閑話 ~“正義の白翼”スコープ編~①
初めての閑話です。
僕の名前はスコープ。
ビットア共和国で新進気鋭のパーティと言われる“正義の白翼”のリーダーをやっています。
冒険者歴は5年目なので初心者を脱したかどうかというところですが、パーティランクはC、個人の冒険者ランクもCです。
メンバーは剣士の僕、戦士のバッグス、魔術師のフェイミズ、薬師のフリーマの4人。全員が幼馴染みです。
僕たちが冒険者歴に合わない活躍と評価を受けているのは、魔物に対する憎しみが他の人達より強かったせいでしょう。
僕たちは各々、幼い頃に両親や家族を魔物に殺され孤児院で育ちました。孤児院内で幼い頃から魔物に対して強い憎しみを持ち、集まった4人が「正義の白翼」なのです。
今日も僕たちは依頼をこなします。
僕たちは勇者ではありません。魔王を倒してやりたいという気持ちはありますが、分というものは弁えてます。僕らはひたすら冒険者ギルドで依頼をこなし、手の届く範囲の人々を守るのみです。
いつも通り4人でギルドに入り、依頼の紙が乱雑に貼り出されている掲示板に向かうと
「正義の白翼の皆さん、こちらへ来ていただいてもよろしいですか?」
とカウンターから声がかかる。声をかけてきたのはギルド職員のミキピアさん。
荒くれ者が多い冒険者ギルドで常に正しい言葉を使い、冷静に物事を進める敏腕職員です。
僕らより少しだけ年上のお姉さんだけど、その落ち着いた雰囲気で年齢以上の印象を受ける美人さんです。
「はい、ミキピアさんどうしましたか? 優先的に受けた方がいい依頼でもあるんですか?」
ちなみに僕も冒険者の中では言葉使いや礼儀なんかにはしっかりしている方らしいです。
バッグスには「お前の喋り方だけを聞いてると冒険者とは思えねぇよ。」と常々言われています。
「正義の白翼に皆さんに指名依頼が入っております。詳しく説明しますのでマスター室に行っていただいてもよろしいですか。」
ミキピアさんから発せられた言葉に僕たちは凍りつきました。
指名依頼とは、国や貴族が重大かつ秘匿的な依頼を信頼できる高ランク冒険者に向けて出す依頼で、通常の依頼より報酬も大きいのです。
確かに僕たちはある程度の信頼は得ていると思うけど、高ランクと呼べるほどのランクではありません。
ましてやビットア共和国はもともと魔王討伐を志す小国や部族が集まってできた国で、階級制ではありません。この国に貴族はいないのです。
よってこの国での指名依頼というのは、ほとんどが国からの依頼となります。
なぜ僕たちに指名依頼が入ったのかは全然わかりませんが、ここで立往生してても何も始まりません。ミキピアさんに返事をしてマスター室を目指します。
「なぁスコープ。指名依頼ってことは国からの依頼だよな? 俺たちもついにその域になったってことかよ!?」
「落ち着けバッグス。普通に考えたらCランクパーティに指名依頼は入らないよ。きっと何かワケがあるんだ。」
「スコープ君は疑り深いなぁ~。私はもっと喜ぶべきだと思うけどね! もしかしたら国からの依頼じゃなくて大金持ちからの依頼かもしれないし! そしたら報酬もたんまりだよ!」
「どんな依頼でも受けるか受けないかはスコープさんに一任します。」
うーん⋯⋯バッグスは安直すぎるしフェイミズは楽天的すぎるしフリーマは僕に心酔している部分がある。
やっぱりこのパーティは僕がしっかりしないといけない様です。⋯⋯あ、胃が痛い。
そんな話しをしているうちにマスター室の前に着きました。
緊張しながらノックをすると
「入れ」
と中から聞こえてきました。
4人で声を合わせて「失礼します」と言い、中に入ります。自然に声が合うあたりは流石幼馴染みだなぁと思いますね。
マスター室の中には2人の人物がソファに座っていました。
1人は当然、このギルドのギルドマスターです。
そしてもう1人は
「うお⋯⋯“鉄拳”のビリーフェだ⋯⋯」
後ろからバッグスの驚く声が聞こえてきました。フェイミズとフリーマの息を飲む音も聞こえます。かく言う僕も驚きを隠せません。
“鉄拳”のビリーフェ。ビットア共和国で冒険者をやっている者で彼を知らない人はいません。
元Sランク冒険者。拳士として数々の難解な依頼をクリアして国に大きく貢献した超人。
かつて起こった魔物のスタンピードによる首都防衛戦で主力としてビットア共和国を守るために戦った英雄。
現在は冒険者を引退しているけど、その人望と実績と幅広い能力でビットア共和国の大統領補佐官を務めている凄い人です。
僕ももちろん知っていたし遠巻きに見たことはあったけど、こんな距離でお会いしたのは初めてです。
冒険者を引退したとはいえ、凄いオーラを纏っているので嫌が応にも緊張してしまいます。
「来たか。まぁとりあえず座れ。詳しい話しをしよう。」
ギルドマスターに促されて、2人の正面にあるソファに4人で座ります。
ギルドマスターも元冒険者でかなり強いAランクの戦士だったのですが、“鉄拳”の前では霞んでしまいます。
「急に呼び出して悪かったな。知ってると思うが紹介しよう。こちらはビリーフェ大統領補佐官殿だ。」
「ビリーフェです。初めまして。新進気鋭のパーティ“正義の白翼”の皆さんにお会いできて光栄ですぞ。」
と言いビリーフェさんは気さくに僕たち全員と握手してきた。
「申し遅れました。私は正義の白翼のリーダーで剣士のスコープです。」
「戦士のバッグスです!」
「魔術師のフェイミズです!」
「薬師のフリーマです。」
ビリーフェさんに先に自己紹介をさせてしまったことを悔やみながら慌ててこちらも自己紹介をします。
みんな声が上ずっていたように聞こえたのは勘違いではないでしょう。
「はっはっは! 飛ぶ鳥を落とす勢いの正義の白翼も、“鉄拳”の前では緊張を隠せないようだな!」
ギルドマスターがそう言い笑います。当然でしょう。おそらくこの国の冒険者でビリーフェさんに憧れてない人などいないのですから。
「では話しを進めようか。まずは依頼の内容からだ。」
ギルドマスター曰く、去年中断(断念)していたグレイケイブ開通計画を再開させることになった。国としても重要なプロジェクトなので、計画の前段階として大統領補佐官が直接現地を視察することになった。僕たちにはその護衛をしてほしいとのこと。これは言わば国家プロジェクトなので指名依頼扱いになるとのことだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな重要な依頼を何故僕たちに!? 僕たちより強くて高ランクのパーティはいくらだっているはずです! それにビリーフェさんの護衛なんて⋯⋯正直、僕たちに“鉄拳”の護衛は務まりません。」
「はっはっは! そう言うと思ったよ! しかしこれは俺とビリーフェ殿からの要望なのだよ。確かにお前達が束になってもビリーフェ殿には敵うまい。しかしグレイウォール近くにはCランクの魔物が生息しているし、Bランクの魔物もその姿が確認されている。流石にビリーフェ殿一人ではちと荷が重い。そこで護衛ついでに若く将来有望なパーティを連れていってもらうことにした。国の未来のための社会勉強ってとこだな。それにお前達“正義の白翼”は回復要員が2人いるだろ。ビリーフェ殿のサポートにはうってつけなんだよ。」
ビットア共和国は巨大な鉱山に隣接した国です。自然に発掘活動や鉱石を使った産業、商業が盛んになります。
その影響でこの国の冒険者は戦士や剣士といった前衛職が多く、魔術師などの後衛職が少ないのが現状です。
冒険者ギルドが定めたパーティの上限人数は4人まで。だいたいどのパーティも4人で構成していますが、前衛が3人、後衛が1人というのがスタンダードです。後衛職が2人いる正義の白翼は珍しいかつ恵まれていると言っていいでしょう。
僕は仲間達の顔を見回します。3人と目が合いました。それだけで意思の疎通が完了しました。
すなわち、この依頼を受けるということです。
「なるほど。そういうことでしたら納得できます。少しかかる期待が大きくてプレッシャーは感じますが、僕たち正義の白翼にとってはこの上ない勉強になるでしょう。この依頼、受けさせてください。」
そう言うとギルドマスターとビリーフェさんは満足そうな笑みを浮かべて大きく頷きました。
この3日後、僕たちはビットア共和国を出立し、開発途中のグレイケイブへと向かったのです。
もう一話閑話が続きます。