第13話:4日目⑤ ~精霊の加護の展開〜
俺達は全員で外に出た。いよいよ精霊の加護を展開する時が来たのだ。
ここで初めて精霊達が全員顔を合わせた。各々が自己紹介をする。
「⋯⋯ふむ。主殿。いよいよという気持ちに水を差すようで悪いがの、ワシにも名前を付けてくれないか。他の皆の名前を聞いたら羨ましくなっての。」
土のエレメンタルが苦笑いしながらそう言った。
マジか。強面な風貌を呈していながらのジェラシーですか。
これが若い女の子なら萌え要素にもなるのだが、いかんせんオッサンがやっても誰も得をしない。
まぁ土のエレメンタルに関してはもうすでに名前を考えてある。しかも自分的に結構しっくりくる名前だ。
「わかった。キミの名前はすでに考えてある。キミの名前はファクトだ。どうかな?」
「はっはっは! いい名前だ。気に入った。ありがとうよ主殿。」
物作りが得意ということで、Factoryからいただいた名前だったが、気に入ってもらえたみたいだった。
ってか精霊たちはみんな俺の付けた名前を一発で気に入ってくれた。
俺にネーミングセンスがあるのか、精霊達のボーダーラインが低いのか⋯⋯まず前者はないな。きっと後者だ。
「水を差して悪かったの。では始めるとするか。皆の衆。」
「はい!」
「おう!」
「ええ。」
精霊達は声を掛け合うと手を繋ぎあって円の形を作った。
そして誰からともなく聞き慣れない言語で詠唱が始まる。
その詠唱に一人。また一人と声を重ね合わせていき、4人が見事な合唱を奏でる。
⋯⋯うん。ハモ○プみたいだ。
その状態が1分、2分、3分と続いていく。
続けば続くほど緊張感が高まっていく。
誰かの固唾を呑む音が聞こえた。
やがて精霊達を4色のオーラが包む。
マナトは赤。
ブリーズは緑。
サフラは青。
ファクトは茶。
4色のオーラは精霊達の頭上高く上がり、空中で混ざり合う。
そして一つの白いオーラとなり淡い光を放ったかと思うと、一気に広がって広範囲に薄い膜を張った。
その膜は透明で薄い白色だが、かすかに虹色の反射色が見られる。
バカみたいにデカいシャボン玉のようだ。
膜が張られた瞬間、辺りの気温が暖かくなった。
暖房のような暖かさでなく、春の陽射しのような爽やかな暖かさ。
それだけでない。体が軽くなり、力や元気といったものが体の底から湧いてくるような感覚を覚える。
とても穏やかな気持ちになる。まるで時間がゆっくり流れているようだ。
いつまでもここに居たい。純粋にそう思わせるような心地良さだった。
気付くと精霊達の詠唱が終わり、4人はその場にへたり込んでいた。
「はぁ、はぁ⋯⋯主様! 精霊の加護の展開⋯⋯完了しました!」
「ふぃ〜〜〜〜! 疲れたぜーぃ!」
「ご主人様。これで我々がこの地にいる限り、この結界は恒久的に維持されます。」
「呼び出されていきなりの大仕事じゃったわい。精霊使いの荒い主殿じゃ。」
精霊達が思い思いの言葉を口にする。
「これが精霊の加護⋯⋯素晴らしい。とても素晴らしいよ。みんなありがとう!」
精霊達にお礼を言う。みんな疲れ切っているようで反応はマチマチだった。
これだけ穏やかな地に村を作ってずっと居ることかできる⋯そう考えるだけで心が踊るようだった。
ふと後ろを振り返る。
そこには放心状態でポカーンとしている正義の白翼の面々と、やはり壊れた機械みたいに「うおおおおおおお⋯⋯」と咽び泣いているオッサンがいる。
もういい加減慣れてきたが、いい年したオッサンが顔から出る液体を全て出しながら泣くな。絵的に汚い。
「いや〜⋯⋯たまげたなぁ。精霊の結界とやらがこんなに気持ちいいものだとは。本当にここに村を作るなら、ここを拠点にしたいくらいだよな。な?スコープ?」
「そうだな、バッグス。しかしここまで凄いものを見せられたらレインさんを信用するしかないな。レインさん、今まで疑っててすみませんでした。」
正義の白翼の面々が俺に向かって頭を下げてきた。
「いやいや、さっきも言ったけど、そう簡単に信用されてもこっちが困るからね。それくらい疑ってくれたほうが自然だよ。なによりちゃんと信用してくれたみたいで良かった。でもね。精霊の加護はただ心地いいだけの結界じゃないんだよ。人族にとって様々な利点があるんだ。」
そう言うと正義の白翼の面々は「ど、どんな効果が!?」と食い付いてきた。
俺はドヤ顔で説明しようとしたが、いかんせん最近色々なことがあったので以前マナトに説明してもらった内容を忘れてしまった。
俺は困った顔でサフラに視線を投げた。
「精霊の加護については私から説明させていただきます。」
サフラは俺の意図を正しく理解してくれた。本当にナイスだ。
「精霊加護内は結界が張られて弱い魔物は入れません。強い魔物や魔族は入れたとしても極端に弱体化します。田畑の作物は実りやすく豊作になり、土も痩せません。気温も過ごしやすい気温になり、人族のHPやMPといった自己治癒力が上がります。そして魔物だけでなく、悪意を持った人間も加護内では行動が制限されます。加護内では人族による犯罪は極端に起こりにくいでしょう。また、加護の外部からの魔法などによる飛び攻撃は加護に触れた瞬間に威力が殺されます。弱い攻撃なら無効化しますが、強い攻撃は完全には防ぎきれません。そこらへんは対策が必要かと思われます。」
おお⋯⋯前にマナトから聞いた説明よりはるかに詳しい内容だ。
ってかマナトは本当に説明が下手だったんだな。まぁそこらへんもマナトらしいが。
「はっはっは! なんか凄すぎて笑うしかできないな! な?スコープ?」
「あぁ⋯⋯この結界の中に居れば魔物に襲われる脅威がほとんど無くなるということじゃないか。これは本当に夢の様な結界だ。この地にできる村に滞在してレベルを上げれば僕達のパーティはもっともっと強くなれるぞ!」
「いや〜ん。アタシ本当にここにできる村に住みたくなっちゃうわ〜。」
「私はスコープさんの決定に従います。」
正義の白翼の面々も加護を気に入ってくれたようだ。ぜひうちの村を活用してくれ。
「さて、ご主人様に申し上げることがあります。今までの我々精霊は半径100メートル程しか動けませんでしたが、今後は加護内は行動できるようになりました。」
サフラが言った。なるほど、確かに精霊達が張った結界なんだから、その中は動けるだろう。
しかもこの結界は明らかに半径100メートルを超えている。
「それは朗報だ。具体的にはこの結界はどれくらいの規模なんだい?」
「半径300メートルです。しかし加護を展開した地点から半径300メートルですので、この加護を展開したグレイウォール前から東西は半径300メートルの計600メートルですが、南北に関しては北へは行けませんので南へ300メートルのみとなります。」
なるほど。つまり横長の結界なわけだ。確かに目測でも張ってある膜は横長だとわかる。
ってかかなり行動範囲が増えたな。行動範囲が増えるとはおもってなかったから僥倖だ。
「レイン殿。」
いきなり背後から呼ばれてビクッとしてしまった。
振り返ると泣き壊れていたオッサン⋯⋯もとい、ビリーフェさんが居た。どうやら復活したようだ。
しかしおかしい。さっきまで泣き壊れてたのに妙なまでの落ち着き方だ。
「レイン殿。貴方の意思と精霊の加護は私の五感で確認させていただきました。貴方の意思、やらんとしていることは、私の尊敬する我が国の大統領、ブラストの意思と同調致します。私が国に戻り大統領に判断を仰いでからまた改めて申し込ませていただきますが、現段階では我がビットア共和国は貴方がこれから作る村と同盟関係でありたいと思っております。この地にできる村を拠点とし、グレイケイブの開通、および我が国の冒険者の育成、さらには我が国の勇者殿による魔王討伐の助力となっていただきたい。」
願っても無い話しだった。
今日ビリーフェさん達が来なかったら、村が出来てから人里を探して村を売り込んで人を呼ばないといけないと思っていた。
それがアットワ共和国と無事に同盟を結ぶことができれば自然と人が村に集まってくる。しかもちゃんとした国の冒険者や商人がだ。
断る理由もない。俺は肯定の意思を示し、ビリーフェさんと握手を交わした。
「受け入れ感謝しますぞ。レイン殿。さぁ! そうと決まれば細かい取り決めは後にして、宴を開きましょうぞ! 英気を養うためにと酒は持ってきております! レイン殿。エールやワインなんかはお好きですかな?」
酒。
その甘美な響きに俺は忘れかけていた大切な感覚を思い出した。
日本では夜勤の日以外は毎日必ずビールを飲んでいた。ビールだけでなくワインや焼酎なんかも大好きだ。
先ほど食べたジャガイモなどと同様に、最近は生きることに精一杯で酒のことなんか頭の中になかった。
しかしビリーフェさんの一言で思い出してしまったのだ。酒の素晴らしさを。
「大しゅきです!飲みまちょう!」
なんか既視感に襲われるが気にしない。
先ほどお腹いっぱい食べたばかりだが、俺の肝臓が激しく自己主張しているため今から宴会といこう。
幸い精霊達も精霊の加護を展開して疲れているため、MP回復の意味も込めていい骨休めになるだろう。
さぁ! 酒だ酒だ!
キャラが一人歩きして4日目がなかなか終わらない⋯⋯
次回で4日目終わります。多分⋯⋯