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決意新たに

「ウマさん行きますよ!」

 馬車で待つカイトに急かされた。

「ちょっと待ってくれ」

 覚悟は決めたがやはり名残が惜しい俺はカイトを待たす。

「……先に馬車で待ってますから」

 ため息交じりのカイトは会釈と同時に馬車に乗り込んだ。


「ウマちゃん頑張ってね! でも無理はしちゃだめよ」

 幸子さんが自分の後ろに隠れる節子ちゃんの頭をなでながら矛盾をはらんだ激励を送ってくれた。

「ウマ、バイバイ…なの?」

 節子ちゃんが寂しそうに聞いてきた。

「いや、バイバイってわけじゃ……そのうち戻ってくるよ」

「イヤ!」

 節子ちゃんが聞く耳もたずと頭を振る。

「ほら、節子。我が儘を言わない。ウマさんが困ってるじゃないか」

 権蔵が節子をなだめた。

「ウマさん、母も言いましたが無理をしないでください。執事の穴は数少ない訓練が推奨される場所です。それも才能あふれる若者たちが死んでも構わないという努力をしてしのぎを削っています。そんな所では無理は通用しません。無理をしなければ通用しないレベルなら大人しく退所してください」

 権蔵は心底から心配しているような声色でそう言うと、真摯に俺を見つめた。

「全てをウマさんに背負わせるような形となってしまい申し訳ありません」

 そして頭を下げられた。

「自分で選んだ道だから謝られても困るよ」

 なんて強がってはみたものの散々に脅かされて少々の後悔がないかといえば嘘になる。

「しかし、いったいどうやって……いえ、聞かないでおきましょう」

 権蔵の疑問はもっともである。彼は俺がどうやって『執事の穴』への推薦状を手に入れたのか不思議なのだ。


 あの日、俺は『執事の穴』へと行くことを決めた。

 お嬢様のためではなく、節子ちゃんや幸子さん達を守るための決断だった。節子ちゃんもこの過去世で拾ってくれた富蔵さんのお嬢様には違いないのだが。

『執事の穴』へ行くことがなぜ節子ちゃん達を守ることになるかというと、理由は三つある。

 一つ目は俺が『バトラー』ないし『執事の穴出身者』となれば権威争いにおいてカイトに負けないこと。すなわち、カイトの目論む反動政策への牽制ができるということ。

 二つ目は『執事の穴出身』となれば雇用先に困ることがなく富蔵さん一家の面倒を雇い先の貴族に頼めるということ。もっとも、この世界の『執事』は主人に対して絶対の忠誠を誓うようなので、二君に仕える形となって職業倫理的にどうなのだろうという問題がある。

 三つ目は『執事の穴』のルールの利用である。『執事の穴』は『バトラー』を輩出するための施設である。『バトラー』の死亡を受けると『新たなバトラー』を作り上げるために『執事の穴の出身者』が集まり『バトラー』または『複数の執事の穴の出身者』からの推薦を受けた『バトラー候補』達を育てるのだ。そのため『執事の穴の出身者』はバトラーを除き主人に殉じて死ぬことが許されないという。そして『バトラー』とは同時代に比肩する執事の存在が許されない圧倒的なものである必要があり、傑出していない、あるいは、並び立てるようなライバルが存在する限り『バトラー』は襲名されない。この世界の過去の記録によると最大で二十年以上空位だったこともあるという。俺の企みとしては時空コンピュータ等を駆使して『次のバトラー』に対して何点か優位となる部分を保てれば『圧倒的ではない』状況を作り出すことだ。そうすれば『バトラーの選出』、すなわち『執事の穴の閉鎖』を先送りにしてカイトの卒業も遅らせられるのではないかということである。

いずれにしてもお嬢様の為にバトラーに成るという目標からはかい離してしまったが、それもまた人生だ。

『執事の穴』へと行くと決めたら話は簡単である。カイトから推薦状の実物は見せてもらったし、むしろ発行する側だった人生の記録が時空コンピュータにもある。推薦状は特殊な布に秘伝の染料、さらには偽造防止のために一切の魔法力を使用しない製作方法がとられている。最後のはむしろ俺には好都合だった。逆に魔法を使われてたらお手上げだったろう。そう、時空コンピュータを利用して推薦状を複製したのである。


「それでは行ってきます」

 俺は三人に頭を下げるとカイトの待つ馬車へと向かっていった。

第二部はこれにて終了です。

第三部はバトラーとなったところから始まります。

第三部開始直前にはこちら(第二部)のまとめを更新してから始めます。

(それまでには以前から気になっていた年表の微調整やカイトと権蔵の関係のブレの修正、不明瞭な日本語、誤字脱字の修正を終わらせる予定です)


不定期の長期休載を挟む中で最後までお付き合いいただいた方々にはただただ感謝です。

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