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旅の道中

 あの襲撃以来、盗賊などに襲われることはなくなった。

 富蔵さんが盗賊達に対して広めるように命じた噂が原因らしかった。

 その噂は『竜安寺商会の馬車をたびたび襲ったが相手にされず、暗殺者ギルド員も連れた三度目に至り一瞬で瀕死の大けがを負わされた。その後、治癒魔法と弱体化の魔法を施されたうえに無理やり働かされることになった』という虚実織り交ぜたものであった。

 一度や二度なら襲っても大丈夫と間違ったメッセージを発しないか心配だったが、富蔵さんに言わせると「儂の読み通りに動けば九割大丈夫」とのことだった。

 読み通りに動かないのが最も不安なことだし、九割って残りの一割はどうなの!? なんて思ったが、杞憂だったようであれから三か月は盗賊の影も形もない。いや、一度待ち伏せていた盗賊団らしき集団を発見したが、彼らの会話の音声データの収集・分析によると、俺たちが竜安寺商会の馬車だと判断して怯えながらも見て見ぬふりで潜伏を続けていた。

 富蔵さんの流した噂は一定の効果を持っていたようだった。そもそも頻繁に襲撃に遭ったのも富蔵さんが流した噂が原因だし、の未来の大富豪が流す噂には補正効果でも付いているのではないだろうか?


 それでも襲いかかるものもいる。人の噂など関係がない人外のものたちだ。ある時はゴブリンに馬車が足止めを食らった。その時はこんな感じだった。

「ゴブリンが陣取ってやがるな。一つ掃除してやるか」

富蔵さんがゴブリンを見つけるや御者台から飛び降りようとした。

「ここは俺に任せてくださいよ」

 言葉が通じる相手の断末魔など聞きたくないものである。

「いや、あんなのすぐに終わるさ」

「たまには俺にも活躍させてくださいよ」

 珍しくやる気な俺を怪訝そうに見たのも一瞬、富蔵さんはすぐに素に戻った。

「そいつは儂のセリフだ」

「とにかく、任せてください!」

俺は返事を待たず、馬車から不格好に飛び降りた。そんな感じで富蔵さんから仕事を奪ったのだ。

ゴブリンと対峙した俺のやることは勿論……は・な・し・あ・い! 話せばわかる。人間だもの。いや違う、ゴブリンだった。

『ニンゲンダ!』

 五匹のゴブリンたちは俺を見るや棍棒を構えた。

『こんにちは』

『コイツ オレタチノコトバ ワカルノカ!?』

ゴブリンたちは構えを崩さずに驚いている。

『通りたいのでどいてくれませんか?』

『イヤダ!』

『ニンゲン オレタチ イジメル』

ゴブリンたちが興奮したように棍棒で地面を叩いた。

「おいおい、なにやってんだよ。さっさと片付けて行くぞ」

その様子を御者台で見ていた富蔵さんから檄が飛ぶ。

「は、は~い! すぐになんとかするんで少々お待ちください」

急かされて少々慌てるが落ち着くんだ俺。

『後ろの旦那があんたたちを力づくで排除するって息巻いてるんだ。安全のためにも引いて欲しいんだけど……』

『ニンゲンハイツモソレダ!』

『オレタチカラウバウ!』

『オレタチヲウゴカス!』

『オレタチヲコロス!』

一斉にギャーギャーと騒ぎ出した。この世界の人間とゴブリンの歴史なんて知らない。ただ馬車を通させて欲しいだけなんだけどな。沖縄の反基地運動以上に興味がわかない話である。

『とにかく! 俺は誰も傷つけたくないし、傷つきたくないんだ!』

 などと青い少年の主張をぶつけてみた。本心でもあるんだけどね。言ってて恥ずかしかったけど!

『ダメ! ニンゲン シンヨウデキナイ』

『ウラギル! ウソツク!』

 ゴブリンの一匹が棍棒で俺の頭を殴りつけてきた。棍棒が頭に触れたのを知覚した俺はすぐに体内のナノマシンに命じて、与えられた衝撃と同程度のエネルギーを棍棒に返した。

 ゴブリンは予想外の反発を食らい棍棒から手を放した。

『コイツ ヘン!』

『ニゲロ ニゲロ!』

 ゴブリンは俺を魔法使いと勘違いしたのか四方に散っていった。

「ゴブリン相手にもそれかよ!」

 後ろから野次とも突っ込みともつかない大声が飛んできた。

「あらあら、脱がなかったんだから違うわよね?」

 と、女性の声。

「そりゃ見せる相手がいねぇから」

「ねー!」

 男女がハモって同意していた。粗末な一物を誰かに見せたいならあんたらに見せつけるよと一人心の中で毒づいた。

 それはそれとして、その時に気が付いたのは、知覚、命令、反応と三段階踏むナノマシンのエネルギー操作に問題があるってことだ。それはゴブリンや野盗クラスならいいが、老紳士やホロウとかいう暗殺者クラスになると知覚前に即死級の攻撃を放つので、当然それに対する命令や反応などは間に合わないのである。ホロウに完勝宣言してた老紳士はよほど手加減してくれてたんだなぁ。老紳士と同等と思われる対スチュワートへの道は遠い。

 

 ゴブリン以外にもこんなのにも遭遇した。

「ありゃ“カビ虫”じゃねぇか。めんどくせぇな」

 富蔵さんが忌々しそうに馬車の遠方の道脇にある二メートル程のカラフルな物体を見つめた。

「“カビ虫”……ですか?」

「ああ、街じゃ見かけねぇから知らなくても無理はないわな」

 富蔵さんは馬を止めて続ける。

「交易の天敵でな。居ればかび臭い、座れば地面が腐る、歩けば胞子が散る。魔力があればとにかく普通の物なら近寄るだけでカビだらけってわけよ。当然積み荷が売り物にならなくなる。しかも下手をすりゃ馬までも死にかねない。同じウマでもお前は殺しても死にそうにねぇけどよ」

 ごもっともでございます。俺はともかくとして、身重の幸子さんに悪影響がありそうでいやだな。

「それでどうするんですか?」

「本当なら迂回したいところだが……」

富蔵さんがしばらく悩む。

「目的地のポルトに行くにはこの先にある山を越えるしかないんだよなぁ。マサラ鉱山の川の先なのに途中が深い谷で通行できねぇからよ。ってことで迂回して山を越えて行くしかない町だからよ」

「それじゃあ、突破ですか?」

「そう言いたいところなんだが、下手に攻撃すると胞子が飛び散って大打撃なんだよなぁ」

富蔵さんはそう言うと、俺に期待を込めた視線を投げかけた。そんなものを投げかけられても困るんだけど。そもそも“カビ虫”って知らないし。なんて思うと例の表示が出てきた。


--カビ虫

 全身をカビで覆われた虫。通常は一メートルから三メートル程度。環境が整えば最大で二十五メートルほどになる。カビの胞子は“地球の生物”にとっては致死性の毒。成人男性が0.1gを呼吸により体内に取り込んだ場合の3時間以内の致死率は九割。カビの中には50cm大のゴキブリ類似の生物が核として存在している。カビをまとっているときは非常に緩慢な動きであり、一日に数センチしか動かない場合もあるが、カビがなくなった場合は非常に俊敏であり、人間等に飛び跳ねるように向かってくる場合もある。--ver.78


 人を殺せるカビでカビを剥けば巨大ゴキブリじゃん。知りたくなかったわ。燃やせばいいのか? ……燃やすまでもないな。生きたまま燃やすとかなんか嫌だし。ゴキブリの祟りか、ゴキブリを生きたまま燃やしてたら走り回られた挙句に火事になったニュースとかも見たことあるし。

「俺にはあります。あの巨大カビの毒を無効化する方法が」

「そんな方法があるのか?」

「俺の読み通りの毒なら九割防げると思います」

 富蔵さんの言いぐさを真似してやった。すると馬鹿にされたと思ったのか富蔵さんの顔が途端に険しくなった。

「ふざけんな! お前のガバガバの賭けに俺の財産や幸子や子供の健康を賭けられるものか! しかも一割は無毒化できてねぇじゃねか! もっと確実な案を出せ! それがなけりゃ馬車をいったん戻してから、火炎魔法で消毒だ。それか目的地の変更だな」

なんか本気で受け止められた。

「あの……前言撤回します。大丈夫なはずです」

 大いにビビりながら、そこに何とも言えない申し訳なさを加えた気持ちで訂正をした。

「お前ならそう言ってくれると思っていたよ」

 そしてわかっていましたとばかりの満面の笑み。

「カビくらいは平気なのを知ってる癖にわたしたち・・を引き合いに出したり、本当に性格が悪いんだから」

 馬車の荷台からはそんな声。

「交渉術と言え、交渉術と」

 それに答える富蔵さん。うん、はめられた。

 仕方がなしに馬車から降りると〝カビ虫“に近づいた。嗅覚の修正はすでに働いているのか臭いはしない。

 そこで俺の体内にエネルギーを発生させ、そのまま自爆する。いまだに慣れない激痛とともに辺りに俺の臓物をぶちまけた。

 内臓がみるみる間にカビに覆われる気持ちの悪いシーンが展開されるが見て見ぬふりだ。見えなければ存在しない。大型犬を目の前にした、かっての愛犬が教えてくれたことだ。

 なぜ自爆したかだって? 伊達や酔狂で自爆したわけではない。自爆によって辺りにナノマシンを散布したのだ。そして事前の設定通りに散布したナノマシンに命じる。


--これより三時間、周囲のカビ及び胞子の周りを周囲より低い気圧で包め。


 胞子が空気に乗って拡散しないようにした。気圧を高めて雑菌の流入を防止をしてる手術室の逆バージョンだ。ようするに気圧を低くしてカビの周りの空気を外に出ないようにしたのだ。空気が流入しても低気圧が維持されるのはナノマシンの御業だろう。

「相変わらずグロいな」

「胎教に良くなさそうだわぁ~」

仕事を終えた俺を出迎えた夫婦はこれである。やらせておいて何を言う。結構痛かったのに。たまには「SUGEEE!!」とか誉めてくれてもいいんですよ?

「なんにしてもありがとな。おかげで燃やして通る手間が省けたよ」

 富蔵さんは労わる様に俺の肩を叩いた。案の定、俺が何とかしなくても何とかなったらしい。規格外生物のこの世界の人間がカビが陣取ってて通れないとかおかしいと思ったんだよな。

 ……まぁ、いいけど。



そんな感じで旅を続けた。もちろん、道中も老紳士の所で学んだ時空コンピューターやナノマシンの使い方を反復継続して練習しながらだ。

 旬が過ぎてて没にした図


    空気&空気

     ↓↓↓ 


空気→   黴  ←空気

     ↓↓↓


     菌糸



 気圧包囲陣きあつほういじんの完成であった。


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