その日、その時、私たち全てを壊したのだ
1.その日、その時、私たちは全てを壊したのだ
燃え上がる炎。逃げ惑う人々。火の灯りで明るく見える夜空。
建物が燃え上がりる音や恐怖に怯える人々の悲鳴が、どこか遠くに聴こえた。
私は、ただ、そこに、火が廻る町に、立っていた。
フと視線を感じ、すぐ側に建っている団地の上の方へと顔を上げると一人の少女が一部屋の窓から此方を見ていた。
自分よりも幼く、まだ小学生だと思われる茶色の長い髪の毛をツインテールにした少女だった。少女は団地も燃え上がっているにも関わらず何も感じていないかのように無表情であった。
しばらく互いに見つめあっていたが、少女は興味を無くしたかのようにスッと奥へ消えて行った。
私も興味を無くし、また周りを呆然と見渡す。二人の子供を連れた夫婦が側を走り通りすぐ先の道に止まっているトラックに乗ろうとした。だがトラックは逃げ惑う人達で溢れており、乗れそうにはなかった。トラックの奥にバスもあったが同じく人で溢れかえり人々は恐怖で悲鳴を上げながら争っていた。恐怖心は常識を捨てるらしく、トラックとバスがある所から左少し先にゴミ収集車が止まっていて逃げ狂う何人かの人々はゴミを溜める所に身体を入れようともがいていた。
小さな小さな集落。隣町へはバスで二時間もかかる。人口は200人もいない。火の手は簡単に回った。
もうこの集落で明るくない所はないだろう。眩しすぎるほど大きな赤が人々を囲んでいる。
「逃げろ!逃げろ!」
「助けて!誰か助けて!」
「火が回ってる!死にたくない!!」
口々に悲鳴を上げているが、どうしてだろう側にいるのにやはり遠くに聴こえる。
ボッ!
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!?ひっ・・・俺に火がぁぁぁ!?」
私から少し離れた所で逃げ惑う人達の中の一人、背広を着た中年男性の背中に建物の火が燃え移った。男性は叫びながら地面に座り込んだ。しかし暴れる様子はなかった。その姿はまるで諦めがついたかのようだ。その男性に、どこから現れたのか警服を着た婦警が駆け寄り声を上げ助けようとした。しかし助けるどころか、その婦警にも火が燃え移った。
「大丈夫よ!今消すわ!誰か水を・・・きゃあっ!」
ちょうど腰辺りに火は燃え移った。婦警は悲鳴を上げ、暴れはじめた。
「いやぁぁぁ!?火が!火を消して!!あああああっ!?」
私が辺りを見渡すと上着が一枚道に落ちているのを見つけた。私は婦警が悲鳴を上げているにもかかわらず、ゆっくりした動作で上着を拾い婦警の側に寄り上着で火を消した。彼女はヒイヒイ言いながらも私に礼を言い少しだけ・・・・・・・微笑んだ。
「あ・・・あ・・・火が・・・・・あ、ありがとう。」
「・・・・・・・・・。」
そこで私はようやと不思議に思った。どうして集落の人間ではない彼女がここにいるのか。どうして人達は逃げ惑うのか。どうして団地が燃え上がっているのか。どうして・・・・・ハッとして自分の両手を顔の前まで持ち上げて見た。赤く染まっていた。私は。私はーーーー・・・・・・・。