第20話:5日目⑤ ~シキナの加入とゴブリンの影~
サフラと合流し、グレイケイブ内で夕飯にする。
俺の家でご飯を食べても良かったのだが、全員が入ると少し手狭だ。グレイケイブはファクトが発掘作業した結果、少し広がっている。よってグレイケイブ内で食べることにした。
いつも通りサフラに肉を渡して焼いてもらう。
「アタシも手伝うよ!」
とのことでカイエも手伝ってくれるそうだ。
今日の夕飯はオークの串焼きと茹でジャガイモだ。ジャガイモは今食べる分で無くなる。あとはカイエに頑張って育ててもらうしかない。
そして今回の食事で一番楽しみなのは塩だ。サフラが作ってくれた塩をさっそく使ってもらう。
さて、可能ならサフラに夕飯の支度をしてもらっているうちに風のエレメンタルを召喚してしまいたい。
ガッツリ昼寝したからMPは回復しているだろう。見てみよう。
レイン
Lv.7
HP 68/68
MP 77/102
攻撃力 37
防御力 52
魔法攻撃力 74
魔法防御力 69
所持スキル 召喚魔法<下級>、ステータス閲覧、鑑定
固有スキル アイテムボックス
よしよし。これだけあれば大丈夫だろう。食事前にサクッと召喚してしまおう。
「夕飯ができるまでの間に精霊を一人召喚する。今回はブリーズの仲間を召喚するぞ。」
「お! 風のエレメンタルか! レインのあんちゃんお目が高いぜー!」
やはり同属が増えるのは嬉しいのか、ブリーズがはしゃいでいる。
召喚するためにグレイケイブの外に出る。するとブリーズを始め手持ち無沙汰にしていたマナトとファクトも着いて来た。
ではさっそく取り掛かろう。
「風の精霊王シルフィードよ。我が魔力を糧とし汝の下級眷属をここに顕現させよ。」
地面に見慣れた直径2メートルほどの魔法陣が浮かび上がってきた。
と同時に脱力感に襲われる。やはり残りのMPが少ないと強い脱力感に襲われるようだ。
「出でよ!風のエレメンタル!」
詠唱を終えると魔法陣の中心から緑のモヤモヤしたものが出てくる。
先ほどより強い脱力感に襲われるが、なんとか崩れるのは耐えた。
そしてモヤモヤが集結し、鋭い閃光の後に出てきた風のエレメンタルは全体的に緑の印象のある少女。
可愛いと形容してなんら問題ない。年はブリーズと同じくらいだろうか。年的には親子くらい離れていると言っても過言ではないが、なんとなく妹のようにも感じる。
やはりこの子もフヨフヨと宙に浮いている。風の精霊はみんな浮いてるのかな?
「はじめまして。俺がキミを召喚したレ『いよぉー! よく来たなぁ! オイラは先輩エレメンタルのブリーズだぜー! なんでも聞いてくれよー!』」
見事にブリーズに遮られてしまった。きっとブリーズも同属が増えて嬉しいんだろうなぁと微笑ましく思う一方でイラッとしたのでブリーズの首根っこを捕まえて傍にペイッと捨て置いた。
「俺がキミを召喚したレインだ。よろしく頼む。」
「レインのあんちゃんひどいや! 大事なかわいい精霊を投げ捨てるなんて!」
なにやら文句を言ってるが知らん。自業自得だ。
「あの⋯⋯私は風のエレメンタルです⋯⋯。すごい⋯⋯たくさん精霊さんがいるんですね。」
おっと意外だ。ブリーズと同族だからてっきりブリーズみたいにヤンチャで活発的な性格だと思っていたが、なんか内気そうな感じだ。
まぁファクトとカイエも同属だが性格はあまり似てないし、同属でも個人差があるのかな。
今回召喚した風のエレメンタルには“シキナ”という名前を与え、今までの経緯と目的を説明する。そしてシキナをその場のマナトとファクトに紹介した。
シキナはおずおずと自己紹介していたが、言わなければいけないことはしっかり言っている。
自分の意思をしっかり持ってるのはいいことだ。なんて思ってたら
「あの⋯⋯ブリーズ君がレインさんのことを『レインのあんちゃん』って呼んでました⋯⋯。私は『お兄ちゃん』って呼んでもいいですか⋯⋯?」
と言い出した。正直俺に妹萌えの属性はない。いくら精霊とはいえ分別はしっかりしてほしいものだ。仮にも俺は魔王の討伐を最終目標にしているのだ。自分が召喚した精霊だが馴れ馴れしくするつもりはない。なのでこう言ってやった。
「全然いいともさ! お兄ちゃんだろうがお兄様だろうが好きに呼んでくれたまへ!」
可愛い子からお兄ちゃんと呼ばれて嬉しくない男なんていないと思う。どうやら俺にも妹萌えの資質はあったようだ。
そんなやり取りをしていると
「ご主人様。そろそろ夕飯になりますよ。」
とサフラから声がかかった。もうお腹はペコペコだ。
グレイケイブに戻りサフラとカイエにもシキナを紹介する。
「あらまー! これまた可愛い子だよー! 困ったことがあったら何でもアタシに言うんだよー!」
とカイエがシキナの頭を乱暴に撫で回していた。母ちゃんやめたげて。シキナが目を白黒させてる。
シキナを加えて焚き火を囲む。串焼きとジャガイモがたくさん用意されている。おいしそうだ。
「ではいただこう。いただきます!」
全員で手を合わせてから食べる。
肉とジャガイモ自体は最近よく食べてるので特筆すべき点はないが、やはり今回の主役は使っている塩だろう。
前回の黒こげの塩は当然だが、ビリーフェさん達が持ってきた塩より美味しい気がするのは自作補正がかかっているからだろうか?
なんというか⋯⋯コクが深い気がする。まぁ補正がかかっていようがなかろうが、美味しいのならそれで良し。作ってくれたサフラには感謝の言葉をマシンガンのように浴びせておいた。
「そういえば主様、今日木を伐採していた時に気になることがありました。」
マナトが少し真面目な顔でそう切り出した。
「気になること? 何かあったのか?」
「そうそう! やたらゴブリンやホブゴブリンの姿を見たんだぜー! マナトのあんちゃんと魔法で倒そうとしたんだけど、こっちの様子を伺ってるみたいで全然近寄ってこないんだよー!」
「数日前の夜中もやたらゴブリンが襲ってきました。もしかしたら近くにゴブリンの集落があるのかもしれません。もし集落があるのだとしたらゴブリンロードがいる可能性が高いです。」
ふむ。もし近くにゴブリンの集落があるならこれから冒険者や商人達がこの地に来るのに障害になる。あるなら潰しておきたいところだが⋯⋯
「ゴブリンロードか。それは強いのか?」
「強さ的にはキラーグリズリーと同格くらいだと思います。強敵ですが、あの時より主様のレベルも上がってます! 僕たち精霊の強さは主の強さで決まります。今の僕ならそう簡単にはやられません!」
キラーグリズリーか⋯⋯正直トラウマだ。キラーグリズリーに殺されかけた記憶はそう簡単には拭えない。
まぁ今は精霊の加護も展開しているし、もしゴブリンロードとやらが加護内に入ってきても弱体するから余裕で倒せるだろう。
ん? 待てよ?
「⋯⋯今気付いたんだが、ここにいるみんなは行動範囲的に加護から出られないんだよな? 加護の外側の敵を攻撃したい場合はどうなるんだ?」
そう気付いてしまった。今回の集落騒ぎに収まらず、魔物を倒さないと食料も得られないしレベルも上がらない。レベルが上がらないとMPの上限が上がらないので新たな精霊が呼べない。それに俺のレベルが上がらないと精霊達も強くならない。これは結構由々しき問題だ。
この疑問にはサフラが答えてくれた。
「その場合はご主人様が加護の外に出て新たに精霊を召喚して戦ってもらうしか方法はありません。その場合は召喚した地点から半径100メートルがその精霊の行動範囲になりますし、加護から出て我々と行動範囲的が重複しない所で召喚すれば召喚の際に必要なMPも少なくて済むでしょう。」
なるほど。そういう方法があるのか。でもそれだと加護の恩恵を得られないので恐いな〜と思ったが、よく考えれば昨日まで精霊の加護なしで生活していた。それがたった一日でこの考えに至るのはいかに精霊の加護に頼っているかということである。
「まぁどちらにしろもう夜だ。明日になってから周辺を調査してみよう。一応夜中の見張りは厳重にしておいてくれ。」
マナトとブリーズが頷いた。
そして食事が終わってからファクトとマナトを外に呼び、見張りがしやすいように“かがり火”を作ってもらった。
かがり火とは日本に古来より伝わる照明器具だ。まずファクトに石で1メートルくらいの細い棒を3本作ってもらう。その3本の棒を組み合わせて交差部分を草糸で固定して安定するようにして地面に置く。その上の部分にやはり石で作った籠を置き、その中に木を入れて燃やす。
かがり火の利点は、焚き火と違い高い位置で火を焚くためより広範囲を照らすことができる。このかがり火を20個ほど作ってもらい、家の周りを中心に置いた。するとびっくりするほど明るくなったのだ。
今まで夜は本当に暗かった。地球と比べると月明かりや星明かりがかなり強いので全く見えないというわけではなかったが、かがり火が加わると劇的に明るくなった。何故か嬉しくなる。
「ふむ。主殿。まだMPが残ってますぞ。」
とのことで俺の家の隣に俺の家と同じ作りの家をもう一軒作ってもらった。
「ちょいと! アタシもいけるよ!」
とカイエも乱入してきて、俺の家を挟むようにさらにもう一軒家を作ってもらった。
これで家が合計で三件になった。ゆくゆくはその両隣にもう一軒ずつ家を作って真ん中が俺の家、俺の周りの家を各属性の精霊の家にするつもりだ。
照明器具ができたことと家が増えたことに嬉しさと満足感を得ながら今日は寝ることにしよう。
明日は周辺の調査だ。加護から出るのは少し恐いが、精霊達は加護から出ることができないのでこれは俺にしかできない。
そんなことを考えながら自分の家に帰ってベッドに入った。
俺は気合いを入れ直して眠りについた。




