非日常1
目を覚ますと見慣れた天井、今日もいつも通り。
妹と洗面台を争ってバトル、これもいつも通り。
俺はしょっぱい目のほうが好きなのに、出てくるのは甘めの卵焼き、これもいつも通り。
制服に着替え、バス停に7時半に、これもいつも通り。
俺の名前は藤原修斗、高校二年生だ。
部活は帰宅部、バイトもしてない、完全フリーだ。
まぁ、それには訳があるんだが…。
いつも通りが過ぎるこの日常をぶち破る何かが起きてほしい。
そういう願望が俺にはあり、そういう予感が今日、俺にはあった。
そんで俺の予感はよく当たる。
黒い煙を細長い排気管から上げ、バスがやってきた。
学校までは約15分の道のり。
遠いようで近いような…
チャリで行けないこともない距離だ。
まぁ、なんでチャリでいかないのかは察してくれ。
そういうことなのさ。
バスに乗るといつも見たことのあるような乗客の中に
見慣れない女性が一人立っていた。
(うぉ、美人…!)
思わずそんなことを考えてしまっていた。
男なんてそんなもんよ。
その女性はさわやかな顔立ちと
抜群のスタイルの良さをしており、まるでモデルのようだった。
ただ一つ…
女性の額にはその顔立ちには似合わないような量の汗をかいていた。
バス乗るのギリギリだったのかな?
そう思っていると、空気を伝って振動が俺の体にやってきた。
うおぉぉぉ!
車内は騒然とし、パニック状態に陥っていた。
あの人は大丈夫だろうか?
一瞬にしてそう思った俺は彼女のほうを振り返ると、
彼女は振動の源である上空のほうをしきりに気にしていた。
約1メートル離れた彼女のほうから
まるで騒がしい車内から、そこだけ切り取られたように
「もう来たのか、バレるのも時間の問題か…」と聞こえた。
ははぁ~ん
なんとなく俺の頭ではつながり始めていた。
彼女の額の汗、今の発言、突然の衝撃波。
…これだ!俺の予感は!!!
すると…
「きゃ~!前!前!」
車内に甲高い女性の声が響き渡った。
俺は急いで前を向きなおすと、遠くのほうから
見たことのない、この世のものとは思えないような生物がこちらに向かって
車の列をなぎ倒しながらやってくるのが見えた。
さっきの衝撃波での混乱でバスの周りは渋滞しており、
とても今から横道に避けられそうにはなかった。
俺は急いで車内の前のほうに駆けていった。
「運転手さん!ドア開けて!」
俺の声は運転手の男には届いておらず、
口をあんぐり開けたその表情は、己の死を予感しているようであった。
(こっから展開するか…!)
俺は手を開き、腕を前に突き出した。
あの突進が止まりさえすれば良い…、最低限の展開で…
「<大地の壁>!!!」
しかし、コンクリートによって整備された地面はとても重く
通常、一瞬にして展開できるはずの魔法はうまく展開できずにいた。
重っ……!!!
無理やり展開させるのに、使う魔力を追加し、威力を底上げする。
「がああああぁぁぁぁ!!!!!!」
無理やり、コンクリートを突き破って地面を隆起させると
俺の口からは自然と声が上がっていた。
約20メートルほどの土の壁に
正面から突撃した正体不明の生物は勢いを失い、その場にうずくまるようにして
倒れ、もがき始めた。
それはまるで人間が頭を打った時に見せる反応のようだった。
「みなさん!あの怪物がまた動き出す前に、ここから逃げましょう!運転手さん!」
「……あぁ、ドアだね!」
今度は聞き取ってくれたようで、運転手は急いでバスのドアを開けた。
急いでバスから降りていく人々、
中には俺に感謝を述べていく人もちらほら…。
そんな人々の中から俺は一人の手をつかんだ。
「あんたは残ってほしい、いや、残ってもらう。」
意味深な発言をしていた彼女だ。
彼女は意外にもすんなりと俺の要求を受け入れた。
「これが何なのか、説明してもらおう。
…が、その前にこのデカブツを何とかしなきゃなぁ。」
そう言い、俺もバスを降り、起き上がってきた生物と対峙する。
「サクッとやっちゃいますか!」
これがひなたとの出会いであり、俺たちの旅の始まりだった。