第15話:4日目⑦ ~ファクトからのプレゼント〜
今回もキリがよかったので短めです。
だいたい4000字くらいで納めたいのですが、どうしても多かったり少なかったりしてしまいます⋯⋯。
「さて、宴会も落ち着いてきたみたいです。精霊達も心配するから戻りましょうか。」
俺達が宴会の場に戻ると、場は完全に鎮静化していた。
正義の白翼の男達は飲みすぎたのか、その場で眠ってしまっている。バッグスなんかは物凄いイビキをかいてやがる。
正義の白翼の女達はもらった髪飾りを眺めて嬉しそうにしている。
ブリーズとファクトの勝負は、どうやらファクトが勝ったようだ。ブリーズが地面に体育座りして明らかに落ち込んでいる。
まぁ普通に考えたらブリーズがファクトには勝てないよな。
そのブリーズをマナトが慰めている。
その横ではファクトが勝利の美酒だと言わんばかりに一人でワインを飲んでいる。
サフラは一人でせっせと後片付けをしていた。マジ良い子。
「どうやらお開きのようですな。サフラ殿のお陰で片付けもほぼ済んでしまった。我々は馬車で休ませてもらいますぞ。」
とビリーフェさんは言い、爆睡している正義の白翼の男達を叩き起こし始めた。
入れ違いにファクトが俺に近寄ってきて
「ふむ。主殿。いつもはあの横穴で寝てるのかの?」
俺はそうだと答える。
「ふむ。では挨拶がわりにワシの能力を見せようかの。主殿、そこに木を出してはくれんか。多ければ多いほど良い。」
そう言われて俺はファクトが指定した場所にアイテムボックスから昨日マナトが切り倒した木とトレントを出した。
位置的にはグレイケイブの出入口から10メートル程前方だろうか。
「主殿。そういえばまだワシの出来ることを説明しておらなんだな。ワシは戦闘はからっきしダメじゃが、形成魔法を使っての物作りが得意じゃ。ブリーズ坊も形成魔法を使えるが、植物系に限定されとる。だがワシの形成魔法には枷がない。つまり自然界に存在する全ての物に形成魔法が使えるほか、植物系に関してもブリーズ坊のそれより消費MPが少なくて済むのじゃ。よって⋯⋯」
と話しを区切り、詠唱を始めた。
木は淡い光に包まれて形を変えたかと思うと、あっという間に家ができてしまった。
「挨拶がわりのプレゼントじゃ。⋯⋯ふむ。材料が足りないので家というよりは小屋じゃの。まぁあの横穴で寝るよりはグッスリと眠れるじゃろうて。そのうちもっと大きな家を建てるでの。」
おお! 家だ! ついに念願の家を手に入れたぞ!
確かに小屋とも言えなくないが、隙間風が入ってこないだけで俺にとっては贅沢品だ。
横を見るとビリーフェさんが
「なんと⋯⋯こんな簡単に家を作ってしまうのか。これでは大工は商売上がったりですな。」
と苦笑を浮かべていた。
昼間のように泣き壊れたりしない。きっとこっちが素の表情なのだろう。
「この調子ならあっという間に村が出来てしまいそうですな⋯⋯。そうそう、いくら結界が張られているとはいえ見張りは必要ですな。夜間の見張りは私が受け持たせていただきますぞ。レイン殿と精霊様方はゆっくり休んでくだされ。」
そこにすかさずマナトとブリーズが飛び込んできた。
「夜間の見張りは僕らがやります! 精霊は睡眠が必要ではないので見張りには最適ですので! ビリーフェさんはゆっくり休んでください!」
「魔物にくやしさをぶつけてやるぜー!」
どうやらブリーズはそこまで落ち込んではないようだ。よかったよかった。
「それはありがたい⋯⋯正直なところ、今日は慣れないことが多くて少々疲れてましてな。お言葉に甘えることにします。それでは我々は失礼しますぞ。細かい話しはまた明日ということで。」
と言うと、ビリーフェさんは叩き起こした結果ビクともしなかったスコープとバッグスを両肩にヒョイと抱えて平然と馬車に歩いていった。
おいおい⋯⋯鎧を着込んだ大の男2人を担いで平然と歩くとか、どんな化け物だよ⋯⋯
どうやら「鉄拳」殿は俺の想像を軽く超えているらしい。
「ふむ。では主殿。家の中に入ろうかの。プレゼントはまだ終わっとらんでの。」
そう促してきたファクトは大量の茎植物を抱えていた。
あの植物はなんなのかが気になるが、ファクトがズンズン家の中に入ってしまったため俺も追って家に入った。
中はこじんまりとした空間だった。広さ的には8畳くらいだろうか。しかし俺にとっては雨風が凌げる上にプライバシーが守られる空間というだけでありがたいことだったので何も文句はない。
そして家の中にはいくらかの木がポツンと置かれていた。
「この木は家を作った際に少し残しておいた物じゃ。そしてこの大量の茎は苧麻という植物じゃ。この苧麻は繊維がとても丈夫での。繊維の一本一本が草糸と呼ばれておる。この木と苧麻で作る物は⋯⋯」
ファクトは木と茎に形成魔法をかけた。みるみる姿を変えて出来たものはベッドとタオルケットのようなものだった。
「結界内で暖かいしベッドで底冷えもしないから、この程度の布団でも寒くないじゃろう。ちとベッドが固いのが難点じゃが、地面で寝るよりは遥かにゆっくり眠れるじゃろうて。」
ありがたい。家だけでなくベッドまで手に入ってしまった。もう完全に人間の生活を取り戻したと言っていいレベルではなかろうか。
しかもファクトが難点と言った問題も俺は解決できる。
俺はアイテムボックスからキラーグリズリーの毛皮を取り出してベッドに敷いた。
「おお! それはキラーグリズリーじゃな! その毛皮は質の良い高級品じゃ。シーツ代わりにするのはもったいないくらいじゃが、グッスリ眠れることは間違いないの。」
お墨付きをいただいた。目の前のベッドが何にも代え難い宝物に見える。
「ありがとうファクト。素晴らしいプレゼントをもらってしまった。これでしっかりMPの回復ができて明日からの作業が進みそうだ。本当にありがとう。生産担当のファクトも明日からは仕事が立て込むだろう。見張りはマナトやブリーズに任せてゆっくり休んでくれ。なんならこの家の中で寝るか?」
「いやいや、ワシはあの横穴で十分じゃ。まぁそのうちワシら精霊の家も作るがの。主殿の家より立派なのを建ててしまおうかの!」
と言うとファクトは「ガッハッハ!」と笑いながら家を出て行った。
さて、目の前に宝物があるのに放置する手はない。とりあえず寝転んでみよう。
ベッドに入った瞬間に恐ろしいまでの寝心地の良さに急激な眠気に襲われる。
それもそうだ。今日は色々なことがあって実に充実した日だった。
朝起きてサフラを召喚した。
ご飯食べて一休みしていたら異世界人が訪ねてきた。
腹を探り合いながらお互いの情報を交換した。
ジャガイモ、パン、ドライフルーツ、そして塩を使っての肉。感動しきりで昼ごはんを食べた。
ファクトを召喚した。
精霊の加護を展開した。
ビリーフェさん達と宴会をした。
ビリーフェさんと腹を割って話しをしてアットワ共和国と同盟を結ぶ約束をした。
ファクトに家とベッドをプレゼントしてもらった。
ザッと思い返しただけでもこれだけのことがあった。疲れるのも当然だろう。ましてや久しぶりのアルコールも手伝っている。今日の眠気はキラーグリズリーより強い。
しかし俺には最期の仕事がまだ残っている。精霊の加護を展開したので、どの程度MPが回復するのかを確かめなくてはいけない。
俺は最期の力を振り絞って体を起こし、ステータスを開いた。
レイン
Lv.7
HP 68/68
MP 22/102
攻撃力 37
防御力 52
魔法攻撃力 74
魔法防御力 69
所持スキル 召喚魔法<下級>、ステータス閲覧、鑑定
固有スキル アイテムボックス
オーケー。MP22ね。全開まであと80。
なんか防御力が少し下がってる気がするけど、なんでかな? ダウンジャケットを脱いでるからだろうか?
検証したいけど、どうやらもうお迎えが来たようだ。
おやすみなさーい。
批判、罵倒、なんでもいいので感想をくださると今後の糧にできますのでお願い致しますm(_ _)m
区切りが良いので次回は閑話を入れてみたいと思います。