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鉄の馬

 サイバネホース。

 その名を聞いて、僕はかつてを思い出す。

 二千年問題の時代に開発された白兵戦用の歩兵補助ユニットとしての記憶が強く、同じ様に僕自身も兵器としての改造を受けたことを思い出してしまう。

 ライカンスロープはジャポニウムリアクターを搭載したオートマタン兵器なわけだが、

 「大型リアクターを内蔵し、起動兵器として完全に改造された壱型」

 「小型リアクターを内蔵し、単体では強力な歩兵として、外付けオプションとの合体で大型起動兵器としての活動を可能とした弐型」

 「大型リアクターを搭載した起動兵器とリンクして、起動兵器の機体管制とオートマタンへのエネルギー供給を可能とした参型」

 これら三種が存在しており、ヴェアウルフとリンクする僕の場合は参型に分類される。

 その特性上、僕ら参型と弐型のライカンスロープは、サイバネホースを使う機会もそれなりの頻度だった。

 当時のサイバネホースは胴体ユニットに武装収納用のコンテナや、オプションのロケット砲などを搭載した戦うための兵器だった。

 どんな悪路も時速百キロで走破する鉄の騎馬に助けられたことは何度あっただろう。


「これが例のサイバネホースかな」

「そうです。借り物ですけれど」


 マリーに見せてもらったそれはたしかに懐かしい鉄騎だが、その装備はだいぶ様変わりしていた。

 武器が一切ないのは当然だが、センサー類の異様なまでの性能向上は、ナビゲーションシステムの範疇を越えているようにさえ思える。

 まさか僕を探すために開発されたとはとても思えないが、臭覚やイオン反応から追跡する機能は普通ならば不要とさえ思える。


「それにしても、追跡用のセンサーがついているのは驚きだ。これは標準装備なのかな?」

「いいえ。今回の為に特別に借りたもので、一般用ではありません。こんな手段で家捜しをしてしまってごめんなさい」

「それについては来週また来たときにと、連絡をしなかった僕も悪いからお相子さ。なにせ僕はデバイスの類いを持っていないしね」

「そうなのですか?」

「いろいろ事情があってね」

「でしたら……これから一緒に買いに行きませんか?」


 事情があると言ったのにと言いかけるが、邪険にするのも悪いかと僕は言葉を押し止める。

 このマリーという子は驚くほどに僕が知るあの人に似ているが、それと同時に驚くほどに別人である。もしそのままのあの人であれば僕の心も迷いかけたが、彼女にはそういう感情は抱く気配がない。

 だが似ているからこそ邪険にしたくないし、似ているからか彼女が僕に好意をもっていることも手に取るようにわかってしまう。

 自分がされたら嫌なことを思い浮かべつつ、僕は彼女を傷つけたくない、穏便に済まそうと心がけていた。


「お誘いは嬉しいけれど、本当に都合が悪いんだ。そもそも通信料すらまともに払えないからね」

「お……それは残念」


 彼女は何かを言いかけたが、それを押さえてくれた。

 どうやら譲歩してくれたのだろう。


「なので本当にこちらの都合で申し訳ないが、用事がある場合は直接訪ねてきてくれないかな。土日に店まで来てくれるのが一番だけど、平日も学校をサボったりしない範囲でなら来ても構わないし」

「わかりました」

「それと女の子だけでの往来は危険だから、出来れば四時には帰った方がいい。馴れた僕でも夜道は怖いしね」

「その点はご安心を。このサイバネホースは危機察知機構が搭載された疑似オートマタンで、周囲に怪しい人がいたら自動で逃げてくれますので」

「随分と至れり尽くせりだ。流石は特別仕様ということか。でも過信は禁物だよ。オートマタンとて絶対ではないのだから」

「心得ていますよ、それくらい」


 彼女は信用しているようだが、僕は疑似オートマタンと聞いて逆に不安になった。

 僕のように本来のオートマタンが自立思考型であるのに対し、疑似オートマタンは制御用に人工知能を搭載こそしているが、自我もなければ受動的にしか行動できないシステムだったか。

 たしか二千年問題後期でも本来のオートマタンと違って、利便性の建前から排斥されなかったシステムのハズだ。

 僕が知る軍事用サイバネホースにも疑似オートマタン型は存在したが、あれは仕組みを知っていれば突ける弱点が山ほどあった。それを踏まえて僕は過信する様子の彼女が心配になる。


「とりあえずどんなものかわかったよ。ありがとう、中に行こうか」

「どういたしまして」


 今日は友人も一緒なので大人しく帰ってくれるであろうが、明日以降に何か無茶をしたりしないだろうか。

 僕をあからさまに慕うマリーの様子に、僕は一抹の不安を覚えた。

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