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2話 勝利!そして帰還

ここからは主人公視点でお楽しみください

勝った。

魔王に勝った。

それが分かった途端、体の力が抜けてその場に倒れこんだ。

体力と魔力の限界。

少なくともこの場所に来てからは一睡もしていない。

だから一気に眠気も襲ってきた。

本当なら今すぐ寝たい。

ここで休んでいきたい。

でもそれは出来なかった。

何故な脱出しないといけないからだ。


この玉座がある部屋の奥には、魔王城の大黒柱ともいわれている巨大な魔石があって、それのおかげで魔王城は存在していた。

でもさっきの最後の一撃の衝撃がすごかったのか、魔石は衝撃でどんどん割れていき、魔王がいなくなったと同時に粉砕してしまいました。


さーてここでクエスチョン。

家の大黒柱が壊れてしまうと、どうなってしまうでしょうか?

答えは―――――崩壊します。

そしてその崩壊はもう始まっております。


え…緊急事態(エマージェンシー)! 緊急事態報告(エマージェンシーコール)

誰かー! 助けてくださーい!

今の俺、死が目の前にあるんです!

ここまで来てようやく魔王を倒す事ができたのに、手も足も動かせないような状態なのに、このまま城が崩壊してぺっちゃんこになってしまうのは流石に嫌だ!

でも今の俺にはどうするもできません。

ですのでこの城が俺の墓場になりそうです。


マジでどうしよう……。

今の俺は完全に動けない状況なのに、空間転移(テレポート)みたいな魔法は今は魔力切れを起こして言うから使えない。

唯一俺以外使えるメリッサは城の中庭でスケルトンと戦っているはずだし、ここに来る事はできないでしょう。

はい詰みです。

チェックメイトです。

もう完全に終わってます。


もう今の俺にできるのは、ただ天井を眺めている事しかできなかった。

あぁ……俺…死ぬんだな……

この世界に来てから三年も経った。

だけど嫌じゃなかった。

死ぬ思いをしたのに、嫌気がささなかった。


最初にこの世界に来てから女神に聖剣を持たされて、初めの一年はただただ修行だった。

剣道のようにまずは剣を振る事から始まって、次第に実戦での訓練をしていった。

そして剣以外にも、魔法も覚えていった。

剣に至っては退屈だったけど、魔法に至っては真剣に勉強した。

何せファンタジーな世界に来たんだったら、魔法は絶対覚えたい。

そう思っていた俺は、寝る間も惜しんでひたすら覚えていった。

そして覚えてから一ヶ月で、基礎魔法はほぼ覚える事ができた。


この世界には基礎魔法とオリジン魔法の二種類があって、基礎魔法を覚えきってしまった俺は、仲間の一人のメリッサからオリジン魔法を覚えたほうがいいと助言をもらってから、そっちに専念するようになった。

そのおかげか、基礎魔法よりも強力な威力を持つ魔法を覚える事ができ、勇者としての品格がどんどん芽生えてきていた。


そして一年が過ぎて、俺は魔王を討つための冒険を始めた。

冒険の途中で仲間と出会って、一緒に旅をするのは楽しかった。

でも仲間と一緒に戦っていくにつれて魔物もだんだん強くなっていき、龍の巣の山脈に行った時なんかは、主である魔龍と何度も戦わないといけなかったのはのは懐かしい思い出だ。

嫌な方での意味で。


そんでもって、魔王軍四天王にいたっては大変だった。

一個体が上位悪魔(アークデーモン)の数体並みの力を持っていて、その度に走馬灯が見えたのはヤバかった。

この魔王城に来てからも同じで、敵も総動員で攻めて来たから仲間が一人一人その場を任せなければいけない状態になってしまっていた。

結果、俺は一人で魔王と戦わないといけなくなってしまいました。


ていうか、ここで死ぬくらいなら彼女の一人二人作っとけばよかったなぁ……

人生19年、彼女なし。

なんか言ってて虚しくなってきた。

母さんと妹にももう会えないと思うと悲しくなってくるし、母さんが作ってくれたカレーなんかは一番うまかったから、もう食べられないとなるとあの時に作ってもらうようにしとけばよかった。


そんな何気ない事を思い出していたら、だんだん眠くなってきた。

最後にひと眠りしてこの世界にさよならをしましょう。

それじゃあ皆様、ありがとうございました――――――


――――空間転移(テレポート)


あっ、空耳が聞こえてしまった。

しかもこの声、メリッサだな。

ホント……困ったものだ。

最後は姫様の声がよかった。


「――――――あれ? ここは?」


崩壊していてギシギシ言ってた魔王城の音が聞こえなくなったのが気になって目を開けると、そこは外だった。

真っ赤な月。

荒れてしまってる大地。

寝るには最悪なゴツゴツした地面。

そして壊れていってる魔王城。

俺が外にいるって事は、メリッサがやったのか。

じゃああれは空耳じゃなかったのか。


「「「勇者(様)(殿)!!!」」」


声が聞こえて寝ながらの状態で振り向くと、他の場所で戦っていた仲間が全員こっちに走ってきていた。

文字通りの全力疾走。

いや体力あるなら助けに来いよ!

こっちギリギリだったんだぞ!?

訴えてやるからなッ!


「勇者様、ご無事で何よりです!」


最初に寝ている俺に近づいてきたのは、最初の仲間の一人であって、俺を召喚させた国の姫様であるアイリスだった。

アイリスは生まれながら聖女として生きてきた。

母親の王妃を憧れて聖女になって、俺が召喚された12の時に開花して、立派な聖女になっていた。

そんな彼女が使える聖魔法は、悪魔系の魔物にとっては天敵とも言える存在だ。

聖魔法は聖女にしか使えない。

その分強い。

だから一人でも戦えちゃう乙女でもある。

悪魔四天王と戦う時には、いつも彼女の聖魔法のおかげで弱体化させてから、俺が聖剣でトドメを刺すというやり方で倒してきたため、彼女のサポートはかなり優秀だった。


「アイリスも……無事でよかったよ。」


「グスッ……私の事よりも勇者様のほうが心配です。魔王の配下たちが突然灰になっていたので、勇者様が勝利になられたのはとても嬉しかったのです……! しかしなかなか城の外に出られてこないので、死んでしまわれたのかと思ってしまい、怖かったのです。」


アイリスは俺の傷を回復をしながらも、涙目で俺の手を握って話してきた。

いやだったらこっち来いよ!

さっきの走りを見ていたらまだ体力はあったでしょうに!

さては貴様スパイだな?

でも正直彼女に心配させてしまったと思うと、かなり申し訳ない感じになってしまった。


アイリスは王女でありながら、三年間俺の話し相手にもなってくれた。

この世界の常識から、歴史のあらゆる事を教えてくれた。

三年間も一緒だったからか、何も言わなくてもアイリスは自分から行動をしたりして、俺のサポートを徹底してくれた。

だから俺にとっては、アイリスがいてくれてよかったって思ってる。

もしいなかったら、俺はここまでできなかっただろうしな。


「ごめん。心配かけちまったな。」


「いいえ。勇者様が無事に戻ってこられただけで、私はとてもうれしいです。」


「アイリス様の言う通りです。勇者殿が魔王を倒して生きているのは、奇跡と言ってもいいのですから。」


彼女の言葉に賛同するかのように近づいてきたのは、イケメンスマイルを持つエルフ族のハンドレッドだった。

ハンドレッドはエルフ族の中の王族に属するハイエルフという種族で、戦闘や知識が普通のエルフよりも高い性能をもっており、実際エルフの全体で見ても、彼は他よりも頭一つ抜けているくらい強い。

だから敵と戦うときは、いつも切り込み隊長になって先手を取ってくれていた。


「ハンドレッド、無事だったんだな。」


「勇者殿、魔王討伐おめでとうございます。エルフ族の代表として心から感謝いたします。」


「ありがとな。そっちは余裕だったみたいだな。」


「ははっ、勇者殿に比べたら、私なんてただハエと戦っていたようなものですから。」


ハンドレッドの爽やかスマイル、少しイラっとするな。

外見は30代の男性。

だけど実際は200歳超えの老人なのだから、改めてみると全く年寄りに見えないのが困る。

彼の笑顔は女性にとっては宝石と同じくらいの輝きをしており、交渉役なんかを自分から勝手ででくれて助かった時もあった。

だから憎めない。

だけどイケメンなのがウザい。


「私のほうは最初は面白かったんだけど、パターンが分かっちまったら全然面白みもなかったぜ。」


愚痴を言いながら歩いてきたのは、獣人(じゅうじん)族のべレナスだ。

彼女の属する獣人族は、動物の見た目をしている人たちが人のように生きている種族である。

見た目と言っても尻尾や耳だけが動物っぽい見た目だけ。

あとは人と同じ。

会話もできるし、食事も人と同じだ。

そのため人間とも交流は盛んだ。

冒険者にも何人か獣人がいる。

そんなべレナスは狼の獣人だ。

大きな尻尾に(するど)(きば)、髪は腰までの長さまであり、風で(なび)くたびに炎が揺れるような見た目をしている。

そして彼女の背中には巨大な大太刀。

それを振り回して暴れる事から、ついた二つ名が『火炎の狼王(ろうおう)』。

俺は秘かに暴走車両と言ってる。


「べレナスは、全然余裕だったみたいだな。」


「おう勇者! そっちは魔王を倒したみたいだな! スゲェじゃねぇか!」


「あはは。まぁいっても辛勝みたいなものだから、実質負けに近いよ。」


「なぁに言ってんだ。魔王に勝ったんだから勝ちは勝ちだ。胸張っていいんだよ。」


べレナスはそう言いながら俺に激励してくる。

まぁ勝ちなのはあってるか。

でも俺死にかけたんだし、そっちも間違ってない。

なんか複雑だな。

負けて勝ったって言うべきか?

どのみち一人では勝てなかった。


「べレナス。あまり勇者殿に言わないでください。あなたと違って、疲れているんですよ。」


「あぁ? 別にイイじゃねぇかよ。ていうかお前はいつも真面目すぎるんだよ。」


「はぁ……まったく、あなたも少しは勇者殿みたいに言葉遣いを正したらいいのではないでしょうか。」


「は? 何で私が勇者みたいに言葉正す必要があるんだよ。」


「そうやって他者から誤解を招いていたのは誰ですか?」


あぁ、このパターンはヤバいな。

アイリスも嫌な予感って分かってるみたいだ。

俺が知ってるなら、この後の展開は考えなくてもわかる。


―――――喧嘩だ。


「……オイ、ハンドレッド。ケンカ売ってんなら今からやろうじゃねぇかよ。ちょうど退屈していたからここいらで白黒つけようじゃねぇか!」


「いいでしょう。私もまだ余力が残っているので、ここで決着をつけましょう。」


はい始まりました仲間同士でも喧嘩祭り。

これを見るのは果たして何回目な事か。

知ってる限りでは両手の指では数え切れません。

もはや当たり前になってしまってる。

いやダメだけどね、普通は。


「もう二人とも、ケンカはだめですよ。」


ハンドレッドとべレナスの喧嘩を止めるために、アイリスが見かねて二人の仲裁に入りにいった。

あの二人は性格が反対だからか、旅の途中でも何度も喧嘩をおっぱじめようとして、その都度(つど)アイリスが真ん中に入って二人を止めようとするのは、最早日常茶飯事みたいなものだ。

俺からしたらいい迷惑だ。

仲裁は一切しないけど。

だって危ないんだもん。

獣人とエルフって、人間よりも身体能力が上なんだから。


「ハイハイ、今日は喧嘩は無しにして早く王都に帰るわよ。」


そう言って場を和ませようとしているのは、俺を城から空間転移(テレポート)をして助けてくれた張本人のメリッサであった。

彼女もアイリスと同じで、最初から旅に付き合ってくれた仲間だ。

そして俺の魔法を教えてくれた人物でもある。

ちなみにアイリスとは幼馴染。


「ありがとうメリッサ。俺を城から出してくれて。」


「別にいいわよそれくらい。それに助けなかったら、姫様になんて言われるか分からないし。」


そういいながら俺に魔力を渡して回復をしてくれている。

さすがは魔術師、魔力は有り余っているのか。

あぁいや、ポーションで回復してるのかもな。


「はい終了。傷もアイリスが治してくれたから、もう立てるわよね?」


「あぁ。もう大丈夫だよ。」


「まったく、調子だけはいいんだから。」


彼女は微笑みながらそう言ってきた。

少し捻くれた性格をしているけど、これでも三年間一緒にいただけあって信頼はある。

だから俺も感謝はしている。

魔法も何もかも教えてくれてるんだからな。


「さて、全部やり切ったし、やっと王都に帰れるわね。」


「そうだな。やっと終わったんだな。」


壊れていく魔王城を見ながら、俺はこの三年間を思い出していた。

地獄のような修行。

何度も邪魔をしてきた盗賊。

幾度も死ぬ思いをした魔龍退治。

魔物の血で赤く染まる景色。

―――――ロクでもねぇ思い出しかないやん。

もう少しあるだろう、俺。

もっと楽しい思い出とかあるだろう?

……ダメだ、何も思い浮かばねぇ。


「ほら、早く帰るわよ。早く王都に帰って、陛下に魔王を討伐したって事を報告しに行かないといけないんだから。」


「分かってるよ。おーい三人とも、王都に帰るから早く来い。」


「分かりました。ほらハンドレッドもべレナスも、早く王都に帰るわよ。」


「……べレナス、どうやら決着はまだつけられないようですね。」


「チッ、仕方ねぇ。命拾いしたなハンドレッド。まぁ私からすれば、お前との決着は残していても問題ねぇからな。」


おっ、以外にも今日はすんなり引いてくれた。

まぁ最後の記念が喧嘩で終わるのは嫌だもんな。

俺も最後がこれで終わるのは勘弁してほしい。


「じゃあみんな無事みたいだし、王都に帰ろうか。」


全員がいるのを確認してから、俺はメリッサを見た。

メリッサも何も言わずに頷いて、俺たちの下に転移陣を発動させた

俺たちは崩壊していく魔王城を最後に見ながら、王都がある人間界に帰った。

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[良い点] 異世界転生ものですか、テンポが良く、さくさく読めました!先の展開が気になります。 [気になる点] 序章が惜しい気がします。正直読んでいて「おや?」と思いました。でも読み進めれば大丈夫かも。…
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