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おにぎりも好きなんだな

ちょっとした商店が立ち並ぶ、田舎の高校生たちが休日に繰り出してくるような規模の街。

それが、私のカドゥレに対する認識だ。

もちろん我が麗しの小さな村からすれば、比べるべくもなく発展している。

周辺の田舎からも同じような人々が集まってくるために、お土産屋さんなどもわりかしある。

件の不思議な若者を街に着くなり放流したバートと、その並びをのんびりと行く。

アクセサリーを買おうとは思っているが、財産になるような貴金属売り場は、比較的街の中央にあるのだ。


ほどほどの人混みの中、村では見ないような商品たちに目移りしながら歩く。


「バート、あれは」


「魔物避けの笛だね、安物だからほとんど音は出ないと思うけど」


「あれは?」


「占星盤、夜空に合わせてみて、吉凶を占うんだ。あの情報量だと、せいぜい相性占いくらいかな使えるの」


ロマンチストたちが、お土産にするんだろうか。

たしかにあれ一つ持っていけば、一週間くらいは楽しめそうだ。

みたことのないお菓子やおもちゃ、それから若干既視感のあるペナント。

たしか、随分昔に流行したのだったか。

もしかすると、他の神代が持ち込んだ文化なのかも知れない。


「えっ、ペナント(それ)買うの」


「……うちの壁に飾ります」


この世界ではまだまだ流行っているのかと思ったが、別にそうでもないらしい。

しかし、ほんのりと故郷を思い出すので一枚だけ手に取る。

周辺の村よりも栄えているとはいえ、観光名所というわけでもない。

若干の自意識が見え隠れする二等辺三角形を、買い上げてカバンの中に入れた。

いけない、大金があるせいで気が大きくなっている。

お金というのは小さく使うのが癖になると、あっという間になくなってしまうのだ。


現在、報酬の約六割を懐に収めている。

これを貴金属に変えて、小さめの蓄えとする予定だ。

落としたり盗まれたりしたらと思うと、どきどきする。


「あぁ、この店がいいんじゃないかな」


歩いているうちに、バートが程よいお店を見つけたようだ。

地味だが上品な店構えで、しかし店の中は自然な明るさに調整されている。

入ってみると、ドアベルが涼やかに鳴った。


「いらっしゃい」


新聞を読んでいる店主の老人が、私たちを一瞥して視線を外す。

私にとっては気後れしてしまう場所だけれど、バートは自然な動作で展示されている商品を眺め始めた。


「落とさないことを考えると、ピアスか指輪かなと思うんだけど……両方向いてなさそうだねぇ」


「ピアス穴ないですし、痛いのはちょっと」


それに、色々と作業の多い暮らしをしているので、手につけるものも邪魔だろう。

二人で頭を悩ませつつ見て歩くと、ふとキラキラした石が目に入った。

銀色のフレームに収まった、小さなクリスタルのような石だ。

見る角度によって、全く別の色に変わる。


「あぁ、これもなかなか良いんじゃないかな。空の魔石だよ」


「マセキ?」


「要は魔力がこもった石のことだよ、えぇと…ヒロちゃんの世界で言うなら【電池】かな。あらゆる装置の、動力源になってる」


それは、私が思っている電池よりも随分と有能そうだ。

しかし。


「たくさんあるなら、高価でないのでは?」


「市場に出回っているような、低容量のものならね。これは空だけど容量は大きい、魔力を溜めると結構な値段で取引されるようになる」


値札を確認する。

今回の軍資金で、5、6個は買えそうなお値段だ。


「これ一つに魔力を溜め切るのに、ヒロちゃんなら一年くらいかな。それで、倍以上の値段になるんだ」


「買います」


「即決だなぁ」


清貧を強制させられていた私にとって、夢のような資産だった。

見た目もキラキラしてて可愛いし、ぜひまとめてお買い上げさせていただきたい。


「魔力注ぐって、どうやるんですか?」


「簡単だよ、身につけておくだけ。自然が発するエネルギーを、溜め込んでおく道具だからね。普通のやつは、地脈の上とかに保管してそこから漏れる魔力を蓄えるんだ」


なるほど、生物から吸収するよりもよほど効率的なのだろう。

大容量のものは溜めるのに相応の時間がかかるため、皆欲しいものの多くは出回らないらしい。


「……ペンダントに加工するなら、これくらいですよ」


案外話を聞いていたらしい店主が、指を二つ立てる。

よくわからなかったのでバートを見上げると、心得たように頷いていた。


「それで構いませんよ…ヒロちゃん、いくら買っとく?」


一年に一つが満タンになるということは、たくさん買いためておく意味が薄いと言うことだ。

竜車で数時間の街なら、年に一度以上の頻度で訪れることも可能なのだから。


「これ、いつでも手に入るものですか」


「うぅん、どうだろ。情勢によるね」


絶対に手に入る、というものでもないのか。

少し考えて、数を決める。


「じゃあ、三つ」


「あいよ」


店主のおじいさんが、のっそりと動いて魔石を取り出してくれた。

展示台の下に小さな引き出しがあり、そこに在庫が入っているらしい。


「チェーンは、自分でつけてくれ。最近、手が震えてな」


確かに、随分とお年を召している。

見てみれば単純な作りのもので、自分にもできそうだったから了承した。

早速一つ目を首から下げて、シャツの中に隠す。

おじいさんにお礼を言い、店を後にした。

持ってきたお金には、まだ余裕がある。


「せっかくですから、お店で食べましょうか」


満ち足りた気分でバートに言うと、彼も嬉しそうに頷いてくれた。

それなりに工夫を凝らしてきたとはいえ、粗食は粗食である。

私よりも体の大きな彼には、より辛い暮らしだっただろう。


「たくさん食べられる、食堂みたいなお店にしましょうね」


「若さだねぇ」


バートにたくさん食べてもらいたいからのつもりだったが、それを言うのも無粋な気がして、私は食いしん坊の称号を甘んじて受けた。

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