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第4話:2日目③ ~食事と名付け~

 横穴に戻ってきた。


 帰りの道すがら(といっても100メートル程だが)手頃な枝を見繕ってきた。

 その枝にカットしたホーンラビットの肉を刺して焚き火の近くの地面に刺して焼く。

 ホーンラビットの串焼きステーキといった所か。


 あまり火に近付けすぎると串代わりにしている枝も燃えてしまうため、遠火でじっくり焼く。

 そのため焼き上がるまでに時間がかかってしまい、空腹を極めている俺にとってはこれ以上ない蛇の生殺し状態でとてもキツかった。


「もうそろそろ食べれると思います!」


 やっとこの瞬間がきた。やっと食べられる。

 久方ぶりの食事というだけでなく、初めての兎肉、ひいては初めての魔物肉という部分での好奇心もある。


「いただきます!」


 両手を合わせて大きな声でそう言うと、精霊君は不思議そうにこちらを見る。

 とりあえず知らん顔をしてホーンラビットにかぶりつく。

 焼き立てでかなり熱かったが気にしない。今の俺の食欲の前では熱さなど取るに足らない敵であった。

 久しぶりに胃に物を入れるので、念入りに咀嚼する。


 味は⋯うん。美味くはない。

 まず血生臭い。よくよく思い出してみると、精霊君はホーンラビットを解体する時に血抜きのようなことはしていなかった。恐らくそのせいだろう。

 肉の味としては鶏肉に近い。淡白な味でジューシーさはなく、ササミのようだった。

 もちろん塩などの調味料はなかったので、血の味がダイレクトにしてきた。

 これでしっかり血抜きをして塩なんかがあったら普通に食べられると思うが、このままではキツイ。


 しかし空腹を極めている今の状況ではありがたい食事だ。生きるためにありがたくいただく。

 まぁ途中で精霊君に「これからは血抜きはしっかりしようね」とだけは伝えた。


 ある程度お腹が落ち着いてきた所で精霊君を見てみると、精霊君はホーンラビットを食べずにじっとこちらを見ていた。

「食べないの?」と聞くと「我々精霊は食事は必要ありません」と返してきた。


 人間にとっての活動エネルギーはカロリーだ。カロリーを消費して生命活動を行う。

 しかし精霊にとっての活動エネルギーは魔力らしい。魔力を消費して生命活動を行うので食事や睡眠は不必要だとのこと。

 しかし食事や睡眠が不可能というわけではなく、食事や睡眠を行うと魔力の自然回復の効果を促進する効果があるらしい。


 人間の魔力も精霊の魔力も自然回復するらしい。

 精霊は特に何もしなければ不眠不休でずっと居られるが、魔法を使ったり戦闘をしたり怪我を負ったりすると魔力が消費される。

 その消費分の自然回復で補えない部分を食事や睡眠で補うとのことだ。


 で、目の前のこの精霊君は食事は必要ないと言っていたが、先ほどから狩りをしたり魔法のようなものを使って火を点けたり解体したりしている。

 ただでさえ現状は俺と精霊君の二人きりなのだから、何か不足の事態があった場合に精霊君の魔力が足りませんとかになったら笑えない。

 強引に肉を勧めて食べさせる。


「うわ⋯血生臭いですね。すみません⋯」


 と自身の血抜き不足にも気付いてもらえたようだ。これからはしっかり血抜きをしてくれるだろう。



 さて、お腹もだいぶ小慣れてきたことだし、気になっていたことを精霊君に話すことにしよう。


「精霊君よ。キミはエレメンタル(下級精霊)だから個人の名前はないんだったね?」


「はい!名前があるのは上級精霊以上です!」


「でもキミとは今後も長い付き合いになるだろうし、これから精霊を増やしていく上で名前がないと非常に面倒くさい。なので、キミに名前を付けたいと思うんだけどいいかな?」


 ずっと思ってたことを提案した。

 今まで「精霊君」とか「キミ」とか「この子」とか呼んでいたが、呼びにくい上に愛着も湧かない。

 今後のことも考え、名付けはマストだと感じていた。


 その精霊君は「本当ですか!?ありがとうございます!」と嬉しそうにしている。

 もしかしたら名付けに対する禁忌感とかあるのかな~と思ったけど、無いみたいで良かった。


 この子に付ける名前は既に考えてある。

 この子のイメージは真夏。明るく元気な太陽の光。

 そのイメージから浮かんだ名前は…


「キミの名前はマナト。マナトだ。どうかな?気に入らなかったら変えるけど⋯」


「マナト⋯いえ!すごく気に入りました!いい名前をありがとうございます!これからもよろしくお願いします!」


 と、再度握手した。

 気に入ってもらえなかったらどうしようとか思ってたが、気に入ってもらえたみたいで良かった。


 話しているうちにお互いの食べる手が止まった。

 肉はまだ少し残っているがもう食べられない。血生臭くて美味しくない肉だが、貴重な食料だ。

 俺にはアイテムボックスがあるのでしっかり収納しておく。


 ついでにアイテムボックスから水を手に出して豪快に飲む。

 この水は先ほどの湧き水をアイテムボックスに入れてきたものだ。

 水を飲む度に拠点としている横穴から約100メートルという微妙に遠い距離までいちいち行くのは面倒くさい。

 さらに魔物と出会ってしまう危険もあるので、溜まっていた分の水をアイテムボックスに入れてきた方が得策だと判断したのだ。

 アイテムボックス本当に便利。


「さて、お腹も膨れたことだし、今後の目標を明確にしよう。当面の目標は四大精霊を集めて精霊の加護を発動させること。」


「はい!そうですね!」


「それに当たって確認したいんだけど、MPは自然回復するって話しだったよね?」


「はい!人間も精霊もそうです!先ほども説明したとおり、食事や睡眠で回復率は変動します!」


「で、昨日マナトを召喚してそのまま気絶。今朝目覚めた時はMPが14/56だったんだけど、一晩以上たってこれだけしか回復しないもんなのかな?そもそもマナトの召喚でどれくらいのMPを使ったのかわかる?」


 マナトは少し考えて


「僕の召喚でどれくらいの魔力を使ったのかはハッキリとはわかりませんが、この辺りに火の要素はあまりないので多分50くらいだと思います!この辺りだと土や風の精霊ならもっと少ない魔力で召喚できると思います!主様の現在のMP上限が56ということなので、ギリギリでしたね⋯危なかったです。」


 なるほど。その土地の持つマナによって召喚する精霊の消費MPが変わるわけね。


「ギリギリで危なかったって言ってたけど、MPが0になったらどうなるの?」


「死にます。」


 うお⋯マジか。

 HPが無くなったら死ぬって納得できるが、MPが無くなってもアウトなのか。聞いといてよかった。

 ってか俺、死にかけてたんだな。マジで危なかった⋯


「主様の場合、僕を召喚して魔力が切れかけて気絶。『睡眠』ではなく『気絶』だったため回復率が低かったんだと思います!飲まず食わずだったので尚更かと!食事を摂って休息を挟んだ今ならもっと回復してるんじゃないですか?」


 なるほど。そういうことだったか。確かに今は目覚めた時より体が軽い。

 ステータス見てみるか。



レイン

Lv.1

HP 32/32

MP 21/56

攻撃力 16

防御力 45

魔法攻撃力 38

魔法防御力 33

所持スキル 召喚魔法<下級>、ステータス閲覧、鑑定

固有スキル アイテムボックス




 おお、回復してる。メシ大事だな。

 そういえば精霊の水の説明に『飲むと体力、HP、MP、疲れ等が回復しやすくなる』って説明もあったし、そのおかげもあるのかな。

 とりあえず精霊の水をいっぱい飲んどくか。


「うん。マナトの言うとおり回復してるよ。身体も軽い。本当にマナトのお陰だ。ありがとうね。」


 というとマナトは照れ臭そうな笑顔を浮かべた。


「さて、じゃあ俺はMPを回復させるために休ませてもらうよ。マナトはもし疲れてなかったらまた狩りに行ってもらってもいいかな?」


「はい!お任せください!」


 とマナトは笑顔で横穴を出て行った。


 マナトの小さくなっていく後ろ姿を見ながら思う。

 数日前までは日本の会社という組織の一員としてあくせく働いており、休みの日は次の仕事のために体力を回復させることに努めた。

 今は魔王を倒すための村づくりのために体を休めている。

 体を休めるという点は同じなのにあまりにも状況が違いすぎるな等と思考を巡らせ一人苦笑を浮かべる。


 さて、お腹が満たされて身体も軽くなり一息付いたら用を足したくなった。

 流石に横穴の中で立ちションするわけにはいかないので外に出る。


 横穴から出るとすでに日が傾いており、夕日が眩しかった。

 腕時計を見ると時刻はすでに17時に迫ろうとしていた。

 この異世界での生活は時間に縛られるものではないので、思った以上に進んでいた時間に吃驚した。

 日本ではなかなか味わうことのできない感情に驚きつつも悪い気はしなかった。

 自由を強く感じられたからだ。


 横穴から出た景色はだだっ広い草原なので、容易にマナトの姿が確認できた。

 獲物を探しているようでキョロキョロしながら練り歩いている。

 微笑ましく思いながら東側に10メートルほど歩いた地点でグレイウォールに向かって立ちションする。

 こういう時は男は非常に便利だと思う。



 用を足し終わりズボンを整えていると、不意に背後から「ジャリ」という石を踏みしめた音がした。

 何の疑いもなくマナトだと思い「獲物とれたのか?マナト」と言いながら後ろに振り向くと⋯





 そこには殺意剥き出し表情で今にも俺に襲いかからんとしている熊がいた。


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