仲直り
ヨハネへの態度が影響したのか午後の売り上げは伸び悩み、この日は二十個ほどのパンを余らせてしまった。
実倍数で九十個を越えていたのでアガリは充分とはいえ、あまり引きずりたくない。
それどころか変に拒絶してしまった手前、ヨハネがヘソを曲げていないかがわたしの中では大きな不安になっていた。最初から自分が変に騒がなければよかったのにと、後悔してももう遅い。
ホームに帰って売れ残りでの夕飯の間はヨハネもわたしも普段通りである。この日の反省を打ち合わせをするが、あの事だけは避けているので少し口数が少なかった。
わたしはシャワーで頭を冷やしてから、意を決して彼にぶつかってみることにした。
「あ、あのねヨハネ……」
緊張してどもり気味なので少し変に見えただろうか。
わたしは水滴が拭いきれずに滴っていることにも気づかないままヨハネに寄り添う。
「昼間はゴメン。ヨハネは悪くないのに怒っちゃって」
「えっと……あ、あの事か」
「勝手にしろと言った手前、ヨハネがマリーちゃんと何をしてたのかは詮索しないわ。だけど怒ったことを許して欲しい」
「許すも何もないさ。むしろ誤解させてしまったのだから、怒られて当然というか。むしろ僕もアマネに嫌われないかビクビクして、その事はさっきから避けていたし」
「ご、誤解? マリーちゃんにこんなことをされてたのに。まあ、ヨハネの本意じゃないのはわかっているって」
ヨハネは誤解だと言うが、どこが誤解なのだろうと、わたしはあの事を再現した。
マリーちゃんほど大きくはない胸を寝巻き越しに押し付けて、ヨハネの首元に顔を近づける。いくら身ぶりでの再現とはいえ、流石にキスをしようとした時点でずいぶんと大胆だと気付き思い止まるがこの時点でやり過ぎた。
モトベさんの冗談ではないが、ここまで来たら押し倒す一歩手前である。
「あ、アマネ?!」
わたしもずいぶんと赤面しているが、ヨハネのそれはわたし以上だ。
「本当に誤解なんだって。あれはよろけたマリーを受け止めただけだったんだ」
「く、首筋にキスまでされてたくせに」
おっぱいもだ! と言わんばかりにわたしは胸を押し当てた。
心の中では恥ずかしいのに、体は勝手にヨハネに向かってしまう。
「それも不可抗力さ。だからあれから先は何もしていないよ」
「本当に?」
「本当さ。それともアマネ……もしかしてキミはその先が……」
ヨハネに諭されて、ようやくわたしは理性的な考えで動けるようになった。
ヨハネの言う通り、したいかで言えばしたいのだが、恥ずかしくて自分からそんなことは頼めない。
告白だってまだなんだし、それどころか告白する勇気もないのだから、告白の先を懇願できるはずがあろうか。
わたしはなにも言い返せないまま固まってしまった。このままヨハネが押し倒してくれれば楽なのにと思いつつ。
「あ……それは……」
「ごめん。そんなわけないよね。冗談はそれくらいにしよう。お互いごめんなさいであの事はおしまいにしようじゃないか」
だがヨハネはわたしを押し倒さなかった。
紳士的にわたしを体から引き離すと、ヨハネはわたしの肩をパンパンと叩く。背筋が伸びて少ししゃっきりとしたことで、わたしも落ち着きを取り戻した。
「そ、そうだね。ハハハ」
暴走の結果ながら、あれだけムニムニと胸を押し付けてしまったので、彼の方から手を出してくれれば楽だったのに。
脳内で願望を溢すが、ここまでしておきながらわたしは引っ込んでしまった。
最後の一線を越えることがとても怖くて足がすくむ。
そのまま心の内を隠したまま床についたわたしは、息を殺しながら眠りについた。