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第14話:4日目⑥ ~夜空と本音〜

キリが良かったので少し短めです。

 いい気持ちだ。すごくいい気持ちだ。これだけ穏やかで楽しく、いい気分なのはいつぶりだろうか。


 俺達は夕空の下、宴会を始めた。

 久しぶりに(といっても5日ぶりだが)飲んだ酒は格別だった。


 初めてエールというものを飲んだ。印象としてはビールより薄くてコクがない感じだった。そしてぬるい。

 しかし俺はホッピーや発泡酒も美味しくいただける人間なので問題なく飲めた。ぬるさも久々のアルコールの前には何のそのだった。

 そもそも日本でも「プレミアム」と冠するビールは厳密に言うとエールに分類されるとかされないとかといった話しも聞いたことあるし、エールも一概に不味いというわけではないのだろう。

 精霊の加護を展開するという一つの短期目標のクリア、初めての異世界人との邂逅、アットワ共和国との同盟案、極端に安全度が高く居心地のいい空間といったような、良いことが相まった状況がエールの進みを尋常ではないほどに進める。

 ツマミにしている肉も美味い。今回はオーク肉を焼いているが、使っている塩はビリーフェさん達が持ってきたものだ。

 やはり白い塩は美味しい。白い塩を使ってしまったらもう真っ黒に焦げた塩は使いにくくなったしまった。


 だいぶ飲んだ。久々に酔ってしまった。少し冷ましたいと思う。

 急に姿を消したら精霊達が心配するかなとも思ったが、今はブリーズとファクトが木に形成魔法をかけて髪飾りを作り、造形の美しさや細かさを競ったりしているし、マナトとサフラは火と水を勢いよくぶつけて水蒸気を作って幻想的な景色を生み出したりと、宴会芸に勤しんでいる。

 ビリーフェさん達はそれを見てやんややんや言いながらワインを飲んでいる。ここで俺が少し離れても誰も気付くまい。


 俺は喧騒から少し離れた場所まで移動し、地面に座り込んだ。

 両手を後ろの地面に着いて空を見上げる。空にはもう夜の帳が下りている。

 そして俺の目にはこれでもかと自己主張をしている素晴らしい星々が飛び込んできた。


(めちゃくちゃ綺麗だな⋯⋯そういえば異世界に来てから夜空を見上げたのは初めてだ。)


 ここまでの日々は壮絶なものだった。少なくとも平和な現代日本で生きてきた俺にはそう思わせるに十分な日々だった。

 夜は魔物が活発化し、危険が増える。必然的に陽が出てるうちに寝て夜明けと共に起きるといった生活をしていたため、夜空の星の瞬きには気付かなかった。


 夜空を見上げながら息をついていると


「レインどの〜。こんなとこで一人で黄昏れて、何を考えてるんですか〜?」


 と赤い顔のオッサン(ビリーフェさん)がコップを2つ持って立っていた。

 俺の横にどかっと座り込み、コップの1つを俺に寄越す。

 中には酒ではなく、水が入っていた。オッサン、気が利くじゃないか。

 俺は水を一気に半分ほど呷った。


「しかしブリーズ殿とファクト殿には驚かされますなぁ。まさか伝説の形成魔法をあの様に使うとは。」


 聞くと、人族の中で完璧な形成魔法を使える者はいないとのこと。

 稀にエルフやドワーフの中に形成魔法を使える者がいるらしいが、せいぜい形を少し変える程度らしい。

 人族の中では完璧な形成魔法はもはや伝説となっているとのこと。


 精霊達の方に目を向けると、ブリーズとファクトが出来上がった髪飾りをフェイミズとフリーマにそれぞれプレゼントしていた。

 残念ながら勝敗はここからではわからない。


「⋯⋯レイン殿。改めてお礼を言わせていただきたい。この度の同盟の受け入れ、誠に感謝致しますぞ。」


 少し酔いが覚めたような口調でビリーフェさんがそう言った。


「⋯⋯いえいえ。こちらにとっても願ったり叶ったりのお話しでしたから。それにおいしいご飯やお酒、種イモまでもらってしまった。お礼を言うのは完全にこちらのほうです。ありがとうございます。」


 俺は座ったままで頭を下げた。


「⋯⋯⋯⋯で、最終的にビリーフェさんは俺のことを信用するに値する人間だと判断してくれたんですかね?」


 辺りには俺とビリーフェさんしかいない。酒の力も借りて気になっていたことを聞いた。


「⋯⋯どういうことですかな? 私は最初から貴方のことを信用すると言っていたはずですが。」


「とぼけないでくださいよ。あなた方の中で俺のことを一番信用してなかったのはビリーフェさんじゃないですか。」


 俺は悪戯小僧のような笑みを浮かべてビリーフェさんを見てそう言った。


「⋯⋯はっはっは! どうやら私も年をとったようですな! 」


 ビリーフェさんは額をペシペシと叩きながら笑った。もはや酔っ払った様子は微塵もない。


「本来ならとぼけ通す場面なのでしょうが、レイン殿とは長い付き合いになりそうです。白状しましょう。その通りです。私は今の今まで貴方のことを完全には信用していませんでした。しかし勘違いしないでほしいのですが、私個人としては信用しておりました。しかし“大統領補佐官”という肩書きがそれを許さなかったのです。」


 ビリーフェさんは続ける。


「大統領補佐官の決定というのは決して小さくない影響をもたらします。私がブラスト大統領に進言すれば、それは大統領の決定としてほとんど通るのです。それ故に私は常に慎重でなくてはいけない。此度のグレイケイブ開通計画は我が国としても重要視しているプロジェクトなのです。それは大統領補佐官である私が直接現地に来ていることからも伝わるでしょう。その重要なプロジェクトの下見に来てみれば、現場に精霊様を従えている人物がいた。しかもその人物の言っていることややらんとしていることは我が国にとって都合のいいことでしかなかった。それが疑わずにいられますか。」


「無理もないですね。こちらとしても渡りに船といった状況だったので最初は疑いましたよ。で、ビリーフェさんはこちらを信用したフリをしてこちらの出方を伺っていたと。」


「その通りです。正義の白翼の面々がいい感じにレイン殿を疑っていたので、私はやりやすかったですよ。」


 と言ってビリーフェさんは満面の笑みを浮かべた。

 食えない人だ。さすがは元腕利きの冒険者。「鉄拳」殿はその拳だけが優れているわけではないようだ。

 しかしそれくらいしっかりしている方がビジネスパートナーとしては逆に信用できる。俺はビリーフェさんの評価をまた一つ上げた。


「しかしレイン殿は大した方ですな。その年で人を見抜く目を持ってらっしゃるとは。」


「俺は元に居た世界では対人の仕事をしていました。相手が何を考えて何を欲しているのか。それを常に考えて行動していたので、日頃からそのクセが付いてしまったのですよ。」


 俺は日本で介護士(ヘルパー)をしていた。認知症を患った高齢者を相手に仕事をしていたのだ。

 認知症とは非常に厄介な病気で、細かい症状は人によってマチマチだ。教科書通りの対応をしていれば正解という世界ではない。

 中には自分の言いたいことやしたい事をヘルパーに訴えたいのに上手く訴えることができない人もいる。そういう人は少なくない。

 そういった人の訴えを上手く汲み取り、なるべく希望通りのことをしてあげる。

 それが介護士(ヘルパー)の在るべき姿だと思っている。


「なるほど。素直に感服しますぞ。しかし私の判断は大正解でした。宴会の場を離れるレイン殿を見つけて後を追ってよかった。お陰でレイン殿と腹を割って話しができたのですからな。この場の話しでレイン殿のことを99%信用することができました。」


「おや、100%ではないのですか。俺のプレゼンが足りませんでしたかね?」


「ふふ。レイン殿。世の中に“絶対”は有り得ないのですよ。よって99%が最高値です。」


「それは光栄です。」


 俺達は笑い合って本当の意味での握手をした。



4日目終わりませんでした⋯。レインとビリーフェの会話が長引きました。長くなってすみません。

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