1話 勇者、魔王を倒す
誰の視点でもないけどだけどゆっくり見ていってね
場所は異世界。
今いる場所は魔界。
戦っている場所は魔王城。
そして魔王城の最深部にある一つの玉座がある部屋で、二つの剣が火花を出しながらぶつかり合っていた。
片は魔王を打倒さんとしている勇者、白崎零。
片は勇者の天敵であり、悪の根源である魔王マリアベル。
双方の戦いは、一夜過ぎても終わっていなかった。
「灰炎・焔!」
「氷結の一線!」
魔王が灰色の炎を繰り出すと、それを打ち消すかのように零も氷のビームで反撃をした。
両者の攻撃はどちらも互角で、お互いに放ちあった炎と氷は爆発しあって、部屋全体を揺らすほどの衝撃がい起きた。
両者の実力は互角。
魔法の威力の同じ。
今の空間で戦っていた二人は、お互いを認め合っていた。
爆発が起きて前が見えていない中、魔王は勇者に接近して魔剣を振った。
一瞬反応が遅れた零だったが、体制が崩れたのが吉となったのか、しゃがんだ形となって魔剣は零には当たらず空を切り、そのチャンスを逃がさなかった零は拳に魔力をためて魔王の腹に一発入れ込んだ。
魔王はまともに喰らって後方に飛ばされ、攻撃が効いたかのように膝をついた。
「なかなか…やるではかいか…勇者よ…」
マリアベルはボロボロになりなっていながらも、魔王としての威厳を保たせるために勇者に笑って言葉を発した。
「そっちも…なかなか…やるじゃ…ねぇか…」
対する勇者も同じように、膝をつきながらも答えた。
勇者と魔王。
人類の救世主と、世界の悪。
敵同士でありながらも、互いに認め合ってた。
お互いが天敵。
だけどそれと同時に、好敵手となっていた。
「ここまで強いとはな……恐れ入った…」
「そっちも……おんなじだけどな……」
どれほど時間が経っているだろうか。
この場にいる二人にとっては長くも感じたし短くも感じとれていた。
ただただわかる事が、お互いがお互いにボロボロな状態になっており今にでもどちらかが倒れてもおかしくない状態でもあった。
「なぁ…勇者よ……お前は何のために戦う?」
マリアベルが何気なくそう語ってきた。
今の状態がちょうどいいかのように、勇者に問いを投げた。
一瞬は揺さ振りじゃないのかと思っていた零だが、魔王が何もしてこないと思った事で、それがただ普通の問いだって事に気づいた。
「別に戦う事に意味なんて……ねぇよ。ただ平和を取り戻すために……戦っているだけだよ……!」
他の者からしたら、その言葉は勇者として当然だと思う。
だけど本人は違っていた。
何故なら零自身は、異世界の平和と一緒に、ただ普通の生活に戻りたいから戦っていたのだ。
彼がこの世界に来たのは三年前。
教室に一人でいた零は、何もかも当たり前の生活を送っていた。
ただ平和な世界でのんびり外の景色を眺めていた時、突然現れた魔方陣によって異世界に連れていかれて、その世界で勇者として戦わないといけなくなってしまったのだ。
異世界に召喚されて、何もかも当り前じゃない生活を送ってきていた零は、魔王である彼女を倒して、元の世界に帰って普通の生活を取り戻そうとしていたのだ。
「お前は…私を倒して、この世界で何を欲する…?」
「俺はこの世界では何もいらない……ただ平和な日々を送れれば……それでいいんだよ……」
鋭い眼光で魔王をにらんで答えると、彼女はさっきまで笑っていた顔とは違って、何かを思い出すかのように微笑んだ。
「そうか……お前も私と……同じような事を考えていたのか……」
「……は?」
一瞬何を言ったのか分からなかった。
その微笑みは一体なんだ?
魔王は何を考えて言ったんだ?
零がそう思っていると、マリアベルが持っていた魔剣が激しく燃え上がるような黒い炎を纏っていき、上にあげると同時に巨大な火柱をつくっていた。
「これが最後だ。この一撃で、私はお前を倒す!!」
魔王の魔力はもう限界に近かった。
魔剣から出されている炎の熱は、部屋全体に行きわたっていた。
そしてこの光景を見ていた零は、今見ている攻撃が本当に最後だと悟った。
「なら俺も…この一撃で、お前を倒す‼」
零もそれに答えるかのように立って、持っている聖剣にありったけの魔力を流し込んで、巨大な光を出現させた。
両者が出現させている炎と光は、文字通りの最後の一撃。
もう次はない。
勇者も魔王も、一撃に賭けていた。
そこの訪れたわずかな静寂。
どちらも隙を見せない構えで、見合っていた。
そして、その時は来た。
「業炎の審判!!」
「常闇を掻き消す神剣!!」
両方同じタイミング。
一秒のズレもない。
二人が同時に攻撃を仕掛け、一気に前に出た。
そしてぶつかり合う寸前で、お互いに剣を振った。
炎の魔剣と光の聖剣。
威力は互角。
気迫も互角。
ただお互いの一撃は、一歩も引いていなかった。
「はあああああああああ!!」
「うあああああああああ!!」
勇者である零は平和のために。
魔王であるマリアベルは勇者に勝つために。
お互いが引けに勝負をしていて、一夜も掛かったその戦いは、ついに決着を訪れさせた。
魔王が持っていた魔剣、ペイン・ルージュは徐々にヒビが出始め、魔剣は二つに折れた。
そして聖剣はそのままの威力で魔王に襲い掛かり、魔王の体を切り裂いた。
「――――――私の…負け…か……」
魔剣を手放してその場に倒れると、彼女の斬られた場所から塵になっていってた。
零の体は限界が来ていて、その場に止まって立っているのが精一杯だった。
だけど魔王の体が塵になっていってるのが分かると、その時点で戦いに勝ったと分かった。
「ねぇ……勇者。死ぬ前に……名前を聞いていいかしら?」
彼女の言葉には、もう闘志はなかった。
そして自分が敗北した事を受け入れるかのように、その体はもうピクリとも動かさなかった。
零はゆっくりと彼女に近づき、自分の名前を言った。
「零―――――白崎零だ……」
零はこの世界での名前の言い方で答えると、魔王は優しく笑った。
「そう……それじゃあ零。また会おう。」
彼女の言葉に不思議に思っていたが、その質問をさせないかのように魔王は消滅した。
その瞬間、勇者と魔王の戦いに決着がついて、勇者の勝利と一緒に、世界に平和が訪れる事になった。