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閑話 ~“正義の白翼”スコープ編~③

 たっぷりの沈黙の後、ビリーフェさんが切り出しました。


「あら、いきなり訪ねて来て名乗りもせずに相手に一方的に質問をするなんて、ずいぶん礼儀がなってますこと。」


 青い精霊様がビリーフェさんをそう切り捨てます。そこからのビリーフェさんはひたすら平謝りをして、我々の目的を話してました。

 どうやらこの男性はレインという名前らしいです。職業は召喚士と言ってました。聞いたことありません。

 あまつさえ自分は異世界から来たと。魔王を倒すために創造神に精霊を召喚する魔法を与えられたと。ここに魔王討伐を助力する村を作ると言っています。正直怪しすぎて引くレベルです。

 レインと名乗る男は魔族が僕たちを騙すために人間になりすましているのではないか。僕たちは全員がそう考えていましたが、なんとビリーフェさんはレインと名乗る男の言うことをアッサリ信じてしまっているようです。

 土下座して仰いだりしています。ちょっと信じられません。ビリーフェさんのことは尊敬していますが、僕たちはこのレインという男性を信用できません。


「信じてもらえて助かりますが⋯⋯僕としてはこんな簡単に信じてもらっちゃっていいのかなという気持ちです。そこで今日はちょうど土の精霊を召喚する予定でしたので、その様子を見てもらいたいなと思います。土の精霊で四大精霊が揃うので、精霊の加護も展開したいと思ってます。その様子を見てもらって信用するに足るかどうかを判断していただけたらなと思います。お付きの冒険者の皆様もそれで良いですか?」


 僕たちが疑い続けているのが伝わったのか、そう言ってきました。

 願っても無い申し出です。土の精霊様なら何度も見たことあるし実際目の前で見せてもらえれば信じられるかもしれません。


 その後は一緒に昼食を摂ることになりました。先ほどの火の精霊様(マナトという名前らしい)が作っていたのは塩だったそうで、嬉しそうに真っ黒な塩を持ってきました。

 正直すごく苦かったのですが、キラーグリズリーに肉の旨みがすごく強くて満足のいく昼食でした。

 そうそう。我々が持ってきたジャガイモや黒パン、ドライフルーツといったものをレインさんは「ウメー!ウメー!」と泣きながら食べていました。

 元の世界で食べていたそうですが、久しぶりに食べてとても嬉しい美味しいと言っていた様子はとても演技には見えず、見ていて気持ちの良いものでした。

 食事中にレインさんに僕たち“正義の白翼”のことを訊かれ、いろいろ質問に答えました。僕が自己紹介した時に小さな声で「爆発しろ」と聞こえたような気がしたのですが、あれは気のせいだったのでしょうか⋯⋯


 昼食が終わってから、いよいよ土の精霊様を召喚する時が来ました。

 もっと仰々しい儀式みたいなものがあるのかと思ったら意外に簡単な詠唱で拍子抜けしましたが、魔法陣から出てきた茶色いモヤモヤが収束して強い光を発した後にそこに居たのは紛れもなく土の精霊様でした。

 僕たちに馴染み深い土の精霊様。その精霊様に自分の今までの経緯や目的を話し、アッサリと精霊様の協力を勝ち取るレインさん。その光景に言葉を失います。

 ビリーフェさんなんか感動しすぎて泣き崩れています。


「レイン殿! レイン殿ぉ! 私は今モーレツに感動しておりますぞぉ! 我が国と馴染み深い土の精霊様⋯⋯召喚するレイン殿の姿はまさに神の使いそのものでしたぞぉ!」


 僕はそこまで陶酔することはできないけど、信用せざるを得ないかなという気持ちにはなっています。


 そして精霊の加護を展開するために全員で外に出ます。

 4人の精霊様が手を繋ぎ、円になります。そして誰からともなく聞き慣れない言語で詠唱が始まります。

 4人の声が重なり、まるで綺麗な歌を聴いているかのような詠唱が数分続きます。

 最初はその詠唱に聞き惚れていましたが、次第に緊張感が増してきます。思わず固唾を飲み込みました。

 そして精霊様達を色とりどりのオーラが包み、頭上高くで混ざり合って広範囲に結界を張りました。

 その瞬間、辺りは春の終わりのような暖かさになり、体が軽くなったような気がしました。

 それだけでなく、体の底から力が湧いてくるようです。今なら無尽蔵に魔物と戦える。そんな気さえします。

 僕たちはあまりの出来事にただ放心するしかできませんでした。

 ここまで見せつけられてしまってはもはや疑う余地はありません。この結界が邪悪なものであるわけがないのですから。


「いや〜⋯⋯たまげたなぁ。精霊の結界とやらがこんなに気持ちいいものだとは。本当にここに村を作るなら、ここを拠点にしたいくらいだよな。な?スコープ?」


 バッグスも警戒を解いたようです。フェイミズとフリーマも穏やかな顔をしています。


「そうだな、バッグス。しかしここまで凄いものを見せられたらレインさんを信用するしかないな。レインさん、今まで疑っててすみませんでした。」


 僕が頭を下げると仲間達も一緒に頭を下げました。


「いやいや、さっきも言ったけど、そう簡単に信用されてもこっちが困るからね。それくらい疑ってくれたほうが自然だよ。なによりちゃんと信用してくれたみたいで良かった。でもね。精霊の加護はただ心地いいだけの結界じゃないんだよ。人族にとって様々な利点があるんだ。」


 なんと。まださらなる利点があるようです。僕たちはレインさんに許してもらったお礼を言うのも忘れて「ど、どんな効果が!?」と迫ってしまいました。

 そして精霊の加護について水の精霊様(サフラという名前らしい)から説明がありました。


「精霊加護内は結界が張られて弱い魔物は入れません。強い魔物や魔族は入れたとしても極端に弱体化します。田畑の作物は実りやすく豊作になり、土も痩せません。気温も過ごしやすい気温になり、人族のHPやMPといった自己治癒力が上がります。そして魔物だけでなく、悪意を持った人間も加護内では行動が制限されます。加護内では人族による犯罪は極端に起こりにくいでしょう。また、加護の外部からの魔法などによる飛び攻撃は加護に触れた瞬間に威力が殺されます。弱い攻撃なら無効化しますが、強い攻撃は完全には防ぎきれません。そこらへんは対策が必要かと思われます。」


 その説明に唖然としました。

 すごいとか便利とか⋯⋯そういったレベルではなく、軍事利用できるものです。むしろ軍事利用したら無敵でしょう。

 今は魔王という共通の敵がいるのでグロバーニュ連邦国ともマタドラ王国とも友好的な関係を築いているようですが、魔王が倒されてしまえば過去の歴史と同じく争うかもしれません。

 もしその時この精霊の加護が敵に使われたら⋯⋯想像するのも恐ろしいです。

 もしそうなったら何としても我がビットア共和国が使わなければいけない。魔王を必要悪と認識したくはないですが、そう思わせるに十分な効果です。

 ビリーフェさんはこのことに気付いているのでしょうか? 相変わらず感動して泣き崩れてしまっているので確かめようがありませんが、重要事項なので後で確認する必要があるでしょう。


 しかしビリーフェさんってこんなキャラだったでしょうか⋯⋯もっと沈着冷静なイメージがあったので、ここまで泣き崩れるビリーフェさんは意外でした。

 この人があの“鉄拳”だとは今の姿からはちょっと想像できません。


「はっはっは! なんか凄すぎて笑うしかできないな! な?スコープ?」


「いや〜ん。アタシ本当にここにできる村に住みたくなっちゃうわ〜。」


「私はスコープさんの決定に従います。」


 どうやら仲間達はそこまで深く考えず、目の前だけを見ているようです。

 僕は深く考えていることを悟られないように適当に相槌を打ちます。

 しかし現状ではこの結果は人族にとって強力な武器になります。ここを拠点にして経験を積めばパーティのレベルアップになることは確実です。

 僕はこの地にできる村を拠点とすることを本気で考えました。


 その後は復活したビリーフェさんの提案によって宴会が開かれることになりました。

 お腹はいっぱいでしたが、宴会となるとやぶさかではありません。

 ここでもやはりレインさんはエールやワインに感動していました。

 どうやら元の世界では毎日エールのような酒を飲んでいたとのこと。久しぶりに飲めて嬉しいとしきりに言っていました。

 ⋯⋯どうやらこの人は本当に異世界から来たみたいです。もう疑っているわけではないのですが、にわかには信じ難い部分があるのは否めません。


 しかし僕たちも気分がいいのは事実です。結界の効果で過ごしやすい気温ですし、元気や力といったものが湧いてきます。

 そしてなにより魔物の脅威が極端に低いという現状が僕たちのエールもどんどん進めます。

 加えて精霊様たちの宴会芸(精霊様方にとって物凄く失礼な表現ですが)もとても素晴らしく、エールが無尽蔵に飲めてしまいます。

 とても酔ってしまっていますが、不思議と気持ちが悪くなったり頭が痛くなったりしません。これも結界の効果なのでしょうか?


 そうこうしているうちに僕は次第に意識が薄れていくのを感じます。どうやら飲みすぎたようです。

 隣を見るとバッグスがすでに大きなイビキをかいて寝ています。どうやら僕ももう意識を保てないみたいです。

 こんな草原のど真ん中で寝てしまうなど普段ならあり得ないことですが、結界が張ってあるし、ここにいるのは皆強者です。魔物が襲ってきてもなんとかなる⋯⋯でしょう。


 そうして僕の意識は急速に失われていきました。


遅れましたが、初めての感想をいただきました!本当にありがとうございます!

次回からは本編に戻ります。

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