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第11話:4日目③ ~第一異世界人発見~

こっそりタイトルを変更しました。

召喚魔法で村作り→召喚魔法で村づくり

 横穴の前には立派な幌馬車が止まっていた。

 その前には剣や杖を持った、いかにも冒険者といった姿の若者4人組(男2女2)。そして一番前に身なりのいい感じの50歳くらいのおじさん。馬車の御者台に1人。計6人がいた。

 その誰もが、これでもかというほど目を丸くしている。

 俺としても初の異世界人だ。しかも何の前触れもなく急に現れたのだ。吃驚しないわけがない。きっと俺も目を丸くしているだろう。


「ア、アナタは誰ですか!? それにアナタ以外の方は⋯⋯も、もしかして精霊様⋯⋯ですか?」


 沈黙が気まずくなりそろそろ何か切り出そうとした時、身なりのいいおじさんが沈黙を破った。


「あら、いきなり訪ねて来て名乗りもせずに相手に一方的に質問をするなんて、ずいぶん礼儀がなってますこと。」


 俺が口を開こうとするとサフラがずいっと前に出て、そう言い放った。


「こ、これは大変失礼しました! 私はビットア共和国で大統領補佐官をしております、ビリーフェという者です!」


 おっと。国の名前が出てきた。

 マナトを召喚した時に受けた説明でこの大陸の南の端の方に人族の国が3つあるのは知っていたが、名前は知らなかった。

 ってか、大統領補佐官ってかなりのお偉いさんじゃないかな?

 俺の認識が合ってればだけど、大統領は一番偉い人。その補佐官ってことは国のNo.2なのでは⋯⋯


「後ろの4人は我が国の優秀な冒険者達です。今日ここへ来たのは、春から再開する予定のグレイケイブ開通工事の下見のためです。」


 聞くところによると、ビットア共和国は人族の三国の中で一番魔王討伐に力を入れている国だそうだ。

 魔王を討伐するに当たって目下の障害がグレイウォール。

 3000メートルを誇るグレイウォールは大陸の両端から登ることは可能だが、登り下りがとてつもなく大変だ。

 日本人の感覚で言えば富士山を登って下るようなもんだ。

 なので、現状では人族領から魔族領(魔界)へは行くだけで大変。帰ってくるだけで大変。

 ならトンネルを掘って簡単に往来できるようにして魔王を倒しやすくしちゃおうってのが「グレイケイブ開通計画」だそうだ。

 そして俺が拠点に選んだ、この横穴こそが正にグレイケイブだとのこと。

 この横穴は人工的に掘られたものだったらしい。

 アスガルゲインの暦で今は3月の下旬。去年の秋にグレイケイブ開通計画が実行に移されたらしいが、予想以上のグレイウォールの固さ、予想以上の魔物の襲撃数、予想以上の寒さなどによってたった5メートルほど掘った時点で撤退を余儀なくされたとのこと。

 で、この度もうすぐ春を迎える季節になって寒さもやわらいだ(と言っても俺にとっては恐ろしいくらい寒いが)ので開通工事を再開させるのだが、その前に下見としてビリーフェさんと護衛の冒険者達が来たとのこと。


「なるほど。あなた方のことは良くわかりました。立ち話しも何なのでとりあえず横穴⋯⋯グレイケイブの中に入って話しませんか? 大丈夫。我々は怪しい者ではありません。」


 怪しい者ではないから大丈夫と言われて安心する人は居ないだろうが、俺はもう外で立ち話しは耐えられなかった。寒すぎる。


 どうにか信用してくれたみたいで一行はグレイケイブの中に入る。

 御者さんだけは馬を放っておけないとのことで外に残ることになった。1人と1匹では危ないのでマナトを護衛に付ける。塩を作りながら護衛してもらおう。


 グレイケイブの中で焚き火の近くに腰を下ろす。


「さて、今度はこちらの番ですね。私の名前はレインといいます。職業は⋯⋯召喚士といった所ですかね。信じてもらえないかもしれませんが、異世界から来ました。」


 無用な混乱を避けるために自分が異世界人だということを隠して話を進める選択肢もあった。

 しかしここまでの話しでこのビットア共和国という国は俺の魔王討伐という目標に対して大きな助力となる国だと判断した。

 大きな助力となる相手には嘘を吐きたくないし、なによりこのビリーフェというおじさんは誠実に対応する値のある人物だと思う。


 案の定というか、ビリーフェさんと護衛の冒険者達は「何言ってんだコイツ」という顔をしているが、それは想定の範囲内だ。


 俺はここまでの経緯を話した。

 元の世界である日急に神様に呼ばれてこの世界の魔王を倒してくれと言われたこと。

 それに応じてこの世界に来た時に精霊を召喚する魔法を授けられていたということ。

 このグレイケイブの前に転移し、グレイケイブを拠点とさせてもらっていたこと。

 四大精霊を揃えると精霊の加護という結界が張られるということを知り、この地に魔王討伐を後押しするための村を作ると決めたということ。


 ビリーフェさんと冒険者達は俺の話しに様々なリアクションを見せていたが、話が進むにつれて理解が追いついて来た様子だった。


「で、ではレイン様はこの世界の創造神様にこの世界を救うために使わされた神の使いということですか!?」


「うーん⋯⋯その神の使いという表現には納得できないものがありますが、形的にはそうなってしまいますかね⋯⋯」


 そう言うとビリーフェさんは「ははー!」と土下座の体勢で俺を拝んできた。

 しかし冒険者達はまだ俺の話しを信用してないのか、怪訝な表情を崩さない。


「ビリーフェさん! 拝まないでください! そして様付けもやめてください! 僕はこの世界のことが何もわからないただの人間ですから! というか、こんな説明で僕の話しを信じちゃったんですか!?」


「信じますとも! 実際に精霊様がここにいらっしゃるのが何よりの証拠です! 精霊様を召喚するなんて魔法は聞いたこともありません! なによりレインさm⋯⋯レイン殿の思想は魔王討伐を強く志す我が国の大統領の意思と同調します! 私はこのことを一刻も早く我が国の大統領に伝えたいと存じます!」


 おおぅ⋯⋯暑苦しい。マナトより暑苦しい。興奮したオッサンはここまで暑苦しかったのか⋯⋯

 ってか召喚魔法は一般的じゃないのか。一つ学んだ。


「信じてもらえて助かりますが⋯⋯僕としてはこんな簡単に信じてもらっちゃっていいのかなという気持ちです。そこで今日はちょうど土の精霊を召喚する予定でしたので、その様子を見てもらいたいなと思います。土の精霊で四大精霊が揃うので、精霊の加護も展開したいと思ってます。その様子を見てもらって信用するに足るかどうかを判断していただけたらなと思います。お付きの冒険者の皆様もそれで良いですか?」


 ビリーフェさんは「そこまでしていただかなくても信用しているのですが」と言っていたが、冒険者達は安心した表情で頷いていた。


「ビリーフェ様。先ほどは無礼な態度を取ってしまい大変失礼いたしました。どうかご容赦くださいますと有難く存じます。」


「いやいやいや! 謝らないでください水の精霊様! あの時は私も気が動転しておりまして、不躾な対応をしてしまったのは間違いありません! 非は私にあるのです!」


 なんかサフラとビリーフェさんの“自分の方が悪い合戦”が始まったが、どうやら遺恨を残さないで済んだようだ。なにより。


 一息ついたらお腹が空いてきた。腕時計を見ると時刻は昼時。よし、昼ごはんにしよう。


「サフラ、ビリーフェさん。もうそのくらいにしてそろそろ昼ごはんにしませんか? 私としてもMP回復のためにご飯はしっかり食べたいので。」


 俺の提案に全員が賛同した。

 さて、客人が来てるので精一杯もてなしたいところだが、俺には肉の串焼きしか出すことができない。

 せめて一番いい肉(キラーグリズリー)を出すか。


「皆さん。このような場所ですので、お出しできるのは肉の串焼きくらいしかないのですが……それでもよろしいですか?」


「もちろんですとも! むしろ狩りもしないで生の肉を焼いたものが食べれるだけで幸せでございます! ただごちそうになるだけでは申し訳ないのでこちらが持参した食料も出させてください! と言ってもここには3日程しか滞在しない予定でしたので、干し肉とジャガイモとドライフルーツと調味料、あと固焼きの黒パンくらいしか持ってきてませんが……」


 ……なんか衝撃の発言が聞こえた。ジャガイモにドライフルーツにパンだって?

 思い返してみればこっち(アスガルゲイン)に来てからは肉しか食べてない。生きるのでいっぱいいっぱいになっていたせいか肉だけでも文句なかったし、野菜が食べたいという考えすら浮かばなかった。

 しかしジャガイモとドライフルーツとパンいう単語を聞いて野菜と甘味、そして炭水化物がめちゃめちゃ食べたくなってしまった。

 だめだ。もう頭の中はジャガイモとドライフルーツとパンでいっぱいだ。少しでもいいから食べたい。

 しかしそれは客人の持ち物。がっつくのはよろしくない。ここは平静を装って交渉するとしよう。


「ビ、ビ、ビリーフェたん。も、もしよがったらズァガイモとドライフルーチュとピャンを少し分けていただけまちゅか?」


 噛んだ。めちゃくちゃ噛んだ。盛大に噛み倒してしまった。見るとビリーフェさんと冒険者達は明らかに笑いを堪えていた。

 恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。今すぐ消えてしまいたいがジャガイモが食べたいので消えるのはやめておく。


「どうやらレイン殿の期待に応えることができそうですな。ドライフルーツと黒パンはあまり数がありませんが、ジャガイモは植えて帰ろうとしていたので種イモ用にとかなり余分に持ってきております。もし良かったら今食べる分だけでなく、種イモとして少し持っておきますかな?」


 ビリーフェさん、アナタは神か。ビリーフェさんは俺のことを神の使いとか言っていたが、ビリーフェさんは神そのものだった。

 俺はビリーフェさんに全力でお礼を言いまくった。


 そうこうしていると


「主様ー!塩ができましたよー!少し焦げてしまいましたがー!」


 とマナトの元気な声が聞こえてきた。ナイスタイミングだ。


 今日の昼ごはんのメニューが決まった。

 キラーグリズリーの塩焼きに焼きジャガイモだ。塩とジャガイモ。なんて心躍る響きだろう。


 俺は今日の昼ごはんは腹いっぱい食べようと心に強く誓ったのだった。


初レビューいただきました!

本当にありがとうございます!

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