第25話:7日目① ~それぞれの役割~
射し込む朝日の眩しさで目が覚めた。
ベッドから降りて軽く身体を動かしてみる。疲れや痛みは感じなかった。完全回復である。
昨日は本当にご飯以外は休んでいた。これで全快しなかったらウソだというものだ。
念のためステータスを見てみる。
レイン
Lv.10
HP 86/86
MP 129/129
攻撃力 46
防御力 61
魔法攻撃力 92
魔法防御力 87
所持スキル 召喚魔法<下級>、ステータス閲覧、鑑定
固有スキル アイテムボックス
うん。全快している。豊富にあるMPは計画的に使わねば。
グレイケイブに入るとみんな揃っていた。
朝の挨拶をして体調を訊くと、みんなバッチリ回復したようだ。
マナトのテンションも元に戻ってるし、ブリーズなんかは休みすぎて逆に体が怠いなんて言っている。
朝ごはんとしてサフラにオーク肉を渡す。これがラストのオーク肉だ。あとはグリズリーを解体するしかない。いよいよ食糧難だ。
サフラが慣れた手つきでオーク肉を串焼きにしてくれる。焼き上がった肉に齧り付く。
⋯⋯美味しいのだが、こうも肉の串焼きばかりだと流石に飽きが来る。
日本にいた頃は同じメニューの弁当を仇のように毎日食べても飽きが来たりはしなかったのだが、この串焼きは味付けが塩のみだ。どうやらシンプルな味付けだと飽きが来るのが早いようだ。
野菜のスープが飲みたいなぁなどと考えながら串焼きを食べきった。
「さて、俺を含めてみんな昨日はしっかり休めたことだろう。今日からはまた頑張って村づくりを進めていこう。」
俺の言葉にみんな力強く頷いた。その表情は活気に満ちている。
昨日の辛気臭い空気はどこにもなかった。本当に良かった。
「では今日の割り振りをしていくぞー。まずマナト。マナトはグリズリーの解体を頼む。それが終わったら木の伐採だな。」
「了解しました! 体力も気力も満タンなので任せてください!」
「頼むぞ。次にブリーズとシキナ。確か2人で協力してなら形成魔法で家を建てられるんだったよな?」
確認の問いをすると何やら2人でボソボソと話し始めた。
「どうやらレインのあんちゃんのレベルが上がったおかげでオイラ達のMPも上がったみたいでさー。あんちゃんの家と同じ家ならオイラもシキナも1人で建てられるぜー! まぁギリギリだけどな。」
「おお、それは助かる。ではあとで材料を出しておくから、一軒ずつ頼む。建て終わったらMPが切れるだろうから休んでくれ。」
思わぬ収穫。やはり俺のレベルを上げるのは大事だと再確認した。
今現在でグレイケイブの前に家が3件横に並んで建っている。その横に今回更に2件建ててもらえば合計5件。俺の家と各種精霊達の家ということで揃う。
精霊の数が増えるとグレイケイブでは手狭になってくる。これからはそれぞれの家でゆっくり休んでもらいたい。
「次にサフラ。サフラは塩作りと警備を頼む。他の戦闘要員が作業に入っちゃうからサフラに頼まざるを得ない。」
「お任せください。キッチリこなします。」
「頼む。では最後にファクトとカイエだ。ファクトとカイエは正直かなり仕事があるんだが⋯⋯今日は昨日撤去した岩や石を使って石畳を敷いてもらいたい。俺の家の前から南の加護の終わりまでだ。幅は3メートル程でいい。」
昨日俺たちが休んでる間に村を作る上で邪魔になりそうな岩や石の撤去をファクトとカイエに頼んでいた。その撤去した岩や石が結構な量だったため活用したい。
「ふむ。その石畳が村の大通りというわけですかな?」
「まぁそうなるな。南北だけでなく、今後は東西にも敷いて十字の道を作る。それがメインストリートになる予定だ。」
「ふむ。なるほど。了解した。石畳を作る程度なら簡単な作りだからそんなにMPは使わないじゃろうて。ワシだけで十分じゃ。」
「おお、そうか。じゃあ石畳はファクトに頼む。昨日撤去した岩や石が無くなったらそこで終わりにしていいからな。石畳にグレイストーンを使うのはもったいない。」
通常の物と区別するためにグレイケイブから採掘された丈夫な岩や石をグレイストーンと呼ぶことにした。
グレイストーンは採掘しにくいので主に武器や防具、その他日常品に使うことになる。
「じゃあカイエだが、カイエは今まで通り畑仕事を頼む。それが終わったらいろいろ作ってもらいたいものがあるから作ってくれ。作る物はあとでまとめて伝える。」
「はいよ! 任せときな!」
「頼む。さて、俺なんだが、俺は今日加護の外に出て魔物を狩ってこようと思う。
レベルアップと食糧の確保。これが目的だ。」
そう発した瞬間、全員がバッと俺を見た。その瞳には心配の色が浮かんでいる。
「そう心配しなくて大丈夫だ。ちゃんと精霊を召喚して安全第一で戦うから。自分やみんなの身を守るために戦うんだ。無理はしない。」
そう言うと視線は少し柔らかくなるが、まだマナトなんかは全力で心配している様子が伺える。
しかし俺がレベルを上げる必要があることも理解しているらしく、言及はしてこなかった。
「さぁ、質問がなかったら作業にとりかかろう。作業が進んでても進んでなくても、昼には一度ここに集まろう。もちろん俺も戻る。」
ということで各自解散した。
俺はマナトにグリズリーを渡し、ファクトに石畳を敷く場所を指示し、カイエに作ってほしい物を伝えたあと、加護の南の端まで来た。
ここから一歩でも足を踏み出せば加護の外だ。ここしばらくは加護の中で過ごしていたため、嫌が応にも緊張する。
しかしいつまでも緊張してても進まないため、辺りに魔物の姿がないことを確認してから足を踏み出した。
そして100メートルほど進んだ所で足を止め、辺りの安全を確認。そして素早く火のエレメンタルを召喚した。
「初めまして主様! 僕は火のエレメンタルです!」
出て来た火のエレメンタルはマナトに似た姿をしているが、どことなくマナトより年上に見える。
そんな火のエレメンタルに少し待っててもらい、次に風のエレメンタルを召喚した。
「初めまして! 僕は風のエレメンタルだよ! 兄さんが僕のゴシュジンサマかい? よろしくね!」
出て来た風のエレメンタルはこちらもブリーズに似た男の子。しかしやはりこちらもブリーズより少しだけ年上に見える。
「2人とも初めまして。俺はレインという者だ。まずは説明をさせてもらおう。俺はすぐそこで精霊の加護を展開し、その中で村を作っている。今日は村づくりのための食糧の確保と、俺のレベルアップ。そして周辺の脅威の除去のためにこの辺りで狩りをしようと思う。そこで君たちを召喚した。協力してくれるかな?」
2人とも快い返事をしてくれた。そんな2人にアイテムボックスから石の剣と盾、そして石の短剣を取り出してそれぞれ火と風のエレメンタルに渡した。
これは加護を出る前にファクトに作ってもらったものだ。もちろんグレイストーン製だ。
「武具は装備したかな? では安全第一で狩りをしていこう。なるべく俺が戦闘の指示を出すのでよろしくな。」
さぁ、初めて拠点を離れての狩りだ。油断しないで行こう。




