プロローグ
「わたし、しらゆきひめになりたい!」
「わたしは、しんでれら! きらきらなの!」
「わたしは、にんぎょひめになって、うみをおよぐ~!」
子供の頃、絵本のお姫様に憧れて、友達と一緒にお姫様のごっこ遊びを楽しんだ。
誕生日には親にねだって、お姫様のドレスを買ってもらった。
将来は絵本のお姫様のようになりたいと思っていたし、なれると思っていた。
「みてみて〜! ラプンツェルの鏡! 可愛いでしょ!」
「あ、私もこの前赤ずきんちゃんのメモ帳見つけて、つい買っちゃった!
あんまり無いんだよね〜、赤ずきんグッズ…」
お姫様が好きなのは高校になった今も変わらなくて、雑貨屋で好きな童話のグッズを見つけては購入し、友達同士でお披露目会をしていた。
「そういえば、雛は何が好きなんだっけ?」
「私はアリス! みてみてこのチェシャ猫のマスコット、可愛いでしょ!」
「あ、可愛い!」
年齢を重さねていくうちに、いくら憧れても童話のお姫様にはなれないと気がついた。
きっとこうやって友達とくだらない話をしては笑い、大人になっていくんだろう。
「あ、話は変わるけど今日クレープ食べに行かない?」
「行きたい! 行きたい!」
「私も行くー!」
クレープ屋に向かう為、友人が机にかけていたバックを肩にかける。すると、バックに付いていたシンデレラのストラップがキラリと光った。
「シンデレラ、かぁ…」
「ん? 雛どうしたの?」
「あ、ううん! なんでもない! クレープ食べに行こうか!」
(昔はシンデレラや白雪姫に憧れて、率先してお母さんのお手伝いをしていたなぁ…)
友人のストラップを見てふと昔を思い出す。
お姫様に憧れていた当時の私は「白雪姫やシンデレラになった時に備えて、家事を出来るようにしておかなきゃ!」と必死に親の手伝いをしていた。
親も親で「可愛いシンデレラ! こっちも手伝ってくれる?」なんて言うもんだから、シンデレラになりきり、張り切ってお手伝いをしていたものだ。
まぁ、その甲斐あって、年齢の割には一通り家事はできるようになったのだが……
今思うと親にいいように使われていただけなのではないか? と思う…
「クレープ美味しいね!」
「あ、私にも一口頂戴!」
「そっちは何味?」
「私はいちごカスタード! 雛は?」
「私はチョコバナ……あれ?」
放課後、友達とクレープを頬張りながら帰っていると、一匹の黒猫が道路を横断する姿が目に入った。
「あ、猫だね。可愛い!」
「う、うん…。だけど大丈夫かな? ここ交通量多いし…」
「猫だし、大丈夫じゃない?」
「うーん…………あっ」
なんとなく、黒猫と“目があった”気がする。
そして目があった途端、黒猫はなぜか道路のど真ん中で寝転がってしまった。
「え、なにやってるのあの猫?」
「……ごめん、みっちゃん。クレープ持ってて…!」
「え? ちょっと、雛!」
友達にクレープを渡し、道路で丸まって寝ている黒猫に近づく。
「よーし、おいで」
そう言いながら手を差し出すと、黒猫は私の指の匂いを嗅いでから胸元に飛び込んできた。
なんとなく、こんなことをしてると前に見た映画のワンシーンを思い浮かべてしまう。
「次の日、恩返しとして大量のマタタビや魚が家に送られてきたりして…」なんて、ぼんやりと考えていると…
――ニヤリ…―
(え…?)
「雛! 危ない‼」
黒猫が三日月のように笑う。
黒猫が笑うのが先か、
友達が叫ぶのが先か、
はたまた同時か…
今となっては、分からないけれど…
気がつくと目の前にトラックがいた。
『むかしむかしあるとろこに、仲の良い夫婦とシンデレラという美しい娘がおりました。
しかしシンデレラがまだ幼い頃に母親は病で亡くなってしまいました。
シンデレラがあまりにも悲しそうに泣くので、不憫に思った父親は母親と同じぐらい美しい女性と再婚しました。
しかし再婚相手である継母とその連れ子であるニ人の姉はとても意地悪で、シンデレラはまるで召使いのように扱われておりました。
更に、唯一の肉親である父親も出稼ぎ先に行ったきり……帰らぬ人になってしまったのでした……』
「……! ……!」
「うーん…」
(お母さん…?
うるさいなぁ…まだ目覚まし鳴ってないよ…)
「……ラ! ……おきな………! …ン……ラ!」
「うる、さいなぁ…」
「いい加減起きなさい! シンデレラ‼」
「うわっ!」
大きな声が聞こえたと思いきや、頭の上から大量の水。
「……冷たい」
「やっと目が覚めたかい! いつまで寝てるの! 私達の朝ごはんは⁉」
「あさごは、ん…? あさごはんは…いらない…」
「あんたの朝ご飯を聞いてるんじゃないのよ! 私達の朝ごはんよ‼」
「えー……………えっ?」
寝ぼけ眼を手で擦り、目を開ける。
すると私の目の前には、身長の高い美しい女性、やせ細った吊り目の女性、ふくよかな垂れ目の女性が立っていた。
「えっと…どちら様でしょうか…?」
「何言ってるのシンデレラ! この灰かぶり!
朝ごはんが用意できていないのなら、さっさと街に行ってパンでも買ってきなさい!」
「パンはカニンヒェン・ベーカリーのパンね! 私ブリオッシュがいいわ!」
「あと、そこの濡れている場所もきちんと片付けておくのよ!」
「早く行きましょう、こんな埃っぽいところに長く居られないわ!」
三人の女性は各々の要件を伝えると部屋から出ていってしまった。
まるで嵐のようだった…
「えっと…」
“何言ってるのシンデレラ! この灰かぶり!”ってさっきの人は言っていたよね…
シンデレラってまさか、童話で有名な…あのシンデレラ?
いやいや、でも私はシンデレラと呼べる程の顔面の作りではないし…
「と言うか私…轢かれた、よね?」
最後にある記憶は黒猫を助け、その直後トラックに轢かれた記憶。しかし、痛みなど一切感じられなかった。
念の為、頭から足まで全身を触ったり、傷がないか確認をするが、やはりかすり傷一つも見つからない。
「てか、なんだろう…この服…?」
普段の私では絶対に着ることのない、色落ちが酷く、くすんだ灰色のワンピース。
どことなく古臭い洋風のデザインで、周りでこのような服を着ている人は見たことがない。唯一見た事があるとすれば漫画や映画など、非現実物語の中だけだ。
「はっ! もしかして最近、巷で流行っている“転生きたら○○でした”みたいな感じで私も転生した、とか?」
それならこの摩訶不思議な現状を理解できる。
トラックに轢かれたにも拘わらず無傷な体、見覚えのない部屋と服装、そして“シンデレラ”と呼ばれるこの現状を…
おそらく私は有名なあの“シンデレラ”に転生してしまったのだろう。
正直、お姫様になりたかった私にとってはこの上ない程、喜ばしい転生だ!
不慮の事故で死んでしまった事は悲しいが、転生先があのシンデレラであれば±0である!
「シンデレラって事は、鏡を見たら絶世の美女が映っているとか⁉」
よくある転生物語の転生先の大半が美女だったり美少年だったりする。
しかもシンデレラといえば、とても美しい女性で有名だ。
これは期待せざるおえない!
そして私は高鳴る胸を落ち着かせながら、部屋に置いてあった古びた小さい手鏡で自分の顔を覗いた。
「うそ…」
まんま私やんけ。
いやいやいや、そこは絶世の美女じゃないの⁉
強いて言うなら髪の色がゴールドブラウン? に変わったかな? しかし、顔のパーツ・目の色などは十七年間付き合ってきた見覚えのある顔だ。
「え…シンデレラだよね…? あれ?」
絶世の美女で魔法使いに魔法かけられて舞踏会でガラスの靴落としてハッピーエンドになる物語の主人公だよね?
あれ、自分で言うのも癪だけどいいの? この顔で?
「シンデレラーー! 早くしなさい‼」
「あ…はーい‼」
下の方から聞こえてきた怒鳴り声にはっと我にかえる。
「とりあえず物語を進めてみよう…そしたら何か分かるかもしれない…」
軽く髪を整え、呼んでいる主がいるであろう下の階へ向かう支度をする。
(あ、そういえば…)
「あの黒猫助かったかな…」
そう呟き、私は埃だらけの小部屋を後にした。