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お留守番

 45年前にもかかわらず、王都は俺が知っている姿と同じであった。石造りが中心だから風化が少ないのが理由の一つだろう。しかし、それ以上に努力が悪徳となっているのが大きいと思われた。こんな調子でもその気になればミサイルさえも模倣できるらしいのだから、地球で腐っていた頃の俺もビックリな怠けっぷりだ。もっとも俺の場合はその気になってもできることは少ないが。


「それじゃあ儂らは事務所に顔を出すから馬車と幸子を頼むぞ。幸子がいくら美人だからって色目は使うなよ?」

 馬車を広場に停めた富蔵さんは俺にそう言い残すと権蔵を連れてどこかへと行ってしまった。「頼むぞ」といわれてもどうしたものかね。

「ふつつか者ですがよろしくお願いします」

 頭を下げる幸子さん。どう突っ込めばいいのか困る人だ。無視して留守番って訳にもいかないし……。幸子さんも事務所に連れて行けばいいのに。

「あの馬車が揺れるんですけど、お腹っていうか赤ちゃんへの影響はないんですか?」

 ようやく見つけた話題にきょとんとする幸子さん。考えてもなかったって感じだ。

「大丈夫だと思いますよ? 権蔵ちゃんの時には予定よりもちょっとだけ早く生まれちゃったけど」

 幸子さんは「テヘッ」っとでも言いだしそうな感じで小さく舌を出した。いやいや! 全然大丈夫じゃないから! 早産になってるじゃん!


 ――流産になったのは16例。なんらかの悪影響が生じたのは20例。


 例のメモが出た。確か富蔵さんと一緒に旅したのは58回だから……半分以上のケースで大丈夫じゃなかったってことか。ダメダメじゃん。

「あのー幸子さん?」

「はい」

 可愛らしく小首を傾げて応じてきた。

「権蔵くんと留守番をしてた方がいいんじゃないですか?」

「よくないですよ」

 そしてニッコリ。

「わたしを仲間外れにしてダーリンを独り占めするきなんでしょ~」

 そう言って人差し指で俺のほっぺたをぐりぐりしてきた。ウザい。

「それに権蔵ちゃんの独り立ちの為にも……ね?」

 一転してマジモード。十歳から独り立ちの準備ですか?

「そういう問題じゃなくてですね。お腹の子の問題ですよ」

「だから大丈夫だと思いますよ?」

 全然大丈夫じゃないです。そもそも権蔵の独り立ちとお腹の子の安全は別問題です。どう説得しようか悩んでいると馬車に数人の男が乗り込んできた。


「そこの坊主は降りな」

 ナイフを突きつけられた挙げ句にいきなり命じられた。

「断ります」

 こちとら鉈で頭を二度ほどカチ割られているのだ。いまさらナイフ程度にビビりはしない。マジマジと見ていたら怖くなってきたけど。

「今日からこの馬車は俺達の物なんだよ」

 男がそう言った時にはナイフは俺の腹に深々と刺さっていた。ああ、やっぱり痛い。ってか躊躇(ちゅうちょ)なさすぎるでしょ。そして襟首を掴まれると馬車の外に放り投げられた。って、ヤバイ。馬車と幸子さんが奪われる!

 そんな俺を置いて馬車が走り出す。慌てて立ち上がると馬車を追いかけた。馬車の加速が悪いおかげで荷台に手をかけられたものの、すぐに引き離されるだろう。荷台の男達もそれがわかっているのか、必死の形相で走る俺をニヤニヤと見下ろしている。そして幸子さんもニコニコ顔。……幸子さん。それはとにかく時間がない。俺の手元……もとい、腹に刺さったままのナイフをどうにか利用できないものか。せめてナイフではなくて縄ならなぁ。


 物質変換可能:ワイヤーロープに造り替えますか?


 なんか字が出た! よくわからないけれど、もちろんYES!

 すると腹に刺さっていたナイフがフック付きの鉄製ロープへと変わった。俺はそのフックを辛うじて荷台にひっかけてギブアップ。足の限界です。馬、速すぎ。転んだ俺はロープにしがみ付いて何とか馬車について行く。石畳に体が擦られて痛いです。引き回しの拷問ですか? 少なくとも荷台の男たちはそう思っている様で指をさして笑っていやがる。憶えていろよ。次の手段は考えていないけど。


 暫くすると痛みがなくなった。例の痛覚遮断だろうか? 痛みが引いたので色々と考えることができる。とりあえずは……っと。


 磁場操作モード:ON


 うん。思った通り、ワイヤーが磁力で体にくっつく。これで必死に掴む必要はなくなった。馬車の速度が上がろうが急カーブしようが全く問題ない。しかし、これはこれで問題があった。引き摺ろうが曲げた拍子に壁にぶつけようが平気の平左の俺を見て馬車ジャックをした面々が動揺し始めたのだ。人間離れした異星人からしても異常らしい。

 男たちの一人がフックに手をかけた。フックを外して俺を離そうとする気らしい。それは困る!


 温度低下


 なんか字が出た! 同時にフックを触っていた男が悲鳴をあげた。フックの温度が下がっていて指が引っ付いたようだ。再度の悲鳴と共にフックから指を離していた。指の水分が凍り付いてフックに張り付いていたのを無理に剝がしたのだろう。これを見た男たちが恐慌と言える慌てぶりを見せ始めた。俺を魔法が使える貴族か何かと思ったようだ。河原で出会った人攫いたちと同じ反応だからだ。こうなると新たな危惧が生まれるが……。そうなる前になんとかしたい。

「おい、停まれ! 今なら見逃してやるぞ!」

 ハッタリ成分たっぷりの脅しをかけた。

「し、信用できるか!」

 荷台の男が叫ぶと荷物を俺に投げつける。……痛覚が遮断されているから痛くないし、強力な磁力でワイヤーと体がくっついている俺はその程度では離れない。なにせ三頭立ての馬車の慣性にも耐えられるのだからね。とはいえ、富蔵さんの荷物。あまり投げつけられても困る。無駄とわからせるには……レーザーで破壊かな?

 男が箱をスローインのように投げようとしていたのでそこに指先を合わせて光線を放……とうとするも揺れて照準が定まらない。


 自動屈折モード


 再び何か出た。わからないけど自動で追尾してくれるのか? 予測進路的な線が指先から曲がりながら箱に当たってるし。ってことで、それを信じて照射!

 果たして光線は緩やかな弧を描き箱を破壊した。


 しかしこれが裏目に出た。俺が危惧していた行動に男たちが出たのだ。

「おい! この女を殺されたくなければ馬車から離れろ!」

 幸子さんにナイフを突きつけた男が叫んだ。

「あ~~~~れ~~~~~」

 どこか嬉しそうな幸子さんも叫ぶ。お嬢様とそっくりなのに色々と面倒くさい人だ。もっとも、お嬢様はお嬢様で違う意味で面倒臭い人だったな。

 仮に幸子さんが傷つけられても七色軟膏の原材料は俺の血らしいから、即死じゃなければなんとかできる気がするんだけど……。どうするかな~。うん、あれにしよう。


 光学迷彩・投影モードON

 ホログラム作成


 透明になると同時にホログラムで手を放す俺の幻影を作成っと。バトラーさんに出来たのだ、俺にもできるはずと踏んで正解だった。俺の幻影が馬車から置いて行かれるのを見た男たちが一斉に安堵の表情を浮かべた。そして面白くなさそうな幸子さん。危機感を持ってください。

 さてと、次はロープをナイフに戻すか? 上手く荷台の方にナイフができて引き寄せられればいいのだけれど、フックが外れて俺の手元にナイフが戻ってきても困るから……却下だ。幸子さんが乱暴されないようなら停まるまで待つってのも手なんだけど……。ナイフで脅迫するってことはそれが大事な武器ってことだよな? それなら……。


 磁場操作モード:ON


 脅迫していた男は安心したのか幸子さんから離れていたので、そのナイフを引き寄せてみた。

「うおっ⁉」

 ナイフ手放さなかった男はそのまま馬車の荷台から転げ落ちた。


 磁場操作モード:OFF


 同時にナイフを引き寄せるのも止める。そしてそのまま男とはさようなら。ナイフが俺の手にぶっすりと刺さったままなのは内緒だ。次に……。


 ホログラム作成


 荷台に俺の幻影を創り出す。魔法を使える人間を極度に恐れているならこれで大丈夫なはずだ。

「うわぁ!」

「ひぇつ」

 突然現れたこと自体を魔法と思ったのだろう。目の前に魔法使いが出現したと思い込んだ男たちは悲鳴をあげる。そして逃げるように自分達から走る馬車の荷台から飛び降りていった。

「あら? いつの間にこちらにいらしたのかしら?」

 幸子さんが目を丸くして幻影と対峙した。

「わたしも飛び降りた方がいいのかしら?」

 なんでですか⁉

「ところであれはどうしましょ?」

 ころころと笑う幸子さんの示した先は馬車の御者台。なんてこった! 一味の御者まで逃げやがった! コントロールを失った馬車が無軌道に走りまわる。その馬車の上を一つの影が走った。影は御者台の上にひらりと降りると巧みに馬車を操り馬は徐々に平静を取り戻す。


「なかなか大したもんだ」

 馬車を停めた新たな御者は荷台へと声をかける。そして引きずられていた俺の背後からは大声をあげる子供の声が近づいてきた。

「父上ー! 母上は無事ですかー!」

 権蔵少年であった。すると御者は御者台から降りて権蔵に声をかけた。

「おう、そうみたいだな。ウマが遊んでいただけだろ」

 いや、必死だったんですけど。っと、あれを忘れていた。


 光学迷彩・投影モードOFF

 磁場操作モード:OFF

 ホログラム解除


 あー、疲れた。

「お!? ウマはそこにいたのか」

 御者こと富蔵さんは少し驚いた様子であった。こちらとしては馬車に追いつく脚力と遙か後方から跳躍して御者台に舞い降りる富蔵さんの方に驚きなんだけど。権蔵も走って追いついていたし、やっぱり体力では異星人にはかなわないな、うん。

「ウマさんってば酷いのよ? なかなか助けてくれないんですもの」

 そして幸子さんは頬を膨らませる。幸子さんの余裕は俺への謎の信頼感がなせるワザだったのか?

「竜安寺家の馬車は高水準の魔法使いが守ってるってアピールだろ? なかなか考えたな」

 そして大笑いの富蔵さん。いえ、そんなことは微塵も考えていません。ってか、魔法を使える人って超人扱いなの? ああ、貴族と庶民には圧倒的な差があって、その差が魔法力なんだっけ? この世界の社会ルールなんだよな。

「父上ッ! 笑いごとではありません! ウマの兄ちゃんも考えてください! 母上は身重なんですよ! 万が一があったらどうするんですか! たまには真面目にやってくださいよ!」

 年下に本気で怒られた。言っていることには同意だけれど、一つ訂正させて? 真面目にやったよ? ボロボロになっても頑張ったんだよ?

「無事だったんだからいいじゃねぇか」

 それをとりなす富蔵さん。そして俺に一言寄越した。


「服が破れて丸出しだがそれを見せたかったのか? いや、露出狂なのは知ってるから納得だけどよ」

 みんな酷いや!

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