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第22話:5日目⑦ ~更なる脅威~

「主様、ありがとうございます! 敵の姿がしっかり見えて盾まであったらもう遅れは取りません! もうこれ以上無理しないで僕の後ろに下がっていてください!」


 マナトはそう言いながら俺を吹き飛ばしたゴブリンを盾で殴りつけて距離を空ける。おお、シールドバッシュってやつだ。

 醜悪な笑みを浮かべていたゴブリンはその表情を一気に引き締め、マナトをしっかり見ていた。どうやら標的をマナトに戻したようだ。

 もう一匹のゴブリンも体勢を崩していたので、マナトがシールドバッシュをかましたと思われる。

 俺は急いて立ち上がり体勢を整える。すると淡い光が体を包み込んだかと思うと全身の痛みが引いていった。どうやらサフラが回復魔法を使ってくれたみたいだ。

 次の瞬間二匹のゴブリンが同時にマナトに襲い掛かるがマナトは剣と盾で難なく防いでみせた。


「今までよくもやってくれたな! 僕だけじゃなく主様まで! 許さないぞ!」


 マナトがそう言ったかと思うと片方のゴブリンを切りつけた。浅いながらもダメージを与えられたゴブリンは苦い顔をしている。

 それまで防戦一方だったマナトの戦いはもはや防戦ではなく、しっかりとした戦闘になっていた。

 マナトの戦いを見守っていると後ろのほうから


「エフェクト・オール!」


 とサフラの凛とした声が聞こえた。すると体の表面がぼんやり光り、体が軽くなって力が湧いてきた。


「ご主人様! そこは危険なので下がってください! 全員に身体能力アップの補助魔法をかけたのでもう大丈夫です!」


 サフラの言葉に従い、サフラの位置まで下がる。見ると俺とマナトだけではなく、ブリーズとシキナも体がぼんやりと光っている。

 補助魔法の効果を得た精霊たちは動きが見違えるほど良くなった。マナトは二匹のゴブリンに対して若干ではあるが押し始めている。

 もともと拮抗した戦いをしていたブリーズ&シキナと一匹のゴブリンの方はもう明らかにブリーズ達が押し込んでいる。あちらはもう片付くのは時間の問題だろう。


「ご主人様、怪我はありませんか?」


「ありがとうサフラ。サフラが回復魔法をかけてくれたからもう大丈夫だ。しかし補助魔法ってのはすごいな。体が軽いし力も湧いてくる。もっと早く使ってくれてたら良かったのに。」


「すみません。回復で手いっぱいだったのです。私は回復魔法は詠唱なしで使えるのですが、補助魔法と攻撃魔法は詠唱が必要なので……」


 なるほど。確かにさっきまでのマナトの防戦具合だと詠唱の必要な魔法は無理だわな。サフラには悪いことを言ってしまった。

 さて、余裕ができたのであのゴブリン達を鑑定しておこう。



ゴブリンロード

ゴブリン系の上位種。群れを統率する能力を持ち集落のトップに君臨する。自身の力も強く知能も高い傾向にあるため、戦う際は注意が必要。

討伐難易度 C



 やっぱり奴らはゴブリンロードだった。はて、鑑定の結果ではゴブリンロードは集落のトップと出ていたが、目の前には三匹のゴブリンロードがいる。一つの集落にトップが三匹もいるものなんだろうか?

 気になったのでファクトのところまで下がってきいてみた。


「ふむ。良い所に気付きましたのぅ主殿。ゴブリンの集落は通常トップとなるゴブリンロードは一匹ですな。むしろゴブリンロードがおらず、個体能力の高いホブゴブリンがトップとなる集落もあるくらいじゃ。稀にゴブリンロードが二匹いる集落もありますが、今回は三匹。さすがに異常ですな。それに加護内に入ってこれずに加護の外側で待機しているゴブリン達の数の多さも気になりますな。ワシの予想が正しければ……」


 ファクトがそこまで話したところでブリーズとシキナが戦っていたゴブリンロードを倒した。ファクトの話しの続きも気になるが先に指示を出そう。


「ブリーズ! シキナ! よくやった! 悪いが2人ともマナトの応援をしてやってくれ!」


「了解だぜー! 任せとけ! 行くぞシキナ! 右の奴だ!」


「わかったよ! ブリーズ君!」


 そういうと2人は声を揃えて詠唱を始めた。そしてまったく同じタイミングで


「「ウィンドアロー!」」


 魔法を放つ。2本のウィンドアローはマナトが相手しているうちの片方のゴブリンロードに命中。マナトとの戦いで消耗していたゴブリンロードはそのウィンドアローで絶命した。

 その様子を見ていたもう片方のゴブリンロードはひどく動揺した様子で標的をブリーズとシキナに変え、2人に向かって走り出した。


「戦っている相手に背を向けるのは自殺行為ですよ! ファイヤーアロー!」


 マナトが無詠唱でファイヤーアローを放つ。当然ゴブリンロードはその無防備な背中にファイヤーアローを受け、絶命した。


「はぁ、はぁ、やった⋯⋯主様、やりましたよ!」


「ふぃ~、一時はどうなることかと思ったぜーぃ!」


「あぶなかったです⋯⋯倒せてよかった⋯⋯」


 前線で戦ってた3人がその場にへたり込んだ。いや、絶えず魔法を使い続けていたサフラもその場に座り込んでいた。

 かくいう俺も疲れた。こんなに疲労したのはやはりキラーグリズリーに襲われたとき以来だ。やはり命のやり取りは消耗する。


「なんだいなんだい! もう終わっちゃったのかい!」


 素っ頓狂な声が聞こえ振り向くとカイエがかがり火を持って息を切らせていた。


「遅いよカイエ⋯⋯かがり火を持ってくるのにどれだけ時間かかってるのさ。」


「しょうがないじゃないか! 途中で落としちゃってもう一回新しいの取りに行ってたんだから!」


 俺とカイエのそんなやり取りにへたり込んでる精霊たちが微笑みを浮かべる。少し和やかな空気が流れた。

 あとは加護の外側にいるゴブリン達をどうにかすれば全部終わりだ。


そう思ったその時


「⋯⋯ふむ。主殿。まだ終わってはいないようじゃ。どうやら悪い予想が当たってしまったようじゃのぅ⋯⋯」


 重苦しい口調でファクトがそう告げた。ファクトの視線を追うと、加護の外側にいるゴブリン達を邪魔くさそうに押しのけてノシノシと加護内に入ってくる一匹のゴブリンの姿があった。

 見た瞬間に凍りついた。体長はゆうに2メートルを超えているだろう。ゴブリンロードと比べても明らかに体が大きい。手には大きいサイズのサーベルと大楯を持っている。それだけでなく、いろいろな金属を体に貼り付けて鎧のようにしている。明らかに異質。

 そのゴブリンは加護に入って顔を歪め、足を止めた。どうやら弱体した体を確認しているようだ。

 嫌な予感が止まらない。俺だけでなく全員そのゴブリンを見て絶句している。俺は動かない頭を無理やり動かし、そのゴブリンを鑑定する。



ゴブリンキング

ゴブリンたちを統べる王。高い戦闘能力と知性を持ち様々な武器を操る。ゴブリンの王国を建国し戦いは配下のゴブリンに任せるため滅多に戦う姿は見られないが、王国が危機に瀕した時にはその力をいかんなく発揮する。

討伐難易度 B



 体中の血の気が引いた。気付くと顔中、いや、全身に大量の汗をかいていた。

 ゴブリンキング。討伐難易度はB。キラーグリズリーよりも。そして当然先ほどのゴブリンロードよりも討伐難易度が高い。

 討伐難易度だけが敵の強さではない。現に加護に当たっただけで死んでしまうほど弱いブレッドバードの討伐難易度は「討伐しにくい」という理由でCだ。

 しかし目の前のゴブリンキングは明らかに強者。まとっているオーラが強者のそれだった。

 体が震える。まだ直接攻撃されたわけでもないのに今までで一番強く命の危険を感じる。完全にゴブリンキングのオーラにあてられてしまっていた。

 全てを捨てて逃げ出したい。相手は加護の力で弱体化している。全力で逃げれば逃げ切れるかもしれない。そんな考えが頭をよぎるが、自分で自分の頬を殴って思考を戻す。

 主たる自分が真っ先に諦めてどうする。お前はやっとできた仲間を、家族を、絆を、裏切るのか。「ここに村を作って待っている」と交わしたビリーフェさんとの約束を破るのか。そんなことはしない。させない。この場所は守る。この場所が俺の大事な場所だから。

俺は鉄の味を噛み締めながら声を絞り出した。


「全員戦闘態勢だ! 相手はゴブリンキング! 確実に今までで一番強い敵だ! しんどい戦いになるだろうが全力で戦うぞ! 俺たちの居場所を守るんだ!」


 俺の声に放心していた精霊たちも我を取り戻したようだ。全員戦闘態勢をとる。

 そんな俺たちを見てゴブリンキングは薄く笑ったかと思うと、ゆっくりと詠唱を始めた。


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