12話 魔王とデート3
スキップを混じらせながらゲーセンに向かった俺たちは、まずどれから始めようかを悩みながら両替機にお金を入れ込んでいた。
「さて、どれからやっていきましょうかね。」
「クレーンは荷物になるから後にして、まずは音ゲーかシューティングゲーに行こうか。」
「じゃあまずはあのゾンビが出るあれからしようか。」
「一発目から強烈だな…」
とは言いつつもちゃんと付き合ってやるために始めて、少し手こずらされながらも、何とかいいスコアの状態まで行くことができ、最初は満足のいくような感じで始まった。
ただやりたいといった本人が開口一番にゾンビに対して絶叫していた時は少し引いたけどな。
やりたいって言っておきながらそれはないわー…って思ってしまった。
「私ばっか選ぶのもなんだから、今度は零君が選んでいいよ。」
「あぁーそうだなぁぁ……おっ、あれとか面白そうだな。」
俺が見回して選んだゲームは、ルーレット上になったゲームで、手前のボタンでルーレットを止めて、当たれば景品ゲットのようなゲームだった。
「景品はコンソメチップス3袋セットか。なぁ真莉亜、どっちが先に当てれるか勝負しようぜ。」
「いいよ。瞬で終わらせてあげるわ。」
それからは…まぁ……泥仕合の始まりだった。
最初にいけたんじゃないかって思っても、何故か隣に止まったりしてはずれるばっかで、いつしかお互いに千円流し込んだ辺りでようやく俺が勝った。
最後あたりはもう勝負なんて何もなかった。
いつの間にか協力してたもん。
それからはメダルゲーで何度かジャックポッドになってテンションが上がったりして楽しみ、メダルがなくなった時には3時間もやってた。
「大分楽しめたな。」
「そうねぇ……さて、そろそろあれをやろうか。」
「そうだな。最後は俺の得意分野で締めにしようじゃないか。」
クレーンゲームは俺の得意分野だ。
これまで何度もやってきて、何時しか何処を動かせばいけるかが瞬時に分かってしまい、これまで何度も大きな景品を獲得してきた。
故に俺に獲れない景品はない!
「さて、手始めにどれで行こうかねぇ……」
お菓子類は程々に獲って、あとは華怜がアニメ好きだから持ってなかったフィギュアを一つ持って帰ればどうにかなるかな。
あぁでも、まずは真莉亜にリクエストしてみるか。
「真莉亜、何か摂って欲しい物とかある?」
俺が景品を見ながら言ったけど、返事が返ってこないから振り向くと、真莉亜の目の先には大きめの猫のぬいぐるみがあった。
「これ、欲しいの?」
「……うん。でも、これって結構苦手だし、無理かな。」
「よし、なら俺に任せとけ。」
「え? でも大きいよ?」
「生憎だな、俺の辞書にクレーンゲーで諦めという文字はないんだ。」
俺は100円と投入して、巨大猫のぬいぐるみの獲得を開始した。
まずは小手調べだな。
動き次第では投入金額が把握できる。
「最初は真ん中だな。」
胴体の真ん中をアームで掴むと、猫は以外にもあっさり持ち上がって、一気に10センチも動いた。
「ふむ、これならそこまで問題なさそうだな。」
見た感じアームは強い設定にしてあるし、これなら手こずる事はなさそうだな。
二回目で同じように動かし、三回目で少しずれたが予定していた場所に置かれ、四回目で片側を一気に持ち上げてそのまま穴に入れ込んだ。
「ミッション完了。ほい、獲れたぞ。」
「わぁぁ、かわいい! ありがとう!」
余程嬉しかったのか、猫のぬいぐるみを抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
嬉しそうで何よりだ。
だが猫よ、そこ変われ!
俺にもその感触を味わらせろ!
そんでもって笑顔がかわいいな!
普通に惚れそうになるわ!
だがそれは言わない。
全てを知ってから言うべきだ。
待て、今は違うんだ。
「よーし、この調子でガンガン獲っていくとしましょうかね。」
この後は俺の無双タイムが始まって、予定としていたお菓子とフィギュア、ついでに母さんが使えそうな低反発枕も手に入れて、充分満喫できるくらい遊ぶことが出来た。
「いやぁ〜結構楽しめたね♪」
「そうだなぁ〜。ひっさしぶりに大量だし、これでしばらくは問題なさそうだな。」
俺も真莉亜も充分に楽しめたし、笑顔のまま帰れるのは満点だ。
うん、俺も真莉亜も大満足。
言う事なしだな。
楽しい雰囲気でバス停に向かっていると、俺のスマホが振動した。
「華怜からか。えーっと何々…」
『お兄ちゃん、冷蔵庫の中が何もないので買い物をお願いします。ついでにアイスも所望します。』
あ―そういえば中身は昨日見た時空っぽだったな。
あっても作り置きしている漬物だけだったな。
「真莉亜、帰る前に買い物に行ってもいいか? 晩飯の食材を買わないといけないからな。」
「それだったら、私も付いて行くよ。」
「え? でもお前って別に帰る家はあるんだろ?」
俺がそう言うと、真莉亜は何かを察して溜息を吐いた。
あっ、嫌な予感しかしない。
「それも聞いてなかったなんてんね。実は今日から、私は零君の家に住む事になったの。」
「―――――マジで?」
「マジで。」
顔から察するに本気。
本気と書いてマジ。
つまり魔王だった真莉亜と屋根の下で生活ですか。
かつての仲間や知り合いが聞いたら目が飛び出るだろうな。
これから母さんや華怜にも気付かれないように、慎重にやっていかないといけないのはまんまか。
「しゃあない、考えても無駄か。俺も今日はあまり凝ったものは作りたくないし、刺身を買って手巻きにするか。」
「おっ、いいね! それじゃあ早速行こうか。」
「ってうぉ――――い! また俺の腕を引っ張って走るんじゃねぇぇぇ!!」
デートの初めの時のように、俺はまた引っ張られながらも、いつも使ってるスーパーに向かい、刺身を多めに買って、ついでに明日の材料も買って帰路に着いた。
ちなみに家の周りに人がいないのを確認してから、俺たちは収納庫に入れてた真莉亜の服や今日の戦利品を出して家に入った。
ここまでは良かったのだけど、いかんせん荷物が重すぎてからどっちも牛歩になってしまい、目の前にあるはずの家が遠く感じてしまった。
「さて、もう一回確認するけど、今日から住むのを知ってるのは多分母さんだけだから、華怜は何も知らないでいいんだな?」
「うん、その可能性はあると思うよ。」
「それと、残りのそっちの話は事が全部終わってから、俺の部屋に来るようにしてね。幸い今日は土曜日、少し遅くなっても明日は日曜日だから、ゆっくり話し合おう。」
「うん、分かった。」
「よし、それじゃあ家に入りますか。」
お互いの確認が取れた所で、俺は玄関のドアを開けた。
そして俺は、彼女の過去を聞いて愕然とするのだけど、それはまだそう少し先。




