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21 『暗躍』

 ――――夕方、夜ノ月学園の屋上。


 屋上の一角は三角屋根の時計塔となっていて、そこに少年と少女がいた。


「テレス~、ここがあの頭のお堅い姫様の学校なの?」

「そうみたいだよ、アリス」


 見た目は中学生くらいだろうか?

 双子のようで、二人ともよく似た容姿をしている。

 二人は白という色の概念すら破壊してしまうほどの、真っ白なローブを着用していた。


 背には金色の大きな紋章、そして大きな純白の羽が生えている。

 人間でないのは明白で、どうやら人の目では認識できない存在らしい。

 時計塔の屋根の上に立ち、手をつないで学園の敷地内を見下ろしているが、気づく人は誰もいない。


「よくこんなことやるね、テレス」

「ここにいる人間が、世界に安定をもたらすと信じているみたいだよ、アリス」

「ここの人間が? 確かに少し変わった人間が集まっているみたいだけれど、無理じゃないかな~、テレス」

「やっぱりアリスはこの世界をリセットする気なんだね」


「そうよ、頑張ったって所詮は人間、できることには限界があるし。この世界が不安定になりつつあるというのなら、壊して作り直した方が簡単でしょ、テレス」

「その意見には僕も賛成なんだけれどね。でもね、ちょっとあそこの人達を見てみてよ、アリス」


 テレスは生徒会室の方向を指さした。


「分かったわ、テレス」


 二人のいるところから生徒会室は見えない。

 当然、中で会議をしている生徒会のメンバーを確認することなどできないのだが。

 アリスは目を閉じると、何やら集中しているようだった。


「感知できた? アリス」

「ええ、確かにここの中の人は他の人間より遥かに高い能力を持っているみたいね、テレス」


 どうやら離れていても感知できる能力があるようだ。


「生徒会っていう組織らしいよ、アリス」

「せいとかい……ねぇ。でもやっぱりこの程度の能力では、結束力を固めたところで…………あっ」


 アリスが何かに気が付く。


「気付いたかな? アリス」

「ねえ、テレス。あれ、本当に人間なの?」

「僕の調べて限りでは、普通の人間みたいだよ、アリス」


 アリスが肩を震わせる。


 それは怒りと喜びの両方によるものだった。


「あれが、普通の人間? だって、あの時空間エネルギーの大きさは……」

「そう、僕達二人……いや、世界円卓会議のメンバー全員の持つ時空間エネルギーを集めたとしても、彼には到底敵わないだろうね、アリス」

「そうよ、あり得ないわ。あんな存在がこの時空間、いやこの世界に留まれるはずがないわ。ましてや人間だなんて」

「でも、彼が存在しているのは事実。そして彼は強くて弱い、ね? アリス」


「そうね、なぜか表面上は世界に影響を及ぼさない程度のエネルギーしか発していない。問題は中身……どういう仕組みなのかしら、テレス」

「さあね。ただ、面白くなってきたでしょ? アリス」

「ええ、最初は隕石の雨でも降らせてパパッと終わりにしようかと思ったけれど、気が変わったわ。もう少し楽しんでこの世界を壊しましょう。まさか姫様がこんなものを隠していたなんてね、テレス」


「まだ姫様の仲間ってわけではないみたいだけれど、お気に入りではあるみたいだよ、アリス」

「そうなんだ。私も気に入ったわ、見た目も中性的で可愛いし。なんて名前か知っている? テレス」

「多くの人間がホタルンと呼んでいるようだよ、アリス」

「ホタルン……」


 アリスは目を閉じ、ゆっくりとその名を呼んだ。

 それは羨むほどの力を持つ人間。

 それは面白く愛しい人間。


 人間を蔑んできたアリスにとって、彼は初めて興味を持った人間。

 そう、この気持ちは恋する乙女のような、そんな気持ちだった。


「素敵な名前ね。私、あの子と一緒にこの世界の崩壊を眺めたいわ、テレス」

「そうすると難易度は一気に上がるね。世界の破壊だけならまだしも、あの姫様の目を掻い潜ってホタルンを手に入れるとなると大変だよ、アリス」


「こっそりとやる必要なんてないわ。すでに目をつけられているわけだし、そんなやり方は私達らしくないわ、テレス」

「それもそうだね、アリス」

「そうと決まれば早速行動よ。行くわよ、テレス!」


 そう言うとアリスはテレスの手を引っ張り、大きな翼を広げて空へと羽ばたいていった。



 ――――もう何度目かの夜ノ月学園生徒会会議。


 いつも通り僕は生徒会室の前に立つ。

 そして指紋認証装置に手をかざし、認証を開始する。

 きっとこの扉が開くと双子先輩達がすでに室内にいて、入ってきた僕をからかうのだろう。


 もしかしたらラスカルさんももう来ているかもしれない。

 そんなことを考えているうちに扉は開き、いつもの光景が目の前に……。

 そう、いつもの光景。

 予想通り、そこには双子先輩がいて、ラスカルさんもすでに来ていた。

 ここまではいつもと一緒だ。

 しかし一つだけ、いつもと違うことがあった。


 生徒会室の中央に設置された机の上に、半裸の少女が座り込んでいたのだ。

 上下に下着だけを身に着けた、長い黒髪の少女。

 その髪はとても艶やかできれいだった。

 そして、その少女と僕は目が合った。


「きっ……」

「き?」

「きゃ~~~~! へんた~~いっ!」


 少女は顔を赤くして叫んだ。


「え、えっと……その……ごめん!」

「サブ会……いえ、変態さん、出て行ってくださる?」

「変態さん、いつまで見つめているの? 出てってなの~」

「蒼祈さん。予想外の事態とはいえ凝視し過ぎではないでしょうか? やはり蒼祈さんも男性。女の子の下着姿に興味が……、やはり変態なのでございましょうか?」


 今、この室内に仲間はいない。

 全員が僕を敵視していた。


「わ、分かったから。見ない見ない、出ていくから~」


 そう言って僕は急いで退室した。

 一体彼女は何者なのだろうか。

 そしてなぜ、机の上に座り込んでいたのか。


 来客だとすれば、誰かが招き入れない限り指紋認証装置があるので入ることはできない。

 仮に来客だとしても、机の上に座らせるなんてことはしないだろう。 

 しかも半裸で。

 とすれば予期せぬ来客。


 指紋認証をパスすることなく室内に出現したとすれば……まさかね。

 また時空間術式が関わっているのだろうか。

 しばらくして、ラスカルさんが僕を招き入れてくれた。

 室内には先ほどと変わらずあの少女がいて、何やら見慣れない制服を着ていた。

 そしてラスカルさんの後ろに隠れている。


「あの、ラスカルさん。この方はどなたなのでしょうか?」


 僕が尋ねると、聞いてもいないのに双子先輩達が答える。


「降ってきたのよ」

「可愛いの~」


 まったくもって分からない。


「蒼祈さん、その……また失敗してしまったのでございます」


 ラスカルさんが申し訳なさそうに言う。

 降ってきた? また失敗?


「もしかして、これって……」

「ラスカルちゃんのおもしろことわざ第二弾よ」

「今回はトリッキーなの~」


 やはりそういうことらしい。


「また時空間術式が暴発したんですね」

「そうなんです、お恥ずかしながら」


 会長いわくラスカルさんの術式の発動条件は言霊。

 別にことわざに限らないはずなんだけれど、また今回もことわざらしい。

 不思議だけれど、ことわざ以外でも発動するのなら、もっと頻繁に暴発してそうだし、会長の推測が外れたのかな?


「それで、今回はどんなことわざを言ったんですか?」


 再度暴発するのを恐れてか、ラスカルさんは沈黙する。

 そして代わりに双子先輩達が声を合わせて答えた。


『「石の上にも三年!」』


 あれ?


 これ正しいことわざだよね。

 なんでこんなおかしなことになっているのだろうか?

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