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第17話:5日目② ~お互いの要望〜

 マナトとビリーフェさんと一緒にグレイケイブの中へ入ると、途端にいい匂いがした。

 ただ肉を焼いただけの暴力的な匂いではなく、優しい柔らかい匂いだ。

 匂いの発信源を探すと、ファクトが作ったであろう簡易的なかまどにビリーフェさん達が持ってきた鍋が置かれている。

 その中には白濁色の液体が入っており、ジャガイモと思わしき具も入っていた。


「そ⋯⋯それはもしかして⋯⋯⋯スープ⋯⋯なのか?」


 俺の声は震えていた。

 スープ。それは俺がアスガルゲインに来てから欲していたものの一つだった。

 今でこそ精霊の加護が展開されてダウンジャケット無しでもいられる気温になったが、昨日の昼にまでは凍てつく寒さの中で過ごしていたのだ。

 その中で暖かいスープを求めるのは当然のことだろう。


「はい。スープです。ブレッドバードの骨で出汁をとりました。調味料は塩のみですし具もジャガイモのみですが、出汁が良いのでそれなりに食べられるスープになってると思います。」


 おぉ。鶏ガラのスープというわけだ。素晴らしい。素晴らしすぎる。

 具はジャガイモだけと言っていたが、鶏肉の切れ端も入っている。俺にはわかる。あれは絶対美味い。

 あとはブレッドバードとオークを串焼きにしたものだ。朝から重いご飯だが、全然構わない。もともと朝から何でも食べられるタイプだったし、今はスープのお陰で食欲の化身と化している。


 地べたに座り、サフラが取り分けてくれた石の器に入ったスープを受け取る。スープには石のスプーンが添えられていた。器もスプーンもファクトの作品だそうだ。

 この場に居ないスコープとバッグスを除く全員にスープが行き渡ったところで「いただきます」をした。

 どれ。まずはスープをひと啜り。


「ん〜〜〜〜〜〜まい!」


 パイタンスープと言うべきか。白濁のスープを口に入れた瞬間に強く濃厚な鶏の旨味が襲いかかってくる。しかし全然嫌味ではなく、むしろ心地よい。

 具のジャガイモを食べてみる。一口大にカットされたジャガイモに濃厚で少しトロミのついたスープが絡んでとても美味しい。

 スープをもうひと啜りする。今度は鶏肉の切れ端が口に入ってきた。悶絶レベルで美味しい。


「ほう⋯⋯このスープは絶品ですな。国でもここまで旨味の詰まったスープは口にできませんぞ。」


 おそらく数々の美味しいものを食べてきたであろうビリーフェさんからもお褒めのお言葉をいただく。

 確かに。俺もここまでおいしいスープは日本でも飲んだことがない。ずっと暖かいスープが飲みたかったとか久しぶりの鶏の味だからだとか、そういった補正を除いてもこのスープは美味しい。

 ブレッドバードの旨味、そして使っている精霊の水だけでこの味をが出るのだから素材の破壊力たるや恐ろしいものがある。

 この調子ならブレッドバードの串焼きの方も美味いだろうと思い、手を伸ばす。一口大に切られた鶏肉を口に入れて咀嚼をする。

 肉は日本で食べていた鶏肉と比べるとかなり弾力があるが、固いわけではない。弾力の強い肉を咀嚼する度に肉から旨味がドンドン溢れ出てきて、これは


「美味い! これも美味いぞ!」


 鶏肉を一口大に切って塩を振って串焼きにしたもの。それは俺のよく知る焼き鳥だ。

 しかし日本にこんな焼き鳥を出す居酒屋があったとしたらとんでもない繁盛店になる。何の疑いもなくそう思えるほどの串焼きだった。


 見ると全員が幸せそうな顔をして食事をしている。ブレッドバード恐るべし。もうバンバン結界に突っ込んでもらいたいものだ。


 途中でボロ雑巾のようになったスコープとバッグスがグレイケイブに入ってきた。

 サフラに回復魔法と浄化魔法をかけてもらっていたが、ダメージは回復してもスタミナまでは回復しないのでやはり死にかけのゾンビみたいだった。

 食欲がないから朝食はいらないと言っていたが


「せっかく皆様が用意して下さったのですから食べなさい。」


 とビリーフェさんが一言発すると2人はビクッと体を震わせ、スープをかっ込んでいた。

 しかしやはりスープが美味しかったのか、2人ともスープは完食していた。


「あ〜〜美味かった。ごちそうさまでした!」


 食べ終わるやサフラがテキパキと汚れた食器を一ヶ所に集めた。そして集めた食器にまとめて浄化魔法をかける。すると汚れた食器が一気にキレイになった。ヤバい。浄化魔法すごい。


「さて、レイン殿。我々は我が国の大統領に今回の件を一刻も早く伝えたいので今日の昼にでもここを発とうと思います。なので早速細かい部分の話しをしましょう。」


 どうやらもう帰ってしまうらしい。せっかく打ち解けたのにもう帰ってしまうのは寂しいが、こちらとしても早い行動はありがたいので仕方ない。


「わかりました。ではとりあえずお互いの要望をすり合わせましょうか。」


 良好な同盟関係を築くにはお互いの要望や要求、それに対する見返りなどのバランスが取れている事。これに尽きると思う。


 話し合った結果、現時点でのビットア共和国側の要求は

 1 精霊の加護内に建設予定の村をビットア共和国の冒険者及び勇者の拠点として解放すること。

 2 建設予定の村への移住希望者、労働従事希望者を受け入れること。

 3 精霊の加護内の安全な状況下でのグレイケイブ開通工事を容認すること。

 4 建設予定の村に冒険者ギルドを設置すること。


 そしてこちら側の要求。俺が精霊達と相談した結果が

 1 人族の三国を巡回している商人の行商ルートに今回の建設予定の村も入れること。

 2 村を発展、維持していく上で必要な物資の供給。

 3 建設予定の村を有効活用してもらって魔王の討伐を目指してもらう。


 元々お互いの利害はほぼ一致していたので、基本的には全て合意という形になった。

 ただビットア共和国側の要求の2番。労働従事希望者を受け入れるのは構わないが、移住希望者を全て受け入れるのは難しい。

 というのも精霊の加護は範囲が限られているため、希望者が多かった場合は全てに対応できない。

 さらにこれはビリーフェさんには言わないが、俺はビットア共和国だけでなく、残る二国とも繋がりを持ちたい。なのでビットア共和国の人間だけで結界内を埋めるわけにはいかない。

 なので、移住の資格は冒険者とその家族、村に店を開きたい商人、その他定住の必要のある専門職に限ることにした。


 基本的にビットア共和国側が望むのは「より魔王に近い場所での安全な拠点」でこちら側が望むのは「村の建設、維持、発展に必要な物資」である。

 見事なまでにお互いがお互いの持ってないものを持っている状況だったので、合意するのは簡単だった。


「思った以上にすんなり決まりましたな。僥倖でなによりです。さて、今日ここを発って国に帰り、大統領に報告して同盟関係を確実なものにし、冒険者ギルドや商人ギルドにこの地のことを伝えてからグレイケイブの工事の人員や冒険者を連れてまたここに戻ってくる。この行程は最低でも5日はかかります。大統領の認識が遅れたり各ギルドの伝達が遅れたりしたらもっと時間はかかってしまうかもしれません。そこは了承していただきたい。次にここに来る時に持ってきて欲しいものはありますかな? 可能な限り持ってくるようにしましょう。」


 俺は考えた。そして精霊達と相談した。今の暮らしに足りないもの。村を作るのに必要なもの。


「では用意できる種類の野菜や果物の種や苗。それと各種調味料。それと冒険者ギルドのことはよくわからないので、ギルドの運営ができる人員が欲しいです。建物はこちらで作っておきます。」


「了解しましたぞ。しかしたった5日でギルドほどの大きな建物が建ちますかな? 他にも定住者の家や宿屋なんかも建てるのでしょう?」


「まぁ大丈夫でしょう。これから精霊達も増やしますし。」


「なんと! まだ増やせるのですか!? いやはや、レイン殿には驚かされっぱなしですなぁ。⋯⋯⋯さて、もうこの場での決め事がなければビットア共和国へ帰るとします。急ぐに越したことはないですからな。正義の白翼のみなさん、行きましょうか。」


 正義の白翼の方を見ると、4人で何やら相談している。スコープが仲間たちの顔を見て一つ頷くと


「ビリーフェさん、レインさん、僕たち正義の白翼はこの地を拠点として腕を磨きたいと思います。ついては今帰ると時間のロスになってしまうのでこのままここに留まりたいと思うのですが、よろしいですか?」


 向上心からか、そんなことを言い出した。まぁビリーフェさんの稽古(お仕置き)がキツかったからビリーフェさんから離れたいだけとも思えなくないが。

 ってかそもそもキミたちはビリーフェさんの護衛としてここに来たのでは? と思うが、どう考えてもビリーフェさんに護衛はいらないだろうと自己完結した。


「俺としては構わないが⋯⋯ビリーフェさんはいいんですか? 彼らは一応ビリーフェさんの護衛として来たのでしょう?」


「⋯⋯そうですね。この際護衛云々はいいとして、正義の白翼にことを考えるとこのままここに残ったほうがいいのかもしれませんが、私一人で国に帰って大統領や各ギルドにここのことを伝えて事を運ぶのはいささか骨が折れます。それに他の冒険者達などにはわたしの口より正義の白翼の皆さんの口からの言葉のほうが信用されやすいでしょう。」


 ということで正義の白翼も一旦国に帰ることになった。おいおいバッグス。そんなあからさまに嫌そうな顔をするな。



 そしてビリーフェさんと正義の白翼の面々は帰り支度をして帰ることになった。


感想、評価、レビューなどいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

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