第12話:4日目④ ~至福の瞬間と土の精霊~
今回は少し長めです。区切りって難しいですね⋯⋯
こんにちは。レインです。
今日はお昼ご飯にキラーグリズリーの塩焼きとジャガイモの塩茹で、そして少量の黒パンとドライフルーツを食べました。
至福の瞬間とは正にこのことなんでしょうね⋯⋯
飽食の日本では味わえない幸せを味わうことができました。神様ありがとう。
まずは肉ですね。
この肉は以前も食べたキラーグリズリー。以前は塩がない状態で食べましたがそれでも美味しい肉でした。
それが今回は手作りの塩があるのですよ!
精霊達が協力して作った塩は俺の知る塩とは違い、真っ黒でした。そう、焦げていたのです。
直火で作ればこうなるのも無理はありません。
その黒い塩を串に刺した生の肉に振りかけます。焚き火で遠火でじっくり焼いて、肉汁したたるおいしそうな肉が焼き上がったら塩を贅沢にもう一振り。
キラーグリズリーの塩焼きの完成です。
熱々の肉が冷めないうちに豪快に齧り付く。
齧り付いた瞬間に肉汁がブワァっと溢れ出る。
濃厚な肉の旨みと溢れる肉汁。そしてしっかりとした塩味。
塩は焦げていたので若干の苦味も感じましたが、なんならその苦味すらアクセントとなって素晴らしいハーモニーを奏でていました。
客人の前だというのに俺は「ウメー!ウメー!」と言いながら肉に齧り付いていました。
我に返った時に恥ずかしかったです。
しかしキラーグリズリーの肉は一般的にも高級品らしく普段はなかなか食べられないとのことで、ビリーフェさんと冒険者達も「ウメー!ウメー!」と言いながら食べていたのでオアイコだと思います。
次に黒パンです。
正直言うと、黒パンはそんなに美味しいものではありませんでした。
日持ちするように固く焼き固められたパンはもはやパンではなく、石のごとき固さで水に浸けてふやかしながら食べました。
食べる前にビリーフェさんに「そんなに美味しいものではありませんよ」と言われていましたが、その通りでした。
しかし俺にとっては久し振りの炭水化物。感動補正がかかってそれなりに食べられました。
次にドライフルーツです。
ビリーフェさん達が持っていたドライフルーツはレーズン、リンゴ、木苺でした。
日本で食べていた果物とは比べものにならないくらい酸味が強かったですが、俺にとってはやはり久し振りの糖分。脳が喜ぶ喜ぶ。
やっぱり人間は糖分がないとダメですね。心にゆとりが持てない。改めて感じさせられました。
そしてそして。出ました。ジャガイモです。
当初は焼くしか手段がなかったため焼こうとしたんですが、ビリーフェさん達が鍋を持っていたため塩茹でにして食べました。
もうね。もう最高ですよ。
魔物の肉なんかとは違って、ジャガイモを塩茹でにしたものは日本でも食べられるものです。馴染みのある味はまずそれだけで嬉しいです。
味も日本で食べていたジャガイモとほとんど変わりなく、肉とは違う食感が嬉しくてたまりません。
ここでもやはり「久し振り」というスパイスがよく効いてきます。
久し振りの野菜。肉しか食べてこなかった俺の体に優しく染み込んできます。
本当に美味しかったです。
食べてみてわかりましたが、この世界の食材は品質こそ落ちますが日本とあまり変わらないみたいです。
そういえば見習い神様が「なるべく日本に似せた世界にした」みたいなことを言ってたので、この調子だとまだまだ俺を喜ばせてくれる懐かしい食材がありそうです。
村を作って物流が生まれたらもっといろいろな食材に出会えるでしょう。
それをモチベーションの1つとして村づくりを頑張っていこうと思います。
以上、レインでした。
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「ふう。食べた食べた。もうお腹いっぱいだ。いやいや、ビリーフェさん達のお陰で久し振りに人間らしい食事をすることができました。本当にありがとうございました。」
心からの本音だ。ビリーフェさん達には感謝しかない。
「いやいや! とんでもない! こちらこそこんな所で⋯⋯と言ったら失礼かもしれませんが、ここでキラーグリズリーの肉を食べれるとは思ってませんでした。しかもレアスキルのアイテムボックスに入っていた新鮮な肉です。こちらから提供した分を差し引いても、まだこちらの方が得をしていますよ。お礼を言うのはこちらの方です。」
同じ釜の飯を食うという言葉があるが、やはり一緒にご飯を食べると一気に打ち解けるものだと改めて思った。
ビリーフェさんからは緊張の表情が和らいだし、こちらをまだ疑っているであろう冒険者達も若干ではあるが警戒を緩めてくれているのがわかる。
そうそう。ご飯を食べながら訊いたのだが、この冒険者達はパーティ名を「正義の白翼」というらしい。
メンバーは、リーダーで剣士のスコープ(♂21)。爽やか系のイケメンだ。爆発しろ。
戦士のバッグス(♂20)。武器は全般的に使えるというマッチョマン。
魔術師のフェイミズ(♀20)。杖を持ち明らかに魔法使いといった格好をしている、どこか姉御肌を感じさせる美人さん。攻撃魔法が得意で回復魔法は慰め程度しか使えないとのこと。
薬師のフリーマ(♀19)。様々な薬や薬草を使って回復や異常状態の治療をする職業だそうだ。薬だけでなく回復魔法も使えるとのこと。
冒険者としての立ち位置は初心者以上中堅者未満といった所らしいが、実績があり非常に優秀らしい。
しかしいくら優秀とはいえ一国の大統領補佐官に付けるのはどうなのかな〜と思ったが、なんとビリーフェさんも腕利きの元冒険者らしく相当強いらしい。
なんでも現役時代は「鉄拳」の二つ名を持つ拳士で数々の難解なクエストをクリアしていたとのこと。そういえば中年太りとかしていない。むしろ服を着ている状態でもガッチリしているのがわかる。
このグレイウォール周辺には国の周辺より魔物が格段に強いらしいが、この5人なら数日過ごすくらいなら大丈夫だとのことで「正義の白翼」が選出されたそうだ。
なお、ビリーフェさんが腕利きの元冒険者という話しを聞いて興味本位でビリーフェさんを鑑定したら
「む、レイン殿。いま私を鑑定しましたかな?」
とバレてしまった。
なんでも人間を鑑定すると一定以上のレベルの人や勘のいい人は自分が鑑定されているとわかってしまうそうだ。
なので一般的には無断で他人を鑑定するのはマナー違反とされているらしい。
とりあえずビリーフェさんには全力で謝った。笑って許してくれた。よかった。
さて、大満足のご飯も食べたし、いろいろ話しをしててだいぶ時間がたった。
そろそろMPもいい感じに回復しているのではないだろうかと思ってステータスを確認してみた。
レイン
Lv.7
HP 68/68
MP 47/102
攻撃力 37
防御力 61
魔法攻撃力 74
魔法防御力 69
所持スキル 召喚魔法<下級>、ステータス閲覧、鑑定
固有スキル アイテムボックス
よしよし。47あればいいだろう。
時刻は14時。まだ日暮れまでには時間があるが、早い分には問題ないだろう。
「さて、お腹もくちくなったしMPも回復しましたのでそろそろ土の精霊を召喚したいと思います。」
そう言うとビリーフェさんから「おお!ついに!」という声が上がった。
召喚シーンを楽しみにしていたようだ。
「マナトとブリーズとサフラは外の御者さんの所で周辺を警戒しておいてくれ」
と言ったが、サフラだけは「私はここに残ります」と申し出た。どうやら彼女もまだビリーフェさんや冒険者達を完全には信用してないらしい。
結局マナトとブリーズだけ外に出ていった。
「さて、では始めますか。」
俺は立ち上がって精神を集中させ⋯⋯ようとしたが、今回はギャラリーが多くてなかなか集中できなかった。
時間はかかったがようやく集中できたので詠唱を開始する。
「土の精霊王ノームよ。我が魔力を糧とし汝の下級眷属をここに顕現させよ。」
地面にもはや見慣れた魔法陣が浮かび上がってきた。
と同時にギャラリーから「おお!」と興奮した声が聞こえてきた。確実にビリーフェさんの声だろう。
体は脱力感に襲われる。はいはい。いつものやつね。この後のもっと強い脱力感にも耐えられるように気張らねば。
「出でよ!土のエレメンタル!」
詠唱を終えると例の如く強い脱力感が襲ってくるとともにに魔方陣から茶色のモヤモヤが勢いよく出てくる。
今回の脱力感は少し厳しく、片膝をついてしまった。
「レイン殿!」
とビリーフェさんが近づいてこようとしたが、サフラが「大丈夫です」と制する。
茶色のモヤモヤは次第に人の形を成していき、不意に強く鋭い光を発する。
ギャラリーから「うおっ!」とか「キャー!」とか声が聞こえる。俺はもうこの光にも慣れてしまっていたのでそのリアクションが新鮮に感じた。
光が去った後に居たのは、全体的に茶色い印象のある男性。
見た目の年齢はビリーフェさんと同じくらいか少し下くらい。今までの精霊達とは違って若くない見た目だ。
髪はオールバックにしており、眼光は鋭い。顔には立派な髭がこさえられている。
そしてなによりの特徴はその身長だ。とても低い。
ずんぐりむっくりした体型で、身長は俺の半分ちょっとしかない。おそらく100センチあるかないかといった所だ。
第一印象としては、日本でよく読んでいたマンガや小説に出てくるドワーフのようだ。
「⋯⋯ふむ。お主がワシを呼び出した主殿かの。ワシが土のエレメンタルじゃ。」
「俺が貴方を召喚したレインです。よろしくお願いします。」
と、握手した。節くれだった手は職人を思わせる。
しかしおもわず敬語を使ってしまった。だって見た目は年上だし眼光は鋭いし声も重みがあって威圧感がある。仕方ないじゃないか。
「敬語はやめるが良い。お主はワシの主殿だからの。して、何用でワシを呼んだのかの?」
俺は今までの経緯を話した。
「ふむ。なかなか壮大な目標をもった主殿じゃな。面白い。協力させてもらおう。ワシは戦闘はからっきしじゃが、物作りが得意じゃ。ワシの形成魔法を存分に使うが良い。」
心強い言葉だ。非常にありがたい。村を作っていくに当たっては、土の精霊の完璧な形成魔法は欠かせないだろう。
後ろを振り返ると、「正義の白翼」のメンバーは放心状態でポカーンとしている。
その前ではビリーフェさんが壊れた機械みたいに「おおおおお⋯⋯」と繰り返しながら咽び泣いている。
なかなかカオスな状態だ。
「レイン殿! レイン殿ぉ! 私は今モーレツに感動しておりますぞぉ! 我が国と馴染み深い土の精霊様⋯⋯召喚するレイン殿の姿はまさに神の使いそのものでしたぞぉ!」
いや、マジで暑苦しい。
このオッサンはいい人なのだが、興奮しやすく冷めにくいのが残念だ。
我が国と馴染み深いという言葉が気になり訊いてみたのだが、なんとビットア共和国の国土内には土の精霊が居るとのこと。
アスガルゲインには“魔力溜まり”と呼ばれる箇所がたまにあるらしい。そこにごく稀に属性マナが集まって精霊が顕現することがあるという。
ビットア共和国ではそうやって顕現した土の精霊を祀っているのだそうだ。
「ふむ。何やら大変そうではあるが、四大属性のエレメンタルが揃ったのならいち早く精霊の加護を展開すべきだと思うがの。」
その通りだ。まったくもって賛成である。
さて、いよいよ精霊の加護の結界を張る時が来た。希望に胸が膨らむ。
さぁ!外に出よう!
ブクマしてくれた皆様ありがとうございます。少しずつ増えていくブクマ数は本当に励みになります。