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バトラー

「まず、ゴーレムの導入に関してでございますが、これは執事として意見を言う立場にないと考えております」

 バトラーと名乗った老紳士はオットー様に求められた助言を断った。

「次に我が主がいかなる決定をしたとしてもわたくしは従います」

 そして自信満々に続ける。

「いかような決定をしたとしても私の目が黒い……いえ、我が主が存在している限り、いかなる望みであっても叶えましょう。ご安心を」

 話を聞いたオットー様は大きく息を吐いた。

「……わかった。私の代ではゴーレムは導入しない。まさにうちの様な子爵家には過ぎたる者よ」

「勿体無きお言葉。私は領民と共にある我が主を尊敬しております。故にともにあるのでございます」

 バトラーを名乗った老紳士が微笑んだ。


 そのやり取りを見ていた富蔵さんが俺の横で小さく溜息をついた。そして俺に話を振ってくる。

「あれが当代随一の執事、バトラーだ。伝説を目にして驚いたろ?」

 ああ、バトラーを名乗れるのは一時代に一人だから、この人がこの時代のバトラーなのか。

「どうだ? 一つ手合わせなんかを挑んでみちゃよ?」

 それを聞いたオットー様が横の老紳士ちらりと見る。

「バトラーよ、ああ言われているが?」

「……その様な手練れとはとても思えませんが」

 この時代のバトラーさんが首を傾げる。

「ところが、槍を数本刺されても平気だし、三百人近い盗賊を一瞬で倒すんですよ」

 富蔵さんが挑発的にオットー様の様子を窺う。

「ふむ……この少年がのう」

「このバトラーをしても信じられませんが……」

 なおも二人は懐疑的である。俺の実力って意味じゃ極めて真っ当な評価である。

「それじゃあ、こうしましょう。こいつがバトラーと手合わせをして勝てたら、ゴーレム十台とその整備設備や整備人員を竜安寺商会から買うってのは?」

「ほほっ! よほどの自信があるようだの。いいだろう。褒美として買い上げるぞ。バトラーもよいな?」

 富蔵さんの挑戦をオットー様が嬉しそうに受ける。バトラーさんも「我が主の望むがままに」って応じてる。俺の意思は? まぁ、どうせ死なないし、痛いのも初めだけだからいいんだけどね。それにこの時代でトップクラスに強い人がどんなものか知るいい機会だし。ってか、正直に言って負けようがない気がする。


 俺達は地下へと移動した。地下があったなんて知らなかった。そこでバトラーさんが『ライト』と唱えると光球が浮かび上がる。しばらくして光球が弾ける。すると同時に辺りが明るくなった。見通しの良くなった地下にはなにもなかった、いや正確には壁には幾つもの武器が立てかけられている。時空コンピュータによれば天井までの高さは五メートル三十センチあり、百メートル四方に渡って土がむき出しとなった床が広がっていた。これを一瞬で照らすバトラーさんも凄いが、瞬時に計測する時空コンピューターも負けてないよね? きっと。

「ここならバトラーの演武を誰にも見られずに堪能できるからな」

 オットー様が嬉しそうに俺達に言ってくる。見られちゃ駄目なの?

「ところで武器はなにか使うのか?」

「あ、じゃあ棒で」

 急に振られた俺は思わず答えた。一応は松尾さんに叩きこまれたし、素手よりはいいだろ。

「なんだ? お前、武器も使うのか」

 意外そうな富蔵さん。どうせ光線しか使わないんだけど、一応ね、一応。

「では私も棒に致しましょう」

 バトラーさんは壁から棒を二本とると、一本を俺に寄越してくる。この人がバトラーさんって、違和感が凄いな。そう思いながら棒を受け取った。ズシリとした重さが手に伝わる。この世界の人らの怪力ぶりを思い出した。

「それでは確認するが、お主らの方が勝てばゴーレムを十台導入する。……それでいいんだな?」

 オットー様の確認に富蔵さんが頷く。そして富蔵さんが俺の肩に手を置き耳元で囁く。

「人助けだと思って……勝てよ」

 あ~……。そうなんだよな。ここでゴーレムを導入すればベアトリクスさんは没落しないで幸せなんだよな。だけど、そうなるとお嬢様はどうなるんだ? 無事に生まれてくるなら貴族なんかにならない方が幸せなんだけど……。それと『執事の穴』へは推薦状が必要なんだよな? それならここでこの人に認めてもらう方が早いか。偽物の推薦状を作らなくて済むし。


 俺がそんなことを考えている間に富蔵さん達はかなり離れた場所へと移動していた。

「ウマさん頑張れ~!」

 幸子さんが手を振りながら能天気な声援を送ってくる。折角なので軽く手を振って応じた。

「それでは行きますよ」

 その俺を自分の方に向かせるように三メートル程離れた場所にいる老紳士が宣言をした。……次の瞬間に消えた! 同時に右腕と脇腹に衝撃が走った。目にも止まらないスピードで移動した老人が死角から棒で俺を薙いだのだ。

 十メートルほど転がるように吹き飛ばされた俺は酷い痛みと上がらない右腕に、一撃で腕を砕かれ肋骨まで骨折したことを理解した。……痛覚を遮断するほどじゃないってことか。

「……まだ戦いますかな?」

 俺を吹き飛ばした当人が確認をとってくる。あの様子じゃかなり手加減をされたな。

「おい、ウマ! なにやってんだよ!」

 富蔵さんの罵声が飛ぶ。そんなに言うのなら自分でやってくださいよ!

「目ですら追えてないんじゃないか?」

 オットー様が冷静な分析。はい、その通りです。

「ウマさん、例の奴でやっつけちゃえ!」

 幸子さんからの指示。お嬢様からの命令と置き換えて……。よし従おう。左手を老人に向ける。五指から同時に光線を発射! もちろん自動追尾付きだ。

「……」

 当代バトラーさんは一歩も動かずに棒を一薙ぎ、光線を一気に消滅させた。……って、マジかよ。そういえばスチュワートも手で難なく受け止めてたっけ。そして軽く首を傾げる。……と、同時に消えた。


 ――検知!→


 瞬時に赤い字と矢印が出るが反応できずに再び吹き飛ばされた。そして止まる前に背中に一撃、吹き飛ばした俺を追い越して追撃を加えてきたのだ。

 地面に叩きつけられ、咳き込みもしたが、すぐに痛みが消えた。例の痛覚遮断だ。

「これは妙な……」

 俺を見下ろす紳士が呟く。痛みも消えたし、相手も不思議がってる。反撃の準備は整った。


 物質変換:水


 辺り三十メートルの地面を沼地に変えた。せめて目で見える速度になってくれないと話にならない。

「おおっ」との声が遠くで聞こえるが誰かが驚いたのだろう。同時に俺が蹴り上げられた。

「なるほど、いいでしょう」

 老人はそう言って蹴り上げた俺をノックの要領で棒で叩き飛ばす。骨が甲高い音あげて、同時に鈍い衝撃が全身から伝わる。多くの骨が砕けたのだろう。そして数十メートル飛ばされて、沼の外に叩きだされた。

 おそらく、ここから光線を放てということだろう。余裕ってことなんだろうけど……。折角のチャンスだ利用しない手はない。先ほどとは違い全身から、それも連続して照射するしかないだろう。


 エネルギー照射:自動追尾・連続自動攻撃モード


 なんか出たけど、希望通りのなので、そのまま発射! 同時に……。


 光学迷彩・投影モードON

 ホログラム作成


 この場に幻覚を残して動く!

「……」

 目の端で捉えた老紳士が溜息をついたように見えた。同時にその老人が俺の目の前にまできていた。老人は見えない筈の俺の胸ぐらを掴み振り回す。老人の盾代わりとなった俺は戻ってきた光線に全身を貫かれた。

 遠くで悲鳴が聞こえる。声の感じからすると女性だ。幸子さんだろう。余程に酷い状態のようだ。

「バトラー! やり過ぎだ!」

 オットー様らしき怒鳴り声が飛んだ。同時に俺は放り投げられた。

「あまり大きなダメージは受けていません。……問題なく治るといった方が良いかもしれません」

 バトラーさんの言う通り、俺の傷はすぐに塞がり、問題なく立ち上がった。

「……なかなかのものでしょ?」

 打つ手なしの俺はバトラーさんに強がりを言ってみる。だが、打つ手がないのは相手も同じこと。千日手なら引き分けだ。

「初めて見ますが……怖くはありませんね」

 バトラーさんは俺の胸を一突き、同時に苦しくなった。思わず膝を着く。

「横隔膜の活動停止。同時に肺腑内の空気を凍らせました」


 ――呼吸器官の回復。体内の温度上昇


「なるほど、回復までに1秒弱といったところですか」

 再び……今度は肩を一叩き。回復しかけた呼吸が再びできなくなる。

「いや? 実際にはもっと早いが体や意識がついてこないようですね」

 そして再び肩を叩く。呼吸が戻らない。

「身についていない、借り物のような能力ですがこれは……」

 肩と今度は額も突かれる。息苦しいだけでなく、視界がグルグルと回り続ける。

「痛みがない、回復が早い。ただそれだけです。もっと多くのダメージを与えられますが……もういいでしょう?」

 もう一度同じことを繰り返された俺は平衡感覚を完全に失い地面に倒れていた。

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