も感じたけど、なんか嫌な気だったな。」
どうやら俺の勘違いじゃないみたいだな。
お互いに“気配感知”を持っているから何かを感じたのはいいものの、一瞬だったからどんな感じだったか曖昧な状態になっちまった。
「…“気配感知”や“索敵”には何もないってことは、気のせいだったのか?」
「うーん、そうだったのかな? でも何も感じないのなら、そうするしかないよね…」
もう一度周囲を見て見たけど、やっぱり何もなかった。
あるとしても、春の気持ちい風だけが吹くくらいだった。
すると“気配感知”に何か反応して、誰かが近づいてきているのが分かり、そっちを振り向いた。
そこには俺たちのクラスの委員長でもあり、真莉亜の騒動を早めに収めてくれようとした常盤夏奈だった。
向こうも俺たちに気付くと、こっちに歩いて来て真莉亜に話しかけてきた。
「神崎さん、新しい学校生活には慣れてきましたか?」
「うん、あの時はありがとう。私もあの騒動があったせいで中々学校全体を回ることができなかったけど、空いた時間を使って見ていくことができて、今では少しずつ慣れてきているよ。」
「そう、それは良かったわ。白崎君も神崎さんの事をちゃんとサポートしないといけないよ。」
「わかってるよ。それよりも委員長はどうしてここに?」
俺が単純な質問をすると、何故か少しだけ暗い表情になった。
何でだろうと思ったけど、すぐに元に戻ってこっちを見て質問に答えてきた。
「特に用事はないけど、近くを通ったからここに来たくなっちゃったの。…ところで二人に聞きたいことがあるのだけど、今さっきここに何か通ったようなものはなかった?」
「「通ったようなもの?」」
俺たちはお互いに見つめ合ってさっきのを思い出した。
何か通ったようなものって、さっき感じた変な気みたいなもの以外は知らないから俺も真莉亜も首を横に振った。
「そう。変なことを聞いちゃってごめんなさい。それじゃあ、私は二人の邪魔にならないようにもう行くね。」
そんなことを言って委員長は中庭を後にしていった。
彼女の姿が見えなくなった辺りで、俺は口を開いた。
「…なんかさっきの言い方、怪しくなかったか?」
「うん。何か知っているような言い方だったね。」
真莉亜も何か思ったみたいで、俺の言った事に賛同してくれた。
委員長は中学の時からの仲だから不審には思ってないけど、タイミングがどうしても怪しかった。
偶然かもしれないけど、さっきの質問から察するに、何か知ってるような感じだな。
「もしかしたら、ティファニスさんが言ってた奴が関わってるかもしれないな。」
「かもね。少しだけ調べてみようか。」
俺たちは放課後に二手で別れて調べるように話し合って、どのあたりを見て回るかスマホを使って範囲を決めた。
もしその奴が関わってなくても、平和な時間が壊せれることになるんだったら俺たちも黙っている訳にはいかない。
明日会いに行く予定にしたけど、今日中にでも会いに行ってやるか。
もしかしたら会いに行けませんでしたってオチになるかもしれないし。
学校が終わったら慎重に行動しながら進めていくとしますか。
一方、中庭を後にした常盤は、追っていた気配を思い出しながら廊下を歩いていた。
「やっぱりこの辺りにはまだ来ていないのかもね。でもさっき感じた【妖気】は、もしかしたらありえる可能性があるわね。……もう少し調べてみましょう。」
誰もいない廊下で独り言を並べながら歩いていき、彼女は零たちとは違う形で行動をするのだった。
というわけで、第二章 百鬼夜行編始まります。
P.S.感想を書いてくださった方々、本当にありがとうございます。




