第2話:2日目① ~説明回~
説明会です。苦手な方もいることは思いますが、今後話を動かしていきます。
夢を見た。
死んだ両親と存在しないはずの二人の弟達。そしていないはずの俺の奥さん。まだ小さい二人の娘達。
8人でワイワイと楽しそうに食事の席を囲んでいる。
その夢の中で俺は
ーとても幸せそうな顔をしていたー
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目が覚めた。
上半身を起こし辺りを見回す。そこは変わらず、風を避けるために入った横穴の中だった。
少し混乱している頭を整理して
(俺は異世界に来てまであの家族の夢を見るのか⋯)
と頭を抑えながらため息をつく。
ああいった夢は以前から定期的に見ていた。出てくる家族は決まってあの8人だ。
俺は一人っ子だし結婚もしていない。もちろん子供だっていないのに、なぜかあんな夢を見る。
きっと深層心理ではあんな家族との生活を望んでるんだろうなと自己分析をしており、そんな自分に嫌気がさしていた。
腕時計を見ると6時のあたりを示していた。
外は白々と明るんできている。おそらく朝なんだろうなと思う。
(召喚魔法を使って気を失ったのが15時過ぎだったはずだから、メッチャ寝てたな俺⋯)
と頭を掻きながらボンヤリ思考する。
「ってか、精霊!召喚した精霊は!?」
との考えに至った所で、暖かさを感じていたことに気付く。
見てみると横穴の出口近くに焚き火がしてあり、横穴の中が暖められていた。
「これは…あの精霊が?」
と呟いた所で、横穴の外から元気な声が聞こえた。
「あ!主様!気が付きましたか!?主様はMPを使いすぎちゃったみたいで気を失ってたんです!寒くないように火を焚いてたんですが、寝苦しくなかったですか!?」
と、気を失う前に見た赤い少年が横穴の外からひょっこり顔を出して横穴を覗き込む形で嬉しそうに話しかけてきた。
燃えるような赤髪、真紅の瞳、皮膚も全体的に赤みを帯びており、体には無駄な肉がなく、いい感じのソフトマッチョ。
幼さの残る顔立ちだが、将来は立派なイケメンになるだろうと容易に思えるような少年だ。
「ああ、大丈夫です。まだ体が重くてマトモには動けないけど…それよりキミが火の精霊さんですか?」
間違いないだろうが一応そう問いかけてみる。
「そんな!敬語なんて使わないでください!僕たち精霊は召喚主様のお役に立つことが存在意義です!ぞんざいに扱って下さって結構です!」
おおう⋯なんかすごい忠誠心だ。
精霊といえば神聖な存在で神様に近いものだというイメージがあったから無意識に敬語を使ってしまったが⋯
まぁ本人がそう言うならそうしよう。
「改めて初めまして!僕が火のエレメンタルです!よろしくお願いします!」
うん。あれだ。なんか暑苦しい。
見た目が爽やかな少年だからまだいいが、これがオッサンとかだったら結構キツイ。
「うん。初めまして。俺の名前は花咲きょ⋯」
(いや、まてよ。せっかく異世界に来たんだ。新しく1から頑張るという意味でも新しい名前にしたほうがいいんじゃないかな?それにこの世界の名付けの基準なんかはわからないが、少なくとも漢字を使った名前なんかはないだろう。)
と思い直し、一瞬の間を置いて口を開いた。
「俺の名前はレイン。レインだ。よろしくな!」
と名乗り、握手をする。
手が触れる瞬間に「もしこの少年の体温がメッチャ高くて火傷とかしたらどうしよう」とよぎったが、普通より少し温かいくらいの体温で安心した。
レイン。この名は俺が今までやってきた様々なゲームで使っていた名前だった。
一応ラストネームもあるが、この世界で苗字という概念があるかわからないのでファーストネームのみ告げる。
厨二全開な名前を自分で付けて自己紹介するという恐ろしい程恥ずかしい行動をしたが、目の前の精霊さんはニコニコしながら「レイン様、レイン様、」とボソボソ呟き、頭に刻み込んでいた。
その様子を見る限りでは変な名前ではないのだろうと判断できる。
自己紹介が済んだところで
「主様!この度はどのようなご用件で呼んでくださったのですか?」
と笑顔で聞いてきた。この子は基本的にニコニコしている。
どのような用件でか。どのような用件でと言われると、特にこれといった用はない。
強いて言うなら召喚魔法がどんなもんなのか、精霊がどんなもんなのかが知りたかったからだ。
しかし本人にそんなこと言うのは気が引ける。
なので、とりあえず自分が異世界人であること。この世界を創造した神様によって転移してきたこと。目的は魔王の討伐であることを説明する。
「なるほど!ご命令は魔王の討伐ですね!では行ってきます!」
と言うと笑顔でどこかに行こうとした。
「いやいやいや!ちょっと待って!もしかして魔王を倒しに行こうとしてるの!?」
「はい!それがご命令ですよね?ならば行ってきます!」
「違うから!そんな命令してないから!他にちゃんと命令あるから!命令は⋯命令は、俺はまだこの世界に来たばっかで知らないことだらけだから、この世界のことやキミ達精霊のことをいろいろ説明してほしいんだ!」
「なるほど!わかりました!僕も精霊の端くれなので、世界のことはある程度わかります!なんなりと質問してください!」
ふう。なんとか誤魔化せた。しかしいきなり魔王を一人で倒しに行こうとするなんて猪突猛進にも程がある。
この子がどの程度の強さなのかはわからないけど、一人で魔王を倒せるとは到底思えない。
これは神様の見習い卒業試験なんだからそんなヌルゲーに設定するはずがないしな。
咄嗟に出た誤魔化しの命令だったが、我ながらナイスな命令だ。
本当にわからないことだらけなので、この際いろいろ聞いてしまおう。
精霊曰く
<世界背景について>
・この世界は「アスガルゲイン」というらしい。
・1日は24時間。1年は365日。春夏秋冬もある。どうやら日本と変わらないらしい。ちなみに今は3月の半ばらしい。
・この世界は大きな卵のような形をしている大陸で、南の端の方に人間の国が3つある。北の端に魔王の居城があるらしい。
・この大陸以外は未開。海の沖の方にはとんでもない魔物がウヨウヨいるため、海の向こう側がどうなってるのかは誰もわからないらしい。
・俺たちが今いる横穴。つまりこの崖のような壁のようなものは「グレイウォール」と呼ばれるもので、この大陸を南北に分ける形で存在しているらしい。(俺は今、この大陸のど真ん中の人間領側にいるらしい)
・グレイウォールは高さ約3000メートル。飛行系スキルでもロッククライミングでも越えられない。グレイウォールの東西の端は少しづつ傾斜がついており、そこからならなんとか登って越えることが出来るらしい。
・グレイウォールより南側は人間領。北側は魔族領となっており、魔族領は魔界と呼ばれてるらしい。
・人間の3つの国は昔は争いあってたらしいが今は魔王という共通の敵がいるため、(少なくとも表面上は)手を取り合ってるとのこと。
・3つの国はそれぞれが独自に魔王を倒すために動いており、それぞれの国に勇者と呼ばれる存在がいるらしい。
<精霊について>
・下級精霊はその属性の下級魔法を使えるらしい。
・精霊は呼び出された場所から遠く離れることはできない。具体的には呼び出された場所から半径約100メートル程までしか離れられない。それ以上離れるとマナのバランスが崩れ、自然災害が発生するらしい。
・下級精霊と中級精霊には個別の名前はなく、下級精霊はエレメンタル、中級精霊は小精霊と称されるらしい。上級精霊には個別に名前があるという。
・上級精霊の上には各属性の精霊王がいる。さらに上には全ての精霊を統括する大精霊が存在するらしい。
・同じ属性のエレメンタルを重複して召喚することも可能だが、2体目以降はその地の属性マナが薄まっているため更に多くのMPが必要だとのこと。
・召喚された精霊は顕現していられる制限時間などはなく、召喚主が帰喚させるか外部からの攻撃により魔力を散らされるとマナに還る。
・同一の地に四大精霊が揃うと「精霊の加護」というスキルが発生し、その地は様々な恩恵が得られるらしい。
⋯頭がパンクしそうだ。
他にも聞きたいことはたくさんあるが、これ以上は俺のシナプスが焼き切れる。
いろいろ掘り下げる部分はあるが、とりあえず一番気になった部分に触れとこう。
「精霊の加護ってのは、具体的にどんな恩恵が得られるの?」
今までの説明の中で、俺の中で一つのビジョンが見えた。
そのビジョンを理想通りの形にできれば目標の達成も見えてくる。
「精霊の加護はですね、いろいろ細かい効果があるですが⋯とりあえず大まかな所で言うと、加護内は結界が張られて弱い魔物は入れません!強い魔物や魔族は入れたとしても極端に弱体化します!田畑の作物は実りやすくなり、土も痩せません!気温も過ごしやすい気温に近くなり、人族の持つ自己治癒力が上がります!とにかく人が過ごしやすい環境が整うと考えてもらって結構です!」
おおう⋯すげぇ。精霊の加護すげぇ。精霊を4体召喚するだけでこんな特典が付くとは⋯
しかしこれではっきりした。今後の方針が決まった。
俺はこの地に村を作る。
どうやら今いるこの地は大陸のど真ん中の人族領。つまり人族の国と魔王の居城のちょうど中間点。
さらに人族の各国は魔王を倒そうとしており、それぞれの国に勇者がいるらしい。
俺の能力である召喚魔法は強力だ(だと思う)が、使うとMPがごっそり消費してしまうので連発はできず、呼び出した精霊もその場から100メートル程までしか離れられないとなると、魔王の居城に乗り込むと考えると使い勝手が悪い。
ならばこの地に精霊達とともに理想的な村を作り、勇者達に拠点としてもらって魔王を倒してもらう。
他力本願だが、神様も「何らかの行動をして魔王を倒してくれ」と言っていた。
俺が直接魔王を倒せとは言ってない。
よし、決まったぞ。ここに村を作り、魔王を倒すサポートをする。
それが
それが俺なりの魔王の倒し方だ。