夜更かし
アマネを寝室に送り出した後、僕は寝付けなくなっていた。
今日は想定外のハプニングが続いたが、特に最後のアマネは刺激が強すぎた。
いくらマリーに抱きつかれたことに怒ったからと言って、何故彼女はあのような大胆な行動をとったのだろうか。
まさか僕に襲われたいと思ったかと小首を傾げつつ、そんな都合のいい話があるものかと僕は首を横に振った。
悶々と電脳空間に浮かぶのはアマネの事ばかり。マリーの件はあれで一気に吹き飛んでしまっていた。
やはりいくら彼女に似ているとはいえ、マリーとあの人は別人なのだ。あの一瞬、少しだけ同一視しかけた僕の心は、アマネに傾倒する自分によって否定された。
首筋に焼き付いたマリーの感触は既にない。
押し当てられたマリーの柔らかさも同じだ。
もしもあの人のモノであれば忘れなかったであろうそれらを僕が忘れたと言うことは、マリーはやはり別人だ。
そして、それ以上に僕はアマネに魅了されているようだ。
頭の中で続きを何度も繰り返し想像する僕は、まるで壊れたレコードのようだ。
アマネに対して獣のようになりたいが、そんなことをしたら拒絶されるに決まっている。嫌われたくない僕としては、この思いは頭の中から吐き出す訳にはいかなかった。
いっそフラれる覚悟でアマネに告白するのも手段のひとつなのだろうが、恋愛に不馴れな僕には出来ない。というか、心こそ人であってもオートマタンである僕を、アマネは男として受け入れてくれるのだろうか。
僕はアマネが気にしていないことを問題にして踏み出せずにいた。
だがこのまま溜め込んでも僕の頭脳がショートしてしまいそうだ。
僕は気を落ち着かせる意味も込めて、この思いをパン生地にぶつけることにした。
まだ早いが、今日の売り上げを考えればいちご大福パンを増やしてもいいだろう。そのための仕込みを僕は先んじて始めることにした。
雑念が混ざる僕の手先はパン生地をアマネの肢体に重ね合わせ、掌はあのときの感触を反芻していて妙に熱い。
実際には軽く押し付けられただけの胸の柔らかさを思い出しつつこねる生地はアマネの体そのもののようで、いつものようにこねているだけで気持ちが昂ってしまう。
生地の柔らかさを女体のそれに例えた先人も同じ気持ちだったのだろうか。詩的なことを考えているうちに、百八十個分の下ごしらえが完了した。
昨日から増やした六十個は新作のクロサキイチゴを使ったいちご大福パンとあんパンだ。
アマネには許可を取っていないが、木苺のいちご大福パンの手応えから僕は販売を強硬することにした。
これでダメならいずれ僕らのトスカーナも頭打ちだろうし、今はモトベという心強い協力者もいる。だから僕は強気になる。
別にアマネの体が僕を奮い立たせたから蛮勇に走った訳ではないが、完全にはそれを否定できない。
アマネの柔肌を思い浮かべて作ったパン生地は、滑らかで柔らかく仕上がった。