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第7話:3日目② ~ゴブリンと形成魔法~

「ありがとう。お陰で今後が動きやすくなったよ。」


 風のエレメンタルにお礼を言うと「おうよ!」と笑みを浮かべる。

 かけていたメガネはいつの間にかどこかへ消えていた。


「さて、今後も長い付き合いになるだろうし、マナトにそうしたようにキミにも名前を付けたいんだけど、いいかな?」


 そう言うと「頼むぜー!」と同意してくれた。


 風のエレメンタル。全体的に緑色の少年。常にふよふよと浮いているせいか、やはりこの子には風のイメージしかない。


「キミの名前はブリーズ。ブリーズだ。どうかな?」


「おう!いい響きだな!気に入ったぜー!レインのあんちゃんありがとなー!」


 直訳でそよ風という意味だが、どうやら気に入ってくれたみたいだ。


「無事に名前も決まったことだし、ブリーズのできることを確認しとこうかな。ブリーズの形成魔法は木の家を作ることもできるのかい?」


「極論で言えばできるぜー。でもオイラ一人だと家というより小屋のようなのしか作れないし、使う魔力もオイラのほぼ全てが必要なんだ。ヒールを2回使った今だとちょっと作れないなー⋯。風のエレメンタルがもう一人居れば協力してそこそこの家が作れるし魔力の負担も少なくて済むんだけどさー。」


 なるほど。そんなこともできるのか。


「ふむ。まぁ家は必要なものが揃ってからだから、すぐにとは言わないよ。差し当たっての欲しい物は武器や防具、コップとかの家具が欲しいんだけど、大丈夫かな?」


「それくらいならすぐ作れるぜー!ただオイラは植物でしか形成魔法使えないから、武器も防具も木製になるから良い装備とはいかないけどなー⋯」


 そんなことは百も承知である。キラーグリズリーに襲われて死にかけてから実感したことは、身を守る手段が極端に少ないということ。

 俺は安全な現代日本で生まれ育ったから戦闘なんかはしたことないしできないけど、せめて防具くらいは欲しいと思ったのだ。

 木製でもあると無いとでは全然違うだろう。

 俺だけでなく、マナトも装備があったほうが自衛もしやすいし狩りもしやすいだろう。


 ここまで話を進めて感じたことが一つある。それはMPがすごく大事だということだ。

 召喚をするのもMP。マナトがキラーグリズリーを倒してくれたのもMP。ブリーズの回復魔法もMP。物を作るのもMP。なによりMPが無くなると動けなくなる。最悪死ぬ。

 なので今の段階で優先すべきは効率的なMPの確保だろう。


 俺が認識しているMPが効率的な確保方法は2つ。まずは食事。そして良質な睡眠や休息だ。あとは精霊の水も回復効果を高めてくれるみたいだけど、基本的には食事と睡眠だろう。マナトはそう言っていた。

 ⋯決してマナトを疑ってるわけではないが、もしかしたらそれ以外にも回復方法があるかもしれないからブリーズに聞いてみるか。


「ブリーズ。MPの効率的な回復は食事と良質な睡眠や休息による自然回復だと認識しているが、合ってるかな?」


「まぁだいたい合ってるぜー!付け足すなら食べるものは高ランクの(強い)魔物のほうがより回復するぜー!強ければ強いほどその身に宿してるマナが多くなって回復しやすくなるし、味も強い魔物ほど良くなるからなー!」


 ⋯うん。聞いておいて良かった。強い魔物ほど回復しやすくなるってのは知らなかったし、何気に大事な情報だ。


 ってことはホーンラビットの肉よりもまだ解体してないキラーグリズリーの方が効果的だということかな。

 まだキラーグリズリーは鑑定してないが、どう考えてもキラーグリズリーの方が高ランクで強いだろう。

 まずはキラーグリズリーを食べることにしよう。夜中にMPを回復させるために無理やりホーンラビットの肉を食べたりはしたけど、回復したらお腹も空いてきたしね。


「当面は何をするにもMPが必要になってくる。MPの確保が最重要と言ってもいい。なるべくMPが回復しやすくなるように努めよう。まずは俺のアイテムボックスに入っている解体してないキラーグリズリーを解体するところから始めたいんだけど、マナトお願いできるかな?」


 マナトは「お任せください!」とパァっと嬉しそうな笑顔を浮かべて


「主様。キラーグリズリーの解体となると大掛かりになるので、ブリーズさんに解体用のナイフなんかを作っていただけると助かるのですが⋯」


 と言ってきた。視線をブリーズに移すと


「お安いご用だぜー!でも作るにも材料となる木材が必要なんだ。ナイフくらいだったらそこらへんに落ちてる枝で作れるだろうけど、これからもいろいろ作るみたいだし材料用に木を一本切っとこうぜー!」


 とのことだった。材料の確保には賛成だがどうやって木を切るかと聞くと、まずそこらへんに落ちてる枝などを集めて木の斧を作る。それを使ってマナトに木を切り倒してもらうそうだ。

 ちなみに地面から生えている生きている木はそのままでは形成魔法が効かないらしい。切り倒してからでないと効果がないらしかった。


 そうと決まったらさっそく枝集めだ。枝を集めに行こうとするとブリーズから止められた。


「レインのあんちゃんはMPが少なくてマトモに動けないだろ?ここで待っててくれよー。マナトのあんちゃんもここでレインのあんちゃんを守っててくれー。オイラが集めてくるよ。」


 とのことだった。

 確かに体はうまく動かないし、キラーグリズリーに襲われた時は俺一人の時だった。この申し出はありがたかった。

 マナトも賛成らしく「ブリーズさんよろしくお願いします!」と言っている。

「まかせろぃ!」といってブリーズは横穴を飛び出していった。


 ブリーズが横穴を飛び出してから約20秒。不意に横穴に戻ってきた。


「ブリーズどうした?もう枝を集めてきたのか?」


 と聞くと


「いや⋯集めようとして外に出たらさ、すぐそこの湧き水にゴブリンが2匹いてさー。どうしたもんかと思って戻ってきたのよ。」


 とのことだった。


 ゴブリン!俺の認識ではファンタジーを代表する魔物である。

 繁殖力が強いかわりに強さは大したことない。分類としては雑魚とされる。

 ブリーズに確認すると、その認識でほとんど合っているようだ。

 魔物がすぐ近くにいるってのにゴブリンが存在しているというだけで俺はテンションが上がってしまう。

 だが放置するわけにはいかない。湧き水の所ということは、ここから100メートルくらいしか離れていないのだ。いつこちらに来るかわかったもんじゃない。


「マナト。倒せるか?」


「下位種の普通のゴブリンだったら何の問題もなく倒せます。中位種のホブゴブリンでしたら多少の苦戦はするでしょうが、ブリーズさんとなら勝てるでしょう。」


「ふむ。とりあえず倒す方向でゴブリンを見に行こう。」


 俺達は3人で横穴を出る。もちろん辺りを警戒し、安全であることを確かめながらだ。

 横穴を出た地点から湧き水の場所は問題なく見える。確かに魔物が2匹いるようだ。

 近付くにつれて魔物の姿が露わになる。

 人型の魔物で身長は1メートルほど。肌の色は深い緑でシワが目立つ。手には棍棒のような物を持っている。

 棍棒といっても手頃な大きさの木の枝に、グリップ代わりに布のような物を巻きつけてあるだけの粗末なものだった。

 2匹は水を飲んでいたが、近づいてくる俺達に気付いて臨戦体制を取った。


 俺はゴブリンを鑑定する。


 ゴブリン

 アスガルゲインに広く生息する亜人型の魔物。知能は低いが繁殖力が強く、集落を作ることもある。同種だけでなく、他種族を苗床とすることもある。

 討伐難易度 F


 どうやら下位種のゴブリンらしい。問題なく倒せるだろう。

 ってか他種族を苗床にすることもあるってのは⋯なんつーかテンプレだな。


「どうやら普通のゴブリンみたいだなー。マナトのあんちゃんよ。ここは1匹ずつ倒すってことでどうだい?」


「了解です!行きましょう!」


 言うなり2人はゴブリン達に向かって加速した。ゴブリン達は棍棒をサッと構える。

 ブリーズは途中で止まり、詠唱を始めた。マナトは走ったまま無詠唱でファイヤーアローを繰り出すと、片方のゴブリンの胸部に深く突き刺さった。ゴブリンAはそのまま絶命する。

 生き残ったゴブリンBは動揺しているのか、死んだゴブリンAとマナトを交互に見ていた。

 そうこうしているうちにブリーズの詠唱が完成する。


「くらえーぃ!ウィンドアロー!」


 ブリーズがそう叫んで風の矢をゴブリンBに放つ。

 マナトのファイヤーアローより細く長い矢がブリーズの頭上に現れたかと思うと、恐ろしいスピードでゴブリンBに飛んで行き、あっさりとゴブリンBの頭部を撃ち抜いた。

 頭部を撃ち抜かれたゴブリンBはゆっくりと倒れ、二度と動くことはなかった。

 なるほど。マナトのファイヤーアローは純粋に威力が高いんだろうけど、ブリーズのウィンドアローは貫通力に特化しているようだ。


「どんなもんでーい!」


 ブリーズは嬉しそうに飛び回っている。


「マナト、ブリーズ、お疲れ様。で、このゴブリンは食えるのか?」


 2人の精霊に向かって問うと、2人は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「主様。ゴブリンは食用には向きません。肉は硬く、悪臭がします。ゴブリンを倒す旨みは特にありません。そのくせ繁殖力が強く、いくらでも増えるので厄介とされる魔物なんです。」


 なるほど。それは厄介だ。かと言ってこの死体を放置はしたくない。他の魔物を呼び寄せてしまうかもしれないし、腐って疫病とか流行っても困る。

 なのでとりあえずゴブリン達をアイテムボックスに収納した。

 収納し終わると、そこにはゴブリン達が持っていた棍棒が残された。木に布を巻きつけただけのものだ。


「ブリーズ。この棍棒を使って斧を作っちゃえばいいんじゃないか?」


「おー。そうしようかー。枝を集める手間が省けたし、この棍棒の木のほうが堅いから斧に向いてるなー。」


 ブリーズはそういうと二本の棍棒の布を外し、地面に棍棒を並べる。そして棍棒をジーっと見つめて手をかざし、何やら呪文を詠唱し始めた。

 すると二本の棍棒は淡い光をまとって宙に浮き、一つにまとまって木の塊になったかと思うと、みるみるうちに形を変えて斧の形を成した。

 ブリーズは二つあった布のうち一つを手に取って斧の持つ部分に巻きつけた。


「ほい!一丁上がり!」


 と言ってポーズを決めた。俺とマナトは思わず拍手する。


「形成魔法ってのはすごいなー!この魔法があったらこれからの生活がグッと楽になるよ!」


 と言うとブリーズは見事なまでのドヤ顔を見せる。


「さっそく木を切りに行きたいんだが、その前に2人ともこの湧き水をしっかり飲んでおいてくれ。この湧き水はMPの自然回復力を高めてくれるらしいからな。」


 2人にそう言い、3人で水を飲んだ。ついでにアイテムボックス内の精霊の水がそろそろ無くなりそうだったのでアイテムボックス内にも補充する。


 さて、では木を切りに行こう。マナトにひと頑張りしてもらおう。


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