19話α 私の呪い
私は幼いころから親には好かれていなかった。
いや、正確には好かれなくなっていったと言った方が正しいだろう。
父はアメリカ人、母は日本人でその間に生まれた私は世間でいうハーフという形で生まれた。
父親と同じ金色の髪をしていて、母と同じ目の色をしていて、幼いころから私は注目されやすく、周りによく人が集まって来て話したりしていたし、何も不自由のない生活をしてきた。
おかしくなり始めたのは7歳になった時だった。
二人が結婚した後は、母は専業主婦になり、一人で働き手となっていた父だったが、働いていた会社が突然倒産して働く場所を失ってしまってしまい、それからは酒を毎日飲むようになってしまい、母や私に暴力を振ることが多くなってしまった。
そして母もストレスで私によく当たる様になってきてしまい、「お前がいるからこんなことになった」や「生まれてこなければよかった」などと、私を傷つけることも当たり前になってしまっていた。
そのせいか、私は学校に行ってもあまりの変貌ぶりに、あんなにいた人たちは誰も来なくなってしまい、前から私を気に入っていなかった女子からはイジメをしてくる子が現れてしまっていた。
ずっと地獄だった。
毎日が嫌いだった。
ずっと静かな夜が続いて欲しかった。
朝が来て欲しくなかった。
そんなことをずっと、泣きながら願っていた。
でも8歳になった時に、父が倒れ入院。
そのまま亡くなった。
死因は心筋梗塞で、病院に着いてしばらくしたら息をしなくなっていたと医者の人に言われた。
母だった女はようやく解放されたと思い、私に対して笑っていたが、私はその笑顔に対して、顔色を変えずに黙っていた。
過去にやった自分の行いを忘れたかのように、母として私に普通に話してきた。
それが気持ち悪かった。
その笑顔が大嫌いだった。
母だと名乗らないで欲しかった。
私の前から消えて欲しかった。
その時にはもう私の心はすでに閉じてしまい、信じているのは自分だけになっていた。
周りの人間を信じなくなってしまっていた。
一緒にしたくなかった。
ある日、母が知り合いの人から遊園地のチケットをもらってきて、一緒に行こうと言ってきたけど、私は母と一緒にいる事が嫌だったから行きたくないって思った。
けど断る理由を作れば面倒いだろうと思い、仕方なしについて行って、着いてからは一人でのんびりしようと思った。
いやいっそ、何処かに逃げようかとも考えた。
翌日、私と母だった女は遊園地に行くバスに乗って逃げる決行を考えていた。
だけど遊園地には行けることはなかった。
乗っていたバスは暴走した対向車にぶつかって、そのまま崖に落ちていった。
今起きてることに恐怖を感じたけど、それと同時に嬉しかった。
私は運にまで見放されたんだなと思ったけど、嫌気がさしてた毎日が終わるのが嬉しかった。
何より母だった女から離れられるのが嬉しかった。
ようやく終われる。
地獄から開放される。
願うなら、母だった女には父だった男と一緒に地獄に行って欲しかったのと、次の人生が幸せになれるようにして欲しかった。
視界が真っ暗になって、再び明るくなると、そこは静かで綺麗な場所だった。
そこにいたのは私と、もう一人の女性だった。
その人は異世界の女神であって、自分を異世界に転生させようと言ってきたのだ。
一瞬何を言ってるんだと思ったが、私が幸せな人生を送らせてくれるかと願うと、その女神は笑顔で頷いてくれた。
自分が幸せになれる。
もう過去のしがらみから開放される。
家族だったあの思い出を消せる。
それを思うと、自然に心は期待に満ちていた。
私は転生を承諾して、女神が儀式を始めた。
だけど突然、女神が調整を完全に間違ってしまったせいで、見た目は死んだ時と変わらないくらいの8歳の女の子として転生した。
ただ生まれは人間ではなく、魔王の申し子として転生してしまっていた。
初めは分かんなかった。
これが私の幸せなのか?
目の前の光景は地獄と変わらなかった。
その光景を見て、私は悟った。
やはり私は幸せにはなれない。
過去のしがらみから逃げ出せない。
苦しみは次の人生にも続き、それは永遠の呪いになった。
やっぱり私には運がないなって思ってしまったとの同時に、転生させた女神に対して怒りを覚えてしまった。
また会った時まで恨みを忘れないようにしていた。
それから数年経って、魔王としてだんだん定着していき、ついに魔王になった。
魔界の近くに人間が攻めてきても、幹部に任せて私は前線には出なかった。
戦いなんて興味がなかった。
魔族と戦って死んでいく人間に、同情のひとつもなかった。
理由は単純、興味がなかった。
戦って死んでも悲しくなかった。
部下がいなくなってもどうでもよかった。
ただずっと、退屈な毎日に飽きていた。
そんなある日、私は退屈がてら城から出て、たまには人間界の空気を吸いに行こうと思い、人間界に一人で行った。
するとたまたま近くを通りかかった場所で、奴隷を捕まえていた商人と盗賊が幼い悪魔の子や女の獣人、他にも色んな亜種族を檻の中に入れていっているのを見かけた。
様子を見てどうなるのか隠れて観察した。
最初はどうでもよかった。
でも何故か急に気になってその場に留まった。
しばらく見てると、捕まっていた奴隷の少女が反抗して盗賊に攻撃をした。
それをされて怒ったのか、持ってたナイフでその子の足を思いっきり刺した。
少女は痛みに耐えきれなかったのか、叫んで苦しみ出した。
その光景を見ていた私はふいに、過去の自分を重ね合わせてしまった。
自分が苦しんでた時と今苦しんでる子が、同じに見えてしまった。
私はその場に歩いていって、商人と盗賊を無差別に殺して、捕まっていた奴隷たちを助けてあげた。
空気を吸いに来たのに、何故かやってるのは魔界と変わらなかった。
でも今度はちゃんと空気を吸おうと思い、その場を後にしようとした。
そしたら奴隷となっていた者たちの中で八人が従者になりたいと言って私を止めた。
最初はもちろん断っていたけど、必死になって頼んできて、それでも私は断り続けた。
いつかは諦めてくれるだろうと思ってたけど、中々諦めてくれず、仕舞には私の方が折れてしまい、仕方なしに従者にしてあげた。
私は最初に見た少女に、「リベル」の名前をあげた。
初めの時は飽きずにずっとしゃべってきて鬱陶しかった時もあった。
けどそれがだんだん話していくうちに私の中にあった憎しみもいつしか消えていて、いつの間にか魔王としている時よりも彼女たちと話す時間の方が多くなり、かつての親の事さえも忘れるくらいに幸せな日を迎えていった。
退屈な人生で終わる生活に、少しだけ楽しみができたのは嬉しかった。
そうしているうちに、私は無くしていた笑顔が出来るようになった。
このままおるのも悪くないなと思っていた。
しかし人生はそう簡単にもいかず、魔王軍の諜報部隊から連絡が入って、人間側が勇者を召喚させたと報告をもらった。
まぁ魔王として君臨している以上、勇者が存在してもおかしくないなって思ってしまった。
そして私の気まぐれで、勇者がどんな哀れな奴なのかを見たくなってしまい、“獣魔召喚”で黒犬を数匹出して様子を何度も見た。
最初に見た印象は、「正義面の馬鹿」だった。
何もかもに悪を嫌い、勇者として当たり前の所業を行っているのに、呆れしかなかった。
彼は勇者としての行いだけで、自分の意思でやってないのが目に見えて分かったからだ。
期待外れで落胆したが、彼がどのような行動をするのかだけは見ておこう。
退屈な日々よりかはマシだからだ。
私の期待通りじゃなかったら、私から出向いて諦めてもらおう。
そんな事を思い、彼の行動を見ていった。
だけど私の見方が変わったのは、三ヶ月が経ったある日だった。
彼は自分の師となってる人と一緒に、近くの森で修行を行うために向かっている最中だった。
そこで出会したのが、奴隷を捕まえていた盗賊、レッドスターが笑い合いながら運んでいる光景だった。
私はふいに、かつてリベルたちを助けたあの日と比較しようと考えた。
『盗賊に罪を償わせるために生かす』か、『やった行いを許さずに殺す』か。
その二つの選択肢のどちらかで、私も彼に答えようと決めた。
ただ私の中では、生かして罪を償わせる方を選ぶと思っていた。
行動を見てきたけど、全部が自分ではなく、勇者としての行動だったからだ。
だから答えはそうなるだろうと思ってた……この時までは。
本当の答えは違った。
彼は怒りの形相で盗賊に向かい、一人を聖剣で斬り殺したのだ。
―――――驚愕だった。
不正解だったからじゃなく、勇者として、初めて人を殺したからだ。
彼は私と違って普通の生活を地球で行ってきたと感じてた。
でも全部違った。
私の予想を完全に裏切ってしまった。
そして驚愕していたのは、盗賊たちも同じだった。
リーダー格の男が、彼に対して焦りながら叫んだ。
「お…お前、勇者なんだろう? 何で人を殺したんだよ! 勇者が人を殺していいのかよ?!」
焦る盗賊に、彼は鋭い目付きで睨んで言った。
「人殺し? 勇者が人を殺してはいけないってルールはこの世界にはないだろうが。それになァ……お前らみたいなゲスが、他人の生き方を勝手に変えてるんじゃねェェ!!」
私は戦慄した。
イメージしていた人物像が偽りであった事に。
全て見てきた行動は、自分の意思でやってきていた事に。
もう一回言おう……裏切られた。
「悪い意味」でなく「いい意味」で。
私は無意識に思ってしまった。
彼のような人間が、もしあの時いたなら……と。
それでもしかしたら、過去に一度救われていたかもしれないって考えてしまった。
私は毎日彼の様子を見ていた。
空いた時間があればすぐに見ていた。
仕事もしないとなって思ったけど、正直そんなのより彼を見てる方が退屈にはならなかった。
というより、仕事がめんどくさかった。
ストーカー気質みたいだったが、そんなのなんか気にしないでずっと見続けていた。
しばらくしていると私の態度に嫌気がさしたのか、幹部の中に裏切り者が現れだした。
まぁ正直止める必要はなかったけど、彼を狙って魔王になろうと考えているようなバカだったから、それは見逃せないと思い、従者たちに任せて幹部をしとめるように頼んだりもした。
その幹部がどんな末路を迎えようと、自分にはどうでもよかった。
彼が冒険に出ている途中で、私は自分の過去をリベルたちに全部話した。
自分が元は異世界の人間である事。
そして過去のしがらみから抜け出せていない事も、何一つ隠し事をせずに話した。
最初こそは元人間であったのに驚いていたけど、自分たちを助けてくれたのには感謝しているからこそ、これからも従者としておりたいって言ってきた。
私はこの時、この子たちを従者にさせて良かったと、心からそう思えた。
今の彼女たちは、私にとっての光になってくれていた。
そして月日が流れて、三年が経ったある日。
ついに彼は私のいる魔王城にやってきた。
旅の途中で自分の従者と一緒に戦ったりして進んできたけど、そんなのは全然気にしなかった。
私は幹部たちには勇者を一人にさせろって言っただけで、あとは適当に指示。
誰もいなくなったのを確認してからリベルたちを呼んで、私は彼女たちに言った。
「私は彼と一騎打ちをして、私を解放してもらうわ。」
その意味がいち早く分かったのは、リベルだった。
上位悪魔から悪魔王に覚醒したからこそ、前よりたくましくなっていた。
そんなリベルが私の言った事をみんなに言った。
『私は今から勇者と一対一で平等にしてから勝負して、そのまま負けて死にます。』
私の言った言葉の意味が分かると、みんなは悲しそうになりながらも、自分たち以上に苦しんでる私の事を思ってか、誰も否定はしなかった。
涙は流しても、誰も止めはしなかった。
だからこそ私も、最後に彼女たちに本音で言った。
「みんながいてくれたおかげで、少しだけでも幸せを感じれた。早いうちに会えるかどうかは分からないけど、それまでは元気でいてね。」
それだけを言って、みんなを魔界から脱出させた。
押して私は、彼がやってくるまで魔王城の象徴である玉座で座って待ってた。
そしてしばらくして、彼は一人でやってきた。
裏切らずに残った幹部たちは、指示通りにしてくれたのには感謝しておいた。
そして私はついに、初めて彼を出会った。
視界は獣魔越しでしか見ていなかったから、自分の目で見るのは初めてだった。
私の中には、希望で満ちていた。
これから彼と平等に戦って負ける。
チャンスは一回。
できるだけ彼にバレないように慎重になりながらも、魔王としての派手な攻撃で演じきった。
時には好戦一方。
時には防戦一方。
自分に縛りを付けて平等にしていたからこそ、お互いに互角に戦える事が出来た。
痛みが襲って来ても、全く恐怖を覚えなかった。
その痛みは、過去の痛みに比べたら優しかったからだ。
それと同時に、自分の死が近くなってきているのに胸が高揚していた。
どれ程時間が経ったのか、もう分かんなかった。
でも唯一分かるのは、もうお互いに最後の一撃しかなかった事だけはすぐに分かった。
「お前は…私を倒して、この世界で何を欲するんだ?」
無意識だった。
何故そんな事を言ったんだ?
自分でも分かんなかった。
何を思って言ったんだ?
自分の言った言葉に、自分で混乱していた。
でもそれに答えるかのように彼は言った。
「俺はこの世界では何もいらない……ただ平和な日々を送れれば……それでいいんだよ……」
その言葉が聞けて、私は安心した。
私が見て来ていた彼は、本物だった。
私を倒すのにふさわしかった。
だったら私は、最上の敬意を持って本気の一撃を捧げる事にした。
そしてそれは向こうも同じで、私を倒すために、本気を一撃を放たんという構えをした。
「業炎の・審判!!」
「常闇を掻き・消す神剣!!」
両方の最後の一撃がぶつかって、私は本気で相手した。
――――結果は私の負け。
悔しい思いはなかった。
むしろ清々しかった。
そしてようやく、本当に過去から解放されたのが分かった。
嬉しかった。
助けられた。
彼には、本当に感謝しかなかった。
………あぁ…来世では、一緒にいたい。
そばにいたい。
肩を並べてみたい。
助けたい時は、助けてあげたい。
――――ありがとう、勇者様。
あなたのおかげで、私は救われました。
そう言った思いを胸のうちに隠しながら、私は消滅した。




