ポメル村は今日も平和!~リムのおつかい~
世界が未だ不思議に溢れている時代。
一番大きな大陸には6つの国がある。
とある王国のとある領地。
その中のポメル村での物語。
このお話は、小さな魔法使いの弟子リムと黒猫のお師匠様のほのぼの生活記である。
*****
ピピッ、チチチ…
外からは鳥の声がする。
カーテンの隙間から、お日様の光が入ってくる。
ふかふかの枕に顔を埋め、至福の時間に身を委ねていると、声が聞こえてきた。
「リム、リム、起きるニャ!」
「うみゅ~……あと5分~……むにゃ」
「こらー!さっきもそう言ったニャ!いい加減起きるニャ!!」
リムの朝はお師匠様に起こされるところから始まる。
しかし、リムは朝に弱い。
お師匠様に起こしてもらっても、一度で起きることなどほとんどない。
てしてしと猫ぱんちされても起きない。
むしろ幸せそうな顔で柔らかな肉球を堪能する。
ため息をついたお師匠様は最終手段に出た。
「リム。起きなきゃご飯抜きニャ」
「ごはん!」
ぼそりと低く呟く。
リムはがばっと起きた。
効果は抜群だ!!
……リムは、ちょっぴり食いしん坊だった。
お師匠様に起こされたあとは、お師匠様が作った朝食を二人で食べる。
森の恵みがたっぷり入った熱々のシチューと焼きたてのふわふわパン。
リムは早くも一杯目のシチューを食べ終わり、二杯目に入っている。
「リム、今日はポメル村の村長さんの処にお薬を届けて欲しいニャ」
「ふぁひ。おひぃひょうひゃみゃは?」
「……返事は、口の中のものを飲み込んでからするニャ。ボクは妖精の村の方に用事があるので、行けないのニャ」
頬いっぱいに食べ物を詰め込んだリムは、納得してこくりと頷いた。
それからリムは三回おかわりをした。
…………リムは、ちょっと食いしん坊だった。
「お師匠様、いってきま~す」
「リム、気を付けて行ってくるニャ」
「はーい!」
鞄に薬を入れて、元気いっぱいに出発する。
リムとお師匠様が住んでいる家は、ポメル村の近くにある森の、比較的浅い場所にある。
地図上では一部がポメル村の敷地に入っているその森は、《境界の森》と呼ばれていた。
広大な《境界の森》には精霊や妖精、幻獣や魔物まで、様々な種族が暮らしている。
森の奥に行けば行くほど、貴重な薬草や珍しい果実があり、素晴らしい自然の宝庫なのだが、その分危険度も大変素晴らしく、村人も奥までは入らない。
そんな森の中、今の季節は木の実や果実が豊富に生っている。
リムは村に行く途中、草木に生っている実を摘み食いしつつ歩く。
一つ、二つ、三つ……。気がついたときには村へ着くまでに結構時間が経っていた。
リムは大分食いしん坊だった……。
*****
森を抜けるとのどかな田園風景がひろがっている。
村長の家は特徴的な赤い屋根の村で一番大きな建物だ。
トントン。
木の扉をノックする。
「こんにちはー!薬を届けに来ましたっ」
ガタンッ
バタバタ……ばたーん!
扉を壊す勢いで出てきたのは、村長だった。
「リムちゃん、こんにちは!いやぁ、待ってたよ!!」
「村長さん、こんにちは! お待たせしちゃってすみません。はい、お薬です」
鞄をガサゴソ探り、薬を村長に渡す。
「助かったよ。ありがとうね」
「いえいえ」
「あ、そうだ! いま丁度娘がアプの実のジャムを作ってるんだが、魔法使い様とリムちゃんの好物だったよね? お土産に持っていってくれないかい?」
「!はい、是非!」
リムはパッと瞳を輝かせる。
アプの実はこの時期に採れる赤い果実で、そのまま食べると少し酸っぱいが、ジャムにするとその酸味が程よいアクセントになり、とても美味しい。
ポメル村の名産品でもある。
味を思い出しているのか、幸せそうな表情をするリムに、村長は瞳を緩める。
「ははは。じゃあ、ライラは台所にいるから貰っておいで」
「はい。お邪魔しまーす!」
扉の中に入ると、すぐにいい匂いが漂ってくる。
リムは匂いに誘われるようにして、台所へ向かう。
村長宅は、木造のお家である。
家の所々に飾ってあるお花や手作りの小物等がとても暖かな雰囲気で、ついつい長居してしまうような……そんな居心地の良さがある。
村長一家の人柄も滲み出ているのかもしれない。
台所を覗くと、金色のふわふわした髪の毛の少女が、お鍋でジャムを煮込んでいた。
「ライラー」
「あら、リムいらっしゃい!いつ来たの?」
「いまー。村長さんにお薬を届けに来たの。それで、村長さんにジャムをお土産に持っていってって言われたの」
「そうなの。もうすぐ出来るから、少し待ってくれる?」
「はーい!」
ライラとおしゃべりをしつつ、ジャムが出来るのを待つ。
クツクツとアプの実が煮込まれ、辺りにはふんわりと甘い匂いが漂っている。
「ふわー、いい匂い~」
「そうね。もう少し煮込んで、熱を冷ませば完成ね」
「ライラ」
「なに?」
「味見が、必要だと思います!」
にへらっ、と笑ったリムの手にはいつの間にかスプーンが握られていた。
「おいしかった!」
「まったく……。リムは食いしん坊ね」
「えへへ」
ツヤツヤと黄金色に輝くジャムが完成した。
お土産にアプの実のジャムを瓶いっぱいに詰めてもらい、鞄の中に入れる。
ジャムを冷ましてる間にライラと楽しくお茶をしていたからか、いつの間にか外はもう夕焼け空だ。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
もちろんお茶請けのクッキーもおいしかった。
だが、早く帰らないと、夜ごはんの時間が遅くなってしまう。
リムは村長一家にお別れを言って、早足で家へと帰る。
*****
「ただいま帰りました!」
「お帰りニャ」
リムが帰宅した時には、お師匠様はもう夕食の準備を終えるところだった。
早速お土産のジャムを鞄から取り出す。
「お師匠様!アプの実のジャムを頂きました!!」
「ほう、これは美味しそうだニャ」
「はい!おいしかったです」
「……。まぁ、いいニャ。じゃあ、そのジャムは明日の朝食──」
「今たべたいです」
「……」
こうして、お師匠様特製の夕食を食べ、今日も一日が終わる。
リムは温かい食事を味わいながら、今日あった出来事をお師匠様に報告する。
八割は食べ物のことだった。
リムは、かなりの食いしん坊だった…………。
星が瞬く。
窓の外には綺麗な星空がひろがっている。
森からは、子守唄のような虫の音が聴こえてくる。
温かな布団に入り、うとうとと夜の気配に包まれる。
朝、お師匠様に起こされて、
一緒に朝ごはんを食べる。
昼、お師匠様のお手伝いをしたり、しなかったり。
一緒にお昼を食べ、おやつも食べる。
夜、その日一日にあったことを報告しながら、
一緒に夜ごはんを食べる。あとデザート。
この何気ない毎日が、とても、とても愛おしい。
「お師匠様、おやすみなさい」
「リム、おやすみニャ」
ポメル村は今日も平和である。
読んで頂きありがとうございました。