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心の花で

作者: 工藤 梓


マーガレット 心に秘めた恋

カーネーション(白) 私の愛は生きています

パンジー 私を思って

チュウリップ(黄) 望みのない恋




ある町外れの一本道が続く丘の上に、煉瓦作りの煙突がある小さなお家が建っていました。そこには、リナリアという少女が一人で暮らしていました。リナリアには家族と呼べる人がいませんでした。

町の大人たちはみんなリナリアのことを気味悪がっていました。そんな大人たちを見て育った子供達も次第にリナリアのことを避けるようになりました。


「どうして、みんな私を避けるの?」


なぜ、気味悪がれるのか、リナリアにはわかりません。ですが、リナリアはあまり気にしていませんでした。パン屋のおばさんと町の時計塔のおじいさんがリナリアのことをいつも大切にしてくれていたからです。家族はいなくても、自分を大切だと言ってくれる人をリナリアは知っていました。


そんなリナリアは、一人の男の子が好きでした。グレアムと言う、リナリアと同い年の男の子です。ですが、いつも顔を合わせると意地悪してくるので、リナリアはグレアムといつもすぐに喧嘩をしていました。ですからリナリアはグレアムには嫌われてると思っていました。なので、自分の気持ちをグレアムに伝えようとは思っていませんでした。


ある夏の日のことです。あまり体調を壊したことがないリナリアが、気分が優れない日が続くようになりました。最初は、風邪をひいたのかなと思っていたリナリアですが、あまりに断続的なのと、吐気がする以外至って異常がないことに疑問を抱くようになっていきました。ですが、リナリアには相談できる人がいませんでした。パン屋のおばさんも、時計塔のおじいさんも優しくて、


「何かあったらすぐ話してね。」


と言われていましたが、それでも迷惑はかけたくなくて、リナリアは言い出すことができませんでした。

不安で仕方がありませんでしたが、学校を休むわけにもいかず、いつも通りを装って通っていました。ですが、グレアムと顔を合わせても喧嘩をする元気が出ず、意地悪されても言い返す気も起こりませんでした。こうなると、リナリアはますます訳が分からなくなってきます。前までは、グレアムが何かいう度突っかかって、それに過敏なほどリナリアが言い返して、意味なく喧嘩をしていたのにそれが全くなくなってしまったのです。


そんな日が続いて、もう慣れ始めてしまった頃、リナリアは今までで一番酷い吐き気に襲われました。胃袋を鷲掴みにされて、中のものを搾り出されるような感覚でした。急いで流しへ向かい吐き出すと、そこにあったのは吐瀉物ではなく、白いマーガレットの花でした。


「、えっ……」


リナリアは吃驚して口元を押さえました。


「なんで、お花が…?」


混乱する頭の中でリナリアは´この花は捨ててはいけない´と思いました。それはほぼ直感のような思いで、汚いとも思いましたが今この花を捨てたら、今まで大切にしてきた何かを一緒に捨ててしまうような気がしたのです。リナリアは急いで棚から瓶を取り出し、吐き出したマーガレットを詰めました。蓋をしっかり締めてもれないようにして、取り出した棚にしまいました。

その日を堺にリナリアはいろいろな花を吐き出すようになりました。最初は白いマーガレット、次に白いカーネーション、その次は薄紫のパンジー、そのまた次は、黄色いチューリップを。

リナリアはだんだんと吐き出す花がカラフルになっていくのを感じていました。


「私どうしちゃったんだろう…」


最初に花をしまった瓶はもう一杯になってしまい、リナリアは急いで新しい瓶を買いに行きました。幸いひどい吐き気はリナリアが一人でいる時にしか来なくて、人に見られるということはありませんでした。


花をしまう瓶が3つに増えた頃、リナリアはグレアムに対してだけ、これまでの思い出を忘れてしまったかのような、記憶を落としてしまったみたいに、接するようになりました。それは、まるでグレアムが居なかったみたいに。

しかし、リナリアはそのことに気づいていませんでした。グレアムに対する態度は無意識のうちにしていたことだったからです。それに、リナリアの体調がそれどころではありませんでした。人がいるところでは来なかった吐き気が、どこにいても来るようになりました。それでもあまり強いものではなかったのが、不幸中の幸いでしょうか。人前で吐き出すということだけはなかったので、そこはリナリアも安心していました。そして、吐き気と共に頭痛も来るようになりました。頭を内側からガンガン叩かれているような酷い頭痛でした。


「痛い、いたいよぅ…」


「誰か助けて、」


リナリアのつぶやきは誰にも届かず消えていきました。


やがて、リナリアの頭痛は毎日、止むことなく襲ってくるようになりました。リナリアは耐えきれなくなり、無断で学校を休むことが多くなってしまいました。ですが、リナリアのお家に訪れるものは居ませんでした。家が辺鄙な所にあるというのもありますが、一番の理由はリナリアの家のすぐ裏に「迷いの森」があることでしょうか。その「迷いの森」は町の人ならまず近づかない、化け物が出る森として有名だったからです。


そうして、ついにリナリアは起き上がることも出来なくなってしまいました。吐いた花を瓶にしまうこともできず、ベッドの周りに散乱しています。


それはまるで、ベッドを囲むお花畑のようでした。


リナリアは朦朧とする意識の中で


(あぁ…私、誰かに伝えたえなきゃいけないことがあっのに…)


(……、誰に伝えることだったのかな…)


と思い出しながら、静かに目をつぶりました。





それから、リナリアが目を覚ますことはありませんでした。



ですが、リナリアの異変に気づいた者がひとりいました。その者は、リナリアの目を覚まさせるために奔走するのですがそれはまた別の機会に。



読んでいただきありがとうございます。


この作品はまた違う作品の一部であり、まだまだ続きますので、よろしければお付き合いください。

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