第30話:8日目③ ~増える建築物~
昼。全員が一旦作業を中断してグレイケイブで昼ごはんを食べに集まる。
その場でマイルスを紹介した。その際もマイルスは黙ったまま小さく頷くのみだったが、みんな違和感はない様子である。
俺としてはむしろその光景に違和感を覚えるのだが⋯⋯まぁ俺だけが違和感を抱いてるようなので俺の感覚がおかしいのだろう。
何はともあれマイルスが一員に加わった。
肉を齧りながら作業の進行具合を確認する。
順調に木、石、グレイストーンなどの素材は集まっているし、塩も大量にストックできてきている。
畑の方も順調だしグレイストーンを使った各種武器も揃ってきた。
そしてファクトとマイルスが作業に当たっていた石畳の方も終わったようだ。今は加護内に十字の形で石畳が敷かれており、その中央部分は広くなっている。
十字の石畳がメインの村道となり、中央部分がメイン広場となる。
そして上空から見下ろして、メイン広場の右上の部分には井戸がある。これはサフラとカイエの合作だ。
中にはサフラが魔法で出した水がたっぷり入っている。精霊の水には及ばないものの、サフラが祝福を与えた水なので通常の水よりも遥かに美味しい。
「さて、では午後から本格的に建物を作っていこうと思う。ファクト、カイエ、マイルス、ブリーズ、シキナは俺と一緒に行動だ。マナトは警備をメインで余裕があったら引き続き木の伐採を頼む。サフラは塩作りばかりで申し訳ないが、引き続き頼む。」
マイルス以外の全員から気持ちの良い返事をもらった。昼ごはんも食べ終わったし、早速建築作業に入ろう。
5人の精霊を引き連れてやって来たのは完成したばかりのメイン広場。
広場の中心に立つと、四方に伸びる長い石畳がとてもキレイだ。
「さて、まずはこの一角に冒険者ギルドを建てる。」
そう言って指定した場所は中央広場の左上の一角。ギルドは人の出入りが多くなるので村の中央部分にあったほうがいいだろう。
「建物の詳細を説明する。ギルドは二階建てにしようと思う。材質は石だ。一階部分の半分はギルドカウンターと大きな掲示板が置けるスペース。もう半分は酒場だ。二階部分は事務室とギルド長室だ。かなり大きな建物になると思うが、作れるか?」
ギルドの内装はビリーフェさんからの要望だ。これくらいの内装を整えておけばまず困らないらしい。
そして基本的に村の建物は全て木で作ろうと思っている。しかしギルドだけは石造りが好ましいと、これもビリーフェさんからの要望だった。なんでも冒険者ギルドは有事の際には村民の避難所になるらしい。なので木造では心許ないのだ。
「ふむ。その造りなら土のエレメンタル1人では厳しいが2人なら余裕といった所じゃの。木造なら一人で可能じゃろうが、石造りとなるとちと厳しくなる。どれ、ワシとマイルス殿で作業に当たるとするかの。」
ファクトが促すとマイルスが頷き、前に出た。
これだけ大きな建物でも2人で。更には木造なら1人で建てられるとは⋯⋯やはり土のエレメンタルの形成魔法は凄いものがある。
俺はアイテムボックスから材料の石を大量に出して二人と細かく打ち合わせし、建物の位置や内装の位置を注文する。
「ふむ。では始めますぞ。」
打ち合わせが終わるとファクトがそう言い、ファクトとマイルスは声を合わせて詠唱を始めた。
もはや聞き慣れた詠唱だが、俺は衝撃を隠せなかった。なぜならマイルスが声を出しているからだ。
形成魔法を使うには詠唱が必要。そんなことはわかっていたのだから普通に考えればマイルスも声を出すのがわかっただろうに、俺は失念していたのだ。
マイルスの声は見た目通りかなり低くて渋い。まさにダンディそのものといった声だった。
詠唱が進むにつれ、徐々に建物が出来上がっていく。やはり建物が大きいだけに完成まで時間がかかる。
しかしこれだけ大きな建物がみるみる出来上がっていく様子を眺めるのはとても楽しい。日本に居たら絶対に見られない光景だ。
ややあって冒険者ギルドが完成した。注文通りの文句ない出来上がりだ。
「ファクト、マイルス、お疲れ様。そしてありがとう。完璧な出来だよ。」
「ふむ⋯⋯予想以上に疲れたの。今日はワシとマイルス殿は建築物は勘弁してくだされ。小物なら作りますがの。」
これだけの大物を作ったんだから、それは疲れるだろう。元より2人には今日はもう形成魔法を使わせる気は無い。
「さて、では次だ。次は宿屋を作ろうと思う。材質は木。場所はギルドの向かいの井戸のある所だ。大きさはギルドと同じくらいで、やはり二階建てが理想なんだが⋯⋯ブリーズとシキナでいけるか?」
「まってましたー! オイラはMP満タンだからいけるぜー!」
「わ、私もMP満タンです! 頑張ります!」
2人から肯定の返事があった。これまたかなり大きな建物なので、いくら材質が木とはいっても正直ブリーズとシキナには荷が重いと思ったので「無理はしないように」と付け加えた。
宿屋をこの場所にしたのにも理由がある。村で一番大きな宿屋はギルドに次いで人の出入りが多くなるだろう。そんな宿屋はギルドに近いほうが便利だ。なのでこの場所にこの大きさの宿屋を建てる。
「よし。では内装だ。一階はカウンターと広い食堂と厨房。二階は全て客室だ。一階部分は簡単な造りだが二階は区切りが多くなる。大丈夫か?」
宿屋というより、宿屋兼食堂といったところだ。この内装に関してもビリーフェさんからアドバイスをもらってのものだ。この世界ではこの形が一般的らしい。
2人から心強い返事をもらい、細かい打ち合わせに入る。
終わると俺はアイテムボックスから材料の木を大量に出す。それから2人は声を合わせて詠唱を始めた。
ファクトとマイルスの詠唱とは違い、シキナの声が入ると雰囲気が全然違う。もともとブリーズの声も高いため、先ほどのファクトとマイルスの詠唱とは別物のようだ。
長い詠唱の末、宿屋兼食堂が完成した。これまた俺の注文通り。満足のいく出来上がりだ。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯つ、疲れたぜぃ⋯⋯もうMPがすっからかん寸前だぜ⋯⋯」
「お、お兄ちゃんごめんなさい⋯⋯今日はもう⋯⋯動けそうにありません⋯⋯」
2人とも完全にグロッキーだ。これだけの大仕事だ。ゆっくり休むといい。
これで大きな建物が2つになった。村道があって建物がある。それだけで形になっているように見えるから不思議だ。
さて、まだ1人だけ元気な母ちゃんにも頑張ってもらうとしよう。




